大いなる力には大いなる責任が伴うらしいが転生者もそれに含まれますか? 作:御船上郎
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ニューヨークという都市は言うまでもなく巨大である。
文字通り無数の人間が生活を行い、活動し、何かを生産している町だ。
それゆえに必要となる電力は莫大であり、途方もない規模である。
しかしその生命線がエレクトロという超人によって寸断された事で社会は混乱の極みといえるものになっていた。
「救急車が二台、どちらも重傷です!」
「馬鹿野郎!病床がもう無いんだぞ!!」
影響が最も大きかったのは医療現場である。
混乱の初動にて起こった無数の事故により発生した怪我人により、その病院のキャパは最早限界を超えていた。
無論普通ならばこのような状態になりはしない。
「データセンターとの通信はまだ戻らないのか!?」
「やってますがまだです!」
しかしそれは救急を管理するセンターとの通信が破綻していなければの話である。
エレクトロの電撃は災害の如く、それら全てを捥ぎ取り、潰していた。
救援も無く、時間も無く、怪我人は増え続ける。
それでも尚医師たちは知識とその両手でその現実に反抗し続けていた。
「クソ!手が足りない!」
「トリアージしろ!救える命を一人でも増やせ!」
「非常電源のバッテリー用意!」
「ICUの呼吸困難患者は!」
「看護師が手動で人工呼吸を行っています!」
だがそれには限界がある。
対応できる人員は限られており、医療者は増えないのだ。
「手が―――足りない!」
一人の医師が、弱音を漏らす。
どれだけの人間をこれから救えるのか、見捨てなければならないのか。
圧倒的少数の医療者という現実が彼を打ちのめしていた。
「ここにあるぞ」
だが、その現実に屈しない人間がいる。
スーツの男だった。
中年に入りかけた、深い知性を持つ瞳が特徴的なスーツの男である。
そしてその男を、医者は知っていた。
「ストレンジ!?」
同僚である天才的な腕を持った医者、スティーヴン・ヴィンセント・ストレンジである。
彼はここにいない人間の筈だった。
「君は非番の筈じゃ!それに君の専門は脳外で...」
「だからどうした?私が救急医療が出来ない腕だとでも?」
非番であり、専門外であり、そして緊急事態である。
彼がここに来なくても、誰も彼を責めるいわれはない。
「それとも自信が無いのか?私じゃこれ以上はムリだと言うなら代わって仮眠室で眠りたまえ」
傲慢な嫌味だった。
しかし、嘲笑の色はストレンジにはない。
「やるというなら、目の前の患者に全力を尽くせ」
ただ真っすぐに、彼は見つめてそう告げた。
医者は無数の反論を胸中に浮かべ、喉を登らせる。
裁判を起こされる、とか。
これ以上は不可能だ、とか。
もう精一杯やったんだ、とか。
それら全てを飲み込んで、口に出した言葉一つだ。
「...やってやる!」
「それでいい」
看護師の一人がストレンジの手術着を持ってくる。
急いで着替えに入りながら、彼は看護師や他の医者に指示を出していった。
「オペ道具を用意!重傷患者を優先しろ!私がやる!」
「他の病院と通信をもう一度試せ!あちらに余裕があったら軽傷の患者を回させろ!」
その最中に一人の女性が、メイ・パーカーが祈る。
「ピーター...ベン...どうか無事でいて...」
痛々しい程に彼女は祈ったが、手を握りはしなかった。
患者を救うことが、そうすればできなくなるから。
胸中に残る不安を全てひた隠し彼女もまた、傷ついた人々を助けるべく奔走を開始する。
-2-
混乱の最中にいるのは医療現場だけではない。
ありとあらゆる職業の人間がこの事態に巻き込まれている。
「記事がぁ!」
「うおおおおお取材の音声データが消えたぁ!」
