「――――ミスティック!!!!」
アンサーの足が止まり、体を反転させる。
「みすてぃっく!!」
「物陰に隠れるんだ!!!」
ポチタンも涙交じりに心配する中、アンサーは死に物狂いで木立にミスティックを引き込んだ。
「プリキットライトを使え!紐を作って、傷口を縛るんだ!」
「わ、分かった・・・・!」
ジェットの指示通りに、プリキットライトで紐を作り出し。
ミスティックの傷口の少し上、太い血管が通っている場所を縛り上げる。
「よし、後は・・・・!」
ボン、と人間に戻ったジェットが、仕上げに包帯をてきぱきと撒いていく。
無事に終わった応急処置に、安心出来たのは一瞬だけ。
「でも、どうして?誰が、どこから・・・・!?」
「どこからかは、分からない・・・・が・・・・撃ったのはヘイヘイで間違いないだろう・・・・健司を囮に使われたな」
「そんな・・・・!」
「・・・・ボクの見通しが甘かった」
アンサーが隠せない不安のままに、周囲をせわしなくキョロキョロする横。
ジェットは苦い顔で断言する。
「公的な情報と噂だけで、ヘイヘイを知った気になっていた・・・・だから、お前達をここに連れてきてしまった・・・・!」
「先輩・・・・」
侮っていたつもりはない、油断していたつもりはない。
しかし、ヘイヘイの脅威はそれをいとも容易く凌駕して来た。
(暗闇で同心の妖精とやりあえる時点で、気付けばよかった・・・・!)
荒いなりに呼吸が落ち着いてきたミスティックにも、気づかわし気に見られながら。
ジェットは頭をフル回転させて、状況をどうやって打破するか。
・・・・どうやって、後輩達を逃がすか。
必死に思案していた時だった。
「――――なんだ」
低い、声が。
降ってくる。
「何故
弾かれるように振り向けば、樹上にイノシシ面の大男が立っている。
ヘイヘイだ。
「ッヘイヘ―――!!」
不意打ちの様に現れたヘイヘイに、ジェットが思わず怒鳴りつけようとすると。
銃声がそれを遮る。
「・・・・ッ」
ミスティックが咄嗟に障壁を展開していなければ、眉間を撃ち抜かれていただろう。
「・・・・もう一度、聞いてやる」
実に慣れた手つきでリロードを行ったヘイヘイは、次の瞬間には再び銃口を向けていた。
「何故、女子が山にいる」
「ッ健司さんを探しに来たの!!」
答えたのはアンサーだった。
「ほう・・・・?」
「その人の帰りを待っている人がいる!!泣きながら無事を祈っている人がいる!!」
二人を庇う様に前に出た彼女は、狙いを定められているにも関わらず。
果敢にヘイヘイへ食って掛かる。
「依頼を受けた探偵として!諦めるわけにはいかないの!」
「それは、山を荒らしてまでやることか?」
問いかけに、一瞬だけ言葉が詰まったが。
「・・・・出来るなら、荒らしたくない」
さらに一歩、前進して。
「でも!!結んだ約束をウソにしたくない!!」
依頼を受けた時の、ゆみの顔を思い出しながら。
アンサーは、思いっきり啖呵を切った。
・・・・沈黙が降りる。
風すらも息を潜めているような雰囲気の中。
呼吸もままならなくなるかと思い始めた頃に。
「――――ハ、ハハッ」
ヘイヘイが、牙を見せて笑う。
「女伊達らに、なかなかの勃起ぶりよな」
「・・・・?」
相手の言った意味はよく分からなかったアンサーだったが。
何か、良い意味での琴線に触れたらしいというのだけは理解出来た。
「バッ!お前、子どもの前で何を・・・・!!」
・・・・ジェットだけは、相手の言っていることを理解していたらしいが。
「――――よかろう、貴様は戦士として仕留めてやる」
何よりも速かったヘイヘイは。
アンサーからジェットへの、質問の時間をくれやしなかった。
「――――
轟、と迸る気迫。
性質は違えども、その現象に覚えがあった。
「――――ッ!!」
故にアンサーは、敵わないと分かっていても。
神経を総動員して警戒に当たる。
やがて風が止み、巻き上げられた砂埃が辺りを包み込む。
相手の姿は見えない。
が、いる。
砂埃の向こうから、依然として気配を感じる。
――――そして。
「――――ウオオオオオオオオオオオオオッッ!!!!!」
塵が吹き飛び、霞が掻き消えるほどの咆哮が轟いて。
まるで自動車サイズのイノシシだ。
全身から笹を生やし、右目にはカメラレンズの様な装備が付いている。
