無能力転生者はリリカルなのは世界で生き延びたい(令和版) 作:百男合
原種3号4号近くにある工場を魔人狩りたちと一緒にガサ入れ。
一緒にトワさんと工場を巡ることになりそこで明かされるトワさんの過去。
トワさんをEXCEEDSに誘うが振られる。次はもっとうまくやろうぜ!
蔵木エイジは廃工場の監視カメラの映像を見てため息をついた。
原種3号と4号の近くにあった工場。
あれはいい資金源だった。それなのにつぶされてしまうとは。
材料となる原種3号と4号はEXCEEDSに。
工場は
まあ、この工場がつぶされても自分たちに影響はないのだが、とエイジは頭の中でそろばんをはじく。
たしかに今回の工場の破壊は大きな痛手だがそれ以上の収穫があった。
魔人狩りたちの詳細な映像。そしてその能力。
「うわー、この娘たちが例の魔人狩り? エイジ君」
ほら、おいでなすった。
自分に抱き着く篠宮マナに、エイジは顔をしかめながら離れるように言う。
「くっつくな。暑苦しい」
「えー、いいじゃんいいじゃん。エイジくーん」
篠宮マナ。見た目だけなら美少女に分類されるがこう見えても化け物である。
魔人だから、ではない。考え方、行動、すべてが規格外なのだ。
自分はマナの機嫌を取るために行動しているだけ。あの日、気まぐれでこの化け物に生かされたその時からずっと。
「この娘が例の魔人狩りちゃん?」
モニターに映る夜海トワとその仲間たちの画像を見て、マナが言う。
「ああ。軽く調べたところによると両親を炎の魔人のテロで亡くしてるらしい」
「炎の魔人……ああ、あの娘か! 憶えてる憶えてる。あれは面白かったねー」
人死にを面白いという精神。やっぱりガワは人間でも中身はバケモンなんだなとエイジは改めて確信し、話を続ける。
「で、こいつ両親に拾われるまではうちの施設にいたっぽいんだよな。憶えてるか?」
「そんなの無理無理。エイジくんは毎日食べるパンの事いちいち憶えてる? それと一緒だよ」
なるほど、マナらしい返事だ。
「ねえねえ、この娘おいしそうだよね」
じゅるりとよだれを飲み込むマナ。その言わんとすることを察したエイジは言葉を返す。
「詳しく調べてお前の元に来るよう手配しておく。それでいいか?」
「エイジ君大好きー!」
まるで恋人のように抱き着くマナに実際はライオンが首元にかみつきじゃれてるのと同じだなとエイジは苦笑する。
そんなことを思いながらエイジは別画面をクリックすると顔をしかめた。
「どしたのー? エイジくーん」
「いや、大したことじゃないんだが」
自分とマナの情報が漏れている。
広大なネットの海の端っこ。まだ広がる様子もないがぽつんと自分とマナの情報が投下されたのだ。
【こいつらに人生を無茶苦茶にされた】と顔写真付きで。
投稿されたのは過疎掲示板。なぜ大手ではなくわざわざ過疎化した掲示板に投稿したのか? よくわからんがそのスレッドを凍結させるよう手をまわしておく。
するとそれが合図のようにエイジとマナの情報スレッドが乱立しだした。
「おいおいおい」
まるでつぶれたトマトの汁が飛び散るようにあらゆる方向に広がっていく。
お料理掲示板、オカルト板、質問掲示板、鬼女板などなど。
エイジとマナの顔写真付きで2人が行ったとされる悪事が関連する人間の実名付きで書き込まれているのだ。
その内容はほぼ真実で自分たちに相当詳しい人間でないと知りえない情報もあった。
(政府や公権の奴らが裏切った? にしてはそういうやつらの関係も遠慮なく書かれてやがる。身内の足の引っ張り合いじゃねえな)
エイジは考える。相手の狙い、その考えについて。
「ねえねえエイジくーん。おなかすいたー。ごはーん」
だというのにこの化け物様はそんなことてんでお構いなしにエイジに絡んでくる。
うぜぇ。しゃーねーな。
