東方混迷郷   作:熊殺し

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やっと終わりです風神録編


風神録86話

幼いころの出来事。

それは時に夢となって不意に記憶の奥底から出てくる。

田舎の田園風景に、真夏の青空と入道雲。

誰も居ない道を歩く鮮やかな緑色に彩られた髪を伸ばした赤いランドセルを背負う小学生の女の子。

いや、これは自分だ。

小学生の女の子、東風谷早苗はアスファルト舗装されていない道を歩いていた。

学校は山奥にあり、児童数も少なく全校生徒は20人以下。

歳に関係なく、学校の皆は友達だ。

髪の毛の色以外は至って普通の女の子。

しかし、それは表向きの話。

彼女は当時から特別な力を持っていた。

 

 

早「あっ・・・」

 

 

道の真ん中に横たわる一匹の犬。

草の影に隠れていて遠くから気付かなかったが、前足を怪我して動けなくなってしまったようだった。

血のにじんだ毛がその痛々しさをリアルに訴えかけている。

 

 

早「凄く痛そう・・・。

歩けないんだね・・・」

 

 

犬の傍まで寄り、しゃがんで腕を診てやる。

流血を止めたところで意味がなさそうだ。

しかし、普通の小学生に特別な措置が施せられる訳が無い。

専門知識なんて持ち合わせていないのだから、何もできずに終わるのが関の山だろう。

しかし早苗は違った。

 

 

早「大丈夫。

今‘‘治してあげる‘‘ね」

 

 

そう言って早苗は犬の前足に手を翳す。

すると、怪我の部分が淡い光を放ち出し、一瞬で傷口が塞がれてしまった。

怪我が完治したのだ。

 

 

早「これで歩けるね、お犬さん♪」

 

 

怪我が治った犬は嬉しそうに走り回り、早苗に礼を言うように吠えると繁みの中へ消えていった。

それを見送った直後、後ろから同い年の幼い少女の声が聞こえてきた。

 

 

少女「おはよう早苗ちゃん!

何してたの~?」

 

早「あ、ううん!

何でも無い!」

 

 

そこで視界は真っ黒となる。

 

 

_____________

 

 

早「う・・・う~ん?」

 

 

目が覚めると、自分が布団で横たわっている事に漸く気が付く。

さらに、今までの出来事が自分の夢である事にも気が付く。

上半身を起こし、最後の記憶を探ろうとした時。

布団の敷かれた和室の外から何やら楽しそうな騒ぎ声が聞こえてきた。

 

 

早「え?

何が起こってるの??」

 

 

まだ体が寝起きでふらつくが、外の様子が気になって襖を開ける。

暗い部屋から明るい場所に出て目がくらみ、眩しさに瞼を細めた。

 

 

早「うっ眩しい。

・・・なんですかこれ?」

 

 

見慣れた部屋。

間違いなく守矢神社の中だが、部屋の中には見知らぬ者達が居座り、酒を飲みながら騒いでいた。

幻想郷の例によって、異変終わりの宴会だが、先程目覚めたばかりの早苗にそんな事が分かる筈が無い。

一体なのが起こっているのか全く理解できない彼女は唖然としながらその場で突っ立った。

 

 

早「これは一体・・・?」

 

神「お?

漸く起きたか。

ったく、お前が強くやりすぎなんだよ」

 

早「神奈子・・・さま?」

 

 

畳の上で胡坐をかきながら酒瓶を一気飲みする神奈子。

それに対面するように座っていたのは博麗霊夢だった。

杯に口をつけながら彼女は神奈子に反論する。

 

 

霊「何よ、私のせいなの?

コイツが本気でかかってこいって言ったから少し本気出しただけじゃない」

 

零「いや、だからって三日も寝込むほどの攻撃を浴びせるか?」

 

霊「仕方ないじゃない、まさか三日も気を失うなんて思ってもいなかったんだし」

 

諏訪「早苗、大丈夫?

まだ寝てなくて平気??」

 

早「え?は、はい」

 

 

見覚えのある男性。

霊夢の夫という例の神だ。

諏訪子に気を遣われるが、今はもう平気だ。

そして彼女は全てを思い出した。

 

 

早「そうか、私負けたのか」

 

神「負けたよ。

あの後霊夢が気絶した早苗を運んできてくれてね。

ボロボロだったよ」

 

 

グサリと胸にその言葉が刺さる。

自分は、幻想郷を甘く見ていたのだと。

拳を握り、自らの無力さに腹立たしく感じたが、不意に彼女の頭にある疑問が浮かんだ。

 

 

早「そういえば、神奈子様達はその後どうなったのですか?」

 

神「う~ん、それがよくわからないんだよね~。

気がついたら倒れてたというか・・・」

 

 

話によると、二対二での戦いになり、最初は圧倒していたらしいのだ。

しかし、黒色の靄に包まれてから記憶が途中で途切れているのだそう。

その後起きると頭頂部に強い痛みを感じ、近くに金たらいが落ちていたという。

恐らくそれが直撃して気を失ったのだろうが・・・それは負けなのか??

グレーゾーン過ぎて早苗には判断しかねる内容だった。

 

 

諏訪「まぁそんなどうでもいい話は置いておいて、今は楽しもうよ!

折角久しぶりに零夜に逢えたんだし」

 

早「え?

