翌朝、エリアフは肉を二串買った。
一串は歩きながら食った。
もう一串は小屋へ持って帰った。
小屋へ入ってから、エリアフは少し考えた。
ザグがいなかった。
「……そうだった」
肉を一本、卓の上へ置いた。
昨夜の酒盛りの名残がひどかった。
床に寝ている奴が二人。
酒瓶が四本。
銀貨を握ったまま寝ているリグ。
その指をボッカが一本ずつ開こうとしていた。
エリアフは肉をかじりながら奥へ行った。
ドバンは起きていた。
酒は飲んでいない。
昨夜盗った金の残りと、紙切れを前にしている。
「何してんの」
「計算」
「できるの?」
「お前よりはな」
ドバンが顔を上げた。
「ちょうどいい。全員起こせ」
「何で」
「ここ出るぞ」
エリアフの口が止まった。
「いつ?」
「今日」
「何で」
「何でだと思う?」
エリアフは少し考えた。
「ザグ?」
「半分」
「税倉?」
「半分」
「両方?」
「そうだ」
ドバンが紙を丸めた。
「昨日のことでもう町中の衛兵が動いてる。ザグも捕まった。ここを知ってる」
「喋るかな」
「喋る」
答えが早かった。
「早くない?」
「あいつは喋る」
「そんな奴だった?」
「爪剥がされたって黙ってられるほど立派な奴に見えたか?」
エリアフは卓に置いた肉を見た。
ザグは煙草に火をつけるときだけ偉そうだった。
酒を三杯飲めば、聞いてもいない昔話をした。
秘密を守るのが得意そうには見えなかった。
「じゃあ、いつ喋る?」
「知らん」
「今もう喋ってるかも?」
「かもな」
「なら急いだ方がいいな」
「だから出るんだよ」
「違う」
ドバンが眉を寄せた。
「何が」
「ザグの方」
「……何言ってんだ」
「喋るんだろ?」
「ああ」
「じゃあ放っとけないじゃん」
「だから俺たちが逃げる」
「逃げても顔知ってるだろ」
「町を出りゃ――」
「名前も知ってる」
ドバンが黙った。
エリアフは指を折った。
「ここも知ってる。盗品売ってる奴も知ってる。よく使う倉も知ってる。リグの姉ちゃんがどこで働いてるかも知ってる」
寝ていたはずのリグが起きた。
「何でそこまで言うんだよ」
「本当だろ」
「そうだけど」
ドバンが額を押さえた。
「それで?」
「取り返せばいい」
「簡単に言うな」
「殺すよりいいだろ」
小屋の隅から声がした。
「殺す?」
ボッカだった。
いつの間にか話を聞いている。
別の男も起きていた。
「捕まった奴が喋るなら、口塞ぐしかねえだろ」
「だから」
エリアフはそいつを見た。
「そこまで近づけるなら、連れて帰った方が得じゃん」
「馬鹿か。役所だぞ」
「役所にいるの?」
男が止まった。
エリアフはドバンを見る。
「どこにいる?」
「知らん」
「いつまでいる?」
「知らん」
「見張り何人?」
「知らん!」
エリアフは肉をもう一口食べた。
「じゃあ、それから決めよう」
◆
昼までに分かった。
ザグは役所にはいなかった。
町の北側にある詰牢へ入れられていた。
そして明日の朝、町の外へ移される。
「何で?」
「税倉荒らした連中の一人だからだろ」
リグが言った。
「この町で置いとくと仲間が取り返しに来ると思ってんじゃねえの」
全員がリグを見た。
「……何だよ」
「当たってるな」
エリアフが言った。
「向こう賢い」
「褒めてる場合か」
情報を持ってきたのは、港で役人相手に酒を売っている女だった。
銅貨を何枚か渡すと、護送の時刻まで教えた。
日の出前。
南門を出る。
馬車一台。
護衛は七人。
そのうち一人は、町の衛兵ではない。
「固有持ちだって」
女から聞いてきた男が言った。
小屋が少し静かになった。
「何の固有術?」
エリアフが訊いた。
「知らん」
「知らないの?」
「固有持ちがいるってだけで十分だろ」
