大いなる力には大いなる責任が伴うらしいが転生者もそれに含まれますか? 作:御船上郎
-1-
スパイダーマンになる。
そう決意したピーター・パーカーがまずやったことはネットサーフィンである。
「やっぱり俺が知ってる情報と色々違うな」
彼はふざけているわけではない。
まず大前提として己の知っている、前世の知識として理解している情報と今世の情報の齟齬を確かめているのである。
ヒーローは他にもいるのか、或いは独自の架空国家が存在するのか、そしてアメリカの組織はどんな感じか。
数多浮かんだ疑問を解消するべくピーター・パーカーの頭脳をフルスペックで回して集めた。
その結果解ったこと。
「ヒーローはまだ表立って活動してない、のか?」
まずヒットしたのは国家である。
ワカンダ、ラトベリア、その他の国家は確認できた。
知識は使えそうである、だが。
「ドゥームとか俺だけでどうしろってんだ・・・!やり」
そこにいると思われるヴィランの脅威も連想し胃が痛くなる。
ピーター・パーカーことスパイダーマンは強い側、超人としても上位に入る存在だ。
だが無敵ではないし、彼を上回るヴィランもまた魔境たるマーベル世界にも大勢いる。
「いや、考え過ぎはよそう。死にたくなる」
死んでもどうせ蘇らせられるしなぁハハハと笑いつつ現実逃避してキーボードを叩き、次に出てきたのは企業であった。
「スタークは勿論、やっぱあるかオズコープ」
アイアンマンというヒーローを生み出すスタークインダストリー。
そしていつか宿敵となるノーマン・オズボーンがいるオズコープ。
幸いなこと、いや不幸なのだろうか。
どちらも今現在、大きなニュースはないようだった。
ヒーローもヴィランもまだ表面上は出て来ていない。
ならばヒーローだけが生まれる世界には出来ないのか、と彼は思う。
「学生がどうしたら大企業のトップと知り合うんだよ....!?」
だが彼は直ぐに考えを改めた。
今の彼はただの学生、優秀な賞は取っているがまだまだ無名な存在である。
そんなピーター・パーカーがあなたの助けになりたいんです、と言ってすぐ面会するようなトップは考えられない。
「とりあえず、引き続き都市伝説とか調べていこうかな」
そう思い、自作のAIに情報収集の指示を出した後、彼はガレージに向かった。
目的は自身のコスチュームを作ることである。
幸いなことにヒーローとしての装備を作ることは難しくは無かった。
「かといって簡単でもないんだな、これが」
なにせ先述したアイアンマンのように、数億以上は普通にかかるパワードスーツではない。
そこらで集めた市販の赤と青の布、そして元となるプロレスラーのマスクと作業用グローブ、これらを合わせれば作ることができる。
何回か針を刺してしまい指にいくつもの絆創膏を貼ったが、無事ピーター・パーカーは己のスーツを完成させていた。
「Mark1ってところかな、ダサイけど追々改良していこう」
防刃性能も、防弾性能も無い。
素人が手縫いで作業服の上に布地を付けて作ったスーツ。
それがこの世界で初めての、彼だけの、ヒーローコスチュームだ。
「次はウェブシューターだな」
彼は視線をコスチュームから外し、作業台の上を見る。
そこにあったのは彼には似合わない金属製の大人向けの時計だ。
しかし、針は歪み、内部の歯車は飛び出して壊れている。
とても時計には使えない、だがウェブシューターとして欲しいのは本体のフレームだ。
捨てられていたそれを拝借して、改造を始める。
「とりあえず、完全な固定が出来るようにして...」
ウェブスイングという移動手段を使うためにも、ウェブを射出して飛び道具にするにも、正確な照準が必要だ。
つまり、射出する部位をしっかりと固定することが必要だ。
