大いなる力には大いなる責任が伴うらしいが転生者もそれに含まれますか?   作:御船上郎

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第七話 やべぇやつ×やべぇやつ×やべぇやつ

-1-

 

 

ネッドの治療処置は卓越したものだった。

学生に見合わない程である。

 

 

「どうしてこんなうまいの?」

「母ちゃんが看護師なんだよ、そんで色々教わってる」

 

 

まあ触りだけだがな、と傷ついたピーターの肩に包帯を巻き終わった。

治療に使った薬品と包帯は、ピーターがスパイダーマンとして活動する際の危険性を考え、事前に買い込んでおいたものである

 

 

「病院で手術が必要な、筈なんだけどな」

 

 

肩には牙がいくつも刺さっており、掌なんか完全に貫通していた。

しかし、その傷から流れる血は止まっている。

なんなら出来る筈のないかさぶたさえ出来ていた。

ネッドは常識外れの肉体に驚くしかない。

 

 

「やばいな、その体」

「さっきこれよりやばいもの見ちゃったからなぁ」

 

 

あり得ない回復能力がピーター・パーカーの肉体にある。

リザード程の即時再生能力ではないが、回復能力は通常の人間よりも遥かに高かった。

抜き取られた鋭利な牙をピンセットでつかみつつ、ネッドはそれを観察する。

凶器そのものである牙をしげしげと凝視しながらピーターへ尋ねた

 

 

「それってあのニュースになってる蜥蜴男?」

 

 

今日起きた事件という速報性もあるが、それよりも人間が怪物に変異したことが市民に衝撃を与えていた。

 

 

「うん、蜥蜴みたいに手足自切してたよ、傷も直ぐ治しちゃうし」

「もう爬虫類関係ないモンスターじゃん」

 

 

手と足は再生しないだろ、と自分と同じ感想を漏らすネッドに思わずピーターは苦笑する。

今日一日、こんな暇も余裕も無かった。

 

 

「だよねぇ・・・」

 

 

スーツに手を掛ける。

ボロボロになっても、まだ使えた。

彼は、戦える。

 

 

「やめとけよ、警察に任せようぜ」

 

 

そんなピーターをネッドは止めた。

ボロボロで、疲れているのは誰が見ても解る。

そしてリザードという脅威がピーターに残した傷を見れば、行かせたくはない。

友人として当然の感情だった。

 

 

「でも、それだと死人が出る」

 

 

しかし、ピーターは止まらない。

彼は確信している。

放っておけばグウェンの父、ジョージ・ステイシーも含めた警官が無数に死ぬと。

アメイジングスパイダーマンという映画の世界線でも、他のユニバースでもそれは変わらなかったのだから。

なにせカノンイベントとかいうクソ要因である。

絶対に殺しに来るだろう。

 

 

「どうしてもやるのか」

 

 

ネッドは尋ねる。

 

 

「やる」

 

 

ピーターは迷いなく答えた。

 

 

「なら俺も手伝うよ」

 

 

故にネッドもまた迷いなく彼を助けることに決める。

 

 

「え?」

 

 

ピーターが呆気にとられた。

黙っていてもらえればそれでよかったのだ。

まさか助けてもらえるなんて彼の思考の外側だったのである。

 

 

「友達だろ?」

 

 

そんな驚きに満ちた表情を見せる親友に対して、ネッドはおどけながら言った。

 

 

「それに憧れてたんだ~ヒーローをサポートする役って奴に、ほらバットマンでいうところのアルフレッドさ」

 

 

彼のいつものような冗談にピーターもいつものように冗談で返す。

 

 

「アルフレッドにしては太りすぎじゃない?」

「言ったな!」

 

 

そして笑い合う。

いつものように、友人として。

 

 

「「ハハハハハハ!」」

 

 

今日、初めて、ピーター・パーカーは笑った。

数秒か、数分か、或いはもっとか。

ひとしきり彼らは笑った後、これからの方針を決めようとする。

 

 

「それで、どうするんだ?」

「まずはこれを調べる」

 

 

ネッドの質問に対してピーターは破り捨てられたシャツのポケットだった。

その中に、ある物が入っている。

簡素だが頑丈そうな情報端末、USBだ。

 

 

「USBか、何が入ってるんだ?」

「カート・コナーズ先生が残してくれた物なんだけど、まだ明けてない」

 

 

ピーターの手にもつそのUSBをネッドがひったくり、投げ捨てていた私物のPCに差し込む。

 

 

「任せろ、俺が調べてやる」

 

 

カタカタとキーボードを叩きその中にどんなデータが入っているのか確かめ始めた。

 

 

「どう?」

 

 

ピーターもネットは不得意ではないが、ネッド程ではない。

無数のタブを開き、その全てを同時に操作するのは彼には意味不明の技術である。

 

