妖精犯科帳   作:数多 命

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またまた久々のヒロイン!!()
ヒロインなのに本筋に絡まなさすぎるのはどういうこった!?オォン!?()


拾捌

――――あれから数日。

健司はプリキュアや妖精のことを固く口止めをされた後、無事家族の下に帰ることが出来た。

警察には、もう居もしない『立てこもり犯』を追いかけさせてしまうことになるが・・・・。

何はともあれ、これで湖の周辺を調査出来るようになるだろう。

前述の通り、もう少し警察が捜査することと。

足を撃たれたみくるや、モンドとの無理な精霊合神(バースト・ユニゾン)の影響で火傷を負った、大也の快復を待つために。

大也達同心一派と、キュアット探偵事務所の面々は。

しばしの休息を取ることになった。

 

(久しぶりだな・・・・)

 

そんなこんなで、大也は久しぶりにパティスリー・チュチュへの道を歩いていた。

いつも肩に乗っているモンドも、今回はオミネと一緒に事後処理に回っているため。

一人で行くという意味でも久しぶりだ。

 

(・・・・くれあは、元気にしてるやろうか)

 

キュアアルカナ・シャドウ改め、るるかのこともあって。

くれあの安否を気にする一方で。

久しぶりのチュチュに、少しばかり心を躍らせていると。

 

「――――さっきの子、大丈夫かな」

「だいぶ具合悪そうにしてたよなぁ・・・・」

 

すれ違った、大学生らしき男性二人組。

しきりに背後を気にしているのが気になって、大也は思わず聞き耳を立てる。

 

「病院なり、連れてったがよかったかな」

「でも、あんまり構うと痴漢になりそう・・・・」

「分かるけど・・・・ううーん、後ろ髪を引かれるとはこのことか・・・・」

 

・・・・何となく、胸騒ぎがして。

彼らが気にしていた方向に、足を進めた。

いつもより注意深く周囲を見渡しながら歩き回っていると、

 

「・・・・ッ」

 

いた。

建物の陰に、隠れるようにして蹲っている。

 

「大丈夫ですか!?」

「――――ッ!?」

 

飛び掛かる様に駆け寄って、気が付いた。

 

「帆羽さん!?」

「ぁ、かむ・・・・っひゅ・・・・!」

 

件の体調不良者が、今まさに考えていたくれあだったことに一度。

その必死に抑えた口元から、びょうびょうとふいごの様な呼吸が漏れていたことに、二度仰天しながら。

大也は彼女の背中をさする。

 

「ご、ぉ・・・・め・・・・」

「無理に話さんでよか(話さなくていい)!」

 

迷惑をかけていると思っているのか。

謝罪を絞り出そうとするくれあの口を、大也は着物の袖で塞いだ。

過剰過ぎる呼吸をなんとか制しようと試みたからだ。

 

「ゆっくり、ゆっくりでよか・・・・無理すんな」

「ぜ、は・・・・ぜ、は・・・・!」

 

それを知ってか知らずか、くれあもまた縋る様に袖を口元に押さえつける。

 

「は・・・・は・・・・は・・・・」

 

果たして、大也の選択の効果はあったらしい。

やがて、呼吸が落ち着いてきたくれあは。

呆然としている様にも、安堵している様にも見える顔になると。

 

「――――」

「あ、ちょ・・・・!?」

 

まるで、電源を落とされた機械の様に。

意識を失ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、もしもし」

 

「・・・・ああ、中村君!どうしたの?」

 

「――――ええっ!?帆羽さんが!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――何かあったみたいね」

 

「・・・・うん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――ぅ」

 

意識が浮上した時。

『ああ、またか』と、くれあは息を吐いた。

――――記憶を失って以来。

時折あるのだ。

記憶が、思い出がないことに。

言いようのない、底なしの不安を感じて。

足元のおぼつかない恐怖に、呼吸がままならなくなってしまうことが。

これまで自宅でしか起こらなかったのだが、まさか道端で倒れてしまうとは・・・・。

 

「・・・・ここは?」

 

自分の体調管理の至らなさに、頭を抱えたくれあは。

次に、見慣れぬ天井に気が付いた。

周囲を見渡すと、やはり知らない家具に、知らない内装。

ぱっと見たところ、アパートの一室の様だった。

畳の香ばしくも爽やかな匂いに交じって、誰かが動いている音も聞こえる。

 

(誰かの家なのかしら・・・・?)

