無能力転生者はリリカルなのは世界で生き延びたい(令和版) 作:百男合
ジュエルシードはどこまでも主人公を追ってくる。
主人公、前世の推しに出会う。
フェイトさんが天然で世間知らずなのをいいことにお家へお持ち帰り。
最低だよ、主人公。
『アルフ、起きてる?』
明け方、真木家のルヴィアの部屋で1人目を覚ましたフェイト・テスタロッサは使い魔のアルフに念話で声をかける。
『なーに、フェイト』
『真木家の人たち。いい人だったね』
あの交差点で出会ったジュエルシードを持った少年。
最初はどこにでもいる一般人だと思ったが急に土下座してきたり、食事に誘ってきたりとコロコロと様子が変わった不思議な男の子だった。
さらにこの世界の常識に疎いフェイトに普通は子供1人ではホテルに泊まれないと教えたり、自分の家に泊めたりなど面倒見のいい面もある。
そして久しぶりに家族と一緒の食卓というここ数年自分と縁遠かったものを与えられたとき、不覚にも思い出してしまった。
まだ母が自分のことを「アリシア」と呼んで一緒に食事をしていた時のことを。
こみあげてくるものが我慢できず泣いてしまって迷惑をかけたが大丈夫だろうか?
まだベッドで眠る栗色の髪の女性、真木ルヴィアを見る。
母さんと同じ、あたたかい身体だった。
匂いはちょっと違ったけど、大切にされていた記憶がフラッシュバックして彼女に甘えてしまったのは不覚としか言いようがない。
9歳にもなって赤ちゃん返りなんて恥ずかしい。自分にはジュエルシードを回収するという母から与えられた任務があるのに。
規則正しく寝息を立てるルヴィアと母親を重ねようとして、無理だなと首を振る。
母親とこの人はぜんぜん似ていない。髪の色も違うし、顔だちも、性格も全部。
なのになぜあんな風に甘えてしまったのか。自分の心がわからない。
「しっかりしなきゃ」
ひとり呟いた言葉は誰にも聞かれることなく壁に当たって落ちて消えていく。
『そろそろ出よう、アルフ。お世話になりましたって言えないのは心苦しいけど』
『わかった。先に玄関で待ってるよ』
誰にも知られず出て行こうとしていたフェイトだったが、部屋を出たところ先に起きていた父親の真司に「おはよう」とあいさつされて計画は頓挫した。
その後起きてきた真木家の面々と用意された朝ご飯を一緒にしっかり食べて「いってらっしゃい」と真司にお見送りされることになる。
手作りの弁当と冷たい麦茶が入った水筒を渡されて。
「やあ、テスタロッサさん」
日暮れまでジュエルシードを探していたフェイトの前に現れたのは、昨日自分に土下座してきた少年だった。
「司郎。何か用?」
言外に用がないなら話しかけるなという不機嫌なオーラを出しながら声を出したフェイトだったが、彼の手に持つ瓶に入ったひし形の宝石に目を奪われる。
「ジュエルシード⁉ なんで……」
「また見つけちゃってさぁ。俺が持ってても仕方ないからどうぞ。差し上げます」
瓶に手を入れてつまみ、非活性状態のジュエルシードを回収する。
これで2つ目。順調な回収だ。
ただ、両方この少年の手によるものという事実がフェイトを悩ませる。
私が母さんの役に立たなくちゃいけないのに。
自分自身の手で回収しなければならないのに、と。
「で、お礼のほうなんだけど」
司郎の言葉で意識が戻った。そうだ。1度ならず2度までもジュエルシードを譲ってもらったのならば、それなりのお礼をしなければならない。
どうすればいいのか考えていると、意外なことを彼は言った。
「とりあえず今日も俺の家でごはん食べていただけますか? で、泊っていってください」
なんだ? この男は何と言っているんだ?
頭に疑問符を浮かべるフェイトに、彼は話は終わりだというように歩いていく。
昨日と同じ帰り道。つまり真木家へと続く道だ。
フェイトは迷ったが断る理由を思いつかなかったので仕方なくついていくことにした。
それが彼の言う「お礼」なら従うのが当前だと思ったからだ。
その日の夕食のメニューはシチューとパンとサラダで、ブロッコリーの茎と茹でた骨付きの鶏肉をもらったアルフはすごく喜んで食べていた。
フェイトも真木家の人々と夕食をいただく。
食事中に「2日も続けて迷惑じゃありませんか?」と尋ねたが父親の真司には「むしろ作り甲斐がある」と笑われたし、母親のルヴィアには「もっとここにいてくれていいのよ」と優しい顔をして言われる。
それもこれも2人がフェイトの家庭事情を(ある程度捏造されたとはいえ)知っているからで100%善意からの行動だった。
当の本人はそれがわからず困惑しながらも真木家の親切を受け入れるしかない。
そしてお風呂と寝床をお借りして次の日も朝食をいただきお弁当とお茶の入った水筒をもらって家から送り出された。
今度こそジュエルシードを発見するぞとアルフと手分けして町中を探したのだが、結局見つけることができず……。
「やあ、テスタロッサさん」
公園でブランコに乗りながら途方に暮れていると昨日と同じように真木司郎が話しかけてきて。
しかもその手にはフェイトが今日1日探し回ったジュエルシードが小瓶に入っていた。
(さすがにおかしい)
見た目クールで冷静沈着に見えるが実際は天然で世間知らずなフェイトでも、さすがに今の状況がおかしいことに気づく。
この男はなんでこうも簡単にジュエルシードを見つけられるのか。
疑問に思ったフェイトはそれを口にする。
「どうして君はそんなふうに簡単にジュエルシードを見つけてこれるの?」
「え? そりゃあジュエルシードが落ちた地点がわかってるからですけど」
何でもないように司郎は言った。
え?
