~太平洋沖~
リ「う~む・・・どうにも釣り竿というのは慣れないな・・・」
グリップを握った釣り竿を眺めてそう呟く。
初めて握ったのだから違和感があるのは仕方ないと思うのだが、事は試してからでもいいだろう。
早速ルアーをつけて釣り糸を大海原へ勢いよく投げ込む。
シューーーーーーーーーーー・・・チャポン。
リ「確かこれでいいんだよな?
・・・上手く釣れるといいのだが」
リールから糸が吐き出され、ルアーが落ちた地点を示す浮きがどんどん波に流されているのがわかるが、それが良い事なのか悪い事なのか、それすらも素人の彼にはわからなかった。
波の揺れが大きく、立っているだけでも少しよろけてしまい、それと同時に自然というものがいかに大きな存在かを理解させられた。
リ「あの頃と全く変わっていない。
これが地球か・・・」
妖「何です?地球って」
リ「お、妖夢。
もう平気か?」
妖「はい!すっかりよくなりましたよ」
感情に浸っていると、調子がよくなったのか妖夢が後ろから話かけてきて、隣で釣りを始めだした。
顔色もいつも通りに戻っているのでどうやら薬が効いたらしい。
何がともあれ元気ならそれでいい。
リ「そうか。
地球というのは今、俺たちの住んでいるこの星の事だ」
妖「星って・・・あのお星様ですか?
あれは空にあるものじゃないんですか?」
リ「それもそうだが、俺たちの立っているここも惑星という星の一つなんだ。
空のもっともっと上に行けばこの青い星の姿が見えるぞ。
その時はこの星も空に浮かぶお星様に見えるかもな」
妖「へぇ~!物知りですねリュウトさんって」
そうでもないさ、と軽く流す。
幻想郷には科学が無い為地球を見たことがないのだろう。
二人は再び釣りを再開し、無言で浮を見張る。
そんな中、妖夢がある質問をしてきた。
妖「海の魚ってそんなに種類見たことないんですけど、紫様の言ってたマグロって魚はどんな魚なんですか?」
リ「マグロ?あぁ、幻想郷にはサンマやらイワシやらしか海の魚は無いからな」
マグロがどんな魚と聞かれても、専門家でもなければそこまで詳しいわけでもないので簡単に自分と同じぐらいの大きさの魚だと言うと、妖夢の釣り竿が音を立てて甲板に転がった。
リ「ん?どうかしたのか?」
不思議に思ったリュウトが呼びかけるが、妖夢は何の反応も見せない。
それどころか竿を手放してしまったのに拾う動きを見せず、うつむいたまま立ち上がり、妖夢はリュウトの竿を指さして、物凄い形相で突っ込んだ。
妖「そんな大きい魚なんて聞いてませんよ!?
こんな竿で釣れる訳ないじゃないですか!!
知ってたなら解ったでしょう!?」
リ「・・・ハッ!?」
カラカラァン・・・。
リュウトはショックを受けた。
まさに妖夢の言う通りだからだ。
何故今の今まで気づかなかったのか、初心者でもそれくらいわかるだろうに。
あまりのショックにリュウトも竿を放してしまう。
リ「な・・・なんということだ・・・。
これでは釣れない・・・だと?」
妖「当たり前じゃないですか!
これはもっと小さい魚を釣る為の竿ですよ!」
鯛や鰤なら問題なく釣れるだろうが、恐らくマグロがヒットした瞬間、この竿は真っ二つになることだろう。
だが、第一目的のマグロが捕獲できないというのはかなり不味い。
リュウトは今この場で可能なマグロの捕獲方法を思いつく限り考える。
どうにかしなければ。
どうにか・・・・そうだ!
リュウトは画期的な案を思いついた。
リ「直接捕まえてしまえばいいんじゃないか?」
妖「え?それってもしかして・・・って何やってるんですか!?」
いきなりシャツを目の前で脱ぎだすリュウトを注意する、が、リュウトはさほどそのことを気にしていないようで、頭に?マークが浮かんでいた。
そして・・・。
リ「いざ!未知なる世界へ!」
ザッパァァァァァァァン!!