諏訪子様、この方と知り合いなのですか?」

 

諏訪「当たり前じゃん、神界で超が付くほどの有名人なんだから」

 

 

大体予想は出来ていたが、流石はトール神。

神の世界でもその名は馳せており、知らない者はまず居ないという。

そもそも北欧神話の人物を何故日本の神である諏訪子が知っているのかというと。

 

神「神界に棲む神は姿形違えども神という一くくりの存在なのさ。

地球の神話なんてものはその地に降り立った神の話だからね、私が北欧に降りていれば北欧神話に私が出ていたかもしれないって事さ」

 

早「う~ん?

よく分からないです」

 

 

説明が解りにくいのか、早苗には理解出来なかった。

つまり、どういう事なのかというと。

 

 

零「要は、神話なんてものは神の世界で通用しないって事だ。

神話というのは地球だけの話だからな、他の星に行けば違う神話が存在する。

ただ、伝わっている神は大体同じだがな」

 

 

零夜の言う通り、早苗の言う北欧神話というものは神に言っても通用しない。

本来、神話というものは神が人間の星に赴いた時の出来事を題材とされており、少々盛っている部分も多くある事ない事書かれていたりするのだ。

早苗の言う神話は地球だけの出来事なのだ。

しかし、早苗は話の途中である事に突っ込みを入れた。

 

 

早「え、今さらっと宇宙人の存在を確証する言葉が出ませんでした?」

 

零「宇宙人?

あぁ、君たちから見れば宇宙人かもしれないな、彼らも」

 

 

一気に早苗の目が輝きだす。

人類が長い間探し求めてきた宇宙人の存在が、雲をつかむような話から確信に変わったのだ。

これは世紀の大発見である。

 

 

早「凄い、本当に宇宙人は存在したんですね!!

それでそれで!?

宇宙人ってどんな格好なんですか!?

やっぱりグレイみたいな見た目なんでしょうか!?」

 

 

食いつき具合が半端でない。

ちゃぶ台に身を乗り出して零夜に質問責めする早苗の目はキラキラと輝いており、彼女がこの手の話に関して好物である事は一瞬で判った。

しかし、行き過ぎた期待は想像を下回った時が一番つらい。

 

 

零「姿は普通の人間だ。

文化も何となく地球と似ているぞ」

 

早「え、何ですかその夢の無い話・・・」

 

 

零夜の一言で一気に興が醒めたように彼女のテンションは下り坂一直線となる。

それもそうだろう。

宇宙人は地球と変わらない姿で地球人のように生活していると言われたら幻滅してしまう。

もし違うリアクションだったとしても、同じだということに驚愕するだろう。

どちらにしろ夢の無い内容だ。

 

 

霊「何が宇宙人よ。

月にも人間は住んでるんだからそれと変わらないわよ」

 

 

日本酒の入った器を口へ寄せながら霊夢は呆れ気味に物申す。

幻想郷の生活に慣れ過ぎたから言える台詞だが、現代社会しか知らない早苗には夢のような話だった。

 

 

早「月の人間?

輝夜姫みたいな?」

 

零「というか本人が居るな。

ほら、あれだ」

 

 

広い部屋の隅を指さすその先に、黒い艶のある髪を伸ばした絶世の美女が座っていた。

単を着こみ、従者らしき銀髪の美女を従えたその女性は、輝夜姫と言われても納得できてしまいそうな程美しかった。

 

 

霊「他にも吸血鬼に亡霊の姫、九尾に鬼、妖怪の賢者なんて呼ばれてるやつも居るわ」

 

 

玉座に座りながらメイドにワインを注がれるレミリアに、料理を口いっぱいに頬張る幽々子。

それ以外にも萃香やアリスなど、人外達が羽目を外して楽しんでいる。

一見、普通の人間に見える者もいるが、蝙蝠の翼が生えていたり角が生えていたりと、人外的な特徴を持った者も少なくない。

そんな者達が一色たに暮らしている世界、それが幻想郷なのだ。

 

 

早「何だか凄い世界ですね。

こうして違う種族同士が争うことなく暮らしているなんて。

外の世界では人間同士で殺し合いをすると言うのに」

 

紫「幻想郷は全てを受け入れる。

でもそれは残酷な事なのですわ」

 

早「うわっ!?」

 

 

スキマから突然出てきた紫に驚ろいてしまう。

わざとやっているのだろうが、毎度見ている者はどうとも思わない普通の光景として受け入れている。

 

 

紫「こうして会うのは初めてね、私は八雲紫。

妖怪の賢者とも呼ばれている幻想郷の創造者ですわ。

この残酷な夢の世界を作った張本人、宜しく」

 

早「あ、どうもこちらこそ」

 

 

差し伸べられた手を握って握手をすると、紫の体温が伝わって来た。

何だか不思議な感覚だ。

感じないわけではないが、冷たくも無く熱くも無い。

人の温もりを感じなかった。

 

 

紫「これが妖怪よ。

人とは根本的に違う者。

未知に恐怖する人間からしてみれば、恐ろしいものでしょうね。

でも、未知があるだけ冒険があるわ」

 

早「冒険・・・ですか?」

 

紫「そう、貴方にはその資格があるわ。

だって、幻想郷の住人なんだもの。

この世界を大いに楽しんで頂戴」

 

早「幻想郷の住人・・・。

えへへ、何だかワクワクしてきました。

これから宜しくお願いします!」

 

 

別れの数だけ出会いもある。

紫の話を聞いた早苗は、外の世界の名残惜しさと共に、これから体験する摩訶不思議な生活に心を踊らせた。

これが、守矢神社幻想入りの物語である。

 

 

 

風神録 完

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