無能力転生者はリリカルなのは世界で生き延びたい(令和版) 作:百男合
蔵木エイジ、捕まる。
トワ、篠宮マナを追い詰め本懐を遂げる。
原種0号と融合したマナを3人で葬る。
夢。
夢を見ていた。
夢を見ていると自分が自覚できる、そんな幸せな夢。
その世界に侵略種はいなかった。
死んだはずの両親がいた。
救えなかったはずのあの娘がいた。
「おはようトワ」
「今日も早いわね、トワ」
「おはようございますトワさん」
制服に身を包み、学校へ行く。
学生が学業を行える当たり前の日々。それがどれほど尊いものか、自分は知っている。
魔人化薬など存在せず、犠牲になる人がいない世界。
ここはなんて夢のような世界なんだろう。
「ああ、夢だからか」
ついそんな言葉がトワの口から出る。
現実は過酷だ。
この世界のように優しくはない。
だが今だけ。
今だけはこの優しい夢の世界に浸っていたい。
「トワ、どうしたの?」
放課後、同じ学校のシイナとユーナと合流したトワは外で別の学校にいるアオイとユズ、そしてシオリと合流して遊んでいた。
普通の女子高生がやるようなカラオケやボウリング、ゲームセンターとはしごしていき、今は休憩中。
ぼんやり外の雑踏を見ているとシイナが声をかけてきたのだ。
「うん、平和だなと思って」
「当たり前じゃん。だって」
だっての後が続かないことに困った顔をするシイナ。それに彼女もこれが夢だと気付いてるんだなとトワは思う。
その時雑踏に交じって1組の少年と少女がこちらにやってくるのが見えた。
「あっ、お菓子の人とセツナちゃんじゃん! こんにちはー」
アオイの言葉に思わず噴きかける。
この世界でもその呼び方なんだ。詰襟の学生服を着た少年に絡みに行くユーナ。それを見るシオリとユズ。
「なになにデート? お熱いねー」
「ち、違うよ。ねぇ、司郎くん」
「さあ、俺はデートでもいいんですけどね」
「~~っ!」
「春ねぇ」
「春ですねぇ」
バンバンと少年の背中を恥ずかしそうに叩くセツナ。それから恨みがましそうな顔で少年を見る。
「司郎くんは! 司郎くんはもう!」
「はいはい。ところで皆さん、今回もお願いがあるんですが」
そう言って手土産を自分たちに渡す少年。世界は変わっても律儀なところは変わらないなと思う。
しばらくシオリと話す少年を見つめながらセツナはトワの視線に気づき首を傾げた。
「どうしました? トワさん」
「うん。みんな、今日シイナとセツナを借りていいかな。会わせたい人がいるんだ」
その言葉に快くうなずく4人と少年。トワは食べ終わったポテトのゴミをごみ箱に捨て、2人を連れてある場所へ向かう。
「この場所、シイナと私が出会った場所だね」
「うん。あの時はトワが橋の上に立ってたから自殺しようとしてると早とちりしてえらい目にあったね」
思い出し、2人笑い合う。
「あの時の猫、元気にしているよね。きっと」
「そうだね。飼い主が見つかってよかったよ本当に」
しばらく歩く1軒の喫茶店が目に入る。
テラス席があり、立てられたボードにはチョークで今日のランチメニューが描かれている。もう15時を過ぎているのにランチを提供しているのだ。この店は。
そこで働く紫の長い髪の店員に会釈する3人。笑顔を返す店員に見送られ、トワは喫茶店のドアを開けそこにいた2人――両親に宣言する。
「ただいま、父さん母さん。友達を連れてきたよ」
それが、夜海トワにとっての優しい夢だった。
「トワさん、トワさん!」
「トワちゃん、目を開けて!」
「トワさん、シイナ、セツナちゃん!」
「3人とも、目を開けて!」
声に目を開けると魔人狩りの4人が自分たちを覗き込んでいた。
いつの間にか気を失っていたらしい。同じように起きたシイナとセツナも4人の様子に驚いている。
「え、ど、どうしたのみんな? ひょっとして原種0号がまだ」
『それは大丈夫ですよ。シイナさん』
デバイスからアインスの声が聞こえる。
『あなたたちのおかげで原種0号は消滅。他の分木も次々と活動を停止し世界の危機は救われました。大変、大変お疲れさまでした』
アインスの発言にホッとするシイナとトワ。
あれ? だったらなんで魔人狩りの4人はこんなに慌てているのだろう?
