大いなる力には大いなる責任が伴うらしいが転生者もそれに含まれますか? 作:御船上郎
-スパイダーマンはつらいよ-
それからの話をしよう。
リザードを倒し、カート・コナーズを人間へと引き戻した日から一夜明けた。
昨夜の喧騒と恐怖の嵐は嘘のように消え去り、いつもの日常というものが帰ってきている。
取り戻した平和というものをピーター・パーカーは味わいつつ、彼は顔をゆがめていた。
「ピーター!効いているの!?」
「はい、キイテマス」
メイおばさんに絶賛説教を喰らっているからである。
理由は単純、昨日学校が休みになるほど危険なことがあったのに夜中に出歩いていた事だ。
「ネッドくんが言ってくれなかったから警察に通報してたわよ!」
「ハイ、スイマセン」
彼の親友であるネッドの誤魔化しによって警察機関への通報は避けられたが、メイの怒りは解消されていない。
寧ろ燃え上がったことで怒号は雷のようであり、表情は悪魔も裸足で逃げ出すレベルだ。
つまり、神に祈るように頭を下げるしかないのである。
人間を超えたスーパーパワーを持っていようが家族からの怒りは怖いのだ。
「まあそこまでにしておいたらどうだメイ」
「あなたは黙ってて頂戴!」
「はい」
助け舟を出そうとした叔父は見事にそれを撃沈される。
もう少し頑張れ、とピーターは思ったが母は強しという奴だ。
そんな彼の救い主はポケットの中から現れる。
ヴーッとバイブ音と共に胸元で形態が揺れた。
「あっごめん電話だ!多分休校中の授業の事だから出なきゃ!」
「終わった後まだ説教するから逃げないように!」
「・・・ハイ」
うなだれつつ、自室に入り電話に彼は応答ボタンを押す。
神経質な声が、電話口から聞こえた。
『ビーター、お前という奴はつくづく愚かだな』
「いいすぎじゃないフラッシュ?」
彼の友人(?)であるフラッシュ・トンプソンだ。
画面には相手の顔は映っていなかったが、脳内に眼鏡をくいくい上げる彼を連想しながら問いかける。
「それで何の用?テキストなら全部やったよ?」
『・・・本当に知らんのか?』
「え?」
困惑、そして嫌な汗が背中に流れる。
学生の最大の恐怖の一つ、皆が出してる課題を知らないが今まさに起こっていた。
『はぁ・・・知らんのなら教えてやる、テキスト以外に課題が出された』
「マジで!?」
『マジだこの愚か者』
頭を抱えそうになる衝動を抑え、自室のパソコンで学校からの通知を確認する。
「インターン?」
『そうだ』
日く、校舎の復旧作業、及びガス下水道の配管の確認に思ったより時間が掛かるので企業へのインターンを行ってほしいとのことだった。
成績に合わせてインターン出来る企業は変動するらしい。
その中でもピーター・パーカーは最上位に位置しており、選り取り見取りだった。
彼の画面には様々な大企業の名前が載っている。
「奮発したねぇうちの経営陣」
『スキャンダルをもみ消して優秀な人材がいることをアピールしたいんだろ』
「なるほどなぁ」
リザードの発生によって墜ちた評判を元に戻すと同時に、学校としての名声を上げようと音のも必死なのだ。
そうしてスクロールしていけば、一つの会社が目に付く。
じっと、瞳孔が開くほどに目を見開き、一点を見つめた。
「あ、僕決まったよ」
『そうか、では手早く申請するのだな』
「了解、フラッシュはどこに行く感じ?」
かちかちとカーソルの移動とクリックを繰り返し、申請を終わらせる。
そしてフラッシュにどこにインターンに行くのか尋ねた。
『決まっているだろう』
自信満々の声でフラッシュは答える。
『オズコープだ』
フラッシュのインターン先はピーターのインターンの行き先と同じ企業だった。
―――この世界でも緑の小鬼は誕生してるのか?
