■光が強くなれば、陰の実力者はより際立つ。ので、僕が天に立つ 作:あばなたらたやた
カゲノー家の庭園には、春の陽光が木々の隙間から差し込み、穏やかな風が花の香りを運んでいた。
小さなテーブルの上には紅茶の入ったカップと焼き菓子が並び、シドは貴族らしい簡素な服を着て姉のクレアと向かい合っている。
クレアは優雅にカップを持ち上げ、紅茶を一口飲むと柔らかな笑みを向けた。
「ミツゴシ商会を通じて治療用の魔力器具を広めるなんて。貴族の集まりでその話を聞いてびっくりしたのよ。多くの人を助ける技術を開発するなんて、お姉ちゃん誇らしいわ」
「ありがとう、姉さん。でも、僕一人じゃ何もできなかったよ。技術とか商売とか、僕にはさっぱりだからさ」
「ふふ、貴方らしいわね。でも、カゲノー家の名がこんなに広まったのは事実よ。貴方が次代の領主としてしっかりやってる証拠じゃない」
シドは内心で少しドキリとする。表向きは商会と医療技術の成功による繁栄だが、その裏でディアボロス教団との戦いや装備開発が進んでいることなど、クレアは夢にも思っていないだろう。
「これも全部、アルファが手伝ってくれたおかげだよ。彼女がいなかったら、僕はきっと剣を振るうだけで終わってた」
「アルファって、貴方が拾ってきたエルフの女の子よね。今はメイドをしている子。優秀のようね、商会を切り盛りしてるのが彼女だって貴族の間でも噂になってるわよ」
「うん、彼女は頭がいいんだ。僕が思いつかないような計画を立ててくれるし、技術開発もまとめてくれてる」
「エルフってだけで珍しいけど、貴方がそんなに信頼してるならきっと素敵な子なのね。いつか私にも紹介してちょうだい。お姉ちゃんとして、弟の大事な仲間には会っておきたいわ」
アルファが剣で教団員を切り刻む姿をうっかり想像してしまい、シドは引きつった笑みを誤魔化した。
「う、うん、そのうちね。彼女、忙しいからさ。でも、絶対いい人だよ」
「貴方がそう言うなら信じるわ。シドがこんな風に成長してくれて、お姉ちゃん本当に嬉しい。昔はただ剣を振り回してるだけの弟だったのに、今じゃ人を救う立派な貴族よ」
クレアは紅茶を置き、少し真剣な口調で言葉を継ぐ。
「ねえ、シド。大きな力を持つ者は、気高き精神こそ大切なのよ。今の貴族ってそれが欠けてる人が多すぎるわ。他人を陥れることや自分の利益ばかり考えてる。そんな中で貴方は綺麗に育ってくれた。貴方のそのまっすぐさが本当に眩しいの」
「気高き精神かぁ……僕、そんな大層なもの持ってるつもりはないけど」
「貴方は気づいてないかもしれないけれど、ミツゴシ商会で治療器具を広めて領民を助けている。それって力を使って誰かを救おうとする気高さだわ。力があるのに他人に任せて協力できるのも、アルファって子を信頼してちゃんと感謝できているからよ」
シドは姉の言葉にじっと耳を傾け、やがて穏やかに笑った。
「姉さんにそう言われると、なんか安心するよ。僕、ただ皆を守りたいって思ってるだけなんだけど、それが気高さなら嬉しいな。アルファにも伝えとくよ、姉さんが褒めてくれたって」
「真面目に、まっすぐに進む。それが貴方の強さだし、私が好きなところよ。昔からそうだったじゃない。剣の稽古で転んでもすぐ立ち上がってたし、今だって同じよ。カゲノー家がこんなに評判になったのも、貴方のその気持ちが根っこにあるからだと思う」
「姉さんに褒められたら、負けられないしね。これからも頑張るよ、姉さん」
クレアは満足そうに頷き、紅茶をもう一口飲んだ。
庭園のテーブルに置かれたカップからほのかに湯気が立ち上る中、シドは心の中でアルファとシャドウガーデンのことを思う。姉には隠した裏の戦いの日々を支える彼女の存在こそが、今の自分の誇りだった。
菓子皿のクッキーが少し減り、春風が花びらを揺らす。穏やかな時間が流れるカゲノー家で、シドは温かな笑みを浮かべながら紅茶のカップを静かに傾けた。