そう思い見返すと涙を流した4人に抱きしめられるトワ。
「トワさん死んだように眠ってるし! てっきりこと切れたのかと」
「3人とも死んだように寝てるし、超焦ったよー!」
「すごい破壊跡だし、よっぽどの戦いがあったんだろうなって思って!」
「篠宮マナが倒されてもトワさんとシイナさんが死んでちゃ意味ないよぉおおお!」
わんわんと泣く4人に毒気を抜かれるトワ。
そうか、自分は仇をとれたのか。
4人を抱き寄せ、よしよしと頭をなでていく。
「心配かけたね、みんな。私は大丈夫だよ」
「トワ(ちゃん)さん~!」
声を重ねて自分の名を呼ぶ4人に、トワは言う。
「今度、普通の学生がするようなことをしよう。カラオケ行ったり、ゲームしたり、ポテト食べながらおしゃべりしたり。そんな、当たり前の平和な世界を謳歌しよう」
「トワ、それって」
シイナの驚いたような顔に、トワは頷く。
「トワのご両親の顔、初めて見たよ」
「格好良かったでしょ。自慢の2人なんだ」
意味ありげに視線を交わす2人にムラムラジェラシーが沸く魔人狩りの4人。
「ちょっと、なんですかその意味ありげな視線は?」
「言っとくけど、あたしたちのほうがトワちゃんとの付き合いは長いからね!」
「そう簡単にトワちゃんはシイナに上げないよ」
「あげません!」
ぎゅっと自分に抱き着く4人に、トワは笑う。
「心配しなくてもいいよ4人とも」
その言葉に顔を輝かせる4人。
「私がシイナのものになるんじゃない。シイナが私のものになるんだから」
そう言ってシイナを抱き寄せるトワ。
「ええっ⁉」
「わっ、トワさん大胆。しーちゃんどうするの?」
それに目を輝かせる妹のセツナに、困惑するシイナ。
一方シイナに向かって敵意のある視線を向ける魔人狩り4人。
弱ったなぁと思いながらシイナはユズの作った【扉】を見る。
仕方ない。こうなったら。
「トワ、セツナ。走れる?」
「もちろん」
「え? 逃げちゃうのしーちゃん」
逃げるとは人聞きが悪い。これは戦略的撤退だ。
この空気から逃げてうやむやにするともいう。かもしれない。
シイナはセツナを抱き上げるとトワの手を引き【扉】へと向かう。
「じゃ、そういうことで」
突然の行動にポカンとする4人。だが一拍置いて気づいた4人が声を上げ追ってくる。
「待ちなさーい」
「3人での逃避行なんて許さないよー」
「トワさんは皆のものなんだからー」
「ずるいですシイナさん!」
4人の声を背中に受けながら、トワに問いかける。
「ねえ、トワ。この先もアタシについてきてくれる?」
その言葉の答えを、トワはすでに言っていた。
「行ったでしょう。ここに来る前に。地獄以外ならどこへでもって」
その後の話と言うか。
シイナとトワは結局魔人狩り4人につかまり説明することになった。
夢の世界でのこと。そこで近づいた2人の距離について。
で、原種0号の分木と敵対していたなのはとフェイト、地下にいたアリシアと司郎と合流。
全員の無事を祝い後日祝勝会をすることに決まった。
司郎のおごりで。
というのもこの真木司郎。この世界でムラサメデバイスを量産したおかげでちょっとした小金持ちなのだそうだ。
だから今回の事件で働いてくれたみんなにお礼を込めて高級料理をおごってくれるらしい。
「ね? 司郎君」となのはが笑顔で言ったとき首振り人形のように首を縦に振っていたことが気になると言えば気になるが。
で、EXCEEDS本部で報告書を提出したなのは、フェイト、アリシア、シイナの4人はトワとセツナ、魔人狩りの4人と合流し、司郎が予約してくれた高級料理店へと向かっていた。
「楽しみだねー。司郎君、どんなところを予約してくれたんだろ?」
「こっちの世界特有で地球じゃ食べられない料理って言ってたよ」
なのはの疑問にフェイトが答える。
「あれ? 地球ってアレ食べられないの? おいしいのに」
「地球って不便なのね。こっちではポピュラーな食べ物よ」
