妖精犯科帳   作:数多 命

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るるくれがまさかの駆け落ちをしていた事実に横転しています()


拾陸

「――――ミスティック!!!!」

 

アンサーの足が止まり、体を反転させる。

 

「みすてぃっく!!」

「物陰に隠れるんだ!!!」

 

ポチタンも涙交じりに心配する中、アンサーは死に物狂いで木立にミスティックを引き込んだ。

 

「プリキットライトを使え!紐を作って、傷口を縛るんだ!」

「わ、分かった・・・・!」

 

ジェットの指示通りに、プリキットライトで紐を作り出し。

ミスティックの傷口の少し上、太い血管が通っている場所を縛り上げる。

 

「よし、後は・・・・!」

 

ボン、と人間に戻ったジェットが、仕上げに包帯をてきぱきと撒いていく。

無事に終わった応急処置に、安心出来たのは一瞬だけ。

 

「でも、どうして?誰が、どこから・・・・!?」

「どこからかは、分からない・・・・が・・・・撃ったのはヘイヘイで間違いないだろう・・・・健司を囮に使われたな」

「そんな・・・・!」

「・・・・ボクの見通しが甘かった」

 

アンサーが隠せない不安のままに、周囲をせわしなくキョロキョロする横。

ジェットは苦い顔で断言する。

 

「公的な情報と噂だけで、ヘイヘイを知った気になっていた・・・・だから、お前達をここに連れてきてしまった・・・・!」

「先輩・・・・」

 

侮っていたつもりはない、油断していたつもりはない。

しかし、ヘイヘイの脅威はそれをいとも容易く凌駕して来た。

 

(暗闇で同心の妖精とやりあえる時点で、気付けばよかった・・・・!)

 

荒いなりに呼吸が落ち着いてきたミスティックにも、気づかわし気に見られながら。

ジェットは頭をフル回転させて、状況をどうやって打破するか。

・・・・どうやって、後輩達を逃がすか。

必死に思案していた時だった。

 

「――――なんだ」

 

低い、声が。

降ってくる。

 

「何故女子(おなご)が山にいる」

 

弾かれるように振り向けば、樹上にイノシシ面の大男が立っている。

ヘイヘイだ。

 

「ッヘイヘ―――!!」

 

不意打ちの様に現れたヘイヘイに、ジェットが思わず怒鳴りつけようとすると。

銃声がそれを遮る。

 

「・・・・ッ」

 

ミスティックが咄嗟に障壁を展開していなければ、眉間を撃ち抜かれていただろう。

 

「・・・・もう一度、聞いてやる」

 

実に慣れた手つきでリロードを行ったヘイヘイは、次の瞬間には再び銃口を向けていた。

 

「何故、女子が山にいる」

「ッ健司さんを探しに来たの!!」

 

答えたのはアンサーだった。

 

「ほう・・・・?」

「その人の帰りを待っている人がいる!!泣きながら無事を祈っている人がいる!!」

 

二人を庇う様に前に出た彼女は、狙いを定められているにも関わらず。

果敢にヘイヘイへ食って掛かる。

 

「依頼を受けた探偵として!諦めるわけにはいかないの!」

「それは、山を荒らしてまでやることか?」

 

問いかけに、一瞬だけ言葉が詰まったが。

 

「・・・・出来るなら、荒らしたくない」

 

さらに一歩、前進して。

 

「でも!!結んだ約束をウソにしたくない!!」

 

依頼を受けた時の、ゆみの顔を思い出しながら。

アンサーは、思いっきり啖呵を切った。

・・・・沈黙が降りる。

風すらも息を潜めているような雰囲気の中。

呼吸もままならなくなるかと思い始めた頃に。

 

「――――ハ、ハハッ」

 

ヘイヘイが、牙を見せて笑う。

 

「女伊達らに、なかなかの勃起ぶりよな」

「・・・・?」

 

相手の言った意味はよく分からなかったアンサーだったが。

何か、良い意味での琴線に触れたらしいというのだけは理解出来た。

 