 

「ん~軍用の暗号化システム入ってるけど・・・うん抜けた」

 

 

そのピーターには意味が解らない技術で、彼はカート・コナーズが残したUSBのロックを外す。

 

 

「すごい」

 

 

簡素な称賛だった。

だが悪い気はネッドはしない。

 

 

「褒めろ褒めろ」

 

 

さも王様の様に腕を広げ讃えさせる。

 

 

「超凄いデブ」

 

 

故にそれを友人としてピーターは茶化した。

 

 

「最後のは余計だこのナード」

「君もだろ」

 

 

ナード同士の罵倒が一瞬交わされ、USBに入っていたファイルが開かれる。

二人の少年は、画面をのぞき込んだ。

 

 

「よしお宝が出て来たぞ」

 

 

そこにあるのは無数のデータと計画の書類である。

一つ一つの詳細は解らないが関係ありそうなものを確かめていった。

 

 

「W計画、気になるけど違う。超人血清?第二次大戦時代の骨董品らしいし、健康ドリンクだろ」

 

 

ネッドは自身の言葉やファイル名で横でピーターが百面相になっているのを知らない。

この世界の絶望が増えたのをはネッドは知らなくていいと叫びたい衝動を飲み込む。

そして一つのファイルを見つけた。

 

 

「バースデイ?」

 

 

動画ファイルである。

クリックすれば、当たり前だが動画が再生された。

 

 

「やあ、見てるかアマリア?君の夫で、アンナのパパのカートだ」

 

 

カート・コナーズの、動画である。

彼は眼鏡をかけた教師としての姿がそこにあった。

 

 

「実験前に、どうしても残しておきたくてね。初めてこんな動画を撮る。父親失格だなまったく」

 

 

頭を掻く腕は一本であり、怪物じみた姿はどこにもない。

普通の男である。

精々が自信なさげな表情が印象に残るだけだ。

 

 

「これから行う実験が成功すれば、私の腕は元に戻る」

 

 

失敗して、怪物になる。

ネッドとピーターは未来を知っていた。

カートも、その可能性はあり得ると思っていたのだろう。

 

 

「計算は完璧だし、問題は無いよ。二人が心配しなくても家に帰る、きっとだ」

 

 

科学者には相応しくない、もしもの願望の話を彼はしていた。

 

 

「もし治ったら、オズコープタワーに昔みたいに行こう。プロポーズした時みたいにアマリア君を抱きしめたいしあの時いなかったアンナにあの景色を見せてあげたい」

 

 

現実は理想通りいかない。

彼は化け物になったし、ピーターが止めなかったら家族を殺していたのである。

 

 

「愛してるよ、生まれ変わっても君たちに出会いたい。私を見捨てないでくれてありがとう」

 

 

ありきたりで、チープな家族への愛の言葉がそこにある。

だが、そんな言葉を吐く人間を助けたいと二人は思った。

 

 

「・・・カート先生はもうだめか?」

 

 

録画を見終えたネッドが変わり果てたカートと戦ったピーターに尋ねる。

ひたすらピーターは思考を回してネッドの質問に答えた。

 

 

「解らないけど、諦めたくないな。他には何かある?」

「ああ最後の一つがそれっぽい」

 

 

動画ファイルの隣にあった、データを開ける。

 

 

「プロジェクトリザード、文字通りじゃないか」

 

 

無数の化学式、文章、論文、そして考察が乗っていた。

ネッドにはこれが何を意味しているかは解らない

だから、目を見開いて分析し続けるピーターを邪魔しないように徹する。

そして、ピーターの指がPCの画面の一点を指差した。

 

 

「異種間遺伝子交配血清、これだな」

 

 

鍵を見つけた声である。

彼の脳内には、他の世界でピーター・パーカーがリザードを助けた方法についての記憶を掘り起こし現在のデータと比較し分析していた。

そして結論する。

 

 

「・・・うん、これなら解毒剤を作れる」

 

 

恐らくでもきっとでもない。

ただ確信をもって彼は言った。

ネッドは親友の頭の良さに驚くほかない。

 

 

「すごい」

「褒めろ褒めろ」

 

 

先程と同じ、だが発言者は逆の称賛が部屋で行われる。

 

 

「超凄いぴっくり人間」

 

 

そして貶すのも同様だった。

 

 

「褒めてる?けなしてる?」

「褒めてるに決まってるだろ見ろこの顔」

 

 

ドン引きとした顔がそこにある。

意味わかんないものを見たという顔だった。

 

 

「ドン引きしてる顔にしか見えないよ」

「いや、そうもなるだろどうして他人の数十年の研究成果を一瞬で理解できるんだよ」

 

 

この場合正しいのはネッドの方である。

他者の研究を一瞬で理解し、それから飛躍した物を用意するなど天才どころか化物の所業だ。

 

