作者が観測できた範囲では、総合150位、二次創作104位です!
日頃のご愛顧、誠にありがとうございまーす!
――――親子の依頼を切欠に、元の時代の母親を思い出してしまったあんな。
蓋をして、見ないふりをしていた寂しさが。
全身を駆け巡る感覚に蝕まれてしまったあんなは。
『ジェットのおやつの買い出し』を口実に、事務所を飛び出してしまう。
ジェットとみくる。
大切な仲間達に、心配をかけてしまったことに途方に暮れているところに。
買い出し帰りのくれあに遭遇。
そして、彼女の提案で。
パティスリー・チュチュで、ケーキ作りをしてみることにしたのだが。
「――――完成!」
材料を測り、生地を混ぜ。
オーブンに入れて、余熱を飛ばす。
あとは、プロであるくれあがデコレーションすると。
「これって・・・・」
――――あんなの唇が、震える。
掠れた声を零すのに精いっぱいな彼女の視線の先には。
あの日、食べられなかった。
誕生日ケーキ、そのもので。
「あんなちゃんのお誕生日をお祝いする、バースデーケーキよ」
あんなの胸中を知ってか知らずか、くれあは微笑みながら話し出す。
「雪みたいに積もっているけど、温かいって言ってたでしょ?」
くれあの言葉に、あんなはケーキを作る前の『聞き取り』を思い出していた。
両手を握られて、まるでカウンセリングの様だと感じた。
少し不思議な時間。
「あんなちゃんの誕生日は一月、デコレーションされているケーキで、用意してくれたのは・・・・」
あの断片的な情報で、ここまで作れるのかという驚愕は。
「――――お母さん」
溢れ出した。
母の笑顔で、吹き飛んだ。
「あんなちゃんの喜ぶ顔が見たくて、こんなケーキにしたんだと思う」
「――――食べられなかったんです」
もう、抑えられなかった。
「・・・・え?」
「誕生日ケーキ、せっかく用意してくれたのに・・・・今、お母さんと、会いたくても会えなくて・・・・」
幸いにも、いつも通りの声は出せている。
だからあんなは、苦笑いでやり過ごそうとした。
その一方で、せっかく楽しい時間を提供くれているくれあに、申し訳なさを感じていたのだが。
「・・・・それが、あんなちゃんの元気が無い理由ね」
気を害した様子もなく。
ただただ優しく見守ってくれるくれあを、目の当たりにして。
苦笑いすら、繕えなくなってしまう。
「・・・・すみません」
「どうして謝るの?」
「だってわたし、探偵なのに・・・・」
嗚呼、いけない。
すっかりくれあに甘えてしまっている。
なのにあんなは、自分で自分を止められない。
「困っている人の力に、ならなくちゃいけないのに・・・・!」
挙句、涙まで零してしまって。
自分が、世界で一番みっともない生き物であるように感じてしまっていた。
「――――探偵さんにだって、寂しい時はあるんじゃない?」
そんなザマにすら、くれあは優しく手を差し伸べてくれる。
「あんなちゃんは強い子だから、みんなに心配かけないように・・・・寂しさを隠してしまうんだろうけど・・・・」
指で涙を拭ってくれながら、くれあは微笑んで。
「心のきらめきを、大切にしてほしいな」
「・・・・心の、きらめき」
「うん。心にある、真っ直ぐな気持ち」
・・・・言うまでも無いが。
人の心は『楽しさ』や『嬉しさ』だけではない。
『悲しさ』や『寂しい』という感情だってある。
それらは万人が持ち得るもので、一つ一つが等しく尊いものだ。
「無理して抑え込むことはないわ」
そして、くれあもまた。
自らのきらめきにしたがって、あんなの感情をそっと後押しする。
「心のきらめきは、真実だから」
そうすれば、ほら。
閉じ込められて、行き場を失って。
破裂しそうだった寂しさが。
涙となって、きちんと溢れ出して。
「――――ぁあ」
顔を覆ってしまったあんなを、くれあは何も言わずに抱きしめるのだった。
「・・・・よかったね、あんなちゃん」
「おっと・・・・いらっしゃいませ!パティスリー・チュチュへ、ようこそ!」
「ご、ごめんなさい。制服汚しちゃって・・・・」
「いいのよ、気にしないで」
制服の胸元が、涙で黒くなったくれあに。
あんなは赤べこに負けないくらいの勢いで何度も頭を下げる。
「落ち着いた?」
「はい・・・・ほんとにすみませんでした・・・・」
「本当にいいのよ」
悩みはすっかりなくなったようだが、落ち込みもしてしまったあんな。
対するくれあは、いっそ微笑ましさを感じていた。
「――――私はね、あんなちゃん」
「は、はい!」
「その人のきらめきを知って、ケーキを作るの」
片付けの傍ら、くれあは徐に口を開く。
「楽しい気持ちはもっと楽しくしてあげて、寂しい気持ちには寄り添って、寂しさを癒してあげたいの」
「くれあさん・・・・」
制服を汚してしまった、せめてもの償いにと。
一緒に片付けていたあんなは。
噛み締める様に、一度目を伏せてから。
「・・・・やっぱり、くれあさんはすごいです」
しみじみと、零す。
寂しさに気付いてくれたこと、破裂しそうだった感情に寄り添ってくれたこと。
想いの籠ったケーキを作ってくれたこと。
今日だけで、どれほど優しくしてもらったか。
すっかり数えきれなくなってしまっている。
「そんなことないわよ」
くれあはというと、苦笑いを零していた。
「