~白玉楼~
リ「すいませ~ん、妖夢師匠いらっしゃいますか?」
大きな木造の和風式門の前、日常となった剣術の稽古の為、師匠である魂魄妖夢の名を呼ぶ。
すると、門の向こうから返事が微かに聞こえてきた。
幽「リュウトく~ん!勝手に入っていいのよ~??」
白玉楼の主の声だ。
毎度毎度、勝手に門を開けて入っていいと言われているのだが、他人の家の敷地に勝手に入るのは申し訳ないので断っている。
しかし、無駄に広いこの庭を越えた向こうにある屋敷まで誰かを呼ぶのは面倒といえば面倒だ。
リ「・・・入るか」
少し重い木でできた扉を開け、リュウトは屋敷へと足を踏み入れた。
門を抜けて少し進むと、素晴らしい出来栄えの日本庭園が出迎えてくれる。
ざっと2000平方メートルといったところだろうか、この広さを師匠一人で管理しているというのだから驚きだ。
過労死とかしないのか?と、心配した時もあったが、本人は、半分死んでいるようなものなので今更といった感じらしい。
庭園の中の砂利道を道なりに進んでいると、縁側のある方から力んだ声が聞こえてきた。
聞き慣れた声だ・・・リュウトは声のする縁側へと転身し、声の主を見つけた。
リ「あぁ、やっぱり師匠でしたか」
妖「おや?もう来たのですかリュウト?」
声の主はやはり師匠だった。
今までずっと真剣の素振りをしていたらしく、上半身だけ着物を脱ぎ、サラシと緑のハカマだけの恰好なのに大量の汗を欠いていた。
かなり長い時間素振りをしていたようだ。
リ「はい、師匠は素振りをしていたみたいですね」
妖「基礎は道を極める上で最も重要なものの一つ、怠ってはいけないのです」
リ「昔は耳にタコができる程言われてましたね、今思えば懐かしいです」
縁側に置いてあるタオルで汗を拭きながら会話をする師匠は何処か色っぽい。
白髪のロングへアに立派な胸、男が興奮するのは間違いないだろう、胸に関して本人は邪魔なだけだと言っているが。
妖「フゥ、少し休憩したら手合わせしましょうか?久しぶりに修行の成果を見てやりましょう」
リ「基よりそのつもりで来てますから」
妖「ふふ、では期待しておきますか?」
幽「あら、じゃあ私は見物しながらお菓子でも食べようかしら?」
妖「あ、幽々子様」
二人の会話を聞いて幽々子が和室から見物をしに寄って来た。
その手には、柏餅やら最中やらが乗った皿があり、見物しながら食べる気満々だった。
妖「よいですが、あまり食べないでくださいよ。
先程朝御飯を食べたばかりなんですから」
幽「え~・・・もう一時間も前よ?」
妖「一時間しか経ってません。
間食すると御昼が食べられなくなりますよ?」
幽「それはイヤ!!」
妖「なら程々にしてください」
御昼が食べられなくなる、その言葉に敏感に反応した幽々子は妖夢の言う通り少し控える事にした。
そして、休憩が終わり、汗をぬぐい終わった妖夢はタオルを縁側に置き、はだけた着物を元通りにしてから刀を抜いてリュウトと対峙した。
リ「・・・」
準備が整ったという師匠の合図を悟り、リュウトは刀の柄のようなものをポケットから取り出す。
リュウトが柄に力を込めると、霊力が剣のような形を形成し始めた。
二人同時に我流の構えを取り、対決が行われた。
リ「では・・・推して参る!!」
妖「いざ尋常に勝負っ!!」
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手合わせの結果は引き分け、剣は互いの体に当たることなく、ほぼ互角の戦いだった。
長い時間剣を合わせて疲れ切った二人は縁側で休憩しながら共に汗を拭きつつ他愛もない話をする。
妖「強くなりましたねリュウト、私が教える事はもうないでしょうに」
縁側に腰を掛け、愛弟子の成長を間近で感じた妖夢の顔には自然に笑顔がほころぶ。