「バッ!お前、子どもの前で何を・・・・!!」

 

・・・・ジェットだけは、相手の言っていることを理解していたらしいが。

 

「――――よかろう、貴様は戦士として仕留めてやる」

 

何よりも速かったヘイヘイは。

アンサーからジェットへの、質問の時間をくれやしなかった。

 

「――――精霊勃起(フェアリー・バースト)ッッ!!」

 

轟、と迸る気迫。

性質は違えども、その現象に覚えがあった。

 

「――――ッ!!」

 

故にアンサーは、敵わないと分かっていても。

神経を総動員して警戒に当たる。

やがて風が止み、巻き上げられた砂埃が辺りを包み込む。

相手の姿は見えない。

が、いる。

砂埃の向こうから、依然として気配を感じる。

――――そして。

 

「――――ウオオオオオオオオオオオオオッッ!!!!!」

 

塵が吹き飛び、霞が掻き消えるほどの咆哮が轟いて。

精霊転化(フェアリー・バースト)したヘイヘイが姿を現した。

まるで自動車サイズのイノシシだ。

全身から笹を生やし、右目にはカメラレンズの様な装備が付いている。

額からは、巨大な角の様な戦車の砲塔が伸びていた。

 

「・・・・ジェット先輩、ミスティックを連れて逃げて」

「アンサー!?」

「アンサー、だめ・・・・!」

 

誰かが残らなければ、逃げられない。

ジェットとポチタンは論外、ミスティックも大怪我を負っている。

動けるのは、アンサーだけ。

全滅を逃れるためには、自分が戦うしかない。

 

「健司ィッ!!」

 

覚悟を決めるアンサーの目の前で、ヘイヘイは物陰の健司を呼び寄せる。

 

「見ての通りだ!相手は女子(おなご)なれども、狩るにふさわしき猛者!故に!こちらも全力で立ち会うが礼儀よ!」

「ッ、まさか、この前言っていた・・・・!?」

「おうさ!」

 

アンサーが疑問に眉を潜める一方で、健司は師の意図を察しているらしかった。

 

「ワシに全てを委ねる覚悟は、あるかッ!?」

「・・・・もちろん!!」

「ハハハハハハッ!!では、行くぞッ!!」

 

ヘイヘイの問いに、やや間をおいてから。

腹からの大声で応えて、銃口をアンサーに突き付けた。

 

「「――――勃起合神(バースト・ユニゾン)ッッ!!」」

 

再び迸る気迫。

枝葉を揺らし、木立を揺らし、大気を震わせる。

 

「・・・・ッ!」

 

飛んでくる落ち葉や塵に、視界を奪われないようにしていたアンサーが。

やがて風が止んだ中、恐る恐る前を見れば。

 

「・・・・ぁ、れは・・・・何・・・・!?」

 

ヘイヘイの姿は消えていて、代わりに健司の姿が変わっていた。

笹が混じったイノシシの毛皮を羽織り、右目にはスコープの様なモノクル。

猟銃は、一見竹製に変わったように思えたが。

当然、見た目通りではないのは手に取る様に分かった。

 

「――――ッ!!」

 

この頃、やっと戦いに慣れて来た素人でも分かる威圧に。

アンサーの全身が、警戒で硬直する。

 

「精霊合神(バースト・ユニゾン)・・・・人間と妖精、両者の絆の、到達点の一つだ・・・・!!」

「・・・・ッ」

 

ミスティックとポチタンを、後ろ手に庇ったジェットの解説に。

ぎち、と音が鳴るほど拳を握るアンサー。

 

「――――よう知っておるではないか」

 

そんな彼女を観て、面白そうに口を開いたのは健司。

しかし、その口から出たのはヘイヘイの声だった。

 

「まさか、乗っ取ったの!?」

「それこそまさか、前もって同意は得ておるわ・・・・まあ、ワシの力に、こやつの心が食いつぶされ兼ねんのは、事実だがな」

 

