妖精犯科帳   作:数多 命

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弐拾

「もう分かったのか?」

「はい!」

 

目を見開き、『さすが名探偵・・・・』と感心する大也。

はにかんだあんなとみくるは、宇都見と向き直ると。

 

「「犯人は、あなたです!!」」

 

何と、被害者であるはずの彼を指さした。

 

「・・・・エッ!?」

「なんと!?・・・・んっぐ・・・・!」

 

大也が驚愕に飛びのき、モンドも思わず声を上げてしまう中。

あんな達は推理を述べていく。

――――まず指摘したのは、荷造りに手間取っていたこと。

大事なカメラが入っているはずのバッグを、無理やり閉めようとしていた。

商売道具でもあるはずのそれを、雑に扱うのはおかしいと。

次に、探偵一行が現場に駆け付けた時間も鍵だと告げる。

宇都見は『逃げていく人影を見た』と言ったが、その方向はあんな達がやってきたのと同じ、取水棟の方面。

木立に紛れて移動した可能性もあるが、それを踏まえても彼の証言は不自然過ぎる。

以上の二点が、導く答えは。

 

「――――あなたはカメラを盗んで、逃げようとした。ちょうどその時わたし達が来たから、盗まれた人のフリ・・・・つまり、宇都見さんに変装して誤魔化したんだ!」

「盗まれたっていうカメラは、そのバッグの中にある!」

 

確かに、ポチタンが反応してから一行が駆けつけるまで、一分もかからなかった。

如何に身のこなしが素早いファントムとも言えど。

そんな短時間で犯行を終えて撤退など、さすがに不可能だ。

だから、被害者に変装してやり過ごそうとした。

 

「なるほど!」

「慧眼天晴!見事な推理じゃ!」

 

推理を聞き終え、大也もモンドも感心しきっていると。

 

「はぁ・・・・チョベリバー」

 

宇都見、否。

ファントムは、深い溜息と共に不貞腐れて。

 

「チョー早く来るから、マジ最悪ー!」

「「アゲセーヌ!!」」

 

ギャルの様な口調で、衣服に手をかければ。

偽の宇都見は、あっという間にアゲセーヌに変わった。

 

「おおー・・・・!」

「いや、何感心してるんだよ!!」

「す、すまん、普通に変装がすごくて・・・・」

 

歓声と共に拍手までしてしまう大也に、ジェットがツッコミを入れる横。

アゲセーヌは『アンタ達の負ける姿を撮影してやる!!』と意気込んで。

 

「――――ウソよ覆え!!チョベリグにしちゃって!ハンニンダー!」

「――――ハーン!ハンニンダッ!!」

 

盗もうとしたカメラを素体に、ハンニンダーを召喚した。

 

「みくる!」

「うん!」

「ヒロヤ!某らも!」

「ああ!」

 

あんなとみくるは、ジュエルキュアウォッチを。

大也は十手を抜き放って。

 

「「プリキュア!ウェイクアップタイム!」」

「御用改めであるッ!!」

 

プリキュアと同心。

それぞれの戦闘形態へ変身した。

 

「行くよハンニンダー!ハイ、チーズ!!」

 

身構えるや否や、アゲセーヌがハンニンダーに指示。

ハンニンダーは、頭上のライトを炸裂させる。

 

「「ううっ!?」」

「フラッシュか!?」

 

まさしくスタングレネードと言うべき、眩い閃光。

相手方の狙い通り、プリキュアも大也も視界を奪われる。

 

「ハーンニーンダッ!!」

「・・・・ッ!」

「ぐっ・・・・!」

「クソッ・・・・!」

 

当然その隙を狙って、ハンニンダーは攻撃。

視界を奪われていたプリキュア達は、直撃を受けてしまいそうになる。

直前に、陣笠で難を逃れた大也が二人の首根っこを掴んで後退。

 

「ダァッ!」

 

反撃に転ずるが、

 

「ハンニンダーッ!」

「ッ・・・・!」

 

