無能力転生者はリリカルなのは世界で生き延びたい(令和版)   作:百男合

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 あらすじこと前回の3つ
 ギンガのしつけ開始。そこをフェイトさんに見られて絶体絶命。
 管理局で悪口を言われたことがバレて管理局が絶体絶命。
 エリオの授業参観。なのフェイ推しなのが本人にバレて絶体絶命。


第71話 落とし穴

「よーしよしよし。よく我慢したなギンガ。これで3週間暴力事件無しだ。よく我慢した」

 俺はハーネス導入以来暴行事件ゼロになったギンガの頭をなで、これ以上ないほどほめる。

 よかった。本当によかった。

 これで彼女の素行が問題で俺の評価が下がることはなくなった。

「じゃあ、ハーネス外すな」

 と腰に付けたハーネスを外そうとすると「あっ」と残念そうな声を上げるギンガ。

「外しちゃうんですか?」

 そりゃ外聞が悪いからな。外しますよ。

「そうですか」とシュンとした様子を見せるギンガ。

 なんかこの娘、犬っぽいんだよな。心なしか垂れた耳としっぽが見えるような。

 まあ、それも今日までだ。今日はギンガの歓迎会。108部隊のみんなと親睦を深めるがいいさ。

 そう思ってゲンヤさんに報告に行くと異動届を渡されましたよ。

 なんでですか! ギンガのしつけはちゃんとしたじゃないですか⁉

 という俺の視線に「よく見ろ」とのお声。

 転属先を見ると「機動六課(仮称)」役職は副官?

 おおそうか。もうはやてさん根回し済んだんだ。

 あとはメンバ―集めだなと思いながら異動願いを詳しく見ていくとある一点が目に止まる。

「あれ? 海? 陸所属じゃないんですか」

「ああ。アースラのクロノ・ハラオウンが後見人だからな。そういった関係だろう」

 あかん。これはあかん。

 これは放置してたらとんでもないことになる間違いだ。

 俺は急いではやてさんに会って話がしたいと連絡。するとすぐに2つ返事が返ってくる。

「今すぐ行きますので説教される準備はしといてください」

 そう言うと俺ははやてさんの下に向かった。

 

 

 

 八神はやては有頂天だった。

 新しい部隊の設立に成功したからである。

 後見人のクロノの存在が大きかったが根回しのおかげで結成は思ったより簡単だった。

 あとは彼にカリムの予言のことを伝え、理念を共有し副官に任じるだけ。

 そう思っていたはやては正直浮かれていた。

 彼が怒っているのは勝手に副官に任命したせいだと。

 しかしそれも自分の口八丁で丸め込める自信が彼女にはあった。

 何しろ彼より老獪な老人たちを実力を持って丸め込んできたのだ。彼1人くらい何とでもなる。

 そう思った彼女の見落としを責められるとはみじんも考えてなかった。

「とりあえず、クロノくんを頼って新部隊を作るのは反対です」

「なん……やと?」

 信じられないものを見るような目ではやては目の前の人物、真木司郎を見る。

 それは彼女が聞きたくなかった。というか聞くとは思ってもみなかった言葉だったからだ。

「八神さん、楽な道に流されないでください。このままだと機動六課は間違いなく失敗します」

「なにアホいうとんねん!」

 思わず激昂し、彼に詰め寄る。

 何が楽な道だ。自分が機動六課の設立にどれだけ奔走したのか知らないくせに。

 そう思うはやての視線を受けても、なお動じず司郎は言う。

「八神さんがどれだけ奮闘して機動六課設立に奔走したのかは察するに余りあります。ですが、だからこそ機動六課は【海】の所属じゃダメなんです」

「なんでや! 優れた組織なら陸でも海でも関係ないやろ」

 はやての言葉に心底呆れたという反応をする司郎。

 なんだ? 自分は何を見落としてる?