えええええ⁉
「それって本当⁉ なんで言ってくれなかったの⁉」
「なんでってそりゃ聞かれなかったからですけど……ぐえーっ」
肩をつかみ前後に繰り返し揺さぶりながら問い詰めるとそんなふざけた反応が返ってきた。
「私がジュエルシードを探してたの、知ってるよね司郎は」
「もちろん」
揺さぶられて青い顔をしていた司郎はフェイトが尋ねるとそんなことがなかったように顔色を元に戻して答える。
「だったらその場所を教えてくれないかな?」
「いいですよ。で、見返りは?」
司郎の言葉にフェイトは言葉に詰まる。
今の状況でも相当良くしてくれてるのにこれ以上借りを作るのか?
というか、彼が喜ぶことを自分ができるのだろうか? 母の言う失敗作の自分が。
「私ができることなら何でもするから、だから」
「ストップ、テスタロッサさん。女の子が何でもするなんて軽々しく言っちゃいけない」
フェイトが頭を下げようとすると司郎はどこか怒ったように言った。
「世の中にいるのはいいやつばかりじゃないんだから。悪いやつにそんなこと言ったら骨までしゃぶられますよ」
「でも……じゃあ、どうすれば」
困惑するフェイトに、司郎は「簡単ですよ」と言う。
「助けてほしい。その一言だけで俺はあなたにジュエルシードが落ちた場所を教えます。何かを返すとかお金を払うとかよりそのほうがずっと嬉しいし、力になりたいと思うんです」
その言葉にフェイトの頭の中は疑問符で埋め尽くされる。
「えっと、そんなことでいいの?」
「はい。あとジュエルシードが集まるまでしばらく俺の家を拠点に使ってください。食事も今まで通り作ってもらえるように父親に頼んでますから」
フェイトにとっては破格の条件を出され、頭がくらっとした。
なんなんだろう、この男の子は。どこの誰かわからない自分のためになぜそこまでしてくれるんだろう。
司郎に聞いたら「だって推しだから」と返答が帰ってくるのだが、残念ながらそれを問う人間はいない。
「とにかくテスタロッサさんは安心しておいしいご飯を食べてお風呂で汚れを落としてあたたかい布団で寝て、子供として当たり前のことをすればいいんですよ」
「そういうわけにはいかない。私には、母さんの言った使命があるから」
そう、それは絶対だ。
だって自分はそのために作られたんだから。
手に持つ待機状態のバルディッシュを強く握りながら自分に言い聞かせる。
「いいんじゃない、フェイト。そいつの言う通りにしても」
だがそんな自分の決意をあろうことか自分に近しい使い魔が否定してきた。
「アルフ⁉ いつから」
「最初からいたよ。ねえ司郎。今日の夕食、肉は出るのかい?」
「ええ。今日は曜日から言って豚肉ですね」
司郎の言葉にアルフは「やっほー!」と喜んでいる。
「アルフ、真面目に考えて。私には母さんからの使命が」
「いままであの女の言う通りやってきたんだから、これくらいの役得はあっていいと思うけど」
それはそうかもしれない、でも。
迷うフェイトの頭の中はぐるぐるしていた。
かつて母と暮らしていた頃に戻ったような温かい生活。
これがずっと続いてほしい気持ちと母からの使命は絶対という自分の存在意義。
それらが対立して混ざり合い、押したり引いたりしているのだ。
「じゃあ、俺を利用すればいいじゃないですか」
そんな状況を破ったのは、司郎の言葉だった。
「ジュエルシードを集めるために俺を利用する。そのために今の生活をする。それでいいでしょう」
「でもそれじゃあ、母さんが。それに君に何を返せばいいか」
そんなの決まっている。と真木真司は当たり前に言う。
「あなたが幸せであること。そのために助けがいるなら使い倒してください。まあ、死なない程度でお願いしますが」
結局その日、3つ目のジュエルシードを手に入れたフェイト・テスタロッサは真木家で夕食を取りお風呂に入り、風呂上がりのアイスをいただき真木ルヴィアに髪を結ってもらい使い魔のアルフと共に就寝する。
それは彼に「助けてもらう」という選択肢を受け入れたということでもあった。
なのフェイまであと5話