もともとあった時計としての固定具を取り外し、手首にしっかりと固定できるゴム製の固定具を取り付ける。
さらにその上から圧縮ガスとウェブの原液を含んだ部品を取り付けた。
これにてウェブシューターは完成、とはいかない。
「おっも、でも動けない程じゃない」
ぶんぶんと腕を振り、調子を確かめればその重量は予定をはるかに超えている。
普通の人間ならば腕を肩より上に挙げることも出来ないレベルの、代物になっていた。
囚人の手枷かな、と思うが一応は超人である彼には問題なく使えはする。
「要改善だね、それじゃあ次は発射機構の確認だ」
こちらの方が、彼にとっては本命だった。
化学式にも、配合にも問題は無い、筈である。
胸のどきどきという音を感じながら、壁に設置した的に手を向けた。
「3、2、1、発射!」
人差し指と小指を折りたたみ、親指で抑える。
ウェブシューターのボタンはそれの圧力とシューターに内蔵されたガスが合わさり一気に特製のウェブリキッドを放出した。
「よしっ!」
予定されていた挙動である。
しかし前世では空想だったものを実現させた達成感は格別なものだった。
「あれ?」
予定よりも量が出ている。
そしてそれが止まらない。
つまりは、小遣いで買ったウェブリキッドが糸となりそれが拡散していた。
糸でどんどん汚されていく大惨事である。
「と、止まれ!」
口で言ってすぐ聞くような便利なAIは搭載されていない。
「このぉ!」
発射を制御する機構を搭載しておくべきだったと後悔しつつ、ピーターはウェブシューターを分解し噴出を無理矢理留める。
「はぁ...はぁ...ガスと圧力のバランスは要調整だな...!」
恐らくは手の圧力による射出と、それに伴う発射ガスの割合がまずかった。
ノートにそう書き込み、最適な割合を計算していく。
二度目、三度目は失敗した。
そして一時間後、四度目のテストを開始する。
「行け!」
ぴしゅ、と空気を切り裂く音と共に、目標へと命中した。
量も適切、拡散もしない。
成功である。
「よしっ僕天才!」
自画自賛だった。
褒めてくれる人間もAIもいないので自分でパチパチと拍手する。
「仮完成ってところかな」
腕枷と化したウェブシューターと手縫いのスーツ。
立派とは程遠い。
だがこの世界で、彼だけの、スパイダーマンのコスチュームである。
感慨深げに二つを見つめる彼の耳に、盗聴していた警察無線の音が響いた。
『ニューヨークシティバンクで銀行強盗発生!未知の装備を持っている模様!応援を要請する!』
思わず、彼は頭を抱える。
どうやらこの世界の創造主は試練がお好きらしかった。
心底嫌だが彼の手にはウェブシューターとスパイダーマンスーツが揃っている。
「はあ」
ならばやることは一つだけだった。
-2-
糸を射出、ビルに到達、固着完了、振り子運動で移動。
文字にすればこんなものだが、実際行っているビター・パーカーの、スパイダーマンの景色はまるで違う。
流れる視界は高速であり、その中で次に移動に使う建造物を探し、正確に糸を放つのだ。
「映画では、簡単そうに、見えたんだけどな!」
悪態をつきながらウェブスイングする姿は、彼の理想像からは程遠い。
まだ不格好で、未完成。
だが一回ずつそれを完成させていく。
「1、2、3、よしタイミングはこうか!」
ピーター・パーカーという人間の才能が良かったのか、或いは転生した人格に搭載されていた完成系の記憶が良かったのか。
コツを掴み糸を使い移動すれば、すぐに目的地にたどり着いた。
「応援はまだか!?」
「なんだあの装備は!?俺達じゃ火力が足りないぞ!?」
「泣き言をいうな!市民が巻き込まれないように避難誘導を急げ!」
悲鳴、怒号、そして混乱。