 

「まあ・・・天才だから?ネッドみたいにね」

「嫌味かキサマ!」

 

 

別の世界のカンニングとは言えないピーターをネッドは小突く。

そして、その解決策をどこで作るのか尋ねた。

 

 

「それでどうする?作るにしたって薬品がないぞ?」

「ちょうど、もう今日は誰も来ないうってつけの場所があるだろう?」

 

 

ピーターのその言葉に、ネッドは嫌な予感がしたが気にしないことにした。

 

 

-2-

 

 

ミッドタウンハイスクールの薬品保管室であり、カート・コナーズの研究室でもあるその部屋は惨憺たる有様である。

なにせリザードとスパイダーマンの二人の怪物の戦場になったのだ

壁は崩れ、天井の電球は割れて点滅し、なんなら窓は壊れて常に換気状態になっている。

そんな闇の中で動く影が二つあった。

 

 

「そっちの奴取って」

「ほい」

 

 

言わずもがな、ネッドとピーターである。

彼ら二人はこの残骸の山や他の保管室から使えそうな薬品とかをかっぱらい、実験器具を無断で盗用しカート・コナーズを戻す為の薬品を作っていた。

 

 

「これ大丈夫なのか」

「なにが?」

 

 

薬品を混ぜ合わせるピーターが、ネッドに尋ねる。

 

 

「いやまあ使う予定の奴の廃棄記録と監視カメラ映像も改竄したけどさぁ、ヒーローがこれやっていいのか?」

「正義の為だから仕方ない!」

 

 

隠蔽工作を担当したネッドの咎めはピーターの笑顔によってかき消された。

 

 

「カート先生はまだ動かない?」

 

 

今度はピーターがネッドに尋ねる。

 

 

「無いね」

 

 

ネッドは持ってきたパソコンの画面を見つめ答えた。

それにはこの都市の監視カメラ映像が無数に映し出されている。

ネッドは流れる映像一つ一つにリザードのような影が出て来たら知らせる様にプログラミングを施していたがまだ何も反応は無かった。

 

 

「お前の言う通りならカート先生はかなり生物として変化してたんだろ?ならそれだけ疲労してるに決まってる」

 

 

肉を、骨、臓器を、血管を、神経を、変異させる。

それにかかる負担は膨大だ。

普通の爬虫類でさえ、脱皮という皮一枚変異させるにも相当な体力を消費する。

肉体や骨を変異させるためにかかった体力を回復するのを生物として優先させるのは当然のことだ。

ならば楽観的に対応できるのかと言えば―――

 

 

「だけど、そんな常識じゃもうあの人は図れない」

 

 

―――断じて否だ。

一刻も早く作り上げる。

そうしなければならない。

彼の決意は指先にも宿り、繊細ながらも素早く化学反応を起こしていった。

そして最終工程が始まったその時、PCあらアラート音が鳴り響く。

 

 

「出たか!」

「ああ!」

 

 

短い言葉だが緊迫感が詰まっていた。

ここからは時間との勝負である。

 

 

「どこに出た!?移動速度は?」

「ちょっと待て!よしよし、移動速度は速くない!やっぱり変異したばっかりで体力は回復してないんだよ!」

 

 

ピーターは薬品機材を、ネッドはPCを高速で動かす。

そして薬品を動かすピーターの前にネッドがPCの画面を見せた。

ニューヨークの地図のに出現してからの経路が表示されている。

そしてその移動する道のりの先にあるものを、彼らは察した。

 

 

「決戦の場所はあそこか!」

「オズコープタワー!」

 

 

正気を失っても、理性を失っても、カート・コナーズは家族との約束を果たそうとしている。

 

 

-3-

 

 

その存在に、理性というものは残っていなかった。

急速に変異した肉体に合わせ拡大した感覚器官に舞い込むすべての情報が彼に耐えがたい痛みを与える。

息をするのも手足を動かすのも、すべてが苦痛を伴っていた。

しかし、それは本能的にある場所へと向かっている。

 

 

「A……!」

 

 

一歩踏みしめる度に地面が揺れた。

その体長は最早十二mを超えている。

世界最大クラスの爬虫類であるイリエワニの一回り、二回りも大きい12mの体躯だった。

大きくなったのはその巨体だけではない、鱗は固く、肉は厚く、骨は太くなっている。

体型もかろうじて人型を保っていた昼とは違い、獣のように四肢を地面に降ろしてニューヨークの狭い道をあるいていた。

その肉体にはワニ、蜥蜴、蛇、その他爬虫類の特徴が混ぜ合わさっている。

 

 

「うわああああああ!!」

 

 

