次回もう一話挟んで、やっと原作15話に本格的に行きます。
「ほう、ほう・・・・!」
――――火柱の中央を見て、ヘイヘイは獰猛に笑みを浮かべた。
そこにいたのは、一人の侍。
炎そのものが形になった様な刀を携えて、夕日で染め上げた外套を靡かせて。
ヘイヘイをまっすぐ見据えている。
「実に良し!狩り甲斐があるというものよ!!」
「――――愉しいか?それは何より」
目の前に現れた強者に、嬉々として銃口を向けた瞬間。
大也・・・・否、モンドもまた、刀を構えて。
「では、もう終いにしよう」
――――刹那。
猟銃が真っ二つに両断されていた。
(――――速い!!)
得物を叩き切ると同時に、背後に回ったモンドと向き合うべく。
ヘイヘイは山刀を抜きながら振り向こうとしたが。
「――――遅い」
やっと向き直った、その眼前。
十手の切っ先がすでに迫っていて。
「――――
「ノオォッ!?」
迫撃、一閃。
そのたった一撃で、ヘイヘイと健司の合神が解除されてしまう。
「ヌウウッ!!さすがは同心・・・・!!」
それでもなお、ヘイヘイの戦意は衰えなかったが。
既に十手の柄が突き付けられていた。
「――――まだ、やるか?」
山刀から手は離れていない。
まだまだ戦える。
容易に諦めないからこそ、彼は誇り高い狩人足り得て来たのだ。
「むうううう・・・・!」
しかし、どこを攻撃しても、全てに反撃が来ると分かる。
分かってしまう。
「――――ヘイヘイ」
「・・・・ッ」
低く、名を呼ばれる。
ただそれだけだというのに、己が『狩られる側だ』と否応なく思い知らされる。
「・・・・ハ」
長い長い沈黙の後。
「よかろう・・・・負けを認めるのも、また勃起よ」
ヘイヘイは笑みを浮かべながら、山刀を手放した。
「――――ぁ」
健司が目を覚ましたのは、ヘイヘイが送還されて間もなくだった。
「あ!起きた!」
「健司さん!大丈夫!?聞こえる!?」
「――――うわッ!!」
しばしぼうっとしていた彼だったが。
アンサーとミスティックが賑やかに覗き込んでいるのを見て、一気に覚醒する。
「・・・・師匠?」
そのまま勢いよく後ずさった健司は、ヘイヘイの姿が近くにないことに気が付く。
「師匠は?師匠はどうしたんだよ!?」
「お、落ち着いて、今はとにかく話を・・・・!」
「いいから!!師匠はどこに!?」
「――――はい、そこまで」
近くにいたミスティックに掴みかかり、ヘイヘイの行方を問いただそうとする健司だったが。
騒ぎに気付いたオミネによって、呆気なく引きはがされた。
「え、アッ!?ウワッ!?フクロウ!?」
「あたり」
自分の姿に驚く健司を、オミネは微笑まし気に見つめた。
「――――少し良いか、少年」
「今度はカラス・・・・」
そこへ話しかけたのは、モンドだ。
精霊転化も解き、すっかり元のまんまるカラスに戻った彼は。
真面目な面持ちで健司と向き合う。
「まず、お主の言う師匠・・・・ヘイヘイのことだが」
「ッ無事なのか!?」
「無事じゃ、だがここにはおらん」
「じゃあ、どこに!?」
「監獄じゃ、妖精のな」
――――長い間、虐げられていた彼にとって。
やっとのことで見つけた『
縋るのも無理はないと結論付けながら、モンドは静かに事実を伝える。
「監獄って・・・・」
「あやつは元々、幾人もを手にかけた罪で収監されておった罪人だったのだ・・・・それを再び捕らえ、檻に入れる。それが某の役目であった」
「そんな・・・・」
確かに破天荒なところはあったが。
それでも、健司にとってはかけがえのないことを教えてくれた恩師だ。
「・・・・少年」
「・・・・何ですか?」
あまりに唐突過ぎる別れに、すっかり肩を落とした彼へ。
モンドが話しかけると。
説教をされるとでも思ったのだろう。
やや投げやりな返事をする健司。
「――――よう生き延びた」
「・・・・へっ?」
「尊厳を玩具にされる中、命を絶たずによくぞ耐え抜いた・・・・万人に出来る事ではない、素晴らしいことだ」
対するモンドは、気にした様子もなく。
まずは、そう語り掛けた。
「で、あればこそ」
まさか褒められるとは思っていなかった健司へ、モンドは畳みかけながらまっすぐ見据えて。
「お主を心より思う者達のことを、忘れるな」
そう、言い聞かせたのだった。
「・・・・モンドさんの、言う通りよ」
モンドに続けて前に出たのは、ミスティックだ。
「わたし達に依頼してきたゆみだけじゃない、あなたのお父さんやお母さん・・・・探しに来て、ヘイヘイに撃たれた警察の人だって・・・・みんなあなたが心配だったの・・・・『無事でいて』って、ずっと願っていたの」
足の処置も終わり、動けるようにはなった彼女は。
ゆみのことを、再び思い出していたのだろう。
「それだけは、踏み躙っちゃダメよ」
少しだけ、視線に剣呑さを宿していた。
「・・・・ッ」
そんなミスティックの言葉が、届いたのだろう。
健司はしばし沈黙を保つと。
「――――ん」
やがて、観念したように頷いたのだった。
「―――――すみません」
「はぁーい!いらっしゃいませ!」
翌日のパティスリー・チュチュ。
今日も今日とてやってきた来客に、くれあは営業スマイルを浮かべながら店頭に出る。
(わ、お坊さん)
その客を見た時の、第一印象はそれだった。
頭こそ丸めていないものの、手本の様な袈裟姿は。
まさしく『僧侶』と呼ぶにふさわしい。
「珍しいでしょう?坊主がこんなところに」
「も、申し訳ありません・・・・つい・・・・!」
そんな彼女のリアクションが微笑ましかったのか、くすくす笑う『僧侶』に。
くれあは一通り頭を下げてから、注文を聞く。
「――――そういえば」
ケーキを箱に詰めている最中、『僧侶』が口を開いた。
「数日前訪れた時より、街の雰囲気が明るくなったようですが・・・・なにか、あったのでしょうか?」
「ああ、それが・・・・」
注文の中で聞いた『市外の寺から来ている』という発言を思い出したくれあは。
持ち帰りの箱を丁寧に閉じながら答える。
「人質にされていた子どもが、無事に解放されたらしくって」
「なんと・・・・それは確かにめでたい話です」
「ええ、私も安心しちゃいました」
『犯人は逃げちゃったらしいですけど・・・・』と、苦笑いをしながら。
くれあは代金と引き換えに、ケーキ入りの箱を手渡した。
「どうも・・・・や、以前仲間がここのケーキについて話していたものですから、ついつい気になってしまって・・・・」
「ふふっ・・・・ありがとうございました、またのお越しを」
聖職者らしからぬ、うっきうきな笑顔の『僧侶』に。
くれあもまた、笑みを浮かべて深々と頭を下げて見送った。
「なるほど、あれが『大王』・・・・」
「どう化かすか・・・・楽しみだ」
「あ、カンダタ。おかえりー!!」
おまけ
妖精と人間の絆の、到達点の一つ。
身もふたもない言い方をすれば、合体である。
本文中に出て来たものは不完全なものであり、大也も健司も心を食いつぶされる危機に瀕していた。
妖精の力と、人間の力。
二つが拮抗していないと、健全な形で発動しない。