大いなる力には大いなる責任が伴うらしいが転生者もそれに含まれますか?   作:御船上郎

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第三話 楽しいハイスクール(地雷原)ライフ

-1-

 

休日明けに学校へ行く。

これは学生であるならば誰しも憂鬱になるものだ。

彼、ピーター・パーカーもその例にもれず大変憂鬱である。

 

「はぁ」

 

 

普通の学生とはその理由が全く違うが。

ピーター・パーカーの通う学園、ミッドタウン・ハイスクールは例えるなら地雷原のようなものだ。

かなりの確率で同級生が、或いはその家族が、或いは教師がヴィランになる。

しかもその巻き添えで死人も出る可能性が高いのだから笑えない。

 

 

「でも行かないわけにはいかないんだよなぁ」

 

 

ピーター・パーカーは億万長者でもないし国家に所属するエージェントでもない。

叔父夫婦に引き取られたただの一般市民である。

故に普通の高校生として今まで通り通う必要があるのだ。

そう、心底行きたくない地雷原へ足を踏み入れる決意を固め、彼は自身が通うハイスクールへと足を踏み入れた。

 

 

「ようピーター!もう体調は大丈夫か?」

 

とぼとぼと歩く彼の背中を小柄で恰幅のいい少年が叩く。

その衝撃は肉体に宿った記憶には慣れたものであり、その犯人が誰なのかもわかっていた。

 

 

「おはようネッド、なんとかね」

 

 

話しかけて来た少年の名前はネッド・リーズ。

ピーターと同じ学園の階層ナードであり、科学ギーク仲間である。

 

 

「調子悪そうだな?予定してたホラー映画祭りはまた今度にするか?」

「うん、ちょっと夜起きてるのきつくてさ、ごめん」

 

 

なにせおっかなびっくりホラー展開はこの学園で山ほど発生する予定だからだ。

正直言って勘弁してもらいたい。

 

「いいっていいって、ふらふらなら車に気をつけろよ?噂だと昔は放射能廃棄物が普通にドラム缶で運ばれてたらしいからな」

「安全管理はどうなってるんだろうね」

「さあ?」

 

 

どう聞いても某デアなデビルな盲目ヒーローの誕生秘話である。

ネットで弁護士事務所を検索してみようと、ピーターは思った。

その時である。

 

 

「何を下らん話をしているそこの二人」

「げっ」

 

 

わいわいとオタク特有のハイテンションで話す二人の少年に声がかかった。

冷たく、硬い。

そんな印象を与える声である。

 

 

「出たな堅物フラッシュ」

「フラッシュ?」

「なんだピーター、ヘッドライトに照らされた蝙蝠みたいだぞ?」

 

 

ネッドの言葉を聞き流しながら、こちらに声をかけて来たフラッシュという男を見る。

自分の中のイメージではフラッシュという男は筋肉質の典型的なジョック、つまりは筋肉質で金髪の男をイメージしていた。

しかし、そのイメージとはまるで違う人物が目の前にいる。

 

 

「フン、ジロジロ見るとは無礼だぞ」

 

 

金髪で、白人だ。

だがくい、とメガネを人差し指で押し上げる知的な印象を与える男だった。

痩せぎすで神経質そうな金髪オールバックの彼こそがこのユニバースでのフラッシュらしい。

 

 

「あ~眼鏡変えた?」

「変え取らんわ!」

 

 

その驚愕を誤魔化すべくジョークを言ったが気に入られなかったらしい。

しかし合わせてネッドが追撃する。

 

 

「わかったぞピーターが眼鏡じゃなくてコンタクトに変えたのが気に入らないんだな!」

「そんなことで怒りはせん!」

 

 

さっきの冷静な態度はどこにいったのか、息を乱してツッコミを繰り出していた。

そうして数分口論をして乱れた息を整え、ちらりとフラッシュはピーターを見る。

 

「ふん、私の化学と数学のライバルが寝込んでいないか確認に来ただけだ。そこらの愚か者と違って貴様は病院にも行ったんだろうな?」

 

