「うう・・・・!」
夜もすっかり更け切り、虫と風の声しか聞こえない時刻。
いるはずのない少年が、山道を心細く歩いていた。
「なんで・・・・僕がこんなこと・・・・」
思い出すのは、直前のこと。
・・・・『いじめやすい』という、理不尽極まりない理由で。
カツアゲや物隠しをしてくる連中からの。
『おつかい』と言う名の、命令。
「どこだよぉ・・・・あいつらが壊した祠はぁ~・・・・!」
――――山でふざけた彼らが、壊してしまったという祠。
その尻拭いをこなさなければ、先日撮られてしまった醜態の写真をばら撒くと脅されてしまっていた。
「帰りたい・・・・でも、写真が・・・・!」
連日という連日。
散々恐怖を植え付けられていた少年に、このまま帰ってしまうという選択肢はなかった。
「ここどこぉ・・・・!?」
見張りだとついてきた連中が、勝手に迷子になってくれたのは僥倖だったが。
自分自身もまた、同じく道に迷っているという事実。
眠気と空腹、疲労と孤独。
いろんなマイナス要因に蝕まれ、泣き出しそうになっていた。
――――その時。
「――――誰だ」
「ヒイッ!?」
暗闇の向こう。
低い声が聞こえて、飛び上がる。
「あ、あ、あ・・・・!」
暗がり。
壊れた祠。
聞えるはずない、人の声。
そこそこ上等な頭は、すぐに答えを弾き出して。
「ご、ごめんなさい!!ごめんなさい!!壊したのは、ぼ、僕じゃないんですけど!!ごめんなさい!!」
「ぬおっ!?」
とにかくひれ伏して、必死に謝罪を繰り返す。
・・・・しかし、
「ま、待て待て待て!何の話だ!何を謝っとるんだ!?」
対する『声』は、どこか困惑した様子。
埒が明かないと思ったのか、がさがさと草をかき分けて近づいてくる。
「――――なんだ」
月明かりの下、見えたのは。
「子どもではないか」
明らかに、人のそれではない顔で。
「・・・・きゅう」
「んっ!?お、おい!小僧!!しっかりしろ!!」
少年が、意識を飛ばすのは。
致し方のないことだった。
――――そもそも、ポチタンが何故迷子になったかと言えば。
キュアット探偵事務所のロンドン本部から届いた、『キュアアルカナ・シャドウの調査結果』を。
いち早くあんなとみくるに見せようとしたからだった。
一時はアルカナ・シャドウに、怪盗団ファントムに奪われたかと思われたそれは。
実は、間違って持ってきていた、ジェットへの請求書だったのである。
「――――森亜、るるか」
「それがあやつの、真の名前か・・・・」
「るるか!るるか!」
そんなこんなで。
難を逃れた調査結果を、一緒に読ませてもらっていた大也とモンド。
「1983年、11月1日生まれ」
「今年16歳か・・・・」
報告書には、まことみらいに来る前は、ロンドン本部で活躍していたこと。
数々の事件を解決し、『天才探偵』と呼ばれていたこと。
「かなり細かく調べておるんじゃの」
ちなみに添付されていた写真は、14歳の時のものだそうだ。
「14歳・・・・今のわたしと、同じ歳だ」
・・・・この、可憐な笑顔が。
何故、失われてしまったのか。
「・・・・よぉーっし!!」
「あんな?」
沈黙を破ったのは、あんなの声。
ばちん!と自らの頬を張った彼女は、気合十分とばかりに両腕を突き上げて。
「行ってみようよ!るるかさんが最後に行った、この場所に!」
困惑するみくるへの返事代わりに、あんなは報告書を指し示す。
「まだ何か、手掛かりが残ってるかもしれないし!」
「・・・・そうね!行ってみましょう!」
「確かに、一理あるのぅ」
キュアアルカナ・シャドウの、森亜るるかの。
最後の足跡。
マコトジュエルが現れ、そして砕けたという現場に行こうという提案に。
