――――祖母からの相続で、将来の選択に困らない遺産を相続した大也だが。
それに甘えない生活をするようにと躾けられていた。
どうやら祖母は、生前からそのつもりでいたらしいが・・・・。
とにもかくにも。
大也は祖母の期待通りに、遺産に頼り切らない生活を送っている。
「まいどー!お弁当のフカダでーす!」
「はーい!」
つまるところ。
大也もしっかりアルバイトして、社会経験を積んでいるということだった。
いつもの着流しではなく、ロゴ入りの黒シャツ、黒ズボン姿の彼は。
今は弁当とお惣菜が自慢の店、『お弁当のフカダ』の従業員である。
ちなみに、食べ物を扱う職業なので、この間モンドは別行動だ。
「ご注文のお弁当を、配達に上がりました。確認お願いします!」
「ええっと・・・・」
とある町工場の事務所。
出て来た事務員のマダムに、社用窓口の受付に置く形で大量の弁当を渡して、注文内容を確認してもらう。
「うん!ばっちり!いつもありがとうねー!」
「こちらこそ、毎度ありがとうございまーす!」
きちんと注文分を引き渡せたのを確認して、大也は一礼して自転車に戻っていった。
「配達はこれで終わりっと・・・・帰るか」
メモを確認し、職場である弁当屋へ戻ることに。
「ななななぞなーぞ~・・・・ん?」
鼻歌なんて歌いながら、河川敷を自転車をこいでいると。
何かばたばたしている人影を発見。
よくよく見ると、
「・・・・小林?」
みくるがポチタンと一緒に腹筋をしている。
・・・・仕事もまだまだあるので。
そのままスルーすることも出来たのだが。
「ふう・・・・ふう・・・・あれ、大也さん?」
「ひょーや!」
「あわわ、ポチタン!大声はダメ・・・・!」
みくるとポチタンに気付かれたので、そうするのは気が引けてしまった。
「なんばしよん、じゃなくて・・・・何してるんだ?」
「ああ、その・・・・」
説明しようとしたみくるのお腹が、ぐう、と咆えた。
どうやら、大也が思っている以上に運動していたらしい。
「た、大変御見苦しいところを・・・・」
腹を押さえて、面目なさそうに肩を落とすみくるを前に。
大也は一旦思案して。
「・・・・よかったら、うち来るか?」
「え?大也さんのおうちってことですか?」
「
『うち』と言われて、てっきり大也の家だと思った彼女に。
大也は苦笑いを零しながら、自身の黒シャツを指さした。
「――――こんなところにお弁当屋さんがあったなんて・・・・」
――――商店街の表通りから、少し横道に入ったところにある『お弁当のフカダ』。
大也がアルバイトする、お弁当とお惣菜のお店である。
「遅くなってすみません、戻りましたぁー!」
「おう!おかえり!」
「おかえりなさい」
大也が声をかければ、店主の『深田ゲンジ』と、その妻の『シズカ』が。
厨房や店内から笑いかけてくれた。
「あら、その子は?」
「知り合いです。腹空かしてたんで、連れてきました」
「まあまあ!いらっしゃいませ!お弁当のフカダへようこそ!」
「こ、こんにちは」
シズカににっこり笑いかけられて、一瞬気圧されるみくるだったが。
炊けた飯、熱された醤油、油を纏った揚げ物、かぐわしいお出汁。
いろんな『おいしい』が立ち込める店内を、興味深そうに見渡していた。
「昼は食べたか?」
「えっ、あ、まだ、です!」
「あらあら、じゃあ食べて行きなさいな」
「そうしろ、奢るから」
「ええっ!?」
大也達の提案にみくるは目を丸くする。
「そ、そんな、悪いですよ!」
すぐに、慌てて辞退しようとしたが。
再び腹の虫が咆えて、顔を真っ赤にさせた。
「お嬢ちゃん、遠慮せんで食べていきな!」
「そうそう!お腹空かせたまま返すなんて、弁当屋の名折れだわ!」
店主夫妻にも勧められてしまい、みくるはもう少しだけあわあわした後。
「その・・・・ごちそうになります!」
観念して、頭を下げたのだった。
「ところで、ポチタンは飯食べれるのか?」コソコソ
「あ、まだなんです」コソコソ
「そうか・・・・ジュースは?」コソコソ
「そっちは大丈夫ですよ!」コソコソ
「分かった・・・・ポチタン、一つ選びぃ」コソコソ
「ありがとポチ!」
「ん?」
「エッ!アノ!ぽいちそうだなぁって!!アハハハハ!!」
「へへへ、おうさ!どれもこれも自慢の味よォ!!」
「――――明智の元気が無い」
「はい・・・・」
イートインスペースの隅っこ。
賄いの唐揚げ弁当を食べながら、大也はみくるの言葉をオウム返しする。
ちなみにみくるは大きな鮭が乗った特のり弁当、ポチタンにはりんごジュースだ。
「今日、午前中に受けた依頼なんですけど・・・・」
ちくわ天を、箸でちょっと行儀が悪くつつきながら。
こっくり頷いたみくるは、そのまま語り出す。
――――ぬいぐるみを失くしてしまったという、親子からの依頼。
ものはすぐに見つけ出せたが、その後の親子の様子を見てから。