「わかったわかった。肉の用意をさせておくからしっかり食ってこい。俺は忙しいから」
近くの魔人メイドを呼んでマナ用の食事を用意させる。それに上機嫌でマナはエイジへのウザがらみをやめた。
「やったー! ありがとうエイジくん。愛してるよ」
欠片も思ってないことを堂々と言うのは恐れ入る。それに適当に返事してエイジは画面へと視線を戻し、顔をしかめた。
「うわ、消しやがった。どこの馬鹿だ。まあ、政府関係者だろうな。だがそんなことをしたら」
エイジの懸念通り情報スレッドは復活し、【魚拓】とっただの消されたのは政府に都合が悪いからだの陰謀論を展開して話が進んでいく。
「こういうのわかんねえなら手ェ出すんじゃねえよ素人がよぉ。ほっときゃ鎮火してだれも見向きもしねえのに」
変に反応するから勘ぐられるのだ。まあ、自分もかつてはそっち側だったからよくわかる。
さて、どうするべきか。このまま鎮火するまで待つか、積極的に工作するか。
「エイジくーん。そういえばそれ、なに?」
「あん?」
そんなことを考えているとマナが興味深そうにエイジが持つ機械を見つめていた。
そういえば言ってなかったなとエイジはマナにその機械を突きつけ言う。
「こいつはムラサメデバイス。情報処理がすっげえ早くなるっていう代物だ。警察や政治家のおっさんらが便利だって使ってるから1つ失敬してきた」
「へー、そうなんだー。エイジくん悪いんだー」
悪いのはお前だろうとエイジは思いながらムラサメデバイスをパソコンにつなぐ。
「はっは、すげぇすげぇ! なんだこの情報処理能力。読み込みが快適すぎるぜ! 最新のパソコンなんかよりもよっぽど使える」
そこまで言ったエイジの口がそのまま固まった。
『Found it』
いままで魔人狩りの映像を映していたモニターがすべて黒塗りの背景とその一文を表示している。
Found it? 見つけた? 何を? 誰が?
どっとエイジの背中に冷たいものが走る。
なんだ、自分は何に手を出した? 何を敵に回した?
得体のしれない恐怖。久しく忘れていたそれに椅子にへたり込むと、悪魔が笑ってそんな自分の姿を見てくる。
「エイジくーん。もしかして困ってる?」
篠宮マナはにこにこしながら冷や汗をかくエイジの顔を覗き込みながら言った。
「困ってるなら頼りなよ。誰を殺せばいい? どこを壊せばいい?」
そうだ、自分にはこいつがいるじゃないか。
バケモンにはバケモンをぶつければいい。
「とりあえず敵の姿がまだわからないから待機しておいてくれ。必要になったら言う」
俺を、いや、俺たちを敵に回したことを後悔させてやる。
「ムラサメ、情報工作はどう?」
『順調です。3日あれば90%は完了しているかと』
今俺はムラサメを使って蔵木エイジと篠宮マナの情報をネットに拡散中だ。
トワさんの復讐のための下地作り。正義は我らにありという民意を作るための工作。
この世界のマスコミが腐ってるからネットに真実を求める層というのはいるはず。そう思ってやらせてみたのだが成果は上々といったところか。
並行して魔人狩りのヒーロー化というか魔人化薬の生産工場を破壊したり魔人に襲われている人々を助けたりしている情報をネットにばらまいている。
これが後々正義の魔人狩りが悪の蔵木エイジと篠宮マナを討つという展開の追い風になればと思っていた。
『主、蔵木エイジと篠宮マナを発見しました。間抜けにも私の妹を自分で起動して端末につないだので簡単に居場所が特定できました』
「えぇ……」
ムラサメの言葉に俺はこの世界の悪役って頭悪いの? と思わずにはいられなかった。
たしかにこの世界にムラサメ量産型をばら撒いたけど、それをなんの疑問も持たずに大事な端末に差し込むなんて。セキュリティ意識低すぎない?
もしかしてそこら辺に落ちてるUSBメモリを接続するのに躊躇がないお方なの?
