大いなる力には大いなる責任が伴うらしいが転生者もそれに含まれますか?   作:御船上郎

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第四話 やっぱり治安最悪な街紐育

 

-1-

 

最近噂の男、という言葉をニューヨークの市民が聞いた時思い浮かべるのは彼。

 

 

「イヤッホー!ニューヨークのみんな元気にしてる?僕は元気さ!(ヤケクソ)」

 

 

都市に広がる摩天楼の合間を飛び回るスパイダーマンだ。

つまりはリザードと戦うことが決定してヤケクソ気味にコスチュームに着替えたピーターパーカーである。

彼は視界に映る豆粒のような車と人々、そしてそれを囲う建造物から困り事や犯罪を見つけ出し解決していた。

 

 

「とりあえず地理を頭に叩き込まないとな」

 

 

理由はいくつかあるが、カートがリザードになった際の事件対応をスムーズにする為が大きい。

ニューヨークという都市は広く複雑である。

もしリザードが彼の脳裏にあるアメイジングスパイダーマン規模の事件を起こした時、移動経路やウェブスイングの練度は救助に関係するのだ。

 

 

「ほっ!とっ!やっ!」

 

 

内臓の浮遊感、肩にかかるG、遠心力により揺れる脳。

常人なら吐いたり気絶したりする経験をなんどもなんども反復させ、自然に対応できるようにする。

前世の知識にあるスパイダーマンの移動す団であるウェブスイングの振り子運動、パチンコのような高速移動、、ムササビのような滑空、そのどれもが出来るように努力していた。

あとついでに言えば、市民たちに少しでも受け入れられる存在になる為彼は行動している。

大規模事件の際避難誘導や救助の際にヴィランと間違えられたらやってられないからだ。

 

 

「信号見えない?今は赤だよ?どうぞおばあさん」

「ありがとうね、マスクマンさん」

「スパイダーマンです」

 

 

暴走車両を片手で抑えつつ、信号を渡る老婆を助けたり。

 

 

「はい、あなたのバッグです。おっこの材料はシチューかな?」

「ありがとうスパイダーマン、妻の得意料理でね。これで妻に怒られないで済む」

「それはよかった!楽しい晩餐を!」

 

 

ひったくられたバックを奪還し持ち主へと返却したり。

 

 

「クソ!この糸をほどきやがれ!」

「俺たちに手を出してただで済むと思うなよ!」

「君たちみたいな奴の捨て台詞は毎回似てるね!テンプレートとかある感じ?」

 

 

道行く普通の人々を恐喝していたギャングの捕縛。

 

 

「おいで~キティちゃん、そこは危ないよ?」

「フニャーゴ!!」

「痛っ!大丈夫だから!まったくウルヴァリンみたいな子だ」

 

 

果てには高い所に上って降りられなくなった猫の救助まで、彼は様々な困り事、犯罪を防いでいた。

颯爽と現れ人々を助ける存在、それをヒーローとしてみない人間はいない。

 

 

「おっSNSに映ってる!僕有名じ~ん」

 

 

動画投稿サイトやSNSなどで投稿される程度には彼は有名になったのである。

それにちょっとした満足感を感じつつも、彼は冷静に思考していた。

 

 

―――調子に乗るなよ俺、この世界はMARVEL世界。いつ強盗が起きても不思議じゃない。自尊心は持ちすぎるな。リザードへの対処法も考えろ

 

 

未来への危機感、リザードへの対処法、ヒーローの捜索。

やるべきことはいくらでもある。

そう考えつつ、彼はマスクの下のイヤホンから流れるラジオ放送に耳を傾けていた。

 

 

『巷で噂のクソ野郎!スパイダーメナス!あんな危険人物をヒーロー視する奴は何を考えている!』

 

 

中年男性の怒声である。

自身を敵視するその声を、彼は知っていた。

スパイダーマンという存在が発生するならば彼もまた発生するのだろう。

J・ジョナ・ジェイムソン、デイリービューグルの編集長でありこの世界ではポッドキャストやら動画投稿サイトも運営してるらしい。

 

 

『いいか視聴者諸君!犯罪や災害などに自警団気取りのマスク男が介入するのはおかしいことだ!コスプレ野郎が火事や事故に出張ってくること自体がおかしいことなんだ!』

「いやほんとそうだよねJ」

 

 

この世界の彼はゴシップ野郎ではなく冷静で現実的な視点で批判して来るので、ピーターは嫌いではない。

寧ろ同調してさえいた。

スーパーパワーがあろうがピーターは危ないことはしたくないし、何ならピザやポテチを食ってだらけていたい側の人間である

 

