無能力転生者はリリカルなのは世界で生き延びたい(令和版) 作:百男合
ミッドチルダ首都管理局でムラサメの無料配布。
さすがミッドチルダ首都。解体しがいのあるデバイスが山ほどある。
で、感動のおじいちゃん夫妻と初対面。母との話し合いもうまくいきそうで。
量産型ムラサメの反響はすさまじいの一言につきた。
デバイス開発・修理課にはぜひうちの課に優先的に量産したのを持ってきてくれだの頼むから同じものを作ってくれという嘆願書と電話がひっきりなしにやってきたのだ。
予想してたがここまでとは。管理局のブラック具合が改めてわかった。
唯一要請の来てないのは首都防衛隊……レジアス・ゲイズさんのところか。
レジアスさん、悪い人じゃないんだけどなぁ。
非魔導士であそこまで出世した政治手腕や能力を考えると優秀なのがわかるだろう。
ただ、その思想が管理局とは水と油というかタカ派とハト派というか。まあ、優秀な人材なのは間違いない。
管理局にこだわらなければ別組織を作って管理局を監査する立場になりえる人だった。
それがなぜああなってしまったのか。まあ、主人公側にいなかった悲劇としか言いようがないだろう。
とりあえずこの量産型ムラサメは非魔導士でも使えること、仕事がスムーズになることを改めて伝えてくるか。この世界のために。
決してStrikersにおけるはやてさんの地盤づくりのお手伝いとかいう下心はほんの少ししか考えてないからなー。
さて、ムラサメ量産型を作ってくれと管理局は求めるが修理を待つデバイスは当然毎日来るわけで。
そういったデバイスの修理は俺に任せてもらうことになった。
見たことのないデバイスバッチ来いと鼻歌を歌いながら作業させてもらったよ。
休憩時間。リンばあちゃんが作ってくれたアップルパイがおいしい。
頭脳労働に甘酸っぱいアップルパイのリンゴが染みるわー。
「おう、坊主。修理頼んでたデバイス取りに来たんだが今いいか?」
おや? おじさんキャラが似合いそうな低めのよく通る声は。
ゲンヤさん! ゲンヤ・ナカジマさんじゃないか!
「ゲンヤ・ナカジマさんですね。ご用意できてます」
俺はそう言うと修理済みのデバイスを窓口に持っていく。
「いやぁ、すごいなフル稼働で。これ全部例のデバイス作ってんだろ」
ゲンヤさんは笑いながら俺に言う。
そうなのだ。現在デバイス開発・修理課ではムラサメ量産型を課をあげてフルスピードで作っている。
設計者である母さんの了解は昨日得られたし、最初に作った俺に作るかどうかの判断は任されたのでOKを出しておいた。
この世界でもムラサメの姉妹が増えるのは大歓迎だからね。これで管理局の仕事が減れば万々歳だろう。
ところで、ゲンヤさんにクイントさんの死について言うべきか否か。
今言ったらスバルとギンガ姉妹がナカジマ家に引き取られないルートになるかもしれないんだよなー。ノーヴェもクイントさんの遺伝子から生み出されたし。
でも、俺が生きる世界では笑顔になる人が増えてほしい。
なので探りを入れることにした。
「ところでゲンヤさんにはお子さんは」
「ああ。うちに2人な。最近引き取った子たちなんだがなかなかなついてくれなくてな」
ポリポリと頬をかきながら言うゲンヤさん。
大丈夫。そのうちの1人はとんでもないファザコンのナイスバディに育ちますから。
「じゃあ、クイントさんはスカリエッティの捜査を続けているんですか?」
俺の言葉にゲンヤさんの目が細まった。
「お前、見ない顔だな。本当にこの課の人間か?」
「ええ、昨日からお手伝いに来てる者です。身分はアースラのクロノ・ハラオウンが保証してくれます」
ゲンヤさんの視線を受け流し、クロノくんに責任を丸投げする。
ごめんね、クロノくん。
「で、話の続きですが。そろそろその捜査、引き上げ時だと思いますよ」
「なぜそう思う」
俺の言葉に完全に尋問モードになってるゲンヤさん。こ、こわい。
「デバイス技師としての勘です。というか、戦闘機人事件はそろそろ収束しますからその前に捜査は解散したほうがいいと伝えてください。誰かが殉職する前に」
「脅しか?」
ゲンヤさんがプレッシャーをかけてくる。こわいこわい!