「十分じゃねえよ。何するか分かんねえじゃん」
「だから近づくなって話だ」
ドバンが地図を引き寄せた。
「やめだ」
「早い」
「七人いる。固有持ちまでいる。ザグ一人に割に合わん」
「ザグが喋ったら?」
「今夜のうちに町を出る」
「で、次の町でまた一から?」
「そうなるな」
誰かが嫌そうな顔をした。
税倉から盗んだ金はある。
だが、ここには盗品を買う奴もいる。
仕事を持ってくる奴もいる。
逃げ道を知っている奴もいる。
何年もかけて作ったものだった。
ザグ一人の口で全部捨てることになる。
エリアフは地図を見た。
「南門からどっち?」
「街道だ」
「ずっと?」
「途中で西へ曲がる。古い採石場の横を通るらしい」
「道広い?」
「知らん」
「見てくる」
「今から?」
「暗くなるまでまだある」
「おい!」
エリアフはもう立っていた。
リグも立つ。
「俺も行く」
「何で」
「お前一人だと道分かんねえだろ」
「分かる」
「昨日、魚市場から帰れなくなってただろ」
「あれは似た道が多かっただけだ!」
ミナも立った。
「私も行く」
「何で」
「二人だと見落とすから」
「三人になったら?」
「一人くらいはちゃんと見る」
「俺も見るって!」
三人は出ていった。
ドバンは止めなかった。
◆
南門から一時間ほど歩いたところに、古い採石場があった。
道の片側は切り立った岩壁。反対側は浅い谷になっている。
馬車一台なら余裕がある。二台がすれ違おうとすれば、どちらかが端へ寄らなければならない。
「ここ、狭いな」
エリアフが言った。
「だから何?」
ミナが道を見る。
「止めやすい」
「何を」
「馬車」
リグが周囲を見回した。
「木でも倒す?」
「木ねえじゃん」
「じゃあ石」
「石で道塞ぐって、何個いるんだよ」
三人で採石場の跡を歩いた。
崩れた作業小屋。
錆びた道具。
半分土に埋まった木材。
切り出したまま放置された石。
その奥に、大きな荷車が一台あった。
普通の荷車よりずっと頑丈で、車輪も太い。
石材を運んでいたものらしい。
荷台には何も載っていないが、それでもかなり大きかった。
「これ」
エリアフが言った。
「壊れてるよ」
ミナが指差す。
片方の側板がなくなっていた。
「走ればいい」
「馬いないじゃん」
「押す」
三人で押した。
動かなかった。
「……重い」
「そりゃそうでしょ」
「もっと押せ!」
「押してる!」
三人で体重をかける。
車輪がわずかに軋んだ。
「動いた!」
「ほんのちょっとね」
「人数増やせばいける」
エリアフは荷車の前へ回った。
車輪を見る。
片方は少し傾いているが、回りはする。
「上まで持ってく」
「どこまで?」
エリアフは街道脇の坂を指した。
採石場へ続いていた古い搬出路が、街道より少し高いところを通っている。
「そこ」
リグが坂と荷車を見比べた。
「で、護送隊が来たら?」
「落とす」
「誰に?」
「誰にも当てねえよ」
「絶対当たるだろ」
「後ろに落とす」
エリアフは街道へ降りた。
土の上へ指で線を引く。
「先頭の奴らを通す。馬車も通す。後ろの護衛がここまで来たら――」
坂の上の荷車を指差す。
「これを落とす」
ミナが少し考えた。
「後ろと馬車を分ける?」
「そう」
「荷車だけで止まるかな」
「道の真ん中で倒れれば、馬はすぐ越えられねえだろ」
「人は越えるよ」
「その間でいい」
エリアフは両手を広げた。
「ずっと止める必要ないだろ。ザグ取って逃げるまで、ちょっと遅れりゃいい」
リグが荷車を見る。
「……横向きになれば結構邪魔だな」
「だろ?」
「でも真っ直ぐ谷に落ちたら?」
エリアフは黙った。
三人で坂を見る。
「……向き変えよう」
◆
小屋にはまだ日が沈む前に戻れた。
「やる」