 

くいくいとメガネを挙げる。

その動作と言葉に、ある言葉が脳内で浮かんだ。

 

 

「ええっと心配してくれたってこと?」

「そ、そんなわけがないだろう! 私は単に自身が任された引率で病人が出るなど恥だと思っただけだ!」

 

 

そう、ツンデレである。

どうやらこの世界ではそこまで嫌な奴ではないらしい、と脳内にピーターは記憶した。

 

 

「わあジャパニーズツンデレって奴? フラッシュのそれって誰得なんだ?」

「うるさいぞデブ!」

「ふくよかっていえガリガリ!」

 

 

しかしこの二人の仲は悪いらしい。

いや喧嘩するほど仲がいいというべきなのだろうか。

このままいくと底辺の殴り合いが発生しそうな感じだったが、それは収まることになる。

 

 

「やめなよ二人とも! 授業始まっちゃうって!」

 

 

なんとか止めようとしたその時、一人の少女が彼らの下にやって来た。

 

 

「何の騒ぎピーター?」

 

 

美少女である。

まるで大理石から掘り出されたのかの如く美しく白い肌とサファイアのような美しい瞳、そして黄金をそのまま使ったような美しい金髪には黒いカチューシャが付けられていた。

そんな人物などこの世界には一人しかいない。

 

 

「ああグウェン!なんでもないよ!ちょっとネッドとフラッシュがいつも通り喧嘩してただけ!」

「いつもとはなんだピーター!この太っちょが私に絡んでくるんだ!」

「いいやお前が嫌味を言ってくるんだ!」

 

 

グウェン・ステイシー。

もしもの世界でピーター・パーカーのガールフレンドになるかもしれない少女である。

そんな美しい彼女に見られ整列しながらも争い合うフラッシュとネッドをいつもの感じだと感じた彼女は苦労性な少年に声を掛けた。

 

 

「いつも大変ねピーター」

「ううん別に!グウェンは時間大丈夫?」

 

 

ぶんぶんと大げさに首を彼は振る。

他の人が見ればグウェンという少女の美しさで緊張していると判断するが、違うのだ。

それをグウェンも良く解っている。

自身に向けられるのは美しさに対する羨望、嫉妬、そして欲望のどれかだ。

だが、ピーター・パーカーからはそのどれも感じない。

故に彼女は記憶がよみがえる前から彼に惹かれている。

 

 

「そうね、もうそろそろ行かなきゃ―――」

「グウェン~授業遅れちゃうよ!速く~!」

「MJも来たし」

 

 

そんなことも知る由もないピーターは、彼女を追ってやって来た赤毛の美少女を見て戦慄する。

MJ、メリー・ジェーン・ワトソン。

彼女もまたもしもの世界でピーター・パーカーとガールフレンドになるかもしれない少女だ。

グウェンを氷のような美しさとするならこちらは、華のような美しさである。

愛嬌があり、人を安心させつつも庇護欲を掻き立てる容姿だった。

 

 

(役満がそろいやがった...!)

 

 

このハイスクールの二大トップ美少女が目の前に現れている。

しかし、ピーターは歓喜どころか恐怖しか胸の内に感じてはいない。

なぜなら厄ネタであり、地雷であり、そして何もしなければ不幸になる少女達だからだ。

グウェンは某緑の小鬼に殺されるし、MJは飛行機事故で死んだりする。

目の前の美しさより未来の悲惨さしか感じない、悲しき男が彼だった。

 

 

「またねピーター」

「うんまたねグウェン」

 

 

そうグウェンを送り出し後ろを向けば喧嘩をしていた二人は、美少女二人に骨抜きにされていた。

ぽつりとネッドが呟く。

 

 

「ここはハリウッドだったっけ」

 

 

芸能界で活躍してしかるべき美少女たちへの感想だった。

当然堅物メガネのこの世界のフラッシュは黙ってはいない。

 

 

「ハイスクールだエロ豚め」

「あぁん!このエロ眼鏡が!」

「もう本当にやめなよ二人とも」

 

 

なんとか二人を止めて、朝一番の授業へと向かったのである。

 

 

 

-2-

 

 

 

カート・コナーズ。

それがこの学園で本日一限目の生物学の教師である。

ピーター・パーカーとしての記憶を振り返る限り、生物学を選択授業で選び取ったらしい。

そんな過去の自分を彼はぶん殴りたくなった。

 

 

―――リザードじゃねぇか!