「単純におせっかいですよ。クイントさんは死ぬべき人じゃない。あなただって、そう思うでしょ?」
ゲンヤさんは黙ったままただ俺を見つめる。それからふっと息をつくと俺に言った。
「俺は仕事柄いろんなやつを見てきた。嘘をつくやつ、騙そうとするやつ、何か企んでるやつ。でも、お前はその中のどれでもない」
ゲンヤさんは修理が終わったデバイスを持つと出口へと向かう。
「お前さんはただのおせっかいで言ってるやつの顔だ。そして本気でクイントのことを案じている。それだけはわかったよ」
ドアが閉じ、ゲンヤさんがいなくなるとどっと疲れた。
ひゃー! 現役の頃のゲンヤさんプレッシャー強すぎ。
もう少しで漏らしそうだった!
とりあえず俺はことがよくなってくれることを祈りながらデバイスの修理を再開することにした。
クイントさんの無事を祈りながら。
さて、修理の仕事も終わったのでこれからミッドチルダ首都を観光じゃーい!
どこ行こうかなー。とりあえずデバイスショップはもちろんとして聖王教会もはずせないかなー。
まだロリなシスターシャッハとか見てみたいし!
「あら、聖王教会にご興味が? よろしければご一緒しますか」
にこにこと笑顔でそんなことを言ってきた人物に俺は固まる。
あれー? なんで騎士カリムことカリム・グラシアがこんなところにいるのかなー?
しかも姿がStrikerSの頃と寸分違わないんですけど⁉ まだなのはさんロリなのに!
まさかあのカリムさんじゅうはっさいは真実だったのか⁉ 確かにヴェロッサくんの義理の姉という立場から30は越えてると視聴者の間では言われてたけども。
「今失礼なことをお考えになりませんでしたか?」
「ソンナコトナイデスヨー」
俺は目をそらしながらカタコトでしゃべる。
え、本当になんで? 確かに聖王教会と管理局は密接な関係だけども。
あなた気軽にこんなところに来ていい人じゃないでしょう。
「私がなぜこんなところにいるのかと考えていらっしゃいますね」
はいそうです。俺が頷くとカリムはうーんと言いながら口の端に当てていた指を俺に向ける。
「今日、私の運命の人がここに来ると私のレアスキルが教えてくれたからです」
は?
はあああああ⁉
「その顔は「え、意味わからん。頭沸いてんのかこのサイコ女」と考えている顔ですね」
「いや、そこまでは思ってないです」
近いことは考えたけど、とは言えない。
「ふふ、正確には私を含める多くの人間の運命を変えるかもしれない人物、ですがね」
カリムはそう言うといたずらっぽく笑う。
それを興味深そうに見ながら去っていく管理局の人たち。
うん、傍から見るといい歳した女がショタを口説いてる現場にしか見えないからね。耳目を引くのは当然だ。
それに気づいたのかカリムは顔を赤くして、「場所を移しましょうか」と提案してきた。
「私のレアスキル。
喫茶店に入りカリムが話してきたのはそんな内容だった。
存じてますとも。Strikersの数年前から極めて不穏な内容が書かれるようになってそれがはやてさんが起動六課設立に動いた理由の1つということも。
しかしそれに俺のことが出てきたの? 本当に?
「あ、疑ってますね。本当ですよ。管理局に似つかわしくない異邦からやってきた少年とあなたのことが書いてありましたからね」
「異邦から来たはわかりますが管理局に似つかわしくないは納得できません。ミッドチルダは俺くらいの歳の魔導士がうじゃうじゃいるはずなのに」
俺の言葉にカリムが意外そうに言う。
「気づいていないのですか? あなた、相当浮いてますよ。まるでそこだけ別の世界というか。たとえるならサバンナにペンギンがいるくらい変です」
え、俺ってそうなの?