脳内に沸いた疑問を、解決するべく彼は降って湧いたチャンスを基に動き出すことにした。
「ピーター!終わったなら戻ってらっしゃい!」
「はい今行きまーす!」
だが、今はまず保護者の怒りをなだめることを選んだのである。
-デイリービューグルは今日も忙しい-
それからの話をしよう。
スパイダーマンとリザードの争いは終わった。
だがその痕跡は残り、ニューヨークの人々の口と指によって話のネタとして現実と電子の情報の海に放流されている。
それをまとめ、記事にするのがここ、デイリービューグルだった。
「馬鹿!こんな企画使えるか!」
怒声がその編集部に響いた。
この空間にいる誰もが、その声の持ち主を知っている。
ジェイ・ジョナ・ ジェイムソン。
デイリービューグルの編集長であり、発行する出版社全体でも最上位に位置する実績を持つ記者だ。
「エディ!貴様解ってるのか!」
「はいすいません、編集長」
怒られて縮こまるカメラマンに向けて更に怒りのボルテージを乗せる。
「リザードの家族への取材など言語道断だ!」
「けど記事は売れ―――」
反論よりも先に唾をまき散らし、彼は烈火の如く怒った。
「売れようが許さん!いいか! 彼女達は家族である夫が変わり果てたのを目の前で見たのだぞ!我々が傷ついた心をさらに抉ってどうする!」
身を乗り出し、射抜くような鋭い視線で目の前の記者をジェイムソンはにらみつける。
「いいな!貴様も記者なら自分の文章で傷つく人間がいると知れ!もしあんな記事やろうとしたら私が貴様を殺す!」
「はい・・・」
とぼとぼとうなだれ、エディという記者は自分のデスクへと戻っていく。
「ドンマイ新人、あんま引きずるなよ」
隣のデスクの先輩が彼を慰めた。
「編集長、昔奥さんが殺されちゃったときにゴシップどもにやられてさ、ああいう手法大嫌いなのよ」
後ろのデスクのコーヒーを飲んだ先輩が、ジェイムソンが怒っている理由を告げる。
編集長のその過去話を聞いて仕方ないかと割り切りつつも、ネタになる物をエディは探した。
「ん?」
通知が一つ入る。
エディの記者としてのSNSアカウントにある、ネタになる写真や動画を募集サイトからの通知である。
またつまらない噂話か何かだろうと彼は思った。
そして送られてきていたその画像を見た瞬間、彼は座ったばかりの椅子から跳ねる様に駆け出し、再度ジェイムソンの目の前に現れる。
「へ、編集長!これ見てください!」
「なんだエディ、くだらん写真だったら承知せんぞ」
突き出されたスマホの画面にはスパイダーマンが映っている。
それも巨大な怪物、リザードと完璧な画角で撮影されていた。
リザードとスパイダーマンの戦闘を写した写真はどこにも、まだ、出回ってはいない。
「クソッ!業腹だが見事な写真だ、お前が撮ったのか?」
「いえそんな..」
「では誰が撮ったんだ!」
誰が、どうやって撮ったのか。
ジェイムソンという一流記者にも二人の怪物が争った夜間でこんな完璧な写真を撮ったのか解らなかった。
「えぇと親愛なる隣人からのプレゼント、らしいです」
「なんともふざけた投稿者だ全く!!」
怒りを表情と身振りで表明しつつ、彼はエディのスマホを取り上げる。
叩き割れないか心配そうにしながらエディは尋ねた。
「では使わないので?」
「そうはいっていない!」
画面を睨みつけ、エディへ投げる様に返す。
「一面で使う! 記事はお前が取材して作って持ってこい!」
慌てて受け止めながら主役と言ってもいい一面を任されたことに喜ぶ。
「はい、いってきます!」
デイリービューグルの喧騒は今日もまた激しい。
-蜘蛛男は油断しない-
それからの話をしよう。
インターンが開催されることとなり、閉鎖された後者に人はいない。
いるとすればそれは破損した箇所を修復、或いは解体する業者程度だ。
「...」
カート・コナーズが暴れた部屋もまた、その業者が入っている。
しかし、彼らの瞳には冷たいものが宿っていた。
彼らは耳元のデバイスを起動し、通話を開始する。
「報告」
平坦な声で、どこかに伝えた。
それはどう考えても解体業者による報告ではない。
「仮称:リザードの研究データは半壊状態、だがデータ抽出には成功した。帰還する」
冷淡で人間味が無いその声と共に、そろそろと作業員は痕跡一つ残さず消えていく。
その姿を、見ている者がいた。
『スパイって現実にいたんだな、俺今超びっくりしてる』
ネッド・リーズである。
ピーターの指示を受けた彼は隠しカメラを設置していたのだ。
回収者達にとって警戒していたのは同業他社であり、どうやら元々設置されていたカメラは警戒の外だったようである。
「やっぱり来たねヤバい奴ら」
『だな、どうするんだピーター?あいつらに張り付くか?』
ネッドの問いかけに対して、ピーターは落ち着いて答えた。
「大丈夫、あの中のデータはバカが見ても一生カート先生の奴は完成させられないようになってるから」
『時々俺お前が怖いぞ』