事前に司郎から店の内容を聞いていたユーナとシオリはそう言葉にする。
「ポピュラー? 兎肉とか? それとも鴨肉?」
「豚肉だと、うれしいな」
アオイの上げたラインナップに、ユズが自分の希望を告げる。
「はやてさんに聞いたんだけど、地球じゃ豚肉ってすごい安いらしいよ。鶏肉並なんだって」
「逆に牛肉は高いらしいね。地球じゃビーフシチュー作るの難しそう」
シイナとセツナがそれぞれの世界の違いを解説していく。
「それで、到着したわけだけど。………本当にここ? なんかすごい臭いがするんだけど」
トワの言葉に全員が店を見る。
見るからに怪しい店だった。地球の中華風というか、柱に華美な装飾がされた赤い門が特徴的な食事処だ。
「あら、薬膳料理のお店みたいね」
「薬膳ですか?」
資産家のシオリの言葉にそういうのもあるのかとユズが尋ねる。
「ええ、海外に行ったときこういうお店を見たわ。食べるのは初めてだけど」
「だったら今回の作戦で頑張ったシイナさんとトワさんとセツナちゃんにピッタリだね。今日はたくさん食べてね」
シオリの言葉に続き、なのはが笑顔でシイナとトワとセツナを見つめて言う。
「司郎のおごりだけどね」
とフェイト。その横に入り早速店へと入るアリシア。
「うわーひろーい。これ、今日全部貸し切りなの?」
「予約していた真木です。はい、はい。私は高町なのはで。あっ、聞いてる。じゃあよろしくお願いします」
店の広さに感激するアリシアと店の人に話をつけるなのは。
なのはの案内で奥の部屋に入るとテーブルの他に高そうな屏風や装飾品が目に入る。
これ、司郎ちょっと無理したなぁ。
とフェイトが思っているとメニュー表を開いたなのはが言う。
「一応全員が食べられる料理は頼んでるけど追加で好きなもの頼んでいいって。気になるものがあったらみんな頼んで」
「じゃあ、私はオレンジジュースを」
セツナの一言を皮切りにそれぞれ飲み物を頼み、メニューを指差してどんな料理か尋ねるユズにシオリが解説したりと楽しい時間が過ぎていく。
やがてぐつぐつ煮えたぎる鍋と一緒に大量の肉が運ばれてきた。
「お待たせしました。ラッコ鍋50人前です。皆様はよく食べると聞いておりますので足りませんでしたらどうぞお気軽にお呼びください」
そう言って女性店主は去っていったのだった。
司郎「へー、瑞穂だとラッコ肉って合法なんだ。野生にいるのはむしろ害獣化して積極的に食べるように行政が指導してる? 熊や鹿みたいだな」
アインス「どうしたのですか、司郎?」
司郎「いや、高町さんたちが打ち上げに行く店を調べてて。どうせなら地球じゃ食べられない食材のお店を選んでみようかなと」
アインス「それはいい考えですね。好評なら主と守護騎士たちも誘っていってみましょう」
司郎「そうですねー。でもこのラッコ肉って発情作用があるって地球では言われてるんだけど瑞穂の説明では一切そういうことは書かれていないみたいで不思議なんですよ」
アインス「文化が違うのではないですか? こちらの人間は耐えられる程度のものなのか、滋養強壮にいいものをそういう効果があると地球では言われていたのだとか」
司郎「うーん、そうですかねー?」
アインス「きっとそうです。おそらく地球のすっぽん鍋と同じ珍味なのでしょう」
司郎「だったら余計に食べてほしいな。瑞穂を楽しんでほしいし。ラッコ肉の料理で有名なのはここか。予約しておこう」
アインス「ちなみに、本当に媚薬効果があったらどうするのですか?」
司郎「どうもしないですよ。俺、当日行かないし。女同士だと過ちも起こらないでしょ」
アインス「そうですか。それを聞いて安心しました」
司郎「?」
アインス「もし媚薬効果を期待して女性陣を送り込んだゲス野郎なら、私はあなたを処さねばならないところでしたから」
司郎「こ、怖いこと言わないでくださいよ」
司郎(内緒でムラサメをステルスモードで録画させようと思ってたけど辞めといてよかったー)
善意! 善意なんです! 信じてください!