ドバンが言った。
「さっきやめるって言ってたじゃん」
「話聞いて変えたんだよ」
「俺の案?」
「お前ら三人のだ」
「俺が最初に――」
「どうでもいい!」
◆
荷車を坂の上まで運ぶのに、大人を六人使った。
「重てえ!」
「押せ!」
「誰だこんなもん使うって言った奴!」
「エリアフ!」
「いい案だろ!」
「まだ分かんねえよ!」
車輪が石に引っかかるたび、全員で持ち上げた。
途中で一度、荷車が後ろへ戻りかけた。
ドバンが飛び退く。
「殺す気か!」
「押さえろよ!」
「お前も押せ!」
「押してる!」
どうにか古い搬出路まで運び上げた。
そこから街道までは緩い下り坂になっている。
車輪の前に太い木材を噛ませた。
それを縄で引き抜けば、荷車は勝手に下へ走るはずだ。
ドバンが荷車を見た。
「本当に道で倒れるんだろうな」
「分かんねえよ」
「お前な」
ミナが荷車の片側を指した。
「こっちの車輪、少し悪いから、たぶん途中で傾く」
「たぶん?」
「絶対がいいなら別の作戦考えて」
ドバンはしばらく荷車を見た。
「……やる」
「さっきからそればっかだな」
「うるせえ」
作戦は単純だった。
先頭の護衛を通す。
護送馬車も通す。
後衛が坂の下へ入ったところで荷車を落とす。
道の中央で横倒しになれば、後衛の騎馬はすぐには越えられない。
馬が驚いて止まるだけでもいい。
数十秒。
それだけ稼げれば十分だった。
「固有持ちは?」
誰かが訊いた。
ドバンが嫌そうな顔をした。
「前にいたら俺たちが相手する」
「後ろなら?」
「荷車の向こうに置いてく」
「馬車の横なら?」
ドバンは黙った。
「その時考える」
「何の術か分かんねえの?」
「分かんねえ」
「固有持ちって、どれくらいいるの?」
「世の中に?」
「うん」
「知らん。百人に一人とか、千人に一人とかじゃねえの」
「適当だな」
「数えたことある奴がここにいると思うか?」
「いないな」
「だろ」
ザグが捕まって二晩目。
誰も酒を飲まなかった。
◆
空が白くなる前に、全員が位置についた。
エリアフは搬出路の上にいた。
隣にリグ。
少し離れてミナ。
三人の前には大型の荷車。
車輪を止めている木材から、一本の縄が伸びている。
「本当に走るかな」
リグが言った。
「昨日押したら動いただろ」
「六人でな」
「坂だぞ」
「谷に落ちたりして」
「それは言うな」
三人とも荷車を見た。
しばらくして、馬の蹄が聞こえた。
「来た」
街道の向こうから、護送隊が現れる。
先頭に騎馬が二人。
少し離れて護送馬車。
その横に二人。
後ろに三人。
「七」
ミナが小さく言った。
「合ってる」
エリアフは一人ずつ見た。
どれが固有持ちなのか分からない。
全員、普通に見える。
「どいつだ」
「知らない」
「固有持ちってもっと変な感じすると思ってた」
「どんな感じ」
「知らねえけど」
先頭の二人が通り過ぎる。
護送馬車が続く。
その横を歩く二人のうち、一人だけ装備が違った。
灰色の外套。
町の衛兵ではない。
「あれじゃない?」
ミナが言う。
「馬車の横じゃん」
「一番嫌なところだね」
「今さらやめる?」
リグが訊いた。
エリアフは下を見た。
馬車の小窓から、ぼさぼさの頭が少しだけ見えた。
「ザグだ」
「見えた?」
「たぶん」
「またたぶん?」
「髪汚かった」
「そりゃザグで間違いない」
後衛三人が坂の下へ入る。
エリアフは馬車との距離を見る。
まだ近い。
「今?」
リグが縄を握る。
「まだ」
後衛が少し遅れる。
馬車はそのまま進む。
「まだ?」
「待て」
あと少し。
「今!」
三人で縄を引いた。
木材が抜けた。
荷車は動かなかった。
「……おい」
「押せ!」
三人で後ろから押した。