額からは、巨大な角の様な戦車の砲塔が伸びていた。
「・・・・ジェット先輩、ミスティックを連れて逃げて」
「アンサー!?」
「アンサー、だめ・・・・!」
誰かが残らなければ、逃げられない。
ジェットとポチタンは論外、ミスティックも大怪我を負っている。
動けるのは、アンサーだけ。
全滅を逃れるためには、自分が戦うしかない。
「健司ィッ!!」
覚悟を決めるアンサーの目の前で、ヘイヘイは物陰の健司を呼び寄せる。
「見ての通りだ!相手は
「ッ、まさか、この前言っていた・・・・!?」
「おうさ!」
アンサーが疑問に眉を潜める一方で、健司は師の意図を察しているらしかった。
「ワシに全てを委ねる覚悟は、あるかッ!?」
「・・・・もちろん!!」
「ハハハハハハッ!!では、行くぞッ!!」
ヘイヘイの問いに、やや間をおいてから。
腹からの大声で応えて、銃口をアンサーに突き付けた。
「「――――
再び迸る気迫。
枝葉を揺らし、木立を揺らし、大気を震わせる。
「・・・・ッ!」
飛んでくる落ち葉や塵に、視界を奪われないようにしていたアンサーが。
やがて風が止んだ中、恐る恐る前を見れば。
「・・・・ぁ、れは・・・・何・・・・!?」
ヘイヘイの姿は消えていて、代わりに健司の姿が変わっていた。
笹が混じったイノシシの毛皮を羽織り、右目にはスコープの様なモノクル。
猟銃は、一見竹製に変わったように思えたが。
当然、見た目通りではないのは手に取る様に分かった。
「――――ッ!!」
この頃、やっと戦いに慣れて来た素人でも分かる威圧に。
アンサーの全身が、警戒で硬直する。
「
「・・・・ッ」
ミスティックとポチタンを、後ろ手に庇ったジェットの解説に。
ぎち、と音が鳴るほど拳を握るアンサー。
「――――よう知っておるではないか」
そんな彼女を観て、面白そうに口を開いたのは健司。
しかし、その口から出たのはヘイヘイの声だった。
「まさか、乗っ取ったの!?」
「それこそまさか、前もって同意は得ておるわ・・・・まあ、ワシの力に、こやつの心が食いつぶされ兼ねんのは、事実だがな」
『故に』と言うが早いか、アンサーの頬を威嚇射撃が掠める。
明らかに当たらない位置を過ぎて行ったはずなのに、頬がじくじく痛んで血が滲んだ。
「――――早くに片を付けるぞ」
「――――ッ!!」
再び向けられた銃口に対し、アンサーは思いっきり飛び込んだ。
「はは、考えたなァッ!!」
接近すればヘイヘイの視界がアンサーに遮られる。
そうやって射線を邪魔する腹積もりを見抜き、獰猛な笑みが浮かぶ。
そして、それは同時に。
アンサーが、彼の銃弾から逃れられないことも示していて。
「アンサー!」
「アンサー、やめてッ!!」
「あんさー!」
当然それに気が付いたジェット達が、引き止めようとしたそこへ。
「――――その必要はない!」
「わっ!?」
待ったをかけ、アンサーを救出したのは。
業火と共に駆けつけた、大也とモンドだった。
「兄様の言う通り!焦らないの!」
オミネも上空から舞い降りて、プリキュア達を庇って立つ。
「名探偵のみんなの役目は、ここまで!あとは兄様達に任せて、退きましょう!」
「で、でも!」
捜索対象であった健司が目の前であるのはもちろん。
戦う為に神経を研ぎ澄ませていた所に、冷や水をかけられた気持ちになってしまった。
「退くも勇気!教えたはずよ!」
「ッ・・・・!」
そんな彼女の心境を見抜いていたオミネは、翼を広げてヘイヘイの射線を遮ったまま。
ミスティックを抱え上げて撤退を促せば、アンサーはやっと落ち着いた。
「ッ大也さん!モンドさん!」
立ち去る前、アンサーは足を止めて振り向く。
「ごめんなさい・・・・あとは、お願いします!」
「ああ、引き受けた!」
「・・・・オウ」
本懐を成し得なかったことと、冷静さを失いかけたこと。
二つの罪悪感で告げられた言葉に、大也とモンドは振り向かないまま腕を上げて応じた。
「はは、あの娘もなかなか良かったが・・・・貴様らが相手なら、是非も無し!!」
すっかりアンサーとやる気だったヘイヘイは、一瞬顔を顰めていたが。
すぐに切り替えて、標的を大也達に変更した。
「あれはなんだ!?」
「
大也の疑問に答えたモンドは、『だが・・・・』と顔を顰めて。
「あれはいかんな、少年がヘイヘイに乗っ取られておる・・・・このままでは、少年の心が食いつぶされて、死ぬ」
