無能力転生者はリリカルなのは世界で生き延びたい(令和版) 作:百男合
はやてさんの一人称は「うち」ではなく「私」でした。
誤字報告でのご指摘ありがとうございます。記憶の中では完全に「うち」だったので素で間違えてました。
これからも当小説をよろしおねがいします。
あらすじこと前回の3つ
ホワイトデーのキャンディー配り。
なのはさんのお誕生日イベント。
この幼女たち、ちょっと黒いぞ。大丈夫か?
さて、ホワイトデーとなのはさんの誕生日という一大イベントが終わり終業式だ。
あと数日で4年生。その区切りとしてやらないといけないことがある。
俺は夕食が終わった後、両親に向かって告げることにした。
「俺、管理局に入ろうと思うんだけど」
「反対よ」
「反対だな」
即反対する両親。うん、その反応は予想できてた。
なにしろ高町さん家族にあそこまで管理局のことをボロクソに言ってた両親だ。それに息子が入ろうとしたらこういう反応をするのは火を見るよりも明らかだろう。
だが俺はなのフェイを見守るために管理局に入らないといけないのだ。ここは引けない。
「そこを何とか」
「ダメ」
「ちょっとだけでも」
「ダメよ」
くっ、母親のガードが堅い。それに苦笑いするのは父親だ。
「俺はデバイス技師として入隊するなら問題はないと思うが。ムラサメという実績もあるわけだし研究だけしておけばいいだろう?」
父親の助け舟にも「ダメ、絶対ダメ」と母親は聞く耳を持たない。
「たとえデバイス技師として入ってもあなたの直したデバイスが原因で人が死ぬかもしれない。殺されるかもしれない。それにあなた、耐えられるの?」
そんな起こってもないことを言われても……というのが正直な気持ちだ。
というか、母さんのトラウマって相当根深いものなんだな。ムラサメの設計思想も武器のないデバイスっていう徹底ぶりだったし、もうトラウマが信念に昇華してデバイスの設計図描いてたとしか思えない。
「人はいつか死ぬよ、母さん。それが遅いか早いかだけだ」
「だけど、今日じゃない。私は、あなたに誰かの死に関わってほしくないのよ。シロウ」
真剣な顔で返されては俺の名言リストにある言葉も意味をなさない。
畜生。上っ面だけの言葉じゃ相手を満足させられない。
「俺は、管理局に入って友達を助けたい。そう思うのはいけないこと?」
「そうじゃないの、シロウ。けど想像してみて、あなたが作ったデバイスが原因でなのはちゃんやフェイトちゃんが危機に陥ったら、はやてちゃんが怪我を負ったらあなたは自分を責めるでしょう? 私はそうなってほしくないだけ」
話が平行線だな。
要するに、母さんは自分のトラウマから抜け出せてないだけじゃないのか?
「友達の手伝いなら今のままでもできるでしょう? ムラサメは今や世界中に広がり多くの人を助けている。それにGメモリだって闇の書との戦いで活躍したと聞いてるわよ」
確かに全世界からムラサメとGメモリのおかげで歩けるようになった人々から感謝の手紙が届くが俺の言いたいことはそういうことじゃないんだよ母さん。
「俺が近くで(推しカプを)見て支えたいんだ。そのためには管理局に入るしかないんだよ」
「だから、それは管理局に入ってない今の状況でもできるでしょう⁉」
はい、話が振出しに戻った。
「母さんの分からず屋! どうしてわかってくれないのさ」
「あなたこそ! どうして私の言うことがわかってくれないの⁉」
話がヒートアップしてどんどん感情的になる俺たち。そしてついにその時が来た。
「わかりました。そこまで親の言うことが聞けないならもう家から出て行きなさい」
「え?」
「勘当です。家から出てリンディさんの子でもテスタロッサさんの子でも好きな家の子になっちゃいなさい」
「ルヴィア、それは」
よっしゃ、言質取った。
「じゃあ、そういうことで」
俺は部屋へ戻り最低限の荷物を用意するとクロノくんとリンディさんがいるアースラに転がり込むことにした。
そっちが先に言ったんだから、俺悪くないし!
今日から俺、司郎・M・ハラオウンになります!