再びのフラッシュに足を止めてしまった。

 

「アンタ達が負ける写真!あとで焼き増ししてあげるっしょ!!」

「ッフラッシュが来るぞ!!」

 

ゴーグルで目を守ったジェットの警告に、飛び出したのはミスティックだ。

どうやら、この短時間で対策を立てたらしい。

 

「ミスティックリフレクションッ!!」

 

果敢にハンニンダーの前に躍り出たミスティックは、固有技のバリアーを展開。

相手のフラッシュを見事跳ね返して、視界を奪い返す。

 

「ハンッ!?ハァンッ!?」

「今だ!」

 

こうして出来た大きな隙を、もちろんこちらだって見逃さない。

アンサーがすかさず入れ替わる様に飛び出すと、右手に光を迸らせて。

 

「アンサァーアターックッ!!!」

「ハァーンッ!!」

 

ハンニンダーを大きく吹っ飛ばしてしまった。

 

「あ、ちょっ!?ハンニンダー!?」

 

焦って追いかけていくアゲセーヌ。

あとはプリキュア達の技を叩き込み、マコトジュエルを取り戻すだけ。

一同、そのまま追いかけようとするが。

 

「ッるるかさん!?」

 

アンサーの声に、たたらを踏まされる。

彼女に倣って、視線を先を追いかけると。

一度は去っていったはずのるるかが、何故かアルカナ・シャドウのコスプレをしているマシュタンを伴って歩いて来ていた。

 

「湖で何か見つけたの?」

 

とはいえ、こちらに問いただしてくる声音は真剣そのもの。

ともすれば、物理的な切れ味すらありそうな鋭さで。

ティアアルカナロッドを取り出し、本家本元のアルカナ・シャドウに変身する。

 

「ッお前に教ゆっ義理は無か(教える義理は無い)!!」

「――――はあ」

 

そんな彼女の前に立ちはだかったのは、やはり大也。

刀の切っ先を向け、敵意を隠そうともしない彼に。

アルカナ・シャドウは深くため息を吐いて。

 

「――――忘れた?」

 

一呼吸の間に、肉薄。

 

「加減はしないって、言ったわよ」

 

大也の懐に飛び込んで。

みぞおちに、膝を突き刺す。

 

「づっ・・・・!?」

「大也さんッ!!」

 

防御は間に合ったものの、大也はアンサー達から大きく引き離されてしまう。

 

「ッ・・・・!」

「――――」

 

何とか着地したところに、アルカナ・シャドウがあっという間に追いついてきてハイキック。

大也は十手で受け止めると、一閃を放って反撃。

受け止められたところを軸にして背後に回ると、再び一閃を繰り出した。

 

「・・・・ッ」

 

アルカナ・シャドウは難なく受け止めると、ロッドを回転させて刀を弾き飛ばす。

大也が後ずさったところへ、薙ぎ払い。

 

「がっ・・・・!」

 

防御されたが、近くの樹木に叩きつけることが出来た。

 

「アルカナスターレイン・・・・!」

「やべっ・・・・ッこの!!」

 

ふらついたところを逃さず、追撃。

すぐに立て直した大也は、即座に姿勢を低くして回避。

倒れんばかりの勢いで、アルカナ・シャドウの懐に突撃して。

 

「チェストオォーッッ!!!」

「ッ・・・・!」

 

湖畔まで、大きく吹っ飛ばした。

 

「アルカナ・シャドウー!!」

 

案じたマシュタンが追いかけて飛んでいった目の前。

アルカナ・シャドウは、湖に落ちかけるが。

 

「ふっ・・・・!」

 

あろうことか、彼女は湖面を蹴って岸辺に帰還。

追って来た大也の前に躍り出ると、ダメ押しのアルカナスターレインを発射。

容赦ない弾幕を、大也に浴びせた。

 

「――――オラァッ!!」

 

いくつか被弾し、黒煙に包まれる大也だったが。

砂埃ごと振り払って咆哮すると、刀に炎を滾らせて。

 