あんなは明らかに落ち込んでいたと。
当然、悩みがあるのなら力になりたいと考えていたみくるだったが。
肝心のあんなは、心の内を話さないまま外出してしまったという。
「それで、あんなに頼ってほしくて・・・・頼りがいのある人間にならなきゃって・・・・」
「それで筋トレを」
「はい・・・・でも、今思うと頼りがいと筋肉ってあんまり関係ないですよね・・・・」
みくるは今度こそちくわ天を頬張った。
腹は減っているからか、箸こそ進んでいるものの。
すっかり肩を落としてしまっている。
「んぐ・・・・別に、頼れんってわけじゃないやろ」
頬張った唐揚げと、同じ量の白米を呑み込んで。
大也は口を開いた。
「そうでしょうか・・・・」
「そうやろ。お前がいなかったら、明智は本当にひとりぼっち
まだ自信が持てないみくるへ即答しながら、大也は唐揚げをもう一口。
――――2027年という、30年近くも未来からやってきてしまったあんな。
身よりはもちろん、金銭も、戸籍も何もない。
話を聞く限り、直前まで誕生日に母と笑い合うような普通の日常を過ごしていたのは明確。
そんな『幸せの絶頂』から、ないない尽くしの状態に放り出されてしまったのだ。
その恐怖と孤独は、どれほどか。
「事情を知っていて、無条件で信頼出来て・・・・これほど心
――――自分も。
同じ状況に陥ったことがあるからこそ。
大也は、あんなの心象の解像度が高かった。
だからこそ。
『自分が頼りない』というみくるを、放っておけなかった。
「『信じて頼る』って書いて、『信頼』だ。お前はとっくに頼られてる」
大也の言葉を聞いて、みくるは箸を止めて目を見開いていた。
顏こそ驚愕に満ちていたが、瞳には光がまたたいていた。
「・・・・冷めるぞ」
「あ、はい!」
もう大丈夫そうだと判断した大也は、あえて指摘することなく。
ただ弁当を勧めるだけにとどめた。
「それにしてもおいしいですね、ここのお弁当!鮭の塩加減も絶妙!」
「だろ?」
「・・・・あんなと、ジェット先輩にも食べさせたいなぁ」
「ふわぁ~あ・・・・あらやだ、アタシったら」
――――一方、その頃。
怪盗団ファントムのアジト。
珍しく静かな劇場で、マシュタンはるるかの膝で大あくび。
他に人がいないとはいえ、レディとしてはしたないところを見せてしまったと口元を抑える。
「・・・・マシュタン、疲れてるんじゃない?」
目に見えて疲れているパートナーを、るるかは心配そうに見下ろした。
「やっぱり、『あれ』は・・・・」
「――――『無理』とか『無茶』はナシよ」
そして、マシュタンが今取り組んでいることを止める様に言おうとすると。
他でもない本人のウィンクとともに却下されてしまった。
「アタシだって、あなたの為になんでもやりたいの・・・・あなたと同じように、ね?」
「・・・・マシュタン」
自分に尽くしてくれる有難さと、苦労を掛けている申し訳なさで。
胸を締め付けられたるるかは、マシュタンの名前を呼ぶことしか出来なかった。
それすらも申し訳なくて、更にハグもする。
「うふふ、甘えんぼさんねぇ」
るるかの胸中を当然の様に察していたマシュタンもまた、嬉しそうに頬ずりを返したのだった。
「――――おーい!」
最も、そんな憩いの時も長くは続かず。
ゴウエモンの元気過ぎる声で中断されてしまう。
「・・・・何?」
あっと言う間にいつものポーカーフェイスに戻ったるるかを気にすることなく、ゴウエモンはニッコニコで彼らを見上げると。
「新たなマコトジュエルを取りに行くぞ!」
そんなお誘いをしてきたのだった。
「・・・・今は」
マシュタンの体調も気にかかっていたこともあり、最初は断ろうとしたるるかだったが。
「ついてきたら、アイスおごってやる!」
「・・・・ッ」
魅力的な提案に、言葉を詰まらせてしまった。
マシュタンを、出来るだけ休ませたい。
でも、アイスも気になる。
「・・・・マ、たまにはお言葉に甘えましょ」
相棒を見かねて、マシュタンが代わりに了承した。
「マシュタン」
「大丈夫よ、なんたってアタシはあなたのお供妖精なんだから!」
『それに』と、ゴウエモンに目をやって。
「あいつのお陰で『あれ』が叶ってるんだから、ちょっとくらいお返ししないとね」
「・・・・そういうことなら」
マシュタンの進言を受け、るるかは渋々席を立った。
おまけ
深田ゲンジ
拙作オリジナル。
大也のバイト先、『お弁当のフカダ』の店主。
職人気質の頑固親父なビジュアル。
チュチュの店長とは、和菓子を愛するお茶仲間。
ネーミングは『浅井たいら』に対して、『浅』井→『深』田、たいら(平)→ゲンジ(源氏)。
深田シズカ
拙作オリジナル。
ゲンジの妻。
見た目はスレンダーな美女だが、元レディースというヤンチャな過去を持っている。
ネーミングは『静御前』。