少しでも手がかりが欲しい面々は、それぞれを見合って頷いたのだった。
「というか、俺達も来ていいのか?」
「もっちろんです!」
「大也さん達も、わたし達の仲間ですから!」
「かたじけない・・・・あたらめて、よろしくお頼み申す」
「俺も・・・・よろしく」
「「よろしくお願いします!!」」
「――――あれ?」
そんなこんなで、勇み足でやって来た一同だったが。
現場の取水棟に続く山道の麓が、物々しい雰囲気に包まれている。
「どうしたんだろう・・・・?」
「聞いてみよう!」
何があったのかと首を傾げるみくるに対し、あんなは果敢に近くの警官に話しかけに行く。
「すみませーん!何かあったんですか?」
「うん?・・・・君達、悪いけど見学は・・・・」
あんなに気が付いた警官は、(見た目)未成年しかいない一行を目の当たりにして。
努めて穏やかに帰宅を促しにかかった。
通常なら、実に常識的な態度だが。
こちらとて、引けない事情がある。
「あ、あのっ!」
「わたし達、こういう者でして!」
「キュアット探偵事務所・・・・ああ!近頃、ファントムって怪盗団の事件を、解決してくれてる!」
「はい!」
あんなとみくるが、負けじと探偵ノートを提示すると。
彼女達の噂は聞こえていたのか、警官は納得の声を上げた。
「わたし達、とある事件を追っていて・・・・」
「そのために、この先の貯水池を調査したいんですけど・・・・」
「ああ~・・・・だったら、タイミングが悪かったね」
話を聞いてくれそうな雰囲気になったところで、改めて事情を話すと。
警官は困った顔になって、
「今、この山中に猟銃を持ったやつがいてね。入山を規制しているんだよ」
「じ、銃!?」
仰天した二人に、警官はもう少しだけ話してくれる。
その容疑者は、数日前からこの山にいること。
無許可で猟銃を所持し、何度も発砲していること。
確保に向った警官が、すでに何人も撃たれていること。
そして、子どもを一人、人質に取っているらしいこと。
「た、大変じゃないですか!?」
「ああ、だから、今は警察や専門家以外は入れないんだ・・・・例え、怪盗団と戦ってくれている、君達でもね」
最後に『ごめんね』と付け加えてくれた後、職務に戻っていく警官に。
一同は頭を下げてから、揃って額を突き合わせる。
「ど、どうしよう?るるかさんの手掛かりが欲しいのに・・・・!」
「でも、相手は銃を持ってるんだよね?そんな相手にどうやって・・・・?」
「プリキュアになるわけにもいかないし・・・・」
一瞬、警察の規制線を突破できないかと見やるが。
重々しい表情をしている彼らを見て、すぐに除外した。
死人が出ていないとはいえ、仲間を何人もやられた彼らの放つ圧は。
尋常ではなかったのである。
「諦めたくない、けど・・・・」
諦めるのは選択肢にない。
だが、現状打てる手がない。
どうしたものかと、頭を抱えていた時だった。
「君!危ないよ!」
「ここは僕達がなんとかするから!」
「で、でも!」
入山口が騒がしくなる。
何だろうかと見やると、あんなとみくるには見覚えのある顔が。
「ゆみ!?」
「ゆみ、なんでここに・・・・?」
「けんちゃん、健司君!この先にいるんですよね!?大丈夫なんですか!?怪我してないですよね!?」
素っ頓狂な声を上げて驚くあんな達に気付かないまま。
『ゆみ』と言うらしい少女は、泣きそうな顔で警官に詰め寄っていた。
「今まだ確認中だ!」
「とにかく落ち着いて、ここで君が怪我でもしたら、それこそお友達が悲しむよ」
対する警官達は、慣れた様子でゆみを落ち着かせると。
安全の為立ち去る様に、促す。
「――――ゆみ!」
「ゆみ、どうしたの!?」