『故に』と言うが早いか、アンサーの頬を威嚇射撃が掠める。

明らかに当たらない位置を過ぎて行ったはずなのに、頬がじくじく痛んで血が滲んだ。

 

「――――早くに片を付けるぞ」

「――――ッ!!」

 

再び向けられた銃口に対し、アンサーは思いっきり飛び込んだ。

 

「はは、考えたなァッ!!」

 

接近すればヘイヘイの視界がアンサーに遮られる。

そうやって射線を邪魔する腹積もりを見抜き、獰猛な笑みが浮かぶ。

そして、それは同時に。

アンサーが、彼の銃弾から逃れられないことも示していて。

 

「アンサー!」

「アンサー、やめてッ!!」

「あんさー!」

 

当然それに気が付いたジェット達が、引き止めようとしたそこへ。

 

「――――その必要はない!」

「わっ!?」

 

待ったをかけ、アンサーを救出したのは。

業火と共に駆けつけた、大也とモンドだった。

 

「兄様の言う通り!焦らないの!」

 

オミネも上空から舞い降りて、プリキュア達を庇って立つ。

 

「名探偵のみんなの役目は、ここまで!あとは兄様達に任せて、退きましょう!」

「で、でも!」

 

捜索対象であった健司が目の前であるのはもちろん。

戦う為に神経を研ぎ澄ませていた所に、冷や水をかけられた気持ちになってしまった。

 

「退くも勇気!教えたはずよ!」

「ッ・・・・!」

 

そんな彼女の心境を見抜いていたオミネは、翼を広げてヘイヘイの射線を遮ったまま。

ミスティックを抱え上げて撤退を促せば、アンサーはやっと落ち着いた。

 

「ッ大也さん!モンドさん!」

 

立ち去る前、アンサーは足を止めて振り向く。

 

「ごめんなさい・・・・あとは、お願いします!」

「ああ、引き受けた!」

「・・・・オウ」

 

本懐を成し得なかったことと、冷静さを失いかけたこと。

二つの罪悪感で告げられた言葉に、大也とモンドは振り向かないまま腕を上げて応じた。

 

「はは、あの娘もなかなか良かったが・・・・貴様らが相手なら、是非も無し!!」

 

すっかりアンサーとやる気だったヘイヘイは、一瞬顔を顰めていたが。

すぐに切り替えて、標的を大也達に変更した。

 

「あれはなんだ!?」

「精霊合神(バースト・ユニゾン)、妖精の力と、人の知恵を掛け合わせ、最大限以上の力を発揮させる術(すべ)よ」

 

大也の疑問に答えたモンドは、『だが・・・・』と顔を顰めて。

 

「あれはいかんな、少年がヘイヘイに乗っ取られておる・・・・このままでは、少年の心が食いつぶされて、死ぬ」

 

プリキュアと、あんな達と変わらない年の少年が。

家族や友人に、涙が出るほど無事を祈られている少年が。

今まさに、命の危機に瀕している。

 

「ッ止めるぞ!」

「気を付けろ!」

 

大也は即座に刀を構え飛び出す。

対するヘイヘイは後ろに飛びのいて距離を取る。

 

「――――ッ!?」

 

同時に周囲の植物がざわついて、刹那。

枝葉が槍や鞭のような鋭さで伸びて来た。

大也は必死に体をのけ反らせて避け、それでも直撃しそうなものはモンドが焼き払っていく。

 

「うおっ!?」

 

そうやって回避に気を取られている隙を狙って、的確に銃弾が飛んできた。

銃声の方を見ても、ひろがる暗闇と襲い来る木々で索敵どころではない。

そうこうしている内に、また銃声が轟いた。

 

「づっ・・・・!?」

「ヒロヤッ!!」

 

枝葉が密集している個所から飛び出して来た弾丸に、わき腹を穿たれる大也。

何事かと目をやると、折り重なった枝がぶち抜かれているのが分かった。

 

「まるごと撃ったとや(のか)・・・・!?」

「彼奴は『突進』の力を別のものに付与する能力を持っておる・・・・使って来おったか・・・・!」

 

――――イノシシの見た目通り、突進の能力を持っていたヘイヘイは。

それを他のものに付与するという力を持っていた。

基本的な殺傷能力が高い弾丸に、イノシシの脅威的な突進の力が加われば。

どんな物陰に隠れようが、隠れたものごと撃ち抜いて仕留める。

ヘイヘイが、優れた狩人である由縁だった。

 

(どうする、どうする・・・・!?)