いつも褒めると謙遜する彼だが、実力が上がっている事は事実で、妖夢は師匠として高くそれを評価している。
リ「そんな事は無いですよ、師匠が本気を出したらとてつもない強さですからね、俺なんてまだまだ半人前です」
妖「・・・なんだかその台詞、昔の私を見ているようです」
リ「え?」
師匠の昔を知らないリュウトは、突然放った師匠の何気ない一言に反応する。
師匠は今のリュウトの言葉が、昔の自分が言っていた言葉と同じだったらしく、思い出した昔の話を聞かせてくれた。
妖「もうずいぶん昔の話ですね・・・昔は私も半人前で弱かったんです。
でも、師匠が行方をくらましてから私も懸命に修行して強くなりました、その時は自分は強いと自負していました。
でも・・・」
リ「でも?」
妖「私より強い人なんていっぱいいたんですよ、昔、異変を起こした時にそれを思い知らされました」
リ「異変・・・あぁ、幻想郷縁起に載っていましたよ」
幻想郷縁起、稗田家が執筆している1300年ほど前から続いている歴史書だ。
幻想郷の妖怪の図鑑や危険区域案内などが書かれているものだが、その中に歴史上に起こった異変が載せられており、幽々子の起こした春雪異変も詳しく掲載されている。
異変を解決したのは博麗の巫女と書かれていたが、そのことなのだろうか?
リ「博麗の巫女に負けた・・・という事ですか?」
妖「いいえ、幻想郷縁起にはそう書いてありますが、あの時代には博麗の巫女に匹敵する強さを持った人間がいたんです」
リ「ひいばあちゃんと肩を並べる強さ・・・一体誰なんです?」
そう問うと、妖夢は黄昏るように空を見上げた。
妖「霧雨魔理沙と十六夜咲夜という人間です、私が本気で挑んでも勝てなかった・・・」
リ「霧雨魔理沙・・・十六夜咲夜・・・?」
今まで聞いたことの無い名前だ。
師匠が本気を出しても勝てなかった相手とは興味深かった為、真剣に耳を傾けた。
妖「魔理沙は霊夢と仲が良い・・・というか、腐れ縁のような関係でしたね」
リ「友達だったんですか・・・ひいばあちゃんと」
妖「よくものを盗む魔法使いでしたよ、決まって言い訳の台詞が(盗むんじゃない、一生借りるだけだ)ってね」
リ「は、はぁ・・・」
魔理沙と呼ばれる女性は話を聞く限りまともな人とは思えなかった。
きっとろくな人間ではなかったのだと思う。
だが、十六夜咲夜という女性は聞いている限りはそうは思えなかった。
妖「咲夜は紅魔館でメイドをしていた人間ですが・・・そうですね、大体の事を完璧にこなしてしまう人でした。
本当に人間なのか疑ってしまうくらい、でも、二人とも寿命で亡くなってしまった・・・。
仲が良かった分、悲しかったですね」
リ「師匠・・・」
その目には僅かに涙が溜まっており、昔の出来事を思い出してしまったのだと察した。
人外である者の影ながらの苦悩というやつなのだろう。
いつかそんな日が自分にも来るとなると少しゾッとしてしまう。
妖「あなたもいつかこの気持ちが解る日が来るでしょう、神の血を引いて産まれているのですから・・・」
リ「覚悟しています、でも、今は今この時を大切に過ごしたいと思います」
妖「良い心掛けです♪そうだ!今日は此処でお昼を食べてはどうです?私が作るのでゆっくりしていていいですよ?」
リ「はい、ではお言葉に甘えさせてもらいます。
妹はレミリアさんと一緒に食べるでしょうし」
では決定ですね!と、気合をいれて妖夢師匠は立ち上がり、台所へと向かった。
幽「あんなに嬉しそうな妖夢の顔、リュウト君が来てから変わったわね・・・。
じゃ、私もリュウト君と一緒にご飯が出来るの待とうかしら♪」
縁側でぼうっとしているリュウトの隣へ座り、雑談をしながら妖夢の料理を二人で待つのだった。