「契約書が消えて、消えているゥ!」
阿鼻叫喚の地獄絵図が展開されているのはデイリービューグルだ。
彼らの何日もの仕事の成果が全て消え、悲嘆に暮れている。
「落ち着け貴様らぁ!」
それらを鎮める怒声は、言わずもがなJJJだ。
彼はそのちょび髭のついた顔を怒りに歪ませながら、周囲の編集部メンバーを見回す。
「全員いるか!?」
編集部の人間達は自身達の人数を確認し、一人の姿が無いのに気づいた。
「エディがいません!」
エディ・ブロックの姿が無い。
彼はスパイダーマンとリザードの戦闘の跡を撮影しに外に出ていたのである。
「無駄に探しに行くなよ!貴様らでは二次遭難者になるのがオチだからな!」
探しに行こうとする面々を制止し、JJJはスーツの上に厚手のコートを着た。
その瞳には焦りはない、恐怖もまたない。
「じゃあどうすれば....」
「私が行く!」
決断的な声で彼は言い、デスクの下からある物を引っ張りだす。
それは大型で、様々な機材が取り付けられていた。
「これって、通信機ですか?」
「骨董品だがな!こいつは通じるのを先ほど確認した!こいつにバッテリーをぶち込んで待ってろ!」
重量のある通信機の片割れをデスクの上にあげて、JJJは足早に編集部から去る。
「ちょっと編集長!?どこへ!?」
「あの手の若僧記者が向かう先なんぞ予想出来る!」
視線の先にはこの闇に包まれた世界で一際光り続ける場所、発電所があった。
-3-
ニューヨークの発電所。
そこで一人の生命の意識が明滅している。
彼から立ち上り、拡散していく電流の一つ一つが彼であり、魂だ。
過去と未来が混ざり合い、意識と衝動が混ざり合う。
大都市の電力、大都市を支え動かすエネルギー。
それを一つの取り込むことは、ダムの水を一杯のコップに無理やり注ぐことに等しかった。
無理、無茶、無謀。
そんな言葉が相応しい狂気の沙汰をエレクトロは実現している。
「...よo、スパイダーマン」
電子音のような擦れが混ざった声を放つ彼は、もはや人間という存在には思えない。
最早電気というエネルギーを無理矢理パワードスーツで人型に押し込んだようなものだ。
神々しくも禍々しいその存在に、スパイダーマンは話しかける。
「やぁビリビリ君、出来ればその物騒な物をしまって元に戻してくれない?みんな困ってるよ?」
それに対する返答は一瞬だ。
「やると思うか?」
拒否である。
しかしそれもまたスパイダーマンは予想している。
軽い口調で首を曲げ、ポキポキと軽い音を鳴らした。
「だよね~」
そして、その軽い口調は消えて鋼の意志と覚悟を解き放つ。
「じゃあぶちのめしてやらせてやる」
荒々しく、攻撃的なその言葉こそがエレクトロの望んだものだ。
「いいぜぇ!今度はあんな生易しくはいかねぇぞ!殺し合いだ!」
雷を放ち、その人型が浮かび上がる。
あまりの電力により発生した電磁力が彼を浮上させたのだ。
それを見上げながら、スパイダーマンは告げる。
「僕はお前に殺されないし、殺さない。その上で勝ってやる」
宣戦布告というには余りに甘い言葉だった。
それが、どこまでもエレクトロを苛立たせる。
「舐めてんのか?」
「いいや」
先程と軽い口調で、彼はこういった。
「僕は君とは違って難易度が高い方が好きなだけさ、ヒーローだからね」
「やってみろやぁ!」
SPARK!!
スパイダーマンの視界からエレクトロが消える。
否、エレクトロの掌が高速で近づいて彼の視界を埋め尽くしたのだ。
一瞬という言葉すら遅いその動作をまるで予知していたかのように、スパイダーマンは顔を伏せて躱す。
その後直ぐに自身の上をすさまじい熱が通過したのを感じた。
この瞬間、彼は自身が本能に従ったことを自画自賛する。
そして、その後からスパイダーマンはエレクトロがやった事を理解した。
―――どんな速さだよ!