「あんな、みくる・・・・?」
とぼとぼ、踵を返した彼女へ。
あんな達が一目散に駆け寄ると。
ゆみは、じわじわと目に涙を浮かべて。
「――――お願いがあるの」
しゃくり上げる彼女を、突き放すなど。
誰にも出来なかった。
「――――
「
「うん、昔から頭が良くて・・・・自慢の幼馴染なの」
探偵事務所にとんぼ返りした面々。
途中で抜けるのは気が引けた、大也とモンドに見守られる中。
あんなとみくるは、クラスメイトの『依田ゆみ』に聞き取りを行っていた。
「でも、そんな人がどうしてあの山に?」
「・・・・それが」
――――今現在。
人質にされているという彼が、どうして事件に巻き込まれてしまったのか。
真っ当な質問に、ゆみは重々しく口を開く。
「けんちゃん・・・・学校で、いじめられてたらしくて」
「ええっ!?」
健司の、物静かで大人しい性格は。
進学校という、ストレスをためやすい環境において、侮られる要素になってしまった。
まんまと気の強い生徒達に目を付けられてしまった彼は、あれよあれよといじめのターゲットになってしまったのだ。
「それで、いじめっこ達が、ふざけて壊しちゃった祠を直せって・・・・あの山に行かされてたらしくて・・・・」
――――なお。
いじめっこ達は、この事件が切欠ですべての悪事がバレて。
親と教師に、こってり絞られているのだとか。
もちろん、今更対応されたところで、健司が解放されるわけでもないのは。
言うまでもないことだが。
「・・・・どうしよう」
一通り、事情を話し終えたゆみは。
俯いた両目から、ぽろぽろと涙を零す。
「けんちゃん、怪我してたらどうしようッ・・・・!」
不安と、無力感で。
か細く絞り出された声を耳にしては。
「「――――ッ!!」」
あんなも、みくるも。
いてもたっても、いられなくなって。
「大丈夫だよ!ゆみ!」
「名探偵に任せて!」
気付けば、立ち上がってゆみの手を取っていた。
「その・・・・正直、出来ることは少ないんだけど!」
「出来る事は、全部やってみるから!!」
ウソを付けないあんなの言う通り。
現時点で彼女達に出来ることなど、たかが知れている。
――――だとしても。
悩んで、落ち込んで。
いつも素敵な笑顔を見せてくれる顔が、悲しみに陰っているのを見てしまっては。
何の行動も起こさずには、いられなかった。
「みくる・・・・あんな・・・・」
二人の力強い宣言を受けて、一瞬虚を突かれたゆみは。
段々、表情を和らげていって。
「・・・・どうか、お願いします」
祈る様に。
握られた手に、額を寄せたのだった。
「――――よぅし!まずは情報収集!」
「ええ!せめて、健司君の安否だけでも確認しないと!」
「しかし、どうするつもりじゃ?封鎖は堅牢、なみの手段では突破も出来まいて」
「「ううっ」」
すっかり落ち着いた様のゆみを見送った二人は、やる気満々とばかりに拳を握ったのはいいものの。
少女達のやり取りを見守っていた、モンドの最もな指摘に。
警官達の重苦しい間での圧を思い出して、揃って言葉を詰まらせてしまう。
――――と。
「いい時に戻って来たみたいね」
「んっ?」
「あっ!オミネさん!」
そんな彼らへ、話しかける者。
オミネだ。
「――――新しい任務よ、大也、兄様」
モンドと同じく、真ん丸なフクロウの姿をした彼女は。
あんなやみくると、『久しぶり』と笑顔を交わしたと思えば。
真剣な面持ちで大也とモンドを見て。
「標的は、ここ」
テーブルの上に広げられた地図の、まさに事件現場をなっている山を指したのだった。
実は脱獄した囚人達は、主に現実の殺人鬼や犯罪者の他に。
ゴールデンカムイも参考にしていまして・・・・。