レース開始直後、スタート会場には凄まじい暴風が巻き起こった。
六人全員が一斉に最高速度で飛翔したせいで空気の流れがめちゃくちゃになったのだ。
幻想郷でも最速と謳われるもの達が集まって競い合っているのだから当然だろうが。
しかし、その様子を密かに影から見ている者も存在する・・・。
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~レース会場上空300m地点~
誰の目にもつかない遠く離れた空の上にそれは浮いていた。
六つの回転翼の付いた無人飛行機マルチコプター、所謂ドローンと呼ばれるものだ。
望遠カメラで捉えるのは、レース会場と六人の選手たち。
何故、幻想郷の空に外の世界でも殆ど普及していない最新機械が存在しているのか。
以前は鈴仙が武器として似たような物を異変時に実戦投入してきたが、形状が全く違う。
プロペラ軸が一本に二枚の回転翼が付いたものではなく、四枚の回転翼が末端に付いたそれは、素材も金属ではなくプラスチックで軽量化が図られている。
当たり前だろう、これは月の技術で作られたものではないのだから。
博麗大結界を科学の力で歪め、それを超えることを可能にしてしまった天才科学少女。
ドローンが撮影しているカメラ越しに映像を閲覧している彼女は、興味を持ってそれに熱中していた。
夢「幻想郷のスピード争いかぁ、リュウト君の本気が見られる良い機会ね。
よく見ると服装は違うけど、見覚えのある子もいるわね」
外の世界から幻想郷の様子を随時確認している科学の申し子岡崎夢美は、あの日以来リュウトの存在に心を奪われていた。
元々は興味本位で個人的に調べていた異世界の存在を明らかにする研究だったが。
が、しかし、彼女は出会ってしまったのだ。
初めて見た異世界の住人の圧倒的な力。
それは、人間の範疇を優に超えた超人の力だった。
彼女はその異質な力に魅了され、それを研究したいと願った。
リュウトは彼女にとって良い研究材料に過ぎない。
夢「彼の身体スペックの詳細を知る良い機会だわ。
ついでに他のも取っておこっと」
キーボードが映るノートパッドを滑らかにタップしていき、ドローンのコンピュータにデータ回収をさせる。
ドローンに積まれたAIに指示を出し終えた夢美は、別に置いてあるノートパソコンに手を伸ばした。
夢「だ・け・ど、今回のお目当てはそれじゃ無いのよねぇ~」
彼女は先程ドローンに撮らせた会場の画像からとある一枚を取り出した。
画面に出されたそれは、今大会の優勝商品となった聖書だ。
夢「古代文字で書かれた聖書・・・だと思うけど、でもあんな文字は見たことがない。
異世界の本のはずなのに、何故かその文字を誰も解読出来なかったのも気になるわ。
十分に調べる価値がある」
ノートパソコンに表示されたプログラムを調整し、エンターキーを押した瞬間、彼女の後ろから何かが起動する音が聞こえた。
それは、女性の形をしたヒューマノイドだった。
夢「私の可愛い子供、あなたのステルス能力を以てすればアレを持って帰ってくるくらい容易でしょ」
?「任務了解、マスターの意のままに」
機械仕掛けの少女の瞳に光が灯り、硬直していた身体は人間のようにしなやかに動き出す。
少女が手を翳すと、空間に異世界へ続くゲートが開く。
向かうは幻想郷。
少女の存在を知るものは、向こうには誰も居ない。
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~幻想郷~
もう既にスタート地点からはかなり離れ、現在六名は魔法の森の中を翔んでいた。
ルートが森の中なので、木々の間を潜りながら翔ばなければならない。
ここでは、森の中に家がある都合上、慣れている魔理沙が優位となっていた。
文「流石、毎日飛んでいるだけあってコース慣れしてますね魔理沙さん!」
リ「この木々が入り組んでいる空をスピードを落とさずに飛ぶことが出来るとは、侮れんな」
魔法が使えて大量の魔力を身に宿している魔理沙は、肉体的には常人と変わりなく脆い。
それは彼女が一般的な人間と殆ど大差ないという事だ。
なのにも関わらずこの速度の中を慣れと動体視力で突っ走っている。
おおよそ120キロは出ているはずなのだが。
魔「森の飛行は日ごろから慣れてるんでね、此処は引き離させてもらうぜ!!」
箒の速度はそのまま、跨った魔理沙を一位へと導いていく。
森を抜けるころには二位の文との差もかなり離れていた。
一気に突き抜けた先には広い向日葵畑がまるで黄色い絨毯のように広がっていた。
文「お?太陽の畑じゃないですか」
フ「わぁ、綺麗なひまわり畑…」
太陽の畑を初めて見るフランはその広大な黄色の絨毯に圧巻される。
どうやらレースコースには幻想郷の名所が所々に散りばめられているらしい。
先程までは霧の湖や妖怪の山も見えていた。
畑の中心には一軒の赤い屋根の西洋家屋が建っており、その庭では風見優香が日傘を差しながら此方を見ていた。
優「へぇ、魔理沙もやるようになったじゃない」
優香は昔の霊夢と魔理沙を知る数少ない人物。
その成長を間近で見ていたせいで人間という生き物に興味を持ち始めた。
風見優香の興味を惹くほど、二人の成長スピードが異常だったのだ。
特に霧雨魔理沙は優香の最強伝説を築き上げた技でもある{マスタースパーク}を完璧なまでに習得している。
風見幽香本人が彼女の才能を見込んで継承したのだ。
言わば、優香は魔理沙の師匠のような存在なのだ。
が、魔理沙にはもう一人の師匠が居る。
その人物は優香の旧友なのだが・・・。
今は明かす時ではない。
優「あの小娘がこうも成長したか・・・。
流石は魅魔の弟子なだけはあるわね。
でも、今回のレースは強者ぞろい、純粋な人間である魔理沙には不利な戦いになりそうね」
優香の言う通り、既に魔理沙は後続の者達との距離を詰められつつあった。
身体的にオーバースペックなリュウトや文などと比べると、膨大な魔力だけが持ち味な彼女はポテンシャルが劣っている部分が露呈してしまうのだ。
魔「もうこんなに追いつかれたのか!?
予定よりもずいぶん早いじゃないか!
もう少し行けると思ったんだがなぁ・・・」
森を抜けてからも巡行速度を維持していた魔理沙だったが、自分が予想していたよりも早く文達が追い付いてきてしまった。
速度を上げることは出来るが、今それをしてしまうと今後の戦いでいずれにしても不利になる。
不測の事態に備えて今は魔力の無駄な消費を抑える方が先決だ。
恐らく一番に追い越すのは文かリュウト、零夜のいずれかだろう、そう考えていた。
しかし、このレースにはブラックホースが紛れ込んでいた。
文「な、何ですって!?」
魔「ん?何だ?」
後ろから文の驚きの声が上がる。
それに反応した魔理沙が後ろを振りかえると、何かが不意に目の前を横切った。
一瞬のうちに横切った影は、鮮やかな七色の羽を背負った少女だった。
魔「フランか!?
あいつめ、此処に来て本気を出してきやがったな!!」
フ「忘れてた?私、これでも始祖吸血鬼の末裔なんだよ?」
余裕の表情でフランは徐々に一位だった魔理沙との距離を離していく。
しかし、ゴールの目前に迫ろうとしたした時、レースは一時中断された。
最後に言っておこう。
レースをすると言ったな、あれは嘘だ。