たしかにアリサ嬢やすずかちゃんから変わってるとは言われているがそこまでだったとは。
1人ショックを受けていると、俺を傷つけたと思ったのかカリムは慌てて言い直す。
「えっと、違います違います。わかりやすく言えばあなた、『染まってない』んです。管理局というか、ミッドチルダ世界の常識に」
どういうことだと目で問いかけると、難しそうな顔で俺を見る。
「説明するのが難しいですね。例えば、そう。クロノ・ハラオウン。彼のことは知っていますね。彼と同じ歳の人間が年上の人間を顎で使うこともある。そういう状況を常識としてあなたはすぐに思い浮かべられますか?」
その言葉に俺は想像する。
たしかにクロノくんならそういう事態もあり得るだろう。彼は優秀だし、能力も高い。
ただ、顎で使うという点は承服できない。クロノくんなら礼儀をもって年上と接するし、どんな能力の低い相手でも最低限の礼儀をもってあたると思うからだ。
「管理局ではそういうことが間々あります。いや、ミッドチルダなら間々あると言ったほうがいいでしょう」
そう言いながら彼女が見つめる先では中学生くらいの女性に壮年の男性が頭を下げている。
なるほど、これがミッドチルダの多様性の1つか。
「今、目で「うわぁ……」と思いましたね。そういうことです。まるで常識が通用しない異世界から来た異邦人。そんな違和感があなたにはあるんです」
頼んだ紅茶とパフェが来たのでカリムは紅茶を口に含む。
パフェ? 俺の分だけど。俺、おごられるときは遠慮せず頼む派なんだ。
「で、そのレアスキルで俺のことはなんて出たんですか? まさか世界を滅ぼす大王とでも?」
「それはありません」
フルーツ多めのパフェをスプーンで切り崩しながら問いかけるとカリムは首を振った。
「あなたは月明かりの道を行く人だと」
「それって夜道は気をつけろ的なニュアンスで?」
俺の言葉にカリムは困った顔をする。
「私のレアスキルはどうも適当というか、どのようにでも解釈できる言葉が浮かんでくる時があって。よっぽど悪い内容ではない限りよく当たる占い程度の的中率なんですよ」
つまり、月明かりの道とは何かの例えなのだろう。
しかし月明かりの道か。日の当たるとか平穏なとかのほうが嬉しいんだがそうじゃないんだ。
「闇の、とか暗い、というマイナスの意味ではないから悪い予言ではありませんよ。安心してください」
「はあ」
と、言われてもねぇ。
あの騎士カリムがこんな中途半端な予言を信じて俺に会いに来るとは到底思えない。
きっと言ってないだけで他にもいろんな予言が書かれてたんだろうなと思いつつ俺はフルーツを口にする。
うん、味は地球のものとほとんど変わらないな。むしろうまい。
「で、ここからが話の本題なのですが……あなた、聖王教会に入る気はありませんか?」
ちょっと待て。話が飛びすぎなんですけど⁉
俺が思わず目を点にしていると、カリムは構わず話を続けていく。
「まずは、そうですね。私の子飼いの私兵。いえ、教会専用のデバイス技師という立場はいかがでしょう? 報酬は応相談ですが」
「待った。待った待った」
俺は慌ててカリムの言葉を遮る。
「あり得ないでしょう。なんで会ったその日にスカウトなんて」
「あら、そういえば自己紹介してませんでしたね。私はカリム・グラシア。騎士カリムと呼ばれることが多いです。あなたは?」
「真木司郎です。どうして俺がデバイスに詳しいと? それもそのレアスキルで知ったんですか?」
今更の自己紹介に疑問を上乗せして返す。
「単純に管理局内での噂です。昨日から凄腕の修理屋がデバイス開発・修理課にやってきたともっぱらの噂ですから」
あっ、ドヤ顔かわいい。見た目だけは本当に20代前半なんだよなこの人。
「今、私のことおばさん扱いしませんでしたか?」
鋭いな。それもレアスキルの1つなのか?
