「――――ハァッ!?こいつに一千万!?母さん、正気とや!?」
「なして、こん恥さらしに・・・・!?」
「――――何故もどうも、こちらに書かれている内容が全てです」
「『乙が相続放棄した場合、現金一千万を相続させる』」
「『それを手切れ金とし、今後親族郎党、一切の接触を禁止する』」
「『なお、乙の資産管理は遺言執行人の江藤
「故人が生前確かに残された、公正遺言証書です」
「・・・・母さんに、一杯食わされたのぉ」
「――――最後に、おばあ様から、あなた宛ての言葉です」
「――――『
「ああ、ばあちゃん」
「
「――――妖精監獄に収監された囚人は、大きく分けて二種いる」
命を救われて間もない頃。
モンドは大也に説明してくれた。
「一つは、己の力を悪用した妖精。もう一つは、妖精の力を悪意を以て奪った人間だ」
「・・・・妖精の監獄なのに、人間もいるのか」
「左様。悪事に妖精が関わっておるならば、我らの管轄ぞ」
どちらも、人と妖精に甚大な被害を出しているからのう。
憂いを帯びた息と共に、モンドが吐き出せば。
対する大也は、『ふぅん』と納得の息を吐いた。
「――――ヒロヤ」
改まって、モンドが向き合ったので。
大也もまた、正座になって膝を突き合わせる。
「脱獄した囚人の中には、人間も当然いる・・・・もし、そやつらと対峙する時が来たら」
「――――斬るよ、大丈夫」
「
即座に宣言すれば、同じく即座に返されて。
大也は思わず、面食らってしまった。
「まだ子どものお主が、それをせずとも良い・・・・」
「けど、それがお前の仕事だろ?俺を助けたばっかりに、力を失くしてるんだから、だったら代わりにやる俺がやらないと」
「もとより、人を守るは我が責務。心遣いだけで十分だ」
そう言ったっきり、モンドはじぃっと大也を見つめだした。
どうやら、退くつもりはないらしい。
「・・・・分かった、なるだけ斬らないようにする」
強い視線を受けて、今度は観念の息を吐いた大也。
「でも、そもそもなんでそんな事態になったんだ?」
「・・・・主犯に、してやられてしもうたのだ」
切り替えるために、そもそもの質問をすると。
モンドはこれまで以上に重々しく語り出した。
「そやつは妖精の力を簒奪し、悪逆の限りを尽くした罪で投獄された・・・・名を、『カンダタ』と言う」
「カンダタ・・・・『蜘蛛の糸』の?」
予想以上のビッグネームに、大也が反応した。
「知っておるのか」
「有名な話だよ、芥川龍之介って作家が書いた小説・・・・実在してたのか?」
「アクタガワ・・・・確か、彼奴の友人がそんな名前じゃったのう」
「マジか」
話しを戻して。
「とにかく、そいつがこの街にヤバい連中を放ったんだな」
「『この世紀末に、混沌を』・・・・そう宣っておったそうだ」
「世紀末・・・・ノストラダムスに便乗したのか?」
「おそらくのう・・・・」
「
「まったくじゃ」
ぎゅ、と顔をしわしわにした大也を、大きく頷いて肯定するモンド。
「何から何まで、某の不徳の致すばかりで申し訳ないことこの上ないが・・・・お主と、お主の周囲の為だ。恥を忍んで、お願い致す・・・・どうかしばしの間、このモンドにご助力を・・・・!」
それから、すぐに。
ぬいぐるみの様な体を更に丸める形で。
深く、深く。
頭を下げた。
「・・・・何を今更」
対する大也は、苦笑いを零して。
「そもそも、あんたがいなけりゃ死んでた命だ。協力するのは当然のことさ」
「ヒロヤ・・・・」
同じく、深く頭を下げると。
「こちらこそ、よろしく頼む」
「・・・・誠に、かたじけない・・・・!」
モンドは、安堵で声を震わせたのだった。
――――なんてやり取りも、すっかり懐かしくなった半月後。
「――――美味い!!美味い!!美味い!!」
すっかりこの生活に馴染み始めたモンドは、大也が持ち帰って来たケーキにがっついていた。
「まっこと良き世の中になったのう!これほど美味き菓子があるとは!!うーん!美味いッ!!」
ただでさえ丸っこい体が、更に丸くなるのではと心配にもなる大也だが。
一方で、申し訳なさそうに沈んでいた頃を知っているだけに。
静かに笑みを零すことしか出来ない。
「これはますます同心活動に熱をいれねばなるまいて!!」
「ああ・・・・」
羽をぱたぱたさせて気合を入れるモンドに、今度はこっくり頷く大也。
その脳裏には、このケーキを作った人物の笑顔が過ぎっていた。
「本当に、そう思うよ」
――――何もかもを忘れて。
幸せそうにケーキを焼く彼女を。
何に変えても守ると。
静かに、覚悟を決める。
「――――あ、中村さん」
「帆羽さん?」
――――今日も今日とて。
脱獄囚の探索に乗り出した大也達。
出かけた矢先に、思わぬ人物―――くれあと鉢合わせた。
「・・・・今日は、もう上がりなんですか?」
「ええ、そうなんです」
シフトを覚えてしまう程通い詰めていた自分に、内心愕然としながら問いかけると。
