チェレステは長話に続く長話という困難を乗り越えて、誓いの儀のついでで行われる洗礼を受けている。
実に長い戦いだった。長話こそを目的としている大人は、存外に多い。気持ちが良い、ものらしい。
比べて洗礼はサクサクと進んでいく。
参加者である十二歳の数は、来賓よりも数多い。長い時間をかけない為の配慮がある。
洗礼は、主からの祝福を形にしたものでもあった。
「汝、チェレステ。無垢なる者よ。父と子と聖霊の御名において——」
司祭様がチェレステの頭に触れれば、祝福の鐘が鳴らされる。洗礼を授かると、身体に聖痕が刻まれた。
契約の証として。
どこにそれが刻まれて、どんな形状であるかは個人差があった。
それを確認する為に、洗礼を受ける子供に両親が同伴するのも珍しい話ではない。非常にデリケートな場所に現れる可能性もあるので。
「な、なんだと!」
お髭を震わせて、司祭様が叫んだ。
聖痕には加護が宿るとされている。
身体が少し丈夫になったり、目がちょっとだけ良くなったりという、ささやかななものばかりだが。
それらは単純な聖痕で、人それぞれであった。
だが稀に、よく知られる聖痕が、非常にわかりやすい形で発現する事がある。
チェレステの、額に浮かび上がりし証の様に。
「……聖女の証」
そういった証を有する者は、強い力、特異な技能を有する可能性があるともされている。
「あ、あなた。なんで……」
目を見開いた母と。
「おぉ、おぉ、なんということだ……」
天を仰ぐ父。
二人はお互いを、抱き合う。壇上にいるチェレステからは、二人の様子が見えている。
聖女などの特別な資質は世界を変えることも、世界を護ることも可能なもの。
故に国家は彼等を保護し、導く。
誤らぬ様に、可能性を奪わぬ様にと。
「こ、この街から、聖女候補の証が出たぞー!」
大騒ぎとなった。
聖女に限らず、大きな力を持つ可能性を持つ「候補者」は国家により保護される事となる。
世界を正しく導くために。その為には、教育が必要となった。
そして資格を持つ事は、大変な栄誉であるともされていた。
「王都の学園に連絡だ!」
慌てふためく人々がいれば。
「街を上げて、支援をするぞ!」
喜びに湧く人達がいる。
司祭様達が、街の偉い人達が。お母さんが、お父さんが。
チェレステを中心にして、喜んでいた。
「……なんでさ」
こうして、ささやかな幸福を楽しみにしていた元勇者。
聖女であり、魔王でもある母親から産まれた男。
その転生体である少女チェレステは、新たな「聖女候補」となった。
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