NYの銀行でも上から数えた方が速いそこには通常とはまるで違う非日常が広がっていた。
銀行強盗、それも重武装の存在達である。
市販はしていない軍用装備の彼らを警察では抑えきれない。
その銃声と衝撃が広がる光景を見て、ピーター・パーカーは恐怖を感じた。
故に仮面を、スパイダーマンとして行動を開始した。
「ヒャハハ!ポリ公め!どうだこいつは!?てめぇらのひき肉を作ってやる!」
「やあ元気?そんなに叫ぶと喉に悪いよ?」
「は?」
軽口を叩くと同時に銀行強盗の横に空中から降り立つ。
遮蔽物の代わりとしていた車のボンネットは飛来物であるスパイダーマンを乗せたことで歪んでいた。
それほどまでに高速で唐突に現れた存在に、銀行強盗であるその男は反応できない。
「のど飴代わりに拳をプレゼント!返品は受け付けないよ!」
軽口を叩きながら振るわれた拳にはまったく力を籠めてはいなかった。
だがそれをくらった銀行強盗は、銃撃を受けても大丈夫だった重武装の人間は紙屑のように吹き飛ぶ。
その勢いのまま銀行内部に飛び込んだ。
「マルコがやられた!」
「なんだこいつ!?」
「通りすがりの親愛なる隣人さ!」
銃口と注意が、スパイダーマンに集中する。
スパイダーセンスでそれを感じながら、スパイダーマンは銀行内部を注視した。
強盗の人数、それぞれの銃器の有無、そして人質の存在。
――人質を確保している奴を優先して、倒す!
その為にまず武装解除させる。
結論を出し高速化した思考を、即座に行動へと移した。
―――ドシュ、ドシュ、ドシュ
相手が引き金を引くより早くウェブシューターで糸を射出し、相手の顔面や腕にウェブを命中させる。
「なんだこれ!?」
「はがれねぇクソォ!」
混乱に陥る強盗達に、彼は手を緩めない。
ウェブを連続射出し強盗達の手に持つ銃器を引きはがし、壁に叩きつけた。
最早銃としては使えない鉄屑へと変化させる。
「いいでしょこれ! 特許出願中なんだよね!」
先程までの警察や人質に向けた優越感は崩れ去り、彼らが味わっていた弱者の気分を強盛達は味わっていた。
つまり、それは恐怖である。
「来るな!来るなぁ!」
「それは来いってことだね!」
そんな彼らに拳を叩き込み、無力化した。
全てテレフォンパンチという奴であり、全力ではない。
スパイダーマンという超人の肉体の本気で殴れば冗談ではなく柔らかな果実のように人間を粉砕するだろう。
「さぁ逃げて!」
「は、はい!」
全員無力化したか警戒しつつ、彼は人質の拘束に使われていた結束バンドを引き千切り、逃がした。
「これで終わりだといいんだけどな・・・」
その言葉は、フラグだった。
人質を全員逃したのと同時に、凄まじい衝撃と共に何かが飛来する。
スパイダーセンスでそれを察知した彼はかすりもせずにそれを避けた。
飛来したそれが何なのか、彼は交わしてから認知する。
銀行の最奥にある分厚い金庫を締める扉だった。
人間が持ち上げるのも、移動させるのも不可能な物体である。
「おいおい、だれだぁ?」
その金庫の扉を吹き飛ばした存在、つまりは自分と同じ超人と言える存在が奥から来た。
ピーターの、転生者の脳裏には様々なヴィランの名前が浮かんでは消える。
スコーピオン、バルチャー、ドクターオクトパス、そしてグリーンゴブリン。
しかしその無数に浮かんだ予想は外れた。
「このショッカー様の仕事を邪魔する奴はよお!」
衝撃波を放ち土煙を切り裂いて現れた存在に、思わず安堵の吐息が漏れる。
「はあ」
「なんだビビったのか? 今なら土下座すれば許してやっても―――」
言葉を続けるよりも先に、ショッカーの防護服の上から拳が叩き込まれた。
「がっ!?げぇっ!?」
「ごてごてした籠手を着けてくれて助かったよ」