プリキュアと、あんな達と変わらない年の少年が。
家族や友人に、涙が出るほど無事を祈られている少年が。
今まさに、命の危機に瀕している。
「ッ止めるぞ!」
「気を付けろ!」
大也は即座に刀を構え飛び出す。
対するヘイヘイは後ろに飛びのいて距離を取る。
「――――ッ!?」
同時に周囲の植物がざわついて、刹那。
枝葉が槍や鞭のような鋭さで伸びて来た。
大也は必死に体をのけ反らせて避け、それでも直撃しそうなものはモンドが焼き払っていく。
「うおっ!?」
そうやって回避に気を取られている隙を狙って、的確に銃弾が飛んできた。
銃声の方を見ても、ひろがる暗闇と襲い来る木々で索敵どころではない。
そうこうしている内に、また銃声が轟いた。
「づっ・・・・!?」
「ヒロヤッ!!」
枝葉が密集している個所から飛び出して来た弾丸に、わき腹を穿たれる大也。
何事かと目をやると、折り重なった枝がぶち抜かれているのが分かった。
「まるごと撃った
「彼奴は『突進』の力を別のものに付与する能力を持っておる・・・・使って来おったか・・・・!」
――――イノシシの見た目通り、突進の能力を持っていたヘイヘイは。
それを他のものに付与するという力を持っていた。
基本的な殺傷能力が高い弾丸に、イノシシの脅威的な突進の力が加われば。
どんな物陰に隠れようが、隠れたものごと撃ち抜いて仕留める。
ヘイヘイが、優れた狩人である由縁だった。
(どうする、どうする・・・・!?)
わき腹はあっという間に真っ赤に染まり、出血は今まさに袴を濡らしている。
健司の命も危うい中、自身までも同じ状況に陥ってしまった大也。
(あいつを、ヘイヘイを無力化させるには・・・・!!)
健司の救助、ヘイヘイの確保、自身の命。
全てにおいて、最善の結果を得るためには、どうするか。
「――――モンド」
出来るだけ冷静に思考を巡らせて、出した結論は。
「俺達も、同じことは
「ッ、ヒロヤお主・・・・!?」
ひりつく殺意に熱される一方で、流血と共に体温が下がっていくのも感じながら。
大也が問いかけると、モンドは明らかに焦る。
「分かっとる、今の俺があれをやったら、同じことになるんやろ」
「ならば・・・・!」
――――元々死にかけていた所を、モンドの力を分けられることで生きながらえた大也は。
オミネに鍛えられていなければ、精霊転化したモンドと並ぶことも叶わなかったくらいだ。
そんなところへ、精霊合神までしてしまったなら。
今の健司以上に負荷をかけかねない上に、わき腹の傷もある。
大也の命もまた、間違いなく危機にさらされる。
・・・・しかし、
「
――――時間がない。
大怪我を負った大也にも、今まさに精神を蝕まれている健司にも。
「何より、俺じゃあいつには敵わん・・・・
「ヒロヤ・・・・!」
「大丈夫
なおを自分を案じてくれるモンドへ、すっかり訛りを隠せなくなった大也が。
歯を見せて笑う。
「そこそこの付き合いやもん・・・・
「・・・・~~~ッ」
そこまで言われてもまだ、逡巡したモンドは。
「――――相、分かった!!」
やがて、悔しさという悔しさを絞り出す。
「そこまで言うのなら、このモンド!!全霊をかけて応えよう!!」
「・・・・ありがとう」
年長者として、まだまだ少年の域に入る大也が心配なのは当然。
しかし、信頼もしている彼が、覚悟を示したのだ。
応えないのは、それこそ大也への侮辱に他ならない。
「行くぞ、ヒロヤ!!」
「応ッ!!」
身を隠していた物陰から、揃って飛び出す。
『何事だ』と、ヘイヘイが警戒を露にする中。
「「おおおおおおおおお――――ッ!!」」
二人は呼吸を合わせて、練り上げた気迫を燃え上がらせる。
大気を焦がし、空気を揺らし、夜闇を照らし出す。
「「――――
そして彼らは。
起死回生を託した一手を、咆哮した。
「わっ!?」
「な、何!?」
無事に下山したアンサー達は、突如として立ち上った火柱に驚いていた。
治療ですっかり傷も塞がったミスティックも、目を丸くしている。
「これは・・・・」
全員の手当てを終えたオミネは、しばし険しい顔で火柱を見上げたのち。
「・・・・まったく、無茶をする」
仕方ないなとばかりに、困った笑みを浮かべたのだった。
意外と長くなってしまっているヘイヘイエピソード・・・・。
つ、次で終わるから・・・・!()