「いや普通に無理だろ。ふざけてるのか君は?」
事の次第を話したらなぜかクロノくんに白い眼をされた。
なんだよう。エロゲ版主人公様は金髪ツインテで母親にDVされてる悲しき過去を持った時空犯罪者しか義理の家族にしないっていうのかよう。
「そもそも高町家やテスタロッサ家、八神家と選択肢があったのになぜわざわざアースラに来たんだ?」
クロノくんの疑問にお答えしよう。
高町家、お前どの面下げてうちに来たんだと言われる可能性があるので却下。
いや、高町家の人はそんなこと言わないだろうけど母さんが言ったことを考えればね。そう思われてもしょうがないところがある。
次にテスタロッサ家。なんかアリシアに全力で歓迎されて最終的に家族にされそう。
プレシアさん、アリシアさんに甘いしフェイトさんも賛成に回ると俺に逃げ場がない。
最後に八神家。待ってるのは説教確定だから。特にはやてさんの身の上を考えるとね。
孤児だし家族がいることの大切さを延々と語られそう。で、「管理局に入るなら両親説得せぇ!」と追い返されそうだから。
「ふーむなるほど。まあ、理解できんことはない」
俺の言葉に顎に手を当て納得できるようなできないような、というような顔をするクロノくん。
「大丈夫。一宿一飯の恩というか、宿代は払う気はあるから」
と言って俺はかばんの中から量産型ムラサメを取り出しクロノくんに渡す。
「これは? 君が使っているものと同じように見えるが」
「ムラサメ量産型です。量産型でも計算能力や自立思考は本体と変わらないので。せいぜいコキ使ってやってください」
その言葉に「君が働くわけではないのか」と再び白い目を向けるクロノくん。
「心配しなくてもデバイスの修理くらいはさせてもらいますよ。それが今日の宿代でいいですか」
俺の言葉に頷くクロノくん。よっしゃ、今晩の宿ゲット。
後日、デバイスを渡されたエイミィさんが「クロノくんすごいよこのデバイス! 計算と処理速度が今までと段違い! これがなかった昨日になんてもう戻れないよ!」と大絶賛してくれた。
クロノくんはいままでエイミィに贈ったどのプレゼントよりも喜ばれたことにちょっと悔しがっていたがその意見を聞いて自分も量産型ムラサメを作ってくれと俺に頭を下げてきたのだった。
で、翌日。艦内にいる皆さん用に量産型デバイスを作っているとフェイトさんがアースラを訪れた。
「司郎、聞いたよ。ルヴィアさんとケンカしたんだって? 一緒に謝ってあげるから私と帰ろう?」
母さんめ、フェイトさんを使うとはなんと卑劣な。
俺が推しの言葉に弱いと分かってやがる。推しが「謝ろう?」って言ったら俺、悪くなくても謝っちゃいそうだもん。
でも、今回は譲れないね!
「家から出て行けと言ったのは母さんです。俺はそれに従っただけで悪くない」
「そうなの?」
「そうです。ちなみに親子の縁を切ると言ったのも母さんからです」
俺の言葉にフェイトさんは何やら考えてる様子。
フェイトさんの前ではいい母親の面しか見せてないからなー母さん。頭の中でつながらないのかもしれない。
「だとしても、家族って大切なものだと思うんだ。司郎だって、それはわかってるんでしょ」
うっ、痛いところをついてくる。
「俺だって、その。向こうの頭が冷めてくれたら帰ろうとは思ってますよ」
そっぽを向きながら本心を言ってしまう。
くそう、話し相手が推しのフェイトさんだから、正直に言うしかないじゃないか!
「でもこういうのって、時間が経つほどこじれるっていうし。早めに謝ったほうが」
「待ってくださいフェイトちゃん!」
それでもなお俺に母親に謝らせようと迫るフェイトさんに待ったをかけたのは、アースラのクルーと魔導士の面々だった。
「せめて、せめて私たちの分のデバイスができるまで真木くんにはここにいてほしいんです」
「ムラサメがあるのとないのとでは報告書ができるスピードが段違いなんです!」
「もう計算とデータ処理にムラサメがない生活が考えられないの!」
「だからお願いテスタロッサさん。クルー全員にムラサメが行き渡るまで私たちから彼を取り上げないで!」
あまりにも必死な様子に驚くフェイトさん。
ふっ、俺が何も考えずに量産型ムラサメを持ってアースラに来るわけないじゃないか。
仕事漬けのアースラ職員たちにとってムラサメの処理速度は天からの授かり物に思えたことだろう。
なにせ管理局の仕事は超ブラックだからな! それを解決するうまみを知ったら手放せなかろう!