 

やや警戒しながら、寝かされていた布団から出ようとした。

まさにそのタイミングで、寝室の襖が開いて。

 

「帆羽さん!起きたんですね」

「中村さん・・・・?」

 

お茶を持ってきたらしい大也が、目に見えてほっとした顔をしていた。

 

「ここは俺の自宅です、帆羽さんが倒れているのを見つけたものですから、やむを得ず・・・・すみません」

「そんな、こちらこそお手間を取らせてしまって・・・・!」

 

知らぬ仲ではないとはいえ、家族でもない男の家に連れ込んだことを謝る大也に対し。

くれあは、『店のお客様』の手を煩わせてしまったことを謝る。

 

「ひとまず、チュチュには連絡してて、店長さんも今日は休んでていいと言ってました・・・・俺も、同じ意見です」

「・・・・そう、ですか」

 

さらに、職場にまで迷惑をかけていたと知って、くれあはとうとう項垂れてしまった。

 

「・・・・お茶、飲みます?」

「・・・・いただきます」

 

ひとまず、大也が出してくれた緑茶を口にするくれあ。

日本茶ならではの、苦みの中にあるほのかな甘みが。

気持ちを落ち着かせてくれた。

 

「おいしい・・・・」

「ええ、ばあちゃん仕込みです」

「ふふっ・・・・」

 

ほ、と息を吐いたくれあは、大也の言葉に笑みを零す。

悪かった顔色も、少しだけ血色を取り戻していた。

 

「・・・・どうして、倒れることになったか。心当りはありますか?」

 

ひとしきり笑い合って、黙してお茶を味わって。

沈黙が、少し辛くなってきた頃。

大也が口火を切った。

 

「・・・・ッ」

 

最もな問いかけ、しかし踏み込んで来る問いかけ。

 

「ぁ、あの・・・・言いたくないのなら、別に・・・・」

「――――いいえ」

 

数瞬、緊張に強張ったくれあを気遣い、問いを撤回しようとする大也だったが。

他でもない彼女が、首を横に振った。

 

「――――聞いてくれますか?」

「・・・・俺で、よければ」

 

浮かんだ笑みと、湯呑を握った手が震えているのを目の当たりにして。

大也は、こっくり頷いた。

 

「・・・・ありがとう」

 

手にした湯呑に、目を落としたくれあは。

とつとつ、話し始める。

 

「・・・・私の記憶がないのは、ご存じですよね」

「ええ」

 

――――記憶喪失のことは。

初めてパティスリーを訪れた時のやり取りで、大也も把握していた。

・・・・そのことに安堵してしまったから、店に通い続けているのだ。

 

「その所為だと思うんですけど・・・・たまに、怖くなるんです」

「・・・・怖くなる?」

「はい」

 

オウム返しを肯定して、くれあは続ける。

 

「店長は、学生の頃に見た、芸術品の様なケーキに憧れて・・・・自分もそんなケーキを作りたいって、今チュチュで頑張っています」

 

「常連のエリザさんは、自分の作品でたくさんの人を笑顔にしたいって言ってました・・・・少し前には賞も取って、もっと頑張ってます」

 

「この頃来てくれるようになった、あんなちゃんとみくるちゃんは、困っている人を助けたいって、力になりたいって・・・・一生懸命で・・・・」

 

一つ、一つ。

丁寧に上げられていく、身近な人物。

大也は黙って、耳を傾ける。

 

「・・・・私には、ないんです」

 

ぎゅ、と、湯呑を握った手元が鳴る。

白魚の様な指先が、さらに白くなる。

 

「名前以外の、何もない私には・・・・なんにも、無いんです・・・・本当に・・・・何も・・・・」

 

俯いているため、表情はうかがえない。

ただ、聞える声は。

笑っている様にも、泣いている様にも聞こえた。

 

「体は覚えています・・・・お菓子の作り方も、接客の仕方も・・・・だけど・・・・そのきっかけはなんだったのか・・・・一番最初に抱いたはずの『きらめき』が、まるごとないんです」

 

湯呑を置いて、自らの手のひらを見るくれあ。

大也の目には、何の変哲もない少女の手に見えたが。

 

「――――怖くなるの」

 

彼女には、別のものが見えていたらしく。

 

「どうしてパティスリーで働こうと思ったのか・・・・そもそも、どうしてパティシエだったのか・・・・今でこそ、お客さんの笑顔を見て、やっててよかったって思うことはあるの」

 

『だけど』、と。

敬語が外れてしまっていることに、くれあは気付かない。

 

「やっぱり、自分に何も無いって・・・・空っぽだなって、思い知らされることが、たくさんあって・・・・」

 

何かが、落ちた。

雫、否、涙。

 

「それだけじゃないの」

 

こぼれるそれらを抑えるべく、顔を覆ったくれあ。

しかし、口は止められないようで。

言葉が途切れる様子は見えない。

 

「すごく、おかしな話だけど・・・・頭が、変だっていわれても・・・・しょうがないけど・・・・」

「・・・・言うてみぃ(言ってごらん)、聞いてやるけん(聞いてやるから)」

 

大也が、思わず背中をさする中。

手の温もりにほだされたくれあは、嗚咽を大きくして。

 

「――――思い出すのも、怖い」

 

指の間から。

涙と一緒に、零す。

 

「今ここで、あなたと話している私は、偽物で・・・・この『私』は・・・・仮初の・・・・その場しのぎでしか、ないんじゃないかって・・・・」

 

抱え込んで来た、不安を。

 

「思い出したら、消えちゃうんじゃないかって・・・・!!」

 