そんな存在をただの警察が止められるわけがない。

黒煙をあげる無数のパトカーが、リザードの後ろに散らかっている。

攻撃ではない、ただ邪魔だと認識し腕を振るった結果がこれだ。

 

 

「逃げるな!撃て! 俺達が逃げれば市民が傷つく!」

 

 

逃げて然るべき怪物を相手にそれでも警察は抗っている。

その中心人物であるジョージ・ステイシーはハンドガンを連射しながら部下の指揮を執っていた。

無数の弾丸が、リザードに向けて発射される。

ジョージの脳裏には始末書が束になって机に置かれるのが浮かんだ。

ここにはニューヨークの象徴であるオズコープタワーがある。

つまりニューヨーク中でも特に発展している地域だ。

そんな場所で銃を乱射するなど、後で上層部からどんな叱りを受けるか解ったものではない。

しかしそれでなくては足止めにもならない。

 

「ですがこんな豆鉄砲じゃ無理ですよ!」

 

 

彼の耳に部下の悲鳴が聞こえる。

ショットガンも拳銃も果てには特殊部隊のライフルさえ、怪物を止めることは出来なかった。

傷つけることは出来た、だが直ぐに再生してしまうのである。

 

 

「クソっどんな肉してやがる!」

 

 

常識の外側にいる存在にジョージは、警察はそれでも抗っていた。

それが癪に障ったのか、あるいは単に未知の邪魔と思ったのか。

 

 

「Guru」

 

 

初めて、リザードの視線が警察官たちに向けられる。

殺意、敵意、そんな形の無いものが突き刺さったように感じた。

障害物とすら見られていなかったことをその瞬間彼らは思い知る。

 

 

「―――は?」

 

 

彼らが盾にしていた警察車両が吹き飛んだ。

続いて、遅れて来た衝撃が彼らを空中へと旅立たせる。

 

 

「ぐああああっ!」

 

 

ジョージもまた吹き飛ばされ、地面を転がり、そして体に奔る痛みを感じながら起き上がった。

 

 

「お前たち!無事か!」

 

 

彼の呼びかけに答える者はいない。

最早、意識がある人間は0人である。

全員地面に転がり、あの衝撃で重機を吹き飛ばされ、ある物は四肢がねじ曲がっていた。

何が起きたかジョージには解らない。

 

 

「化物め・・・!」

 

 

だが行った存在は解る。

目の前の怪物だ。

 

 

「GOOOWWWWL」

 

 

まるで重機のような唸り声が、ゆっくりと近づいてくる。

彼にとっての死神はまさに、今、目の前いる。

 

 

「―――は?」

 

 

そう認識した瞬間、彼の目の前に赤があった。

ジョージにはその色しか解らなかったがリザードが行ったのは単純なことである。

人間の認識速度を超えたスピードで口を開き目の前の邪魔者を喰らおうとしたのだ。

口を開き、閉じる。

ただそれだけの、ありとあらゆる生物が行うこの動作をリザードが行えば殺人的な物になるのは必然だった。

丁寧に食され、餌となるしかないただの人間がそれを回避したのは勿論偶然ではない。

 

 

「………!????」

「ぎりっっぎりィ!」

 

 

ジョージを救出する存在がいたからである。

 

 

「やあ太ったリザード?」

 

 

軽い調子でそうリザードへ話しかける青と赤の衣装を身に纏った男、スパイダーマンだった。

彼は既に、ジョージ以外の警察官を救出し、自分とリザードの戦いが発生しても安全な位置まで運んでいる。

故に、邪魔は入らない、巻き込む心配もない。

 

 

「今度は、逃げないし逃がさないぞ」

 

 

現実に挑む覚悟を決めて、跳躍する。

 

 

「パパとして娘に謝らせてやる」

 

 

月光に照らされて、リザードとスパイダーマンの影が交わった。

この世界で初めての超人達による最終決戦が始まる。

 

 




Tips
・ピーター・パーカー
やべぇ奴その1。
自身の転生者知識&ピーターセンスで大体の問題は解決できるやべぇ奴。
物品を盗んだ?何のことかな?
寧ろこいつについていけてるフラッシュがおかしい
資金問題を解決した場合アイアンスパイダーになる。

・ネッド
やべぇ奴その2
なんか普通に国家安全保障省やらSHIELDやらの機密ファイルを平然とぶち抜いてハッキング出来るスーパハカー
死ぬ気でおじおばをごまかしたそうな
友達が少ないので滅茶苦茶大事にしている。


・カート・コナーズ
やべぇ奴その3
我慢できねぇ!研究実証だぁ!(致命傷)
で俺が出来たってわけ(リザード)
最早理性は無く、知性は無く、残された家族愛のみで動く獣。
なんであんなファイルあったかって?軍医時代に全部盗んでたんだよ
ガバガバすぎる?マーベル世界だから(魔法の言葉)
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