 

 

目に見える地雷が発見されたのである。

思わず頭を抱えてしまった。

なぜか、この科目の教師カート・コナーズはいずれヴィランになるのである。

見る限りその理由である左腕の欠損は発生していた。

つまり、もはやこの欠損した腕を治すために行動を犯すまで秒読みである。

 

 

「どうしたピーター?課題忘れたのか?写すなら3ドルでいいぞ」

「大丈夫だよネッド。神様の試練は本当に要るんだなって思っただけ」

「なんだ急に哲学的だな」

 

 

神=スタンリーの事であるがネッドは知る由もない。

ピーターは運命を呪いつつ、授業を受けた。

生物学とは言うが、化学も混ざったこの授業では薬品は多く使われる。

故にそれを保管室に戻す作業も必要なのだが、片腕のカートを誰も助けはしなかった。

彼らには後の授業があり、合間の時間でカートを手伝うことは損にしかならない。

だから、助けない。

 

 

「...」

 

 

そのことが無性に嫌で、ピーターは手を差し伸べる事に決めた。

 

 

「どうしたピーター?」

「ちょっと片付け手伝っていく」

「我々の仕事じゃないぞ」

「それでもだよ」

 

 

ピーターは後の授業の評価が下がるかもしれなかったが、そんなことは構わない。

偽善であったとしても、見過ごすのは自分が許さなかったからである。

 

 

「解った、次の先生誤魔化しとくからな」

「ふん、このデブのごまかしを補ってやる。精々感謝しろ」

「感謝の印に栄養ドリンクを奢るよ、これでいいだろ?」

 

 

頷いた二人の親友を見送り教師に、カートに近づいた。

 

 

「カート先生、これどこに運びます?」

 

 

ひょいと薬品の入った籠を持ち上げる。

それなりの重量があるらしいがピーターにとっては軽いものだ。

 

 

「ありがとうピーター、でもいいのか?別の授業があるだろう?」

 

 

成績優秀者であるピーター・パーカーをカートは知っていたらしい。

感謝しつつも彼はピーターの成績を心配した。

 

 

「いいですよ別に、成績が多少下がるくらいですから」

「ふふっ君は変人だな」

「ええ変わり者ってよく言われますよ」

 

 

そう笑い合い、カートの研究室兼薬品類の倉庫になっている部屋へと向かう。

カートの瞳は自身の片腕では抱えられなかった荷物を両手で持ち上げるピーターへの嫉妬と感謝が入り混じっていた。

それに薄々気づきながらも、ピーターはカートの部屋へと入る。

部屋の中は爬虫類の写真、遺伝子図、ゲノムに関する研究資料が散乱していた。

 

 

「カート先生は爬虫類がお好きなんですか?」

 

 

ピーターはそう問いかける。

カートの返答は速く、そして熱量が籠っていた。

 

 

「好き、という訳ではない。だが憧れではある」

「憧れですか?」

 

 

憧憬、自身には存在しないものへの執着がそこにはある。

 

 

「ああ、憧れだとも」

 

 

その熱は止まらない。

 

 

「君は考えたことは無いかい?失った手足が戻ったらと!」

 

 

先程までの落ち着きようはどこに行ったのか、大口を開け堂々と話し始めた。

失った左腕が元通りになったかのように空洞の左袖がぶんぶんと揺れる。

 

 

「私は元々軍医を務めていたが爆撃でこうなってしまった!だが私はこの亡くなった腕を取り戻すのを諦めてはいない!」

 