呼吸を過剰にしてきた、要因を。

 

「――――怖い」

 

はらはらと、涙を流すその顔は。

まさしく、帰る場所を見失った迷子のそれ。

 

「怖いよ・・・・!」

 

そのまま、崩れる様に顔を覆って。

くれあは泣き出してしまった。

しばらく、押し殺すような泣き声が響く。

――――『自分』という存在そのものを疑わねばならない、恐怖と孤独。

それに一人で耐え続けることしか許されない彼女の、すっかり弱り切った姿。

 

「――――ッ」

 

それらを目の当たりにしてしまった大也に、『何もしない』など出来るはずもなく。

気付けば、くれあの頭を抱え込む様にして、抱きしめていた。

 

「な、かむら、さ・・・・」

「――――寝ろ」

 

涙があふれ続ける両目を、まるく見開いた彼女の頭を。

まるで、幼子をあやす様にとんとんと叩き始める。

 

「疲れの溜まっとるとじゃん(疲れがたまってるんだ)、とにかく寝ろ」

「で、も・・・・」

「良かけん(いいから)、寝りぃ(寝ろ)」

 

この期に及んで、まだ迷惑はかけられないと思っているのだろう。

離れようとする彼女を捕らえるべく、大也は肩にかけられた手を払いのけた。

 

「ねん、ねん、ころりよ・・・・」

 

なおも身じろぐくれあの頭を軽く叩きながら、ダメ押しとばかりに子守唄を歌い出した。

完全に幼子の様にあやされている状況に、くれあは未だ困惑しっぱなしだったが。

 

「・・・・・す・・・・す・・・・」

 

一度過呼吸で弱っていたこともあるのだろう。

段々と身じろぎが小さくなっていくと、やがて、静かな寝息を立て始めた。

 

「・・・・何度もあったのか」

 

完全に寝入ったくれあを寝かし直し、毛布を掛けてやりながら。

背後でしゅんとしているシュシュタンに話しかける。

 

「・・・・こんなにひどいのは、今回が初めてでシュ」

「・・・・そうか」

 

隈の残る目元に、爪が当たるか当たらないかの距離で触れながら。

寝息を立てるくれあを、しばし見つめた大也は。

おもむろに、音を殺しながら立ち上がる。

 

「どこか行くでシュ?」

「ああ・・・・一時間ばかり、散歩でもしてくる・・・・少し、寝かせてやろう」

「シュ・・・・」

 

立ち去る前に、もう一度くれあを見つめてから。

今度こそ、その場を跡にした。

 

「――――まだか」

 

アパートを出てすぐ。

大也は湧きあがった気配へ、低く話しかける。

鋭くもあり、重くもある。

声に込められた感情は、怒りだ。

 

「あいつは、まだ奪われんばらんか(奪われないといけないのか)・・・・!?」

 

目を吊り上げ、剣呑に見上げた先には。

街路樹に腰掛けたるるかが。

何を考えているか分からない顔で、見下ろしてきていた。

 

「嗚呼、決めた・・・・決めたぞ」

「・・・・何を?」

 

――――大人たちの怒号、追悼のモノクロ、むせ返る線香。

見られなかった顔。

それらを思い出しながら、大也は射殺さんばかりにるるかと向き合って。

 

「――――俺は、くれあの記憶を取り戻す」

 

静かに、はっきり。

宣言してやる。

 

「俺がどうなろうと、もう知っちゃこっちゃ無か・・・・」

 

明らかに顔色を変えたるるかへ。

 

「これ以上、あいつから奪うち言うないば(奪うと言うなら)、お前は敵だ・・・・!!」

 

畳みかける様に、断言すると。

束の間、耳鳴りが聞こえる様な重圧が、辺りを支配して。

 

「――――そう」

 

敵意を滾らせたるるかが、街路樹から飛び降りた。

 

「だったら、私も加減しないわ」

「・・・・ッ」

 

同じく闘志を滾らせて身構える大也だったが。

すぐに背を向けられたことで、拍子抜けする。

 

「――――精々足掻くことね」

 

最も。

首だけ振り向いた目の鋭利さに、十手を抜きかけてしまったが。

とはいえ、ここで事を構えるつもりはないらしい。

大也をしばし睨みつけた彼女は、今度こそ踵を返して立ち去っていく。

対する大也もまた、るるかが完全に見えなくなるまでその背中を睨み続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まったく、随分大口叩いちゃって・・・・るるか、気にしちゃダメよ!」

「・・・・うん、ありがとう」

 

「・・・・でも、不思議ね」

「・・・・どうしたの?」

 

「私・・・・確かに腹立たしく思っている」

 

「でも、同じくらいに」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――安心もしてるの」




おまけ

くれあ「すみません・・・・ご飯までごちそうになっちゃって・・・・おうどんおいしい・・・・」
大也「良いんですよ。倒れちゃったんですから、これくらいは甘えて下さい」
くれあ「・・・・ありがとうございます」
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