 

「でも治安悪すぎるんだよなこの街」

 

 

だが現実は非常なのだ。

100%、この街で強盗や銃による犯罪を無視した場合家族や友人に被害が及ぶと彼は確信している。

 

 

『自警団がこんなことをしなきゃいけないのは行政と司法、つまりは政府の怠慢そのものだ!』

「なにせMARVEL世界だからね(負の信頼)」

 

 

この世界への絶望を積み上げたその時だった。

ラジオが中断され、警察と救急無線へと切り替わる。

言わずもがな無許可で犯罪行為だ。

 

 

『―――ストリートのビルで火事発生!怪我人の人数は不明だが学生も巻き込まれている模様至急応援を!』

「オーライ!今行くよ!」

 

 

だが、人命には代えられないから仕方ない。

スイングで飛び上がり、ビルの屋上にスパイダーマンは降り立つ。

そして両脇の別のビルへウェブを撃ち込み後ろに力の限り引きながら下がった。

ギリギリ、とウェブが悲鳴をあげる。

筋肉が膨張し、神経がとがり、血管が脈動した。

 

 

「加速していけば15秒だ!」

 

 

ばん、という音がする。

まるで砲弾の様に上空へとスパイダーマンは自分自身を打ち出したのだ。

 

 

「右、左、右。ウェブスイング一回。視界を遮る鳩に注意」

 

 

もはや景色は常人にとっては色のついた線であり空気は重く苦しい程の環境である。

しかし、彼は超人だ。

スパイダーセンスにより電柱や信号機、飛び交う鳩を避ける。

そして自身の移動速度とウェブシューターの射出速度を計算し、更なる加速を行える地点に打ち込み更なる加速を自身に与えた。

 

 

「ほんと!治安が悪すぎるよこの街は!」

 

 

まったくもってその通りであるが彼に返答は無かった。

 

 

 

-2-

 

 

息が苦しい。

彼女、グウェン・ステイシーが感じることが出来たのは辛うじてそれだけだ。

それでもこれに対処する思考すら出来なかったら、死が待っている。

本能的にそう感じていた。

 

 

「皆こっちに。姿勢は低くして...」

 

 

炎という熱の塊がすぐそこに来ていても彼女は冷静に、人々を先導している。

汗は滝のように流れ、頬は紅潮していたが、その美しさは損なわれていない。

人々が冷静さを失わなかったのは、この美しい少女が率先して正しい判断をしていたからだ。

 

 

「助かりますよね...俺達...!」

 

 

いっしょに避難している人々の一人がそう声を漏らす。

全員が、グウェンを見た。

一拍置いて、彼女はそれに答える。

 

 

「勿論、全員助かるわ」

 

 

―――嘘だ。

 

 

彼女が予想していたより火の回りは速く、そして避難経路は潰れている。

閉じ込められているのはビルの上層階。

救助に来るのは誰がどう見ても時間がかかるのは明白だった。

 

 

―――私たちは、助からない。

 

 

全員死ぬ。

その事実を告げれば恐慌状態になることを彼女は直感している。

故に言わなかった。

彼女がやっているのは悪あがきであり、無駄な足掻きという奴である。

 

 

―――死にたくない、死にたくない

 

 

その超然とした美しい冷静な表情の裏では年相応の感情が悲鳴を挙げていた。

彼女の脳裏に学園の友人たちや家族との思い出が溢れかえっていく。

それは現実逃避だと解っている筈なのに、やめられなかった。

 

 

「いやだぁ!」

「うわぁ!」

「きゃあっ!」

 

 

がしゃりと音がする。

それは崩落の音だった。

近場の地面が崩れて、炎が一気にやって来る。

酸素を燃料に一気に膨れ上がり近づいてくるのはまるで悪魔がやって来たかのようだった。

 

 

「みんな!立ち上がらずこっちに!」

 

 

一歩でも離れる。

自分たちが出来るのはこれだけだ。

四足歩行では遅すぎるが、立った瞬間一酸化炭素中毒で死ぬ。

少しずつ、少しずつ、炎と人々の距離は近づいていた。

 

 

「ふぅ....ふぅ...」

 

 

真綿で首を絞められるように、精神が鑢にかけられ削られていく。

戦闘を歩む彼女の頬に、涙が流れた。

 

 

「ひっ」

 

 

―――死ぬ、怖い。もう無理だ。いやだ、パパと会いたい。やだやだやだ

 

 

思考は最早まとまらず足と手を前に動かすことしか出来ない。

いかに美しくても、いかに冷静に対応しても、彼女は若い少女である。

故に、祈るしかなかった。

 

 

「だれか、助けて」

 

 

神様でも、仏様でもいい、どうか助けてください。

だが現実は非情であり彼女に救いをもたらすことはない。

彼女の足掻きは無駄で無意味で、無価値に終わる。

本当に?

