光が強くなれば、陰の実力者はより際立つ。ので、僕が天に立つ 作:あばなたらたやた
いつものように救出任務だ。
血と霧に包まれた廃村の広場。月光が薄く差し込む石畳には、倒れた魔族から流れ出た黒い血が静かに染み込んでいく。鉄の匂いと生々しい肉の臭いが混じり合う中、枯れ葉が風にざわめいていた。
少し離れた廃屋の影では、アルファに導かれた少女たちが膝を抱えて震えている。その微かなすすり泣きが広場に響く一方、シドたちは捕らえた敵を中央に並べさせていた。
縄で手足を縛られた三人の人類種の奴隷商人と二人の魔物が跪いている。商人たちは青ざめ、額に汗を浮かべて震え、肩を深く斬られた魔物は黒い血を滴らせて荒い息を吐いていた。もう一人はゼータに喉元を切られて声が出せないまま、憎悪と恐怖の入り混じった瞳で睨みつけている。
シドはシャドウの仮面の下で静かに歩み寄った。
「奴隷は助けた。後は情報の回収……拷問?」
言葉にしつつ、シドは少し首を傾げる。拷問のやり方など映画や小説で見た残酷なシーンの記憶しかなく、痛みを最大限に与えつつ死なせずに情報を引き出す方法など皆目見当もつかない。
ゼータが暗闇で金色の瞳を妖しく光らせ、軽く笑った。
「主、私に任せて」
「ああ、頼む」
ゼータは静かに頷くと、チャクラムを指先で回しながら捕らえた者たちへ近づいた。一番震えている商人の顎を掴んで顔を上げさせる。
「まずはお前からね。ゆっくり、丁寧に聞かせてくれる?」
甘く、しかし底知れぬ冷たさを帯びた声が響いたその時、シドの魔力探知に大量の反応が引っかかった。遠方から、統率された動きで真っ直ぐに近づいてくる。聖教特有の、強引に押し付けてくるような純粋で信仰の色が濃い魔力だった。
「ゼータ」
シドの低い声に、ゼータは耳をピンと立ててすぐさま横へと戻る。アルファも剣を構え直し、静かに背後へ位置取った。
カチャ、カチャと、霧の向こうから鎧の擦れる統率された足音が響く。やがて姿を現したのは、中央に立つ豪華絢爛な白と金の聖女衣装を纏ったウィクトーリアだった。
黒い目隠しと風に揺れるアッシュブロンドの金髪が月光に映え、純白のドレスが霧の中で淡く輝いている。
その背後には、フルフェイスの騎士鎧に身を包んだ信者たちが三十人ほど整然と並んでいた。槍と剣を構え、ピタリと前進を止める。ゼータが低く呟いた。
「異端審問部隊テンプラー……そのリーダーが聖女様とはね」
金色の瞳を鋭く向け、ゼータの耳がわずかに伏せられる。ウィクトーリアは静かに手を上げ、信者たちに停止を命じると、落ち着いた声で告げた。
「皆さん、投降してください。私達と話し合いましょう。皆さんはまだ正しい在り方に戻れます」
「有難い説法だね。誰かに与えられた役割の中で人を救うのは楽しいかい、聖女様」
ゼータが吐き捨てるように笑うと、ウィクトーリアは目隠しの下から慈愛に満ちた視線を向けた。
「貴方はそう言うでしょうね、私の導きの友人さん」
「イカれた狂信者め、気色悪い」
ゼータが露骨に嫌悪感を剥き出しにする中、ウィクトーリアは両手をゆっくりと広げた。白と金の聖衣が光を帯び、周囲の空気が震え始める。信者たちの鎧からも青白い光が漏れ出した。
「友人との話し合いは後です。まずは邪魔者たちの排除を」
ウィクトーリアの言葉に合わせ、シドは紫黒の魔力を全身に巡らせて加速の準備を整える。ゼータはチャクラムを両手に構え、アルファは静かに息を整えた。
「私たちが上、皆さんは下です」
静かな宣言に対し、ゼータは不敵に笑みを浮かべた。
「いいの? 高いところから落ちた方が痛いよ?」