くれあはどこか困った顔で返事。
「・・・・この頃、私と同い年くらいの子達が、立て続けに行方不明になってから・・・・亡くなって、いるでしょう?」
「ええ、存じております・・・・なるほど、それで」
「はい、店長に、『しばらくは早く帰る様に』って言われて・・・・」
続けて話してくれたわけに、大也はかすかに眉を潜めた。
――――知っている。
今まさに追っている脱獄囚が、下手人なのだから。
『リサキジャ』。
16歳の少女に執着し、被害者の純潔と命を散らし続けた殺人鬼。
彼にとっては、『美しいものを、美しいままで終わらせている』という『慈善活動』らしいが・・・・。
はっきり言って、理解を拒みたくなる動機だ。
「・・・・その方がいいでしょう」
産まれた嫌悪感を呑み隠して、大也はなんとか笑顔を作る。
「俺も、あなたのケーキが食べられなくなるのは困ります」
「あら、お上手」
目の前で、面白そうにくすくす笑うくれあ。
・・・・少なくとも。
こうやって笑みを浮かべる余裕はありそうだと。
大也はこっそり安堵する。
「よければ、最寄りの駅か、バス停まで送りますよ」
「いいんですか?」
「ええ、まだ日は高いですが、気を付けるに越したことはありませんから」
「・・・・じゃあ、お言葉に甘えようかしら」
念のために、と言い出した提案に。
くれあはあまり悩むことなく頷いてくれた。
「そういえば」
歩き出して間もなく。
くれあの目が、大也の肩に載ったモンドに向いた。
「その子、いつも連れていますよね」
「ええ、店には入れてませんが」
「知ってます。いつも看板の上に停まって、お行儀よくしてますよね」
『えらいねぇ』と、微笑みかけられて。
モンドは、どこか照れくさそうに体を震わせる。
「真ん丸ですけど、カラス、ですよね?」
「ええ、カラスでいいはず・・・・です」
「飼われているんですか?」
「半分はそうかもしれませんね。怪我しているのを手当てしたら、この通りです」
「・・・・優しいんですね」
微妙に真実も交えたカバーストーリーを話せば。
くれあのコメントに、大也は面食らってしまう。
「・・・・まさか、突き放せんだけですよ」
「でも、普通の、それも野生のカラスなら、自分から離れるものじゃないですか」
「・・・・まあ、そうですが」
するとくれあは、『ほら』と微笑んで。
「つまりそれは、中村さんが優しいからですよ!」
「・・・・あまり実感が湧きませんが」
「昔から言うでしょう、動物は勘が鋭いんだって!」
『自信を持ってください!』と、まるで自分のことのように得意げに断言するくれあ。
そんな彼女を、しばし見つめた大也は。
もう、これ以上謙遜するのも馬鹿らしくなったのと。
何より、目の前の『どうだ』とばかりの顔が面白くって。
「――――フッ」
思わず、顔を背けて吹き出してしまった。
「ああっ、笑いましたね!?」
「す、すみませっ・・・・くくくっ・・・・!」
「も、もう!!」
笑われたのが、よっぽど悔しかったのか。
大也の肩が、ぽかりと一発叩かれてしまう。
「ふふっ・・・・本当に、すみません。そんなこと、言われたことなんてありませんでしたから」
なんとか謝罪をした大也だったが、くれあはすっかりむくれてしまっていた。
どうしたものかと、苦笑いをしていると。
『最寄りだ』と言ってくれた交差点についてしまった。
「ほら、つきましたよ」
「むぅ・・・・」
もうしばらくご機嫌ナナメだった彼女は。
やがて、観念したようにため息をついて。
「分かりました・・・・中村さんは、意外と意地悪って言うのは、よく覚えておきます」
「ええ、どうぞ・・・・それで、あなたが無事でいられるなら」
そうして、しばし見合った二人は。
どちらともなく、笑い声を上げた。
「いいでしょう、送ってくれましたし、今日のところはこのくらいで勘弁してあげます」
「お慈悲に感謝いたします」
「あははっ」
ちょっと気取って、大也がうやうやしく頭を下げると。
くれあは鈴を転がす様に笑いながら歩き出して。
「明日!また来てくださいね!」
「ええ、必ず」
弾けるような笑顔で、手を振り合ったのだった。
「――――必ず、捕らえるぞ」
すっかり小さくなったくれあの背中を見送る中。
肩のモンドが、重々しく口を開く。
「――――ああ」
対する大也もまた、静かに答えたのだった。
おまけ
中村
年齢:16
性別:男
詳細:金髪碧眼と、お手本の様な外国人ハーフのビジュアルをしている。
育ててくれた祖母の影響で、日ごろから着流しを着ている。
まことみらいに来る前は、九州にいたので。
方言がぽろりすることも。
ネーミングは、必殺仕事人の『中村主水』から。
モンド
詳細:同心の妖精、モチーフはカラス。
妖精の監獄から脱出した犯罪者を追ってきたが、巻き込まれた大也を庇ったことで戦闘不能に。
最終手段として契約を交わし、大也に『妖精同心』の力を与える。
ネーミングは同じく、必殺仕事人の『中村主水』。