 この時初めてはやては自分に落ち度があるのでは? と思い始めた。

「八神さん、陸で働いてたことありますよね。ゲンヤさんの下で。その時、海の部隊に対する感情はどうでしたか?」

「どうって……」

 確かにいい顔はされなかった。陸と海との仲の悪さというか溝は管理局員なら誰もが知るところである。

 だが、ゲンヤの下で師事されていた時にはそこまで露骨な嫌がらせは受けなかった。それで、「あ、実際はこんなものなんだ」と思ったと正直に言うと、司郎は深々とため息をつく。

「それ、ゲンヤさんが気を利かせてただけです。実際はめちゃくちゃ仲悪いです。その証拠に機動六課設立に動いたとき、反対派に多かったの陸の人が多くなかったですか?」

 司郎の言葉にそういえばとはやては思い出す。

 たしかに協力的だったのは海の派閥。非協力的だったのは陸の組織の人間が多かった。

「若者に大人の汚いところを見せたくないっていう心遣いが悪い方向に行っちゃいましたね。八神さんは現実を知るべきです」

 と言って彼はムラサメを使いとある会議の様子を見せる。

 内容は予算会議。海の組織が大量に資金を得ているのにかみつく陸の魔導士たちの姿だった。

「これは?」

「ああ、これが1番わかりやすいと思ったので。会議なら何でもいいんですけど、とりあえず流れを見ていてください」

 会議は次に陸の予算配分へと話が映る。陸の魔導士たちがこれこれこういうわけで予算をいただきたいと言うと即座に海の魔導士たちが反対した。

『我々は異世界でロストロギアを回収するという重要な役割がある。この平和なミッドチルダでサボタージュするあなた方とは違うんですよ』

『貴様、聞き捨てならんぞ! 確かに犯罪数は減ったが、ミッドチルダでは犯罪がなくなったわけではない。むしろ巧妙に地中に潜っているのだ』

『だったらさっさと捕まえればいいでしょう。単純な作業です。あなたたちと違って我々は繊細な作業が必要なロストロギアを管理しなければならないのです。予算はこれくらいいただかないと』

『そのしわ寄せが我々に来るのは理不尽だと言っている!』

 映像を見たはやては口元に手を当て顔をしかめる。

「うわー、めっちゃ仲悪いやん」

「1回でも会議に出てればわかる情報なんですけどねぇ。陸としては自分の世界を守るために予算確保は必須。だけどロストロギアのことを持ち出されると何も言えない。だから陸は海に関して悪感情を持ってるんですよ」

 知らなかった。そんなこと。

 だが、新しく課を作るならそんなことは許されない立場なのだと彼は言う。

「そもそも新しく機動六課を作ること、クロノくん以外に相談したんです? それこそゲンヤさんとか」

「それは、その」

 していない。リンディにすらしてなかった。

 自分の考えが通ればいいと、1人で独走してしまっている。

 そのことを告げると「やっぱり」と言い、真木司郎は椅子に座るようはやてに促す。

 これは話が長くなるというメッセージだとはやては理解した。

「とりあえず陸、空、海で2年間飛ばされ続けていろんな課を巡った身からすると八神さんの構想は論外です。EXSEEDSみたいにこれまで通り異世界を巡って救助したりロストロギアを集めるならともかく、ミッドチルダを守るための組織を海で作るなんて水着と浮き輪を持って山登りに行くようなものです」

 その言葉にはやての肩にズンと重いものが乗る。

 ここまでコテンパンに否定されるのは初めてかもしれない。

「若いうちは失敗するのが仕事でも、あなたは失敗が許されない立場にならないといけない人です。だから、いっぱい失敗してきた俺が確信をもって言います。この機動六課は間違いなく陸と対立して肝心な時動けません」

「そ、そこまでひどいん?」

 つい否定されるのがつらくて言葉を出してしまったが、失策だとすぐに悟る。

 司郎が自分を見る目の温度がマイナス2℃ほど下がったからだ。

「八神さん、高町さんとテスタロッサ姉妹にも声かけるつもりですよね? それって他の課からエースを引き抜くってことですよ。で、それが犬猿の仲の課同士だったらどうなると思います?」

