「おーっほっほっほ! フィオーレさん、やはり柴犬は最強無双。まぁトイプードルちゃんも頑張りましたが、やはり私の勝ちですね!」
チェレステは得意の絶頂にいる。
薄い胸を逸らし、スカートの裾をはしたなくも翻しながら勝利のポーズを決めていた。
「くっ! こ、このド貧乳めが……」
唸りをあげるフィオーレの前で。
「これからなんですー。成長性に期待します!」
最近は日頃から走り回ったりしてるので、太腿は健康的である。まだ、筋肉はあまりないながら。
「チェレステちゃん、すごーい」
「フィオーレさんも、よく頑張った!」
級友達の拍手喝采を浴びて、チェレステは更に調子に乗っていく。
こんな経験、今まではなかった。前世でも、今の人生でも。
チェレステはもう十二歳となるが、一度も学園に通えていなかった。
幼少期から身体が弱かった為である。
何故か無駄に枕元に立った自称女神からの情報と、前世で培ってきた勇者頭脳により肉体に魂が耐えられていないのだと推測していた。
通えないならば、友達の作り様もないものだ。
ようやく最近は身体が馴染み、体調も安定してきている。
「クフフ、柴犬いぐるみに、平伏すが良いわっ!」
だから余計に調子に乗ってしまうのだ。
「平伏しているでしょっ!」
フィオーレはムチムチとした太腿を見せながら膝を揃え、床へと着けて揃えていた。
正座である。
その背中は、ワナワナと震えていた。
王国では代表的な負け犬ポーズ、土下座をしているのだから仕方がない。
「ほーっほっほっ! 負け犬の遠吠えが、気持ち良いですわー!」
元勇者であったチェレステも十二歳。女の子をもう十二年もやっている。
お嬢様言葉だって、お手のものだった。
「こんな屈辱……。くっ、殺せ!」
負け犬の名札をつけたフィオーレは、木綿の柴犬いぐるみと絹のトイプードルぬいぐるみを抱えていた。
「やーですー! 生き恥晒すがよいわー」
チェレステも同様であった。お互いに贈りあっている。決選投票、その開始と共に。
「ぐぬぬぬぬぬ……」
縦ロールも揺れている。おっきなお胸と共に。
「たーのしー!」
勇者であった頃には味わえなかった気分である。
あの頃に競った相手は皆、文字通りに殺してしまっていた。
「はいはい、着席ー。フィオーレさんも立って、着席よー」
ところが、入って来た担任によりその絶頂は中断される。
ホームルームの時間であった。
チェレステも机へ向かう。フィオーレとは隣同士であった。
「はい。じゃ、改めて本日の決闘結果の発表をしまーす」
先生は審判も務める者である。既に結果は見えているのだが。
今回の決闘は投票だ。数多く、ベネを獲得した方が勝つ。
その数を追っていけば、勝敗など見えていた。
「本日の、柴犬VSトイプードルの結果は……」
だからこそ、結果発表の前に勝敗は決している。
フィオーレは決闘開始時に「トイプードルちゃんが負ける様ならば、土下座でもなんでもしてさしあげますわー」とまで言っていたので、まさに有言実行でしかなかった。
流石は公爵家ご令嬢。
見た目はふざけた金髪縦ロール牛乳娘の癖に、潔いお嬢様であった。
「柴犬ちゃんです! おめでとー!」
「チェレステちゃん、おめでとー!」
「ぶーい!」
ドヤ顔でピースサインを見せるチェレステだ。
身体は子供、頭脳は大人。とはとても思えない態度であった。
だが彼女は転生者。頭脳は結構、えげつない。
「そしてついでに、我が学級のマスコットは柴犬ちゃんに決まりましたが——」
そう、この対決。ついでだから学級マスコット選定に使おうという謎提案が、決闘の詳細調整中に決まってしまったのだ。
学級カラーは大事だからって。
随分とノリの良い教師と生徒達であった。
ワンコぬいぐるみ作成期間を含め、期限は七日間。
その間に推しワンコをアピールし、本日の決戦投票にて決を取る。チェレステには勝算があった。
「あの様に、トイプードルちゃんとペアとしてのマスコットに決定しましたー!」
教室の後ろの方。投票箱のその横に、ソイツらは置かれている。
柴犬とトイプードルの巨大ぬいぐるみが。
等身大どころでない大きさをしたものが。
「フィオーレさんのトイプードルちゃんも可愛いし、当然だよね!」
「せっかくだもんねー」
賞賛は勝ったチェレステだけでなく、フィオーレにも向けられていた。
「と、当然ですわ!」
照れているのか、真っ赤なお顔であった。
「でも、勝負は私の勝ちでーす。フィオーレさんも、頑張ってねー」
この投票、要するに選挙戦というものだ。
勇者になった前世では参加していないが、選挙というものには知識があった。
まず、大抵の勝負ごとには勝敗の条件の他に幾つかのルールが設けられ事となる。
そして今回の決闘は裁縫だ。
学園での決闘であるからして、厳正な定めにおいて素材も学園提供のものとなっている。
初日から置かれているのは、淑女の嗜みというものだった。
高級な絹と、割と安価な木綿。同量が提供されている。なんて事はない。学園予算は有限だった。
そしてフィオーレはお高い絹を選び、チェレステが選んだのはお安い木綿である。
この時点でチェレステには勝ち筋が見えていた。
勇者としての勝負勘によって。
彼女が見出した必勝の道とは——。
そう。贈賄である。
賄賂とも言い、買収とも呼んだ。
だがそれは、選挙において最も有効な勝ち筋だ。ルールで禁止されていないのならば、何も問題はない。
「いやー、それにしてもチェレステちゃんのお裁縫、すごいよねー」
級友達はチェレステ謹製の柴犬いぐるみを抱えている。何名かはトイプードルちゃんも一緒に抱えているが、その数は圧倒的に少なかった。
「先生にも教えなさいね。教員命令ですよ」
先生もまた、柴犬いぐるみの所有者だった。
「ほんとー! 後で、私達にも教えてね!」
「私にも、教えなさい!」
木綿は安価で沢山ある。だからこそ象徴となる一体を初日に作成したチェレステは、二日目からは手頃な大きさの柴犬いぐるみを量産し始めた。
「もっちろーん!」
満面の笑みを浮かべるチェレステであるが、その下では冷徹な勇者としての計算を走らせたていた。
——もしかして、これ切っ掛けで皆と友達になれるんじゃない?
「わーい!」
初日に巨大トイプードルぬいぐるみを作成したフィオーレは流石だが、飾り付け、見せつけるだけではまだ甘い。
所詮は十二歳の小娘、人生経験はこちらが上よ。などとチェレステは内心で嘯いてもいたものだ。
作成した柴犬いぐるみを手作りのお菓子と共に配り回って「えー、柴犬を、我が家の柴犬を宜しくお願いしまーす」などとでも言って回ればそれだけで、チョロい女児達などイチコロだった。
まさに、前世では使い様のなかった大人の男の手管である。有頂天にもなろう。
途中でプレゼント作戦の効果に気付き、フィオーレが同様の手管を用い始めても、もう遅い。
「ふふん。戦いは、数なのです!」
とても民主的にチェレステは勝利した。
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