「煌鴉一閃ッ!」

「っく・・・・!」

 

まさか動けるどころか反撃が来るとは思っていなかったアルカナ・シャドウは、それでも刀を受け止めるも。

 

「――――貫々照理ィッ!!」

「な、がっ・・・・!」

 

狙い通りロッドを抑え込んだ大也は、十手の打突を相手の顎にクリーンヒットさせた。

視界の星と一緒に、意識も散りかけるアルカナ・シャドウだったが。

 

「この・・・・!」

「うおっ!?」

 

さすがは歴戦の戦士。

ぐっとこらえて、大也を突き放した。

 

「アルカナ・シャドウ!大丈夫!?」

「ッええ・・・・ありがとう、マシュタン」

 

ひりひりする顎をさすりながら、体勢を立て直すアルカナ・シャドウ。

 

(やっぱり、強くなっている・・・・!)

 

同じくモンドや、遅れて駆けつけて来たアンサー達と言葉を交わしながら。

刀を構えなおす大也を見据えて、警戒に顔を顰める。

 

(このまま精霊転化までされると・・・・さすがに厄介ね)

「――――るるかさん!」

 

打開策を考え始めた時、アンサーが一歩前に出た。

 

「どうしてファントムにいるの!?大也さんと、何があったの!?」

「・・・・そっちこそ、ここで何を見つけたの?」

 

問いかけに対し、アンサーが目に見えて言葉を詰まらせる。

『素直な子だ』と思いながら、ロッドを構えなおす。

 

「――――分からない」

 

対するアンサーは、もうバレていると観念して一度顔を伏せると。

 

「でも、あなたのことがきっとわかる何か!」

 

次の瞬間には、顔を上げてさらに一歩前に出る。

 

「力になりたいの!何があったのか分からないけど・・・・力になりたい!」

「・・・・どうして?」

「写真のるるかさん!笑ってた!」

 

時間稼ぎを兼ねた問いに、帰って来た答えに。

アルカナ・シャドウは、面食らってしまう。

 

「困っている人がいるなら、力になりたい!それが探偵でしょ!?」

「・・・・いいえ」

 

――――青かった頃を、思い出す。

アンサーの眩しさから、アルカナ・シャドウは一度目を逸らした。

 

「探偵は依頼があって動くもの・・・・私、依頼してないけど」

 

悟られぬうちに顔を上げて、拒絶を口にした。

・・・・彼女にとって、事情を探ろうとするアンサー達は。

無遠慮な不届き者に思えるのだろう。

 

「・・・・私は、ウソノワールの嘘で覆われたわけでもない」

 

これ以上探られない為にも、アルカナ・シャドウは口を開く。

 

「自分の意志でファントムにいる!全て、自分で決めたこと!」

 

ダメ押しに、ロッドを突き付けて。

 

「あなたと同じ、『自分の一歩は、自分で決める』!」

 

アンサーが、いつか言っていた言葉を返したのだった。

 

「・・・・ッ!」

 

自分の言葉を、こんな形で使われるとは思わなかったのだろう。

アンサーは怯み、一歩引いてしまった。

 

「――――あいつの」

 

入れ替わる様に、前に出たのは大也だ。

アンサーの肩を、『よくやった』と叩きながら。

刀をアルカナ・シャドウに突き付ける。

 

「あいつの記憶を奪ったのも、お前の意志か?」

「――――ッ」

 

――――初めて。

アルカナ・シャドウの表情が変わった。

悲しい様な、怒っている様な。

眉間に何本もしわを刻んで、唇の間から歯が微かに覗かせて。

大也を睨みつけて来ていた。

 

「あなた・・・・!」

 

ぶわり、と場を満たす。

殺意と、敵意。

明らかに尋常ではない気配に、プリキュア達も揃って身構えた。

その時、

 

「――――ハンニンダー!!」

「見ーつけたーっ!」

 

ハンニンダーとアゲセーヌが戻ってきてしまった。

 