「ええ気分にはならへんやろね。自分たちは潤沢な資金を持っとるのにエースまで持っていくんかって」

「そう。つまりそう言うことです。で、局員足りないから他の課から借りたり有望な新人スカウトしますよね。でもその新人って本来は陸で研修を受けるはずなんですよ」

 司郎の言葉に初めて気づいたように「あっ」とはやてが口を開く。

「そう。巨額の資金でエースを引き抜いた上に事件のたびに残った有望な選手を借りに来る非常識な組織の誕生です。しかも自分たちが目をつけていた新人まで奪っていく」

「そんな組織にいい感情を持つと思いますか?」と言われ、はやては頭を抱えるしかなかった。

 なんてことだ。自分がそんな簡単なことに気づかないだなんて。

 というか、頭に浮かびもしないだなんて。失策。あまりにもお粗末な失策。

「なんで」

 自然と言葉が出る。

「なんで、誰も教えてくれへんかったんや」

「あなたの見識の狭さ、とも言えますが1番は守護騎士せいですね」

 司郎の言葉に思わずはやてはかみつく。

「守護騎士のみんなは関係ない!」

「関係大ありです。だって八神はやてイコール守護騎士の主というのが管理局の見解なんですから」

 司郎はそう言うとムラサメに守護騎士たちの情報を表示させる。

「みんな、他の部署で優秀な成績を収めています。特にシャマルさんはもういなくてはならないほどに医療課に組み込まれていますし、シグナムさんも他の局員より有能です。ヴィータさんは教導官として複数の予科生の育成にも関わっていますから管理局は手放したくないでしょう。アインスさんも有能な秘書ですし、その主であるあなたならこの程度の事知ってて当然と思われるのは仕方ありません」

 つまり、守護騎士たちが本来自分に入ってくるはずの情報をシャットアウトしていたのか。

 有能な家族たちに囲まれる思わぬ負の一面と対面し、はやてはショックを受ける。

「知らなかったでは済まされないんですよ八神さん。課長という立場になったら。本来なら君から知ろうとしなければならなかったとお叱りを受けるんです。わかりますね?」

 司郎の言葉に「はい」と頷きはやては小さくなる。

 いちいちもっともな意見だったからだ。浮かれていた自分が恥ずかしい。

「うちは、うちはどうすればよかったんや」

 2年間、いったい何をしていたのか。そんな思いがはやての胸にじわじわと広がってくる。

「とりあえずクロノ君への謝罪ですね。よく知りもしないのに後ろ盾を頼んだこと。下手したらクロノくんの地位も危うくなるところでしたから念入りに謝罪してください」

 司郎の言葉に「わかった」と脳内でメモを取っていく。

「それから陸のお偉いさん方への根回し。これは海で散々やったでしょうからもう1回同じことをやるだけです。慣れてるでしょ? セッティングは俺がやります。伊達にいろんな課を回って弱みを握ってるわけじゃないんで」

 司郎の言葉に「え?」と声を上げるはやて。

「なんですか? そんな驚いた顔をして」

「手伝って、くれるん?」

 はやての言葉に「当たり前じゃないですか」と司郎は返す。

「この日のために俺は身体を空けてたんですから。八神さんが間違えられないなら、俺が代わりに間違います。間違った上で、正解をあなたに教えます。それが副官の役目ですから」

 その言葉にはやての視界がにじむ。

 驚く司郎に、「ごめん、ごめんな」と言いながら目からあふれる熱いものを抑えることができなかった。

 泣くのは今日でおしまい。そんな気持ちで体の中の水分を全部目から吐き出すことにした。

 

 

 

