■光が強くなれば、陰の実力者はより際立つ。ので、僕が天に立つ   作:あばなたらたやた

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二話

 

 屋敷の一室で、スープを飲み終えて少しずつ血色が戻ってきたアルファと、シドは暖炉の前で向き合っていた。

 

「シャドウガーデンを大きくして、ディアボロス教団を壊滅させる。そのためには仲間を集めて、拠点を増やして……資金や人手も必要だけど」

 

 熱意に満ちているものの具体性に欠ける言葉のあと、シドは顎に手を当てて首をかしげた。

 

「正直、どうやって組織を大きくすればいいのか分からないんだ。僕、魔剣士としてはそこそこ自信があるんだけど、それ以外はあんまり……」

 

 視線を宙に泳がせるシドは、剣と魔力の扱いに天才的な才能を持つ一方、組織作りや戦略立案となると頭の中が途端に空白になる。単純に「敵を倒せばいい」と考えるのが彼の性分だった。

 

 その様子に、アルファはくすっと小さく笑う。彼女は碗をテーブルに置き、からかうような口調で言った。

 

「あら、先が思いやられるわね。あなたって、本当に剣を手に持つ以外に取り柄がないのね」

「はは……確かにその通りかもしれない。でも、だからこそ君に頼りたいんだよ、アルファ。僕一人じゃどうにもならないって分かってるからね」

 

 素直に頼るシドに、アルファは目を細めてほんの少し感心した様子を見せる。彼女は立ち上がり、暖炉の火を見つめながら静かに言った。

 

「エルフの里にいた頃、私は仲間たちと協力して狩りや交易を行い、里を守る策を練ったりもしたわ。教団に捕まる前は、それなりに頭を使う役割も担っていたのよ」

「へえ……」

「だから、組織のことなら私に任せて。あなたは剣を振るうのが仕事でいいわ。私が仲間を集め、情報を整理して、シャドウガーデンを形にしてみせる。そしてそのための武力として貴方は動く。どうかしら?」

 

 その提案に、シドの顔がぱっと明るくなる。

 

「本当? それなら心強いよ。細かい計画とか考えるのは苦手だから、アルファがいてくれるなら、僕、思う存分剣を振るよ」

「ふふっ、単純ね、あなたって」

 

 軽くシドの肩を叩いてから、アルファは微笑んだ。

 

「でも、その単純さが頼もしいわ。いいわよ、シド。私が頭脳で、あなたが剣。二人でディアボロス教団を追い詰めましょう」

 

 シドは勢いよく立ち上がり、目を輝かせて拳を握る。

 

「よし、決まりだ! 僕とアルファで、シャドウガーデンを最強の組織にするぞ! 教団なんて、僕の剣で一掃してやる!」

「その意気よ」

 

 アルファは頷きつつ心の中で「この人、大丈夫かしら」と苦笑しつつも、シドの純粋な情熱と桁外れの強さがあれば自分が補佐する限り道は開けると確信していた。

 カゲノー家の屋敷に慌ただしい足音が響き渡ったのは、その日の夕暮れ時だった。

 自室で剣の手入れをしていたシドの部屋へ、使用人の一人が息を切らして飛び込んでくる。

 

「シド様! 大変です! 森の近くで野盗に襲われたらしく、村から重傷者が運ばれてきました。一刻を争う状態です!」

 

 シドは即座に剣を持つ準備をしたが、重傷者と聞いてふと立ち止まった。野盗なら戦えばいいが、治療となると話は別だ。彼は踵を返し、「分かった。僕が診るよ。すぐにここに運んでくれ」と指示した。

 

 数分後、血まみれの若い男が広間の担架に運ばれてくる。傍らでは村人の女が泣き叫んでいた。

 

「お願いです、助けてください! このままじゃ死んじゃう!」

 

 傷は深く内臓にまで達している可能性が高いが、シドの心は驚くほど冷静だった。ちょうど部屋に入ってきたアルファが状況を見て目を細め、近づいてくる。

 