妖「きゃあ!?リュウトさん!?」
太平な海に勢いよくダイブをした。
妖夢はとびあがる水しぶきが目にかからぬよう顔を隠し、ゆっくりと目を開けると、そこにはもうリュウトの姿は無かった。
~海中~
リ「案外下は深いんだな。
いろんな魚が泳いでいるな・・・」
海の中は地上とは違い、太陽の光がほとんど無く、足元はまさに奈落の落とし穴。
だが、そんな地獄のような世界でもちゃんと生き物がいた。
銀のカーテンのようなイワシの大群。
それを餌とするイルカ。
深海に行けばもっと多くの生物がいるだろう。
しかしこの光景を見る限り、それが信じられなかった。
だが、マグロの姿はどこにも見当たらない。
リ「よし、遠くに移動するか」
リュウトは妖夢の期待に応えるべく、水の中を物凄い速度で移動し始めた。
そのあまりの速さに、海面では大きなアーチ状の波が立っていた程だ。
その一方で、船の上では妖夢が釣りを再開していた。
妖「凄い速さだけど・・・魚逃げないかな、あれ」
リュウトの移動している時に出来た波は船の上からでもはっきり見え、その光景は異常だった。
大きな波に揺られる中、彼女はのんびりと、海釣りを楽しむことにした。
シャーーーーーーーー・・・・・チャポン
妖「はぁ~・・・。
海ってのはいいですねぇ~・・・」
潮の香はどこか気持ちのいい気分にさせてくれる。
そんな印象だった。
初めて嗅ぐのにどこか懐かしく、波の音は眠りを誘う子守歌のように聞こえる。
母なる海とはよく言ったものだと思う。
さてさて、どんな魚が釣れるのであろうか、だがそれを知る機会は直ぐにやってきた。
グググーッ
妖「お!かかった!」
手ごたえを感じた妖夢はリールを巻きながら獲物を引き寄せていく。
海面に上がってきた糸の先には白銀に輝く一匹の魚がヒットしており、未だに釣られまいと抵抗をしている。
しかし体格の小さいその魚はあっさりと妖夢の力に負けてしまい、甲板に姿を現した。
妖「う~ん・・・なんて名前なんだろうこの魚。
・・・まぁいいか」
チャポン
海の魚なんて今までほとんど見たこと無かった為、名前は解らなかったが、食べられそうなので生簀の中に入れる。
これで一匹目、まだまだ時間はあるのでリュウトが帰ってくるまで釣りを続ける。
それから2時間ほど時間が経った。
日が暮れ始め、水平線にはきれいな橙色の太陽が反射している。
妖「もう帰ってきてもいい頃合いなんだけど、どこまで行っちゃったんだろう。
迷子になってたりして・・・」
怖くなった妖夢が手遅れになる前に探しに行こうとしたときだった。
リ「お~い」
妖「この声・・・リュウトさん?」
どこからか聞き覚えのある声が聞こえてくる、これはリュウトの声だ。
声の聞こえる方を振り返る、すると太陽を背にしている巨大が影が目に入った。
海の上をホバリングしながら迫ってくるそれは、近付いてくるにつれてどんどん大きくなる。
リュウトが大きな魚を大量に背負ってこちらに帰ってきているのだ。
だが少々、いや、普通に大きすぎる。
あれ全部船に載せるの?と、言いたげな顔の妖夢を他所に、リュウトはお構いなしにそれを甲板にぶちまけた。
重量が重すぎるのか、船体が前方に傾いているような気がする。
妖「どこまで行ってたんです?
危うく探しに行くところでしたよ」
リ「あぁ、すまない。
水の中で人食い鮫に遭ってな、マグロを捕まえるついでに持ってきた」
妖「海ってそんなのがいるんですか!?