そんなことを思いながらムラサメが割り出した場所を精査する。
「南極。地下200メートルか。この情報はまだトワさんに教えないほうがいいな」
『同感です。敵の規模がわからない現在、魔人狩りにこの情報を渡すのは早急すぎます』
うん、それもあるんだけどこの情報知ったら特攻しちゃいそうなのよトワさん。
工場で話して分かったけど、恨みが相当根深いからね。復讐のために生きていると言ってもいい。
間違ってもお仕事のご褒美で与えていい情報じゃない。
となるとまたお菓子プレゼントで地道に信頼度上げるしかないなぁと思っているとムラサメが告げてきた。
『主、蔵木エイジが夜海トワを捕縛するために何らかの行動を起こすようです。これは……ひどい作戦ですね』
どれどれと表示されたモニタを見た俺は顔をしかめる。
それは普通の人間なら思いつかないようなひどい作戦だったからだ。
『主、どこへ?』
「八神さんのところ。この計画が発動したら多数の死人が出る。それを防ぐために使える手は何でも使う」
この世界ってモブにも主役にも厳しい世界だったんだよね。ここ数年平和だったから忘れかけてたわ。
とりあえず蔵木エイジ。お前の作戦はつぶす。絶対にだ。
夜海トワは後悔していた。
あの日、差し出された手をはねのけたこと。
もし手を握っていれば自分の復讐を果たせたのではなかったのだろうか。
だが今更人を信じることが自分にはできるのか? という疑問が心の中で頭をもたげた。
少なくとも、この世界では隙を見せたらやられる。心を許せば付け込まれる。
闇の中で生きる自分には、彼の手はまぶしすぎた。
まるで夜闇に浮かぶ月のように。
「いまさら言っても、仕方ないよね」
ひとり呟き、歩を進める。
気分を切り替えよう。
今日はシイナとデート。そう、デートなのである。
若い女と女が手と手を取り合い一緒に行動する。これがデートでなくてなんというのだ。
(くっふふふ。早くシイナに会いたいよぉ。会いたくて会いたくて、シイナニウム不足で倒れちゃいそう)
夜海トワ、恋愛でダメになるタイプであった。
というのも両親を事故で失ってから夜海トワは愛情に飢えていた。
それこそ渇き、ミイラ化寸前の状態が当たり前の状況に
久瀬シイナという他人を思いやり見返りを求めない愛情が。
それはシイナにとって劇薬だった。
彼女にとってシイナの愛情は甘く、心地よい酒のようにトワは
うまい酒であればあるほど彼女はそれを求め、酩酊し、さらに求めるという悪循環に陥っていた。
まあ、それが愛情というプラスになるものであったのが彼女にとっての救いだろう。
またそれを向ける久瀬シイナが善人であったことも。もし悪いやつだったらトワはその相手に依存しダメになっていただろう。
だがそうはならなかった。2人は友人として互いに高めあい、傷を癒しあう友人となれた。
(シイナシイナシイナー! はやく会いたいよー!)
一方が重い想いを抱いているというかなり危うい状態ではあるが。
やがてトワは目的の人物を見つける。「シイナ」と声をかけようとして声が引っ込む。
隣に見慣れない子供がいたからだ。
え? 今日デートだと思ってたのは私だけ? シイナ、その女誰?
足元が崩れるような感覚を味わいながらなんとか足を進め、シイナに声をかける。
「し、シイナ。お待たせ」
「おっ、やっほートワ」
ああ、シイナの笑顔がまぶしい! 乾いた私の心のシイナニウムが充電されていくよー!
私、
「今日はアタシの妹を紹介しようと思って。ほら、セツナ」
一人心の中で悶えているトワ(もちろん表面上はおくびにも出さない)を置いて、小学生くらいの子供が前に出てくる。
「は、初めまして。妹の久瀬セツナです。しーちゃんがいつもお世話になってます」
妹? ということは家族公認の関係⁉
つまりは結婚するくらい仲がいいってことだよね!
トワの頭の中で大きな鐘がなった。祝福の鐘の音と一緒にいつの間にか自分とシイナの服はウエディングドレスになっている。
お父さん、お母さん、私、幸せになるよ。
1人爆発テロで死んだ両親に幸せになる報告をしていると、セツナの声が現実に引き戻す。
「うわー、写真で見たけどすごいきれいな人だね。しーちゃんが迷惑かけてない?」
「いえいえ、迷惑どころか。君のお姉さんにはとてもお世話になってるよ」
本当に、本当にお世話(意味深)になってるから間違いではない。
「トワ、さっき会ったんだけどあの猫の飼い主の子の家族と会ったんだ。会ってくる?」
とシイナ。え、あの猫ちゃん?
シイナと私を出会わせてくれたキューピットがここにいるの?
だったら会わなきゃ。
トワが頷くとシイナが「じゃあ行こう」と先を行く。
それに続きながらトワはセツナと話をしながら歩いていくのだった。
トワ「しーちゃんってお姉ちゃんのこと呼んでるの? かわいいね」
セツナ「えっと、変でしょうか?」
トワ「そんなことないよ。かわいくていいと思う」
トワ(はー、シイナもいいけどこの子もかわいいなぁ。2人並べて膝の上を頭ゴロゴロしたい)
シイナ「2人とも仲いいなぁ。ちょっと妬けるかも」
トワ(ちょっ、シイナが私に嫉妬してる? 妬いてくれてるの? 私愛されてるー!)
トワ「大丈夫。私はちゃんとシイナのことも好きだよ」
トワ(キャー! 言った! 言っちゃった! 私ってばダ・イ・タ・ン)
シイナ「セツナどうしよう。トワに好きっていわれっちゃったー」
セツナ「もー、しーちゃん浮かれすぎ」
トワ(抱き合う久瀬姉妹! キャー! たまには姉妹丼もいいよね! いいよね!)
心の叫びが大きいトワちゃんだった。