 

その揺れた左袖を掴み、彼は叫んだ。

 

 

「遺伝子を改造すれば出来る筈なんだよ!再生能力を持った人体が!」

 

 

夢想、夢物語、不可能。

普通の世界ならばそうなのだろう。

しかし、この世界はMARVELの世界だ。

 

 

「それは・・・危険じゃないんですか?」

 

 

ピーターの口からは当たり前の、どこにでもいる人間の言葉しか吐けない。

 

 

「危険だともピーター!だがやる価値はある!」

 

 

そしてそれへの返答をカートは何千何万と繰り返してきたのだろう。

ピーターはそれでも尚、別の道の提示しようとした。

 

 

「義手はダメなんですか、高性能な物がいつかできるかも...」

 

 

このMARVELの世界ならば、限りなく人間に近い義手を作れる。

そう確信していた。

 

 

「だめだ、ダメなんだよピーター」

 

 

だが帰って来たのは否定である。

よろよろと残った右腕で卓上の写真立てを胸下で抱きしめた。

 

 

「私はこの両手で、妻と娘を抱きしめたいんだ」

「そう、なんですか」

 

 

その圧倒的な愛情と絶望に、彼は何も言うことができない。

ピーターは確信する。

最早彼はリザードになるしかないのだと。

 

 

「・・・話し込んでしまったなピーター、もし生物学に興味があったらいつでも来てくれ」

 

 

熱狂から一時的に戻って来たカートが笑顔で、ピーターに向けて言う。

友好的で、優し気で、そして有り触れた娘と妻を愛する男の顔だった。

 

 

「はいよろこんで!」

 

 

ピーターもまた学生に相応しい少年としての顔で返答する。

しかしその裏ではスパイダーマンとして、向き合う覚悟を決めていた。

 

 

―――この人は、僕が止める。

 

 

そう胸に刻み込んだのである。

悲劇を悲劇で終わらせない覚悟を彼は胸に焼き付けた。

 

 

 




・ネッド・リーズ
MCU世界でおなじみピーター・パーカーの親友。
この世界でもオタク気質であり、映画好き。
科学力に関してもハッキングやアプリ開発なんかが得意らしい。
なんか別のユニバースだとホブゴブリンになってる。

・フラッシュ・トンプソン
多くの世界で体育会系だがこの世界だとガリ勉白人男。
フラッシュという名前の通り凄まじい速度で計算する。
ピーター・パーカーとは常に成績の1位と2位を争っておりライバル意識を持っている。 あっちの方もフラッシュとネッドに言われたが真実は不明。
なんか別のユニバースだとヴェノムとかに寄生されてエージェント・ヴェノムになったりするらしい。

・グウェン・ステイシー
よくグリーンゴブリンに投げ捨てられて死ぬ人その1。
この世界だと同じハイスクールに通っている少女。
成績優秀、眉目秀麗、完璧超人を超えた完璧超人として女神の如く慕われている。
しかし本人はこれを好んでおらず、それに興味を持たないピーターに興味を示している。

・ミシェル・ジェーン
通称MJ。
よくグリーンゴブリンに投げ捨てられて死ぬ人その2。
明るく天真爛漫で、この子が好きなのは俺だけだろうなとよく勘違いされる。
美少女でありモデルのバイトをしている模様。
明るいがどこか影がある。

・カート・コナーズ
アメイジングスパイダーマン第一作のヴィラン、通称リザードになる前の姿
この世界においては軍医として従軍した際に左腕を欠損。
我が子を両手で抱きしめられないこと、医術分野から両手を使えないことで追放されたこと
生徒たちから向けられる蔑視にストレスを感じている。
最早変異まで時間はかからない、止めるしかない。
事前に止めるには彼に出会うのは遅すぎた。

・放射能
この世界御用達の便利アイテム、障害が起こらずスーパーパワーが発生することが多い。 なんならナイトクラブに原子炉設置されてたりする。
安全意識はどうなってんだ安全意識は
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