「わ、わかりました。真司さんにはそう伝えておきますから……またね、司郎」
やはり父さんの差し金だったか。父さん、母さんのこと大好きだからなぁ。
まあ、もうしばらく母さんには頭を冷やしてもらいますか。
「はい、はい。うん。そうなんだ。ありがとうねはやてちゃん。うちの家族のことで迷惑をかけて」
真木家。
デバイス越しに息子の同級生と話す真司は今回もダメだったかとため息をつく。
昨日はなのは、一昨日はフェイト。今日ははやて。
アースラにいる息子の説得に行ってくれた子供達には感謝するしかない。なにしろうちの家庭のことで文字通り迷惑をかけているのだから。
「はやてちゃん、なんだって?」
ケンカの原因であるルヴィアの声に、首を振ることで答える。それに対し、「まったく、どうしてそんなに頭が固いのかしら!」と憤慨する様子に、真司は鏡を前に置きたくなる衝動にかられた。
「君だってわかってるんだろう。シロウは悪くない。問題なのは」
「わかってるわよそんなこと!」
そう、彼女も馬鹿ではない。今回のケンカ、どちらが悪いかなど一目瞭然だ。
それを認めたくないのは、自身に刻まれたトラウマが根深いせいもあるが1番は……。
「勘当するって言ったら考えを改めるだろうなんて。あの時の父さんと一緒のことしてる」
ぐすっと鼻をすする音。それに黙って真司はティッシュ箱を目の届く範囲に置いてやる。
「あんな父親みたいになんか絶対ならないって誓ったのに、いざとなったら同じことしてる。そのことがすごく嫌」
「そうだね。アルコールがなくてもその結論を出せたのは偉いと思うよ」
真司の言葉に顔を真っ赤にするルヴィア。
司郎が出て行った日のルヴィアの荒れようはまさに天変地異と言った様子だった。
普段は飲まないアルコールに手を出し、「シロウのバカー!」とか「なんであなたも味方してくれなかったのよ!」とぐだを巻き、延々と自分の感情を発露する。
様子が変わったのは日が白みかけた頃。ワインをグラスであおり一息ついた時だった。
「そりゃ、私だって意地になってると思うわよ。昔のことで、あの子には何の関係もないことで縛るのは」
それから続く自己否定の言葉の数々。妻は怒り上戸の上泣き上戸であったかとこの日真司は結婚して10年以上経つのに初めて知る。
それからワインをボトルで3本開けて気を失うように眠り、次の日は2日酔いでまともに会話できず今日へと至った。
「そろそろ頭は冷えたかい?」
「うん」
「じゃあ、どうすればいいかわかるね?」
子供のようにうなずく妻に、真司は自分のデバイス、ドゥー・ムラサメを渡す。ちなみにもう息子と通話済みである。
「もしもし、シロウ?」
探るような彼女の声。まるで叱られるのを分かっている子供のようだと思う。
「話が、あるの。あなたの将来に関わること。今度は、冷静に話すから」
デバイスから漏れ聞こえる声が呆れたような、嬉しいような声を伝える。それだけで妻の顔はぱっと明るくなった。
「だーかーらー、勘当は言いすぎました! 母さんが全面的に悪かったですぅ! もう、今日はシロウが好きな料理作ってあげるから帰ってきてよー! おねがいよー」
ついに好物で釣ろうとなりふり構わなくなっている妻に笑いをこらえながら、真司も助け船を出す。
「司郎、母さんも反省してるみたいだから帰ってきてくれるとこちらも嬉しい。え? あと10機ムラサメを作ってから帰りたい? アースラにいる全員にそれで行き渡る? わかった。それでいいから帰ってきなさい」
どうやら息子も向こうでただ駄々をこねていたわけではないらしい。抜け目ないところは母親に似たのか自分に似たのか。
とりあえず普段料理をしない妻が失敗しないように真司は自分も台所に立つことにした。
今日のメニューはチキン南蛮に大根と人参のなます、スープはヴィシソワーズがいいだろう。
メインのチキン南蛮は司郎の1番の好物だ。妻にはタルタルソースに必要なゆで卵を作る作業をしてもらおう。
5分間タイマーを見つめるだけの簡単な作業だ。失敗のしようがないだろう。
日が暮れて「ただいま」と家に帰ってくる声。
それを聞いた瞬間、妻は矢のように玄関へと駆け出し息子を抱きしめていた。
「ごめんね、ごめんね」と子供のように泣きながらぎゅっと手放さないように強く。
2日目の会話。
なのは「司郎くん、お母さんとケンカしたんだって? ちょっと私と【お話】しようか?」
司郎「ヒェツ 遠慮します」
なのは「まあまあそんなこと言わずに。【少し、頭を冷やそうか】展望デッキとかでさ」
司郎「やめてください死んでしまいます」
なのは「???」