 

 

「もう大丈夫」

 

 

超高速の物体が窓の強化ガラスを突き破った。

窓が破られ、物体と共にやってきた酸素により更に熱く広く炎は燃え上がる、ことはなかった。

やって来た物体が放った粘液による壁がそれを防いだのである。

 

 

「僕が来た」

 

 

彼女は見た、室内で悠然と降り立った、赤と青のコスチュームの男を。

スパイダーマンが、来たのだ。

 

 

「スパイダーマン?」

「うん僕さ!」

 

 

見上げながら思わずグウェンは尋ねる。

自分が見ているのが現実ではなく妄想かも知れなかったから。

 

 

「私、助かるの?」

 

 

高層ビルから複数名を一人で階段も専用機材を使わずに救出する。

普通ならば無理かもしれない。

 

 

「勿論」

 

 

だが、彼女の目の前にいるのはスパイダーマンだ。

 

 

「さ、みんな僕に捕まって!流石に一人ずつ下す時間はなさそうだからね!」

 

 

 

避難していたのは五人。

全員合わせれば300kgから400kgになる重量だ。

重りとなるはずのそれを背負い、掴み、そして抱きしめ、彼は全員をつれ割った窓から脱出する。

強烈な浮遊感、落下、ウェブを減速装置として使い、超人ではない人々が無事で済む落下速度を確保した。

数秒もすれば、五人全員が地面に降り立っている。

 

 

「すげぇ!」

「やっぱヒーローだよ!」

「誰だよ犯罪者何て言った奴!」

 

 

万雷の拍手と歓声が、彼を迎えた。

それに手を振り答えつつ彼はあたりを見回す。

 

 

「この度はスパイダー便をご利用いただきありがとうございました。お気をつけてお帰り下さい」

 

 

見つけ出した救急隊に軽口を叩きつつスパイダーマンは案内した。

しかし、一人だけ救急隊に向かわない人物がいる。

グウェン・ステイシーだった

彼女は手を握りしめ、スパイダーマンを見つめる。

 

 

「ありがとうスパイダーマン、私を助けてくれて」

 

 

彼女の頬を伝う涙をスパイダーマンは指で拭った。

 

 

「君が頑張ってくれたから間に合ったんだ、君は頑張ったよ」

 

 

そして彼女の頭を撫でる。

優しい手つきに思わずグウェンは目を細めた。

 

 

「それじゃ僕は行くね!警察来たし!捕まっちゃう!」

「あっ」

 

 

そしてがっちりと掴んでいた筈の手を軽々と引きはがし、彼は摩天楼の隙間に消えていく。

名残惜し気に見つめることしかグウェンに出来ることは無かった。

そんな彼女の下に一人の男性警察官が駆け寄る。

 

 

「グウェン!」

 

 

彼女の父親、ジョージ・ステイシーだ。

火事に巻き込まれた彼女を心配していたのだろう。

息を切らし、汗を流していた。

そんな疲れ切った彼に娘が投げかけたのは予想していたものとは違う。

 

 

「パパの馬鹿!」

「なぜ!?」

 

 

彼を迎えたのは助けてくれたヒーローと話す時間を奪われた少女の癇癪だった。

 

 

 

 




Tips
・ピーター・パーカー(転生者)
やっぱり放っておくと死ぬじゃないか!(絶望)
世界の厳しさに嘆いて築いたフラグに全く気付いていない。
うおおおお悪党ぶちのめしてやる!

・JJJ
真のヒロイン
この世界ではデイリービューグル以外のポッドキャストを運営している。
マスクマン大嫌いだし、ヒーロー気取りの奴はクソと思っている。
だがゴシップや誤報は大嫌いだし、絶対しない。
行政や司法はちゃんとしろとのこと。

・グウェン・ステイシー
無事スパイダーマンに惚れる。
あ~死亡フラグ建築される音ぉ~!
冷静なクールビューティな感じだが内心は結構普通の少女である。

・ジョージ・ステイシー
ニューヨーク市警刑事。
そこそこ上の立場だが娘が巻き込まれたことで現場に出てきた。
娘に罵倒されたのはスパイダーマンのせいなのでは(迷推理)と思っている。


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