「シド、これは……あなたに治療できるの?」

「分からないけど、やってみるよ。僕の魔力操作、戦うだけじゃなくてこういう時にも使えるだろうから」

「さすがね。なら、私が手伝うわ。何か必要なものがあれば言って」

 

 シドは男のそばに膝をつき、両手を傷口にかざした。戦場で敵を切り裂く鋭さを持つ彼の魔力は、驚くほど精密に制御されていた。

 

 目を閉じ、指先から淡い青白い光を溢れさせると、それは細い糸のように傷口の周囲を縫うように動き、血を止め、裂けた皮膚を塞いでいく。

 

 周囲が息を呑む中、額に汗を滲ませたシドは全力を注ぎ続け、やがて傷は完全に塞がった。

 まだ意識はないものの呼吸は安定し、顔色も戻りつつある。シドは疲れ果てた様子で立ち上がり、小さく微笑んだ。

 

「……なんとかなったみたいだ」

「お疲れ様、さすがね」

 

 アルファが感心したように手を叩く。駆け寄ってきた村人の女が涙を拭きながら感謝の言葉を繰り返すと、シドは照れくさそうに頭をかいた。

 

「僕一人じゃ無理だったよ。アルファがそばにいてくれたから、落ち着いてできたんだ」

「でも、これで分かったわ。あなたの魔力は治療にも使える。シャドウガーデンの目的――保護と治療――にぴったりね。これを活かせば、もっと仲間を集められるかもしれない」

「そうだね。戦うだけじゃなくて、助けることもできるなら、僕たちの力はもっと大きくできる。ディアボロス教団に立ち向かうためにも、こういう力を磨いていこう」

 

 夕暮れが屋敷を茜色に染める頃、シドとアルファは広間の窓辺に並んで立っていた。

 まだ疲れの残る手で窓枠に寄りかかりながら、シドは考えを巡らせる。

 

「そうだね。ディアボロス教団を壊滅させるのが最終目標だけど、それだけじゃ足りない。今日みたいなことがまたあれば、僕たちはただ戦うんじゃなくて、助けることもできるはずだ」

「その通りよ。私たちが目指すべきは闇を打ち砕くだけじゃない。シャドウガーデンの理念をちゃんと定めましょう。あなたが今日見せてくれた力と、私たちの決意を込めて」

 

 シドは少し照れくさそうに笑い、真剣な表情で語り始めた。

 

「まず『保護』。教団みたいな存在が人を傷つけ、命を奪うのを許さない。僕たちは弱い者を守り、闇に隠れた脅威から人々を救う盾になる。剣を持つのは、敵を倒すためだけじゃなく誰かを守るためだ」

「次に『治療』。今日みたいに傷ついた人や魔力暴走で苦しむ人を癒す力を持つ。戦うだけじゃなく命を繋ぐこともシャドウガーデンの役割だ」

「そして『支援』ね」とアルファが引き継ぐ。「保護と治療だけじゃなく、助けた人たちが再び立ち上がれるように支えること。教団に全てを奪われた私みたいな者が、また希望を見いだせるように力を貸すの」

 

 シドは力強く頷いた。

 

「その通りだよ、アルファ。保護して、治療して、支援する――この三つが揃えば、僕たちはただの戦闘集団じゃなくて、本当に人々を救う組織になれる」

 

 アルファは隣に立ち、窓の外に広がる夕陽を見つめながら言った。

 

「貴方がいなければシャドウガーデンは生まれなかった。この三つの柱を掲げて、私たちは前に進みましょう」

「君がいてくれるから、僕も迷わずに進めるよ。保護、治療、支援――これがシャドウガーデンの魂だ。ディアボロス教団に立ち向かうためだけじゃなく、誰もが安心して生きられる世界を作るために」

 

 二人は夕陽に照らされながら決意を新たにする。

 暖炉の火が静かに揺れる部屋の中で、闇を切り裂く剣と光を灯す癒しの手、そして希望を支える絆を象徴するシャドウガーデンの理念が、しっかりと根を張り始めたのだった。

 

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