 ドアの前にいたシグナムとアインスは、中から聞こえてくるはやてと司郎の会話に胸が重くなるのを感じた。

「まさか我々のせいで主はやての成長を妨げていたとは」

「彼に言われるまで気づきもしませんでしたね。失策です」

 2人はため息を履き、己の無力さを実感する。

「もしも司郎が止めず海で機動六課を立ち上げていたらと思うと」

「ぞっとしますね。我々は管理局中から敵視されるところでした」

 アインスの言葉にシグナムが頷く。

「思えば、主に必要な失敗をする機会を奪ったのは我々守護騎士たちだ。若さゆえの万能感というのもあるが、今回の暴走に至ったのは我々のせいだろう」

「そうですね。管理局員なら知っていて当たり前のことを知らなかったのは、間違いなく我々が原因です。反省しましょう」

 顔を突き合わせ暗い顔をする2人。その2人に声をかけたのはもう1人の守護騎士だった。

「どうした、お前たち。こんなところで突っ立って」

「ザフィーラ」

 2人はザフィーラに話す。自分たちのせいではやてが体験するはずだった失敗をしなかったこと。それによって最悪の道を歩むところだったこと。

「だがそうはならなかったのだろう?」

 ザフィーラの言葉に「それはそうだが」と2人は思案顔だ。

「だったら俺たちは今まで通り主をお支えするだけだ。主をいさめ、叱る役目は司郎がしてくれる」

「しかし、彼だけにそんな負担をかけていいのでしょうか?」

 アインスの言葉に頷くザフィーラ。

「それが、信頼というものだ。主が間違っても誰かが止めてくれる。その誰かが心当たりのある相手だというのは幸いだな」

「ザフィーラ、お前」

「俺はとっくの昔に、闇の書の一件から司郎を信頼している。お前らは違うのか?」

 逆に問われ、2人は当惑する。

「それは、そうだが」

「私も、主が司郎と共にあることを望んでいます」

「ならばそれでいいではないか。何を案ずる必要がある」

 しかしそれは信頼という名の丸投げでは? と2人が思っていると1人の局員が3人に話しかけてきた。

「あ、あのー」

「ん? ああ。ゲンヤ・ナカジマのご息女だったな君は」

 シグナムの言葉に頷くギンガ。

「はい、ギンガ・ナカジマです。先輩……真木司郎はまだ部屋の中ですか?」

「ああ。まだ少し長くなりそうだ。すまない、もう少しの間借りるぞ」

「あ、だったら待ちます。今日は私の歓迎会で、先輩がいないと始まりませんから」

 そう言うと駅で人を待つようにちょこんとザフィーラの対面に座るギンガ。

 その時3人は耳を伏せ、しっぽを振る犬を幻視した。

(あれを、どう思う?)

(主の敵にはなりえないかと)

(むしろ抱き込むべきではないか? 司郎を慕う近い立場の人間というのは我々にも得難い人材だぞ)

 こそこそと内緒話をする守護騎士たち。それを見て首をかしげるギンガだった。




書き出してみるとほんと碌な組織じゃねえな機動六課。

【朗報】ザフィーラ、司郎君大好きだった
リィンⅡ「司郎がはやてちゃんを泣かせてましたー!」
ヴィータ「なにぃ⁉」
はやて「ちがうんやヴィータ。あれはうちが悪かったから」
アインス「いえ、悪いというなら我々も同罪です。主」
シグナム「主から成長の機会を奪っていたとは守護騎士としてあるまじきこと」
はやて「ひょっとして2人聞いてたん? うわー(顔真っ赤)」
ヴィータ「どういうことだおい」
シグナム「かくかくしかじかでだな」
シャマル「あー、それはなんというか」
ヴィータ「はやて、すまねえ!」
はやて「ええんやで、おかげで司郎君にはボロクソに言われたけどおかげでいろんなこと気づかされたし」
ザフィーラ「主、いいだろうか?」
はやて「どうしたん? ザフィーラ、シグナム、アインス」
シグナム「3人で話し合ったのですが――やはり、主の隣に立つのは司郎以外ありえないかと」
はやて「へ?」
アインス「失礼ながら部屋の中での会話、聞かせていただきました。主の代わりに間違い続ける道を選ぶと言った彼の決意はあっぱれであったと思います」
ザフィーラ「つまり、主の隣で常に支える人間は司郎以外ありえないかと」
はやて「な、なにいっとんねん⁉ なあ、ヴィータ」
ヴィータ「あたしはいいと思うぜ。ていうかもう認めてる」
はやて「ヴィータ⁉」
シャマル「だったらわたしもー」
はやて「シャマルまで⁉」
アインス「あとは主が覚悟を決めるだけです。さぁ、さぁ、さぁ!」
はやて「そ、そんなこと言われても……うちにも心の準備があるんやー!」(脱兎)
シグナム「まだ早かったようだな」
シャマル「そうね」

ギンガ(先輩、遅いなぁ)
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