車輪が軋む。
一度動く。
そこからは速かった。
「行った!」
大型の荷車が坂を下り始めた。
最初はゆっくり。
すぐに速度が上がる。
「速くない?」
「速いな」
「速いよ!」
荷車が街道へ飛び出した。
後衛の兵が叫ぶ。
「何だ!?」
先頭の馬が驚いて立ち上がった。
後ろの馬もいななく。
一頭が横へ逃げようとして、別の騎馬へぶつかった。
「危ねえ!」
荷車は街道を斜めに横切った。
そして悪くなっていた片方の車輪が石に乗り上げる。
大きく傾いた。
「倒れろ!」
エリアフが叫んだ。
荷車はそのまま横倒しになった。
道の半分以上を塞ぐ。
一頭の馬が荷車の手前で止まり、乗っていた兵を振り落とした。
もう一人は馬を抑えるので手いっぱいになっている。
三人目はすぐに降りたが、倒れた荷車を越えるしかない。
「よし!」
「完全には止まってないよ!」
「それでいい!」
馬車と後衛の間が開いた。
ほんの数十秒。
でも十分だった。
街道の前方からドバンたちが飛び出した。
「行くぞ!」
エリアフも斜面を駆け下りた。
◆
最初はうまくいった。
前の騎馬二人はドバンたちに挟まれた。
後ろ三人は、横倒しになった荷車と暴れる馬に足を取られている。
護送馬車の横には二人。
問題は、その二人のうち一人だった。
ボッカが剣を振った。
灰色の外套の男が避けない。
左手で剣の腹を横から叩いた。
「……は?」
ボッカの剣が、ぐにゃりと垂れた。
「固有持ち!」
ドバンが怒鳴った。
男は曲がった剣を引っ張った。
ボッカが前へ崩れる。
膝蹴り。
鼻血。
「痛ってえ!」
「鉄に触らせるな!」
「先に言え!」
「今分かったんだよ!」
別の男が槍を突き出す。
灰色の男が柄ではなく穂先へ触れた。
槍先が折れ曲がる。
「何だそれ!」
エリアフは思わず叫んだ。
初めて見た。
固有術。
火でもない。
強化でもない。
鉄が、粘土みたいに曲がった。
「面白え!」
「喜んでる場合か!」
ドバンに怒鳴られた。
灰色の男がこちらを見る。
「子供?」
「見るな!」
エリアフは石を投げた。
男が避ける。
もう一つ。
避ける。
ボッカが横から殴りかかった。
今度は素手だった。
「そうだ!」
エリアフが叫んだ。
「剣捨てろ! 木か石で殴れ!」
「言われなくても分かる!」
ドバンが剣を捨てた。
近くに落ちていた棒を拾う。
灰色の男の顔が少し歪んだ。
「やっぱ鉄だけだ!」
「多分な!」
「多分で殴りに行かせんな!」
三人が一斉にかかった。
男は強かった。
固有術がなくても、普通に強かった。
ドバンの棒をかわす。
ボッカの拳を受ける。
エリアフの蹴りを腹に食らって、少しだけ顔をしかめた。
「効いた!」
「子供が!」
男に胸倉を掴まれた。
身体強化。
腕に力が走る。
エリアフの身体が持ち上がった。
「おい!」
投げられた。
地面を転がる。
「痛ってえ!」
背中が痛い。
息が詰まる。
それでも起きる。
灰色の男の後ろ。
護送馬車。
ザグが鉄格子へ顔を押しつけていた。
「お前ら!」
「いた!」
「遅えぞ!」
「来てもらっといて文句言うな!」
「早く出せ!」
馬車の扉には錠がある。
エリアフは走った。
灰色の男が気づく。
「行かせるな!」
「こっちだ!」
ドバンが棒で殴る。
避けられる。
ボッカが組みつく。
「離せ!」
「嫌だ!」
エリアフは錠へ針金を入れた。
「早く!」
「黙れ!」
「俺、今日飯食ってねえ!」
「知らねえよ!」
「腹減った!」
「助けてもらってる奴が一番うるせえ!」
手が震える。
さっき投げられたせいだ。
一度抜く。
息を吐く。
もう一度。
「……これ」
「開くか!?」
「待て!」
中を探る。
引っかかる。
違う。
少し戻す。
回す。
開いた。