「君言われたくないんだよなぁ」
似た者同士である。
『家族を人質に取られるかもしれないぞ?』
「それも大丈夫」
ピーターは電話しながら手で一つの紙切れを弄ぶ。
「頼もしい弁護士を紹介したから」
笑みを浮かべて、その弁護士事務所、ネルソン&マードック法律事務所のチラシを見つめてそう言った。
-元蜥蜴男の弁護人-
それからの話をしよう。
善があれば悪がある
ヒーローがいればヴィランがいて、そして前者が勝てば後者が負けるのだ。
つまりはスパイダーマンに負けた、リザードことカート・コナーズは今現在留置所にいる
彼は自主的にもっとも警備が厳重な場所に収監されていた。
警察もまた、怪物だった人間にどんな風に調書や尋問を取ればいいのかわかっていないらしい。
年齢 、職業、そして記憶の有無といったことを聞かれる程度である。
「なんて答えればいいんだろうな」
幸いなことに死人も出なかった彼の騒動は、今のところ器物損壊と暴行の容疑を彼に賭けていた。
しかしその警察官や物に暴力を振るったという実感は彼には無い。
例えるなら深い夢の中で前後不覚の状態で腕を動かしたらかべにごつんと当たった、という感覚である。
「はぁ」
腕を取り戻すという理想を現実に変える努力をあらゆる方法でしてきたが、犯してしまった罪をどうにかすることは考えたことも無かった。
どうするべきなのだろう。
償うのは当然だが、どうすればいいのか。
そして次に心を占めているのは、自身の研究に関することだ。
自身の異種間交配血清は危険なものだった。
今回のような結果は望んだものではないが、これに目を付ける人間はいる。
それが家族に魔の手を伸ばしていないかと、不安を感じている。
しかし今この独房にいる自分にはどうすることも出来ない。
「カート・コナーズ、面会だ!」
そう頭を悩ましている最中に重装備の警官が彼を呼ぶ。
ドアを開け、カートを連れ出して面会室へと彼を案内した。
厚いガラスで仕切られたそこに、彼の家族はいない。
「初めましてコナーズさん」
いたのは面識のない人間である。
サングラスをかけ盲目の人間用の杖を持っていた。
こんな特徴的な人間が知り合いにいれば、忘れないものであるが彼にはとんと覚えがない。
「君は・・・?」
「あなたの奥様に依頼されて弁護をさせていただく」
すっとその人物は、見えない筈なのに術らかに取り出し、面会室の隙間からコナーズに渡す。
「ブリジット・マードックです」
そして盲目の女性弁護士、ブリジット・マードックは笑みを浮かべて名乗った。
ニューヨークに蠢くヒーローは、一人ではない。
-ブラン・ニュー・デイ-
これからの話をしよう。
ピーター・パーカーにとって、この世界はまだまだ未知の世界だ。
だが解っている物はある。
「イヤッホーゥ!」
ウェブスイングでビルの合間を飛んだ。
空気を切り裂く体を包むのは新しく作り出したスパイダースーツである。
布地から切り出して作ったそれは、彼が前世で見た姿と似ていた。
「僕はピーター・パーカー」
自身の照らし出される朝日は暖かく彼を包む。
赤と青の生地が光を反射して影を作り出した。
どことなく蜘蛛に似た影を下の車や道路に映し出す。
「放射能を浴びた蜘蛛に噛まれた」
高速で動く最中、彼は思考を巡らせた。
超人血清があるということは、キャプテンアメリカがいる。
スターク社があるということは、トニー・スタークがいる。
ウェポン計画があるということはウルヴァリンやそれに類する存在がいる。
ウルヴァリンがいるということはミュータントがいる。
「今現状、この世界にたった一人だけの」
この世界は困難にあふれていて、平和なんて遠い。
自分の行く先に平穏なんてなくて、悲劇しかないかもしれない。
それでも動かない理由になりはしない。
なぜなら彼は。
「スパイダーマンだ」
スパイダーマンだからだ。
今日もまた、彼は親愛なる隣人として活動する。
Tips
・ピーター・パーカー
厄ネタの山が出て来てハハハ!ぶちのめしてやる!と覚悟完了した。
並みのヴィランは自由自在の1ハルクパンチでノックアウトである。
ちなみにこれからヒロインたちとの交流が深まっていく予定。
地雷女に囲まれることになります(確定事項)
・ブリジッド・マードック
遂に登場TSタグの意味の一人、マッド・マードック枠の女性。
デアなデビルその人である。
能力そのままぴっちりスーツ盲目美女お姉さんがヘルズキッチンで暴れまわっているのだ。
容姿はスタレのアグライアを茶髪にした感じをイメージしている。
自分の容姿に無頓着だが、大学時代かなりモテてたらしい。
*投稿間隔に対して
二日に一度の投稿を心がけておりましたが、仕事面との両立が難しく、区切りもいいのでこれから週一投稿にしようと思います。
大体土曜日の18:00から19:00に投稿する予定です。
お待たせして申し訳がありません、文量も多くやっていけると思いますのでご理解ください