「ハンニンダー!アゲちゃってー!」

「ッアルカナスターレイン!!」

「わっ!!」

 

アゲセーヌにつられた隙を突いて、アルカナ・シャドウが攻撃。

間一髪のところで、大也が直撃分を全て叩き落す。

 

「ッアルカナ・シャドウも大事だけど、マコトジュエルも取り返さないと!」

「うん!」

 

ハンニンダーの一撃を散開して回避。

 

「「だぁっ!!」」

「ハァンッ!?」

 

両サイドから挟み込む形で、拳を叩き込んだ。

 

「ハ・・・・ハン、ニン・・・・!」

 

きつい一発を見舞われて、ふらふらのハンニンダー。

当然、手心を加える理由はない。

 

「「オープン!プリキット・ミラールーぺ!」」

「「ポチタン!」」

「ポチー!」

 

ミラールーペを握ると、ポチタンからマコトジュエルを受け取って。

 

「「プリキュアッ!フライング・スペクトルッ!!」」

 

ウソを祓う、浄化の光を叩き込んだのだった。

 

「・・・・もう、いい」

「ッ待て!まだ話は・・・・!」

 

ハンニンダーが浄化されたのを見て、踵を返すアルカナ・シャドウを。

大也が剣呑に引き止めようとすると。

 

「――――奪ったのは、私じゃない」

「・・・・は?」

 

視線だけで振り向いて、簡潔に打ち明ける。

 

「それと、元名探偵から、可愛い後輩達へアドバイス」

 

それから。

マコトジュエルを回収し、駆けつけて来たプリキュア達にも目を向けて。

 

「探偵では、解決できない事件もあるの」

 

言いたいことを言い終えたのか。

今度こそ、跳び去っていってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――あの後。

無事に本物の宇都見にカメラを引き渡した一行は。

ファントムからカメラを守ったお礼として、湖で見つけた紙切れが。

最新のカメラで撮られた写真であると教えもらい、早速事務所に戻って調べることに。

汚れを始めとした損傷が酷くて、肉眼では分からなかったが。

ミラールーペを使うと、あら不思議。

夜空に羽ばたく、蒼い蝶の姿が現れたのである。

宇都見が言うには、あの湖の周辺は蝶の群生地だという話だし。

それが映ったのだろうかと、一同は頭を抱えた。

 

「森亜は・・・・俺の・・・・友人の、記憶を奪ったかもしれないんだ」

「大也さんのお友達の・・・・」

「記憶・・・・!?」

 

――――そんな中。

るるかに対して尋常ではなかった様子を指摘された大也は。

観念して、最近出来た因縁について話し出す。

 

「前に襲われたのも、『記憶を戻すな』って因縁をつけられてな・・・・だからてっきり、森亜が犯人だとばかり思っていたんだが・・・・」

 

思い出すのは、攻防の終わり際。

 

『――――奪ったのは、私じゃない』

 

そう告げて去っていった、アルカナ・シャドウの。

・・・・るるかの、陰った目。

 

「お友達は記憶を無くしていて」

「るるかさんは、『取り戻しちゃダメ』って言って、大也さんを襲った」

「でも、記憶を奪ったのはるるかさんじゃない?」

「「うう~ん・・・・」」

 

一体どういうことなのだろうか。

なんとか考えてみるが、明確にひらめくものはなかった。

と、

 

「アッ!ジェット先輩、アイス食べてる!!」

「えっ?ああっ!ホントだ!ズルい!」

「あ、アルカナ・シャドウがアイスのこと考えてたら、つい食べたくなって・・・・!」

 

口元のアイスを目ざとく発見され、たじたじになるジェット。

最終的に、二人の『ズルい』コールに観念し、冷蔵庫のアイスを差し出していた。

 

自身もアイスを分けてもらいながら。

大也は、アルカナ・シャドウが初めて見せた表情を思い出す。

 

(森亜るるか・・・・お前はくれあの何なんだ・・・・?)

 

答えは、未だ。

見つからず。

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