 

わき腹はあっという間に真っ赤に染まり、出血は今まさに袴を濡らしている。

健司の命も危うい中、自身までも同じ状況に陥ってしまった大也。

 

(あいつを、ヘイヘイを無力化させるには・・・・!!)

 

健司の救助、ヘイヘイの確保、自身の命。

全てにおいて、最善の結果を得るためには、どうするか。

 

「――――モンド」

 

出来るだけ冷静に思考を巡らせて、出した結論は。

 

「俺達も、同じことは出来っとや(出来るのか)?」

「ッ、ヒロヤお主・・・・!?」

 

ひりつく殺意に熱される一方で、流血と共に体温が下がっていくのも感じながら。

大也が問いかけると、モンドは明らかに焦る。

 

「分かっとる、今の俺があれをやったら、同じことになるんやろ」

「ならば・・・・!」

 

――――元々死にかけていた所を、モンドの力を分けられることで生きながらえた大也は。

精霊転化(フェアリー・バースト)だけでも、大なり小なり影響を受ける体になっていた。

オミネに鍛えられていなければ、精霊転化したモンドと並ぶことも叶わなかったくらいだ。

そんなところへ、精霊合神までしてしまったなら。

今の健司以上に負荷をかけかねない上に、わき腹の傷もある。

大也の命もまた、間違いなく危機にさらされる。

・・・・しかし、

 

「ばってん(だけど)、時間が無か。俺もこのザマや」

 

――――時間がない。

大怪我を負った大也にも、今まさに精神を蝕まれている健司にも。

 

「何より、俺じゃあいつには敵わん・・・・はがいかばってんさい(悔しいけど)・・・・モンドなら、違うやろうもん」

「ヒロヤ・・・・!」

「大丈夫くさ(だ)」

 

なおを自分を案じてくれるモンドへ、すっかり訛りを隠せなくなった大也が。

歯を見せて笑う。

 

「そこそこの付き合いやもん・・・・信じとぉよ(信じてる)」

「・・・・~~~ッ」

 

そこまで言われてもまだ、逡巡したモンドは。

 

「――――相、分かった!!」

 

やがて、悔しさという悔しさを絞り出す。

 

「そこまで言うのなら、このモンド!!全霊をかけて応えよう!!」

「・・・・ありがとう」

 

年長者として、まだまだ少年の域に入る大也が心配なのは当然。

しかし、信頼もしている彼が、覚悟を示したのだ。

応えないのは、それこそ大也への侮辱に他ならない。

 

「行くぞ、ヒロヤ!!」

「応ッ!!」

 

身を隠していた物陰から、揃って飛び出す。

『何事だ』と、ヘイヘイが警戒を露にする中。

 

「「おおおおおおおおお――――ッ!!」」

 

二人は呼吸を合わせて、練り上げた気迫を燃え上がらせる。

大気を焦がし、空気を揺らし、夜闇を照らし出す。

 

「「――――精霊合神(バースト・ユニゾン)ッ!!」」

 

そして彼らは。

起死回生を託した一手を、咆哮した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わっ!?」

「な、何!?」

 

無事に下山したアンサー達は、突如として立ち上った火柱に驚いていた。

治療ですっかり傷も塞がったミスティックも、目を丸くしている。

 

「これは・・・・」

 

全員の手当てを終えたオミネは、しばし険しい顔で火柱を見上げたのち。

 

「・・・・まったく、無茶をする」

 

仕方ないなとばかりに、困った笑みを浮かべたのだった。




意外と長くなってしまっているヘイヘイエピソード・・・・。
つ、次で終わるから・・・・!()
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