近づいて、掌を突き付け、雷を放つ。
この三つの段階をエレクトロはしただけだ。
しかし凄まじい速さというアドバンテージはそれを不可避の必殺の領域に至らせている。
スパイダーマンであっても直撃を喰らっていれば無抵抗に焼き殺されていた筈だ。
だが、彼にはスパイダーセンスがある。
「がぁっ!」
こうやって躱すと同時にカウンターで攻撃を仕掛けることが可能な程に、タイミングを読めるのだ。
容赦なしの彼の拳である。
人間ならば致命に達する威力だ。
しかし、今のエレクトロが身に纏うGGパワードスーツの頑強さはそれを受け止める威力がある。
精々が彼を吹き飛ばす程度だ。
がしゃん、と鉄と鉄がぶつかり合う音が響き設置されている金属製の装置の数々がガラクタへと変換されていく。
その結果、先程浮かび上がっていたエレクトロが地に伏せ、スパイダーマンとの上下の立ち位置が逆転していた。
「芸が無いね、ビリビリするだけなら誰でも出来るよ?」
「じゃあこういうのはどうだよ」
いつも通りスパイダーマンは見下ろして軽口を呟いたことを後悔することになる。
バシリ、と火花が散っていく。
崩れ、壊れていた鉄屑が浮かび上がり回転していった。
まるでサイコキネシスかのようなその光景の原理を即座にスパイダーマンは導き出す。
「あ~電磁力ってあるもんね、ふざけんなバカ!」
思わず罵倒して糸を放ち飛び上がった瞬間、浮かび上がった大小様々な鉄屑は弾頭と化して彼に向けて飛来した。
さながら人力レールガンである。
避けて、避けて、避け続けても弾切れは存在しない。
なぜならそれによって破壊された鉄屑もまたレールガンの弾丸になるのだから。
「死ね死ね死ね死ね死ね死ね!」
「小学生かな!親から言っちゃいけない言葉とか教わらなかったの!」
「俺に親はいねぇよ!」
「それはごめん!」
エレクトロとスパイダーマンがそうやって一方通行の会話を躱しながら戦闘している光景を、スコープ越しに見つめる影がある。
「いいぞ、もっと追い詰めろ」
スナイパーライフルを構えたタランチュラだった。
彼は拘束され混乱が生じたことで護送車から逃亡し、上司の命令に従いここに来たのである。
受けた命令はスパイダーマンとその相手であるエレクトロの抹殺だった。
癇癪を起した子供のような声で命じられた依頼は不可能に見えたが、両者が疲弊しているのならば出来るのではないかと彼は思考し、行動している。
今ならば、狙撃できるのではないか。
そう思える隙が出来た瞬間のことだ。
「ッッ!!」
タランチュラの完全な死角から日本の警棒が襲い掛かって来たのは。
プロフェッショナルとしての経験から、それを何とか抜いたナイフで弾く。
その防御方法すら予測していたようにパシリと弾かれた警棒を受けとめる音がした。
「何者だ」
「おや、貴方のような人種ならここで答えるのは愚か者の証だと思いますが?」
声がした方向に、携行した拳銃を抜き取り複数発の弾丸を打ち込むが物が壊れる音がするだけだ。
闇に隠れて、襲撃者は動き続けている。
タランチュラは右手に銃を、左手にナイフを持ち周囲を警戒した。
「ですがそうですね、私は愚か者であなたとは一度会っているので改めて名乗りましょう」
しかしその警戒を簡単にすり抜け警棒を、ビリークラブを叩きつけ拳銃を落下させる。
そしてカウンターの様に振り抜かれたナイフと二振り目の警棒で鍔迫り合いながら女は返答した。
「どうも、デアデビルと及び下さい。」
ブリジット・マードックは笑みを浮かべ深紅のスーツを纏いそう名乗った。