一撃、二撃、三擊。
流れる様にパンチが、自身の衝撃波を防ぐ彼のコスチュームを貫いてダメージを与える。
「なめん、がぁ!!」
それでもなおショッカーは耐え、スパイダーマンへと反撃しようとして叫ぶ。
「ごめんねおロチャックでよろしく」
故に、顔面に叩き込まれた蹴りで意識を失わせた。
人形の糸が切れる様に、ショッカーは倒れ込む。
「はぁ、はぁ、ふう」
このように、結果は圧勝だった。
しかしそれでも精神的な負担はすさまじい物である。
もし、最初の金庫壁を躱せていなかったら。
もし、相手が自ら名乗っていなかったら。
もし、自分の知識と違う能力がこの男にあったなら。
脳裏から溢れるもしもの可能性が怖くて怖くてたまらなかった。
しかし、それでも勝利は勝利である。
「よし」
震えは止まり、息は整った。
まだ恐怖は残っていたが、足枷にはならない。
片手で重武装のショッカーを引きずり、ガラス片が散乱する入口から外に出た。
出た先で待っていたのはヒーローの姿をとらえる為のカメラノフラッシュではなく銃口である。
「手を挙げて地面に伏せろ!」
警察官たちが警察車両を盾に、こちらに拳銃やショットガンを向けていた。
正面の十数人、そしてスパイダーセンスで感知する限り二人のスナイパーが自分を狙っていることを彼は感知する。
「あー... まずは彼を渡していいかい?」
そっとひきずっていたショッカーを降ろし、数歩離れた。
恐る恐る、警察官は近寄りショッカーを引きずっていく。
「それじゃあ僕はさよなら!」
全員の注意が一瞬そちらに映った瞬間、彼は糸を飛ばし、十数メートルを軽々と跳躍した。
「待て!不審人物が逃走を開始! 逃すな!」
「不審人物じゃないよ僕はスパイダーマン!スパイダーとマンの間のハイフンを入れてよ?」
軽口を叩き、ウェブスイングでピルの合間を彼は飛び回る。
凄まじい速度で立体的に移動する存在をとらえる方法も、或いはその証拠を集める方法も無かった。
数十分も逃走劇を続けた後、彼は監視カメラが設置されていない場所で着替え、帰路へ着く。
そろそろと音もなく、自室へと入った。
中には誰も居ない。
急いで彼はコスチュームを脱ぎ捨てる。
そうでもしないと狂ってしまいそうだから。
「はぁ...はぁ...」
スパイダーマンから、ピーター・パーカーへと意識が切り替わる。
そして汗だくなのも構わずベッドへと倒れ込んだ。
「ヴぉえェ」
そしてゴミ箱に向けて吐く。
ヒーローになった感想は一つだけだ。
「最悪」
人間をぶん殴るのも、高速で移動するのも、そして銃口を向けられながら戦い、強いヴィランと戦うのも全部が全部つらい。
「でも、なぁ....」
だが、必要な事だと彼は感じている。
もしあのショッカーと名乗った男をそのままにしていたら、被害は増えていた。
なにせ重厚な金庫扉を吹き飛ばす奴である。
人体に当たったりすれば間違いなく致命傷だ。
だからスパイダーマンとして手を出す理由はあったのである。
ああ、けれど。
「ヒーローはつらいよ」
これが毎日続くとなると心が折れそうだった
Tips
・ピーター・パーカー(転生者)
転生者であるピーター・パーカーの知能は原作のピーターよりも下。
だが完成系となる技術の未来の知識や、原理を知っておりそれから逆算しているので結果的に効率よくスキルアップできている。
転生者としての知識に深入りするときは俺に、通常時は僕としてふるまう。
容姿は結構童顔である
・ショッカー
本名、ハーマン・シュルツ。
小さいころから犯罪をして暮らしていたヴィラン。
この世界においては自作ではない衝撃波発生装置を作って強盗を働いたが失敗した。
弱い訳では無いが、警戒心マックススパイダーマンに瞬殺された