転生勇者のその先は……。   作:カズあっと

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10話 空はお日様を抱いて。

 

 ——。

 

 唇から溢れた名前が朝の中へ溶けてゆく。

 差し込む陽射しに眼を細め、ウンと唸って伸びをする。タ、タ、タと、忙しない足音。

 そしてガチャリと部屋の扉が開かれた。

 

「こらー、そろそろ起きなさいお寝坊チェレステ!」

 

 たった一月ほど離れていただけなのに、とても懐かしい声だった。

 

「はーい、お母さん、おはよう!」

 

 起き上がったチェレステは、元気な笑顔を見せてやる。

 

「あら、自分で起きられたのね。感心じゃない」

 

 口をポカンと開けながら、ちゃんと褒めてくれるお母さん。ゆっくりと、近付いて来ている。

 

「当たり前じゃない。私はもう十二歳なんだから」

 

 得意気に言ったチェレステの瞼へ、指先が触れた。

 

「怖い夢でも見たのかしら? 大丈夫?」

 

 拭われた涙。頬を撫でてみると、まだ少しだけ濡れていた。

 

「涙なんて、ただの生理反応だよ。それに、悪い夢なんて見てないよ。良い夢、とっても良い夢」

 

 チェレステの前髪を掻き上げて、手のひらを当てる母。その前髪も揺れている。二人は同じ、空の色。

 

「うん、熱はないわね。それなら、さっさと起きて顔を洗ってきなさい」

「起きてますぅ〜」

 

 唇を尖らせた娘から、母の身体が離れていった。

 

「目覚めただけでは起きたとは言いません。お出掛けするのでしょ? お友達と」

 

 ピシャりと言われてしまい、チェレステはウンと頑張り立ち上がる。

 お母さんがさっきまで立っていた床は、まだ少しだけ暖かかった。

 

 

 

 窓は大きく開いていて、風がそよぐ。

 食卓には椅子に座った大きな身体。

 

「おはよう、チェレステ」

 

 新聞から視線を上げた金色の瞳。

 

「おはよう、お父さん」

 

 視線を合わせた同じ色。

 二人はにっこりと笑い合う。

 朝の挨拶は、それだけで充分だった。

 

 テーブルにはサラダとパン、ベーコンと一緒に焼かれた目玉焼きが三つずつ乗っている。

 

「チェレステ、お水持って来て頂戴」

「はーい」

 

 スープ皿を運んで来るお母さん。

 香辛料を効かせた野菜たっぷりのスープが三つ、お盆には並んでる。

 いつもの匂い、いつもの香り。

 それがチェレステには少しだけ懐かしい。

 

 グラスへとお水を注いだチェレステが席に着く。

 父と母、二人も既に着いている。

 ほんの一月ほど、離れていただけの景色。

 

「「「いただきます」」」

 

 声が三つ、重なった。

 

 

 

 たったそれだけなのに、何でもない朝食なのに。

 チェレステには楽しくて堪らない。

 カチャカチャと、楽しい旋律が紡がれる。

 

「待ち合わせは駅だったか? 港なら、送って行くんだが」

 

 眉を下げたお父さん。お口にソースが付いている。

 

「心配性なお父さん。一人でも大丈夫だよ」

 

 今日は友達——フィオーレ達が遊びに来てくれる日で。お父さんよりも、お母さんよりも先に出る。

 チェレステは入学後初の大型連休を、こうして里帰りに当てていた。今日がその二日目だ。

 

「貧乳の産地を視察に赴くのも、貴族の務め。遊びにに行きますので、案内なさい!」

 

 という公爵令嬢様の鶴の一声により、暇を持て余した級友達が大挙して、遊びに来る事となっていた。

 チェレステ達の故郷は、王都から離れた島にある。

 海があって山があり、美味しい食べ物も楽しい場所も沢山な、自慢の故郷があった。

 

「気をつけて行くんだぞ。お前はそう丈夫でないのだから」

 

 顰めっ面が可笑しくて、娘はクスクス笑いだす。

 だってまだ、お口がソースで汚れてる。

 

「もーう、小さな頃のままじゃないんだよ。ごちそうさま。そろそろ出るね」

 

 もう髪も高く括ってる。

 真っ白なワンピースだって着ていた。

 腕に、寄り添いあう柴犬とトイプードルが描かれた腕章も巻いていて。

 

 空は青く、晴れていた。

 

「歯磨きを忘れずに。ソースも落としてね」

 

 いつも綺麗なお母さん。でもいつも一言多い。

 

「わかってるって!」

 

 プリプリ怒ってチェレステは、洗面所へと向かう。

 ペロリと舐めた唇は、お日様の味がした。

 窓からは、恵み深き緑が映える。碧い海。

 

 大好きな家族のいる故郷。

 十二年、ずっと暮らしてきた場所で。

 お前は、お前のままでいい。そう優しい人に、言って貰えた場所だから。

 

 だからやっぱり、友達に自慢したい。

 自分の好きを、一緒に好きになって貰いたい。

 チェレステはそう、密かに意気込んでいる。

 

 やがて、タ、タ、タと軽快な足音を立て、チェレステは玄関へと向かった。

 

「こら! お転婆! はしたない!」

 

 お母さんは怒りっぽい。

 

「はははっ、元気なのは良い事だが、気を付けるんだぞ」

 

 お父さんは心配性。

 

「いってきます」

 

 私はチェレステ(空色)

 そんな両親が大好きな、ただの女の子。

 

「「いってらっしゃい」」

 

 二つの声に送りだされて少女は外へ出た。

 眩しい朝日(ラ アルバ)に瞳を細め、チェレステは歩み出す。

 

 空は朝のお日様を抱いて、青く澄んでいた。

 

 

 

 

 

 





 お読みいただき、ありがとうございます。

 おおよそ14300文字、短編程度の尺でした。
 視点、人称が変わるので細切れにしましたが、読めるものでしたでしょうか? お楽しみ頂けたなら幸いです。
 評価とか感想なんか頂けると喜びます。感想返しはしませんが、活動報告や作品で返せればと。
 では、また別作品にてお会いできれば。
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