「チェレステさん! 決闘ですわ!」
金髪縦ロール。典型的お嬢様感を醸し出す少女が宣言をする。大きく胸部装甲が揺れていた。デカイ。
「望む所です! フィオーレさん! 負けませんからね!」
チェレステも薄い胸を逸らした。揺れはしない。
「私の得物は、これですわ!」
「ならば、私はコレを使います!」
先に手を伸ばしたフィオーレ。彼女が掴んだのは滑らかな輝きを放つもの。輝ける白銀にも似た一本の。
新入生達からは、歓声が響いた。
「す、凄い。あれは——!」
絹だった。絹の反物を彼女は抱えている。
「あっちの子は……」
対してチェレステは、光沢のない木綿の切れ端を手に取っていた。
茶色く染まった地味な色。けれどもサラサラとした手触りをしている。
「おーっほっほっ! そんな地味な素材で、可愛いワンちゃんぬいぐるみが作れるとでも?」
高飛車に笑ったフィオーレが、豊満な胸の谷間へと指を入れ——。
「見なさい、我が家のトイプーちゃんを!」
その「写真」を取り出した。
映し出されているのは白い犬。可愛いく赤いリボンの結ばれた、フワモコキュートなまん丸お目目。
可愛らしい、トイプードルであった。
「な! なんだと!?」
衝撃を受けたのはチェレステだ。トイプードルは結構どこにでもいるものの、取り出された絵姿、否、写真。
「ま、まさか都会では……」
恐れ慄くチェレステであった。
「トイプー愛は、淑女の嗜みよ」
それは知っている。実家のご近所さん達も飼っていた。触らして貰った事だってある。
「そっちじゃなく、フィオーレさんは写真をお持ちなのですね。もしかして、高度技能者なのですか?」
チェレステが慄いたのは何も可愛らしいトイプードルちゃんにだけではない。
場面を切り取り形を残す「写真」が、非常に貴重な代物だった為である。
写真というものは珍しい。高度な技能を用いた複合術式により作られる物であるからだ。
場面を切り取り形に残す。そんな技術は勇者であろうが、聖女であろうが、はたまた魔王であろうが。
容易に用いられるものではなかった。
「ふふん。流石は田舎者ですわね! ですが、私がではなくてよ? 写真を撮れる者とコネのある貴族、ロサ・ギガンティア公爵家にたてついた事、後悔するがいいですわ! おーっほっほっほ!」
そう。フィオーレは聖女「候補者」にして、公爵令嬢。つまりはかなり偉い人の娘さんである。
零細企業と教員の娘であるチェレステとは、資産とか胸部とかで持てる物には差があった。
せっかくだから、友達を沢山作りたい。
そんな願いを持って半ば無理矢理に王都の学園へと送り出されたチェレステであるが、その初日。この入学式後のホームルームで失敗していた。
「柴こそが、至高なのです!」
勇者だった前世での友達。その犬種であった。
入学式後の教室で友達作りを頑張ろうとしたチェレステであったが、ワンちゃんトークに花を咲かせていたフィオーレ達のグループに噛みついた。
「あんな、ウンチみたいな毛色のワンコが至高ですって? 尊い白き究極と並び立とうとは愚かな!」
フィオーレはトイプードルを褒め上げるために他の犬種をあげつらい、特に柴犬は汚れるとウンチみたいだと嘲笑っていた。
公爵令嬢としてあるまじき、低俗さであった。
「トイプードルなんて、自分のウンチに身体を擦り付ける、汚れたワンコの癖に!」
チェレステは激怒した。
友達の毛色をバカにされたのだ。
つい、喧嘩を売ってしまうのも無理はない。
無理こそないのだが——。
「ならば、今年の新入生の中で最も支持されたワンコこそが、最強ですわよ!」
そのせいで、この決闘騒ぎとなっている。
「望むところです! 私の柴推しは、負けません!」
それぞれが推しワンコのぬいぐるみを作り、学園新入生の中で決を取る。
より多く愛でられた方の勝ち。
「庶民のチェレステさんごときに、お裁縫の心得がありまして? 私、四つの頃から嗜んでおりますわ」
圧をかけてくる、多分きっと悪役貴族令嬢。
だが、チェレステが挫ける事はない。
「私だって、八つの頃から練習してるもん!」
前世の頃からだ。友達のいない勇者は暇つぶしのために王様に頼み込んで、教えて貰っていた。
穴だらけ、傷だらけの太い指先で教えて貰った、針と糸での手芸。
お転婆をやめなさいと叱られて、女の子らしい業を覚えなさいと母に言われたチェレステは、裁縫の業により、母を黙らせている。
父は天才だと褒めてくれていた。
当然だ。習った事もない技を身につけているのだから。だがそれは、本を読んだとかで誤魔化した。
チェレステは転生者特権を駆使し、闘う。
「生意気な貧乳め……」
低い声で唸るご令嬢。彼女の中では貧乳が罵声のようである。
元勇者であるチェレステは成長期前なので、貧乳は当たり前であった。別に気にするものでもないし。
おっきなフィオーレの方が、色々とおかしい。
「牛みたいなおっばいの癖に! 将来垂れるよ! 柴犬の毛色は、ウンチなんかじゃないもん!」
売り言葉に買い言葉。教室は盛り上がる。
場を熱狂が支配していた。
最強のワンコを決める熾烈な決闘が、ここに始まらんとする。
「はい、はい。席に着いてね新入生のみんなー。決闘がしたいなら、後で届出の説明もするからね。まずは、ホームルームを終えましょう」
だが無情な教員の命令により、一旦お預けとなってしまう。
新入生達は子供らしく元気よくお返事し、席に着く事となった。
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