しかもそれをついでに捕まえたって・・・」
常識外れすぎて呆れてしまう。
だが、無事に目標のマグロが手に入り万事解決。
ところが妖夢にはどれがマグロかわからない。
リ「そうか、妖夢はマグロを見るのが初めてだったな、これがマグロだ」
リュウトは両腕を使って大きな体の一匹の魚を持ち上げて見せる。
銀色の肌を持つそれは、どことなく金属を連想させ、今までの魚は小さいというイメージを完全に覆していた。
妖「きれいな魚ですね~、これだけ大きければ幽々子様もお喜びになる筈です!
これで胸を張って帰れます!
どうかお礼をしたいんですが・・・」
リ「いや、礼ならいい。
だがその前に少しいいか?」
妖「はい?」
__________________________________________
日が沈みかけ、約束通り直ぐに紫が迎えのスキマを開き、二人は幻想の世界へ帰っていった。
その日の夜・・・。
~白玉楼~
妖「幽々子様、世界で一番おいしい食べ物を自分なりに探して参りました」
部屋の襖を開け、しとやかなお辞儀をしてから居間の机に料理を並べていく。
皿の上には刺身や天ぷらなどの海の魚を使った料理が多く盛られ、それらの中心には大きなマグロの頭が載せられた刺身の盛り合わせが置かれた。
初めて見る圧巻の食材に幽々子は興奮しっぱなしだ。
幽「凄いわぁ~!これは妖夢が釣ってきたのかしら?」
妖「は、はい」
幽「へぇ~、ではいただこうかしら?」
幽々子はマグロの刺身を上品に口に運ぶ、すると食べた瞬間に口の中から身が無くなってしまった。
筋が無く、噛まずに溶けてしまうほど柔らかい刺身に幽々子は幸せそうな表情を浮かべた。
幽「とっても美味しいわぁ!
この世にこんな美味しい魚がいたのね!
こんなに美味しいものを食べれて幸せだわぁ~」
ありがとう、妖夢。
という幽々子の言葉は、今までの苦労の甲斐があったと思わせてくれる言葉だった。
手伝ってくれたリュウトには感謝しかないのだが、礼を断られたのは予想外だった。
妖「まさか自分で釣ったお土産だけでいいなんて言うとは思わないもんなぁ・・・」
幽「あら?妖夢どうかしたの?
それより一緒に頂きましょう?
とっても美味しいわよ?」
妖「はい、ではご一緒させていただきます」
この後紫たちも夕食に呼ばれ、酒も用意されたという。
白玉楼は夜遅くまで明かりが消えることは無かった。
___________________
~紅魔館バルコニー~
咲「はぁ。
妖夢さんと二人っきりで海、かぁ・・・」
夜風に打たれながらバルコニーの柵に肘をつき、ため息を吐き出す咲夜。
リュウトが妖夢と二人っきりで出かけた事がよほどショックだったらしく、一緒に行きたいと言えなかった自分にげんなりしていた。
すると後ろの、開いたままの入り口の扉からノック音が聞こえてきた。
コンコン
リ「咲夜、一緒にどうだ?」
咲「え?リュウトさん?」
現れたリュウトの両手には、日本酒とグラス。
それと海でリュウトが釣りあげた立派な鯛の刺身が盛られた皿があり、それは晩酌を一緒にどうだという意味を示していた。
咲夜もそれを察して直ぐに席を用意した。
リュウトも用意されたテーブルに皿を置いて椅子に座り、同じように座る咲夜にグラスを渡して酒を注いだ。
咲「めずらしいですね、いつもは宴会でもない限り飲みませんのに」
リ「これを咲夜と一緒に食べたくてな、たまにはいいだろう?」
咲「えぇ、悪くないですわ」
リ「フッ、ならよかった」
少し安堵の表情が漏れて見えるリュウトを見て、咲夜は上品に笑みをこぼした。
咲「フフッ♪こういうことをする所、リュウトさんらしいですね♪」
リ「ん?どういう意味だ?」
咲「いいんですよ、私は嬉しいですから」
二人は夜空の下で乾杯し、二人だけの時間を風情を楽しみながら共にした。
結局は咲夜に戻るんですよ。
最後に釣ったのは咲夜の為なんですね、いい男だと思います。
ちなみに捕まえたホホジロザメは博麗神社に奉納させた後、巫女さんに美味しく頂かれました。