「開いた!」
ザグが扉を蹴り開けた。
両手は前で繋がれている。
「足も!」
「鍵は!」
「さっきの奴!」
灰色の男を見る。
ボッカが殴られていた。
「最悪!」
エリアフは男へ走った。
「鍵出せ!」
「誰が!」
「俺が欲しい!」
「知るか!」
男が剣を抜いた。
普通の剣だった。
エリアフは止まった。
「それ自分で曲げねえの?」
「馬鹿か!」
「できない?」
「今それ聞く!?」
横からドバンの棒が飛んできた。
男が避ける。
エリアフは足元へ滑り込んだ。
腰の袋。
手を入れる。
鍵がいくつも入っている。
「取った!」
「返せ!」
「嫌だ!」
蹴られた。
また転がる。
でも鍵は離さなかった。
「ザグ!」
「早くしろ!」
「どれだ!」
「知らん!」
「自分の鍵くらい覚えとけ!」
「見せてもらってねえ!」
一本。
違う。
二本目。
違う。
三本目。
開いた。
「よし!」
鎖が落ちる。
ザグが手首を擦った。
「来ると思ってたぞ!」
「嘘つけ!」
「本当だ!」
背後で笛が鳴った。
遠くから馬の音。
「増援!」
ドバンが叫ぶ。
「逃げるぞ!」
「固有持ちは!?」
「置いてけ!」
「倒さなくていいの?」
「何で倒す必要あんだ!」
「確かに!」
全員走った。
◆
帰りはばらばらだった。
決めていた場所へ二人ずつ、三人ずつ戻る。
最後にドバンとボッカが来た。
ボッカは鼻へ布を詰めている。
「折れた?」
エリアフが訊いた。
「たぶん」
「曲がった?」
「鼻は鉄じゃねえよ」
「そうだった」
ザグは既に酒を飲んでいた。
「お前、それ誰の?」
「俺の」
「どこから出した」
「隠してた」
ザグは笑った。
エリアフは卓の上を見る。
朝置いた肉が、そのまま残っていた。
冷えている。
少し硬くなっていた。
「ほら」
ザグへ投げた。
「何だ?」
「肉」
「見りゃ分かる」
「食え」
ザグは一口かじった。
顔をしかめた。
「冷てえ」
「朝買った」
「もっと早く助けに来いよ」
「返せ!」
「もう食った!」
エリアフが飛びかかる。
ザグが逃げる。
小屋の中を二人で走った。
「怪我人いるんだぞ!」
ドバンが怒鳴る。
「ザグが文句言った!」
「肉が冷てえって言っただけだ!」
「俺が買ったんだぞ!」
「銅貨三枚だろ!」
「何で値段知ってんだ!」
小屋に笑い声が戻った。
しばらくして、ドバンが酒瓶を卓へ置いた。
「今夜、町を出る」
今度は誰も反対しなかった。
「やっぱ出るの?」
エリアフが訊く。
「当たり前だ。税倉荒らして、護送まで襲った」
「でもザグ喋ってないぞ」
「そういう問題じゃねえ!」
「じゃあどこ行く?」
「西だ」
「何がある?」
「知らん」
「金ある?」
「あるだろ」
「どれくらい?」
「知らねえよ!」
エリアフは少し考えた。
「じゃあ行ってみるか」
「お前は気楽でいいな」
ドバンはそう言ったが、少し笑っていた。
その日の夜。
十二人は港町を出た。
来たときより金があった。
傷も増えた。
一人も減ってはいなかった。
そしてエリアフは、道を歩きながら何度も自分の剣を触っていた。
あの男が触れた剣は、本当に革みたいに曲がった。
「固有術か」
小さく言う。
隣を歩いていたリグが聞いた。
「欲しいの?」
「何が」
「固有術」
エリアフは少し考えた。
「欲しい」
「何でも?」
「いや」
「じゃあ何がいい?」
エリアフは答えようとした。
だが、何も思いつかなかった。
「分かんねえ」
「火とか?」
「ザグがいるだろ」
「あんなんじゃ足りねえよ」
「なめてんじゃねえぞ!」
前を歩いていたザグが振り返った。
「聞こえてたのかよ」
「声でけえんだよ!」
「お前に言われたくねえ!」
街道に声が響いた。
十二人は西へ向かった。