まあ、それは置いておいて。
「お断りします。俺は友人のために管理局に入るので。彼女たちのためにならない場所に留まるつもりはありません」
「それは逆を言えばその彼女たちのためになるのなら聖王教会に入ってくれるということですね」
しまった。言質取られた。
交渉ごとにおいても騎士カリムは一枚上手らしい。俺がうかつだったともいえるが。
「その彼女たちのことは聖王教会が最大限配慮しましょう。そう、たとえ次元犯罪者でも私のあらゆる伝手を使って守ってみせますよ」
「今の言葉は聞かなかったことにします。どうしてそんなに俺に興味を持つんですか?」
まだ俺は大した功績は出していないはずだ。そう、たとえばムラサメ関連しか……あれ?
ひょっとしてムラサメ開発したの俺ってバレてる?
あー。だからか、この歓迎っぷりは。なるほど、自分のところに優先的にムラサメ量産型が欲しいから俺を引き抜こうと。
「心配しなくても、必要になったらあなたのところへ届けますから今は待っててください」
俺の言葉にぱちくりと瞬きをするカリム。え、違った? なんだか俺すごい恥ずかしいこと言ったやつみたいになってない?
「あなたは、自分でどこまで知って……いえ。楽しみにしている。と言っておきましょう」
カリムはそう言うと紅茶を口に含んだ。それ以降口を開かないので俺もパフェを食べる作業に専念する。
その後カリムに聖王教会を途中まで案内してもらい、途中からシスターシャッハに案内を引き継ぎ自分は仕事があると奥の部屋に行ってしまった。
一体何だったんだろうな。彼女の目的は。
まあ、それはそれとして。
俺はムラサメの動画機能を使いシスターシャッハの映像を撮る。
「シャッハさん、ピースしてピース。いぇーい!」
将来ヴィヴィオに見せるから。できるだけ黒歴史になるようなハッチャけた感じでよろしく。
「何を言ってるんですか、しませんよそんなこと」
ツンとすました顔でお断りされてしまった。
やっぱりシャッハさんは小さくてもシャッハさんだった。
カリム・グラシアは自分の執務室でため息をついていた。
どう解釈したものか、この予言者に出た彼の予言は。
大まかな解析は終わっているしかし、
「彼の手で多くの人が救われる。その一文は共通しているのですよねぇ」
浮かび上がる詩文を指でなぞり、難しい顔をする。
そう、そこまではわかる。問題なのはその先。
「こぼれ落ちた者。喪った者。それすらも彼が救うというのは、いささか行き過ぎのような気がしますが」
今日出会った少年のことを思う。
ミッドチルダにはいないタイプの人間だった。
いい意味で言えばこちらに染まっていない。悪い意味で言えば平和ボケした顔をした少年。
彼の手により多くのものが救われるというのは、いささか誇張された内容ではないのか。
この時騎士カリムは知らなかった。彼の手により既に多くの者が救われていたことに。
管理局という超ブラックな体質の局員たちから彼が「救世主」と呼ばれていることに。
それもこれもムラサメ量産型という新デバイスのおかげなのだが、彼女は知らない。
「しかし必要になったら届けると来ましたか。ふふ」
どこか嬉しそうにつぶやき、カリムは笑う。
「その時は助けてもらいましょうか。救いの手を、私たちに届けていただきましょう」
彼の耳に入ったらとんでもないと断るかパフェ分は働かせていただきますという内容を口にしながら、上機嫌でカリムは詩文の解読を続けるのだった。
ムラサメ量産型を使用した管理局員の声。
「いやぁ、すごい助かりますね。これを開発した人は天使です。救世主です」
「これがない生活なんてもう考えられません! 考えた人は僕らの救世主ですよ」
「このデバイスに救われました。今日なんか定時で帰れるんですよ。私そのことが嬉しくって嬉しくって」
「「「ありがとう! デバイスを作ってくれた人!」」」
カリムの言った月明かりの道を行く人の意味? 闇の中にいる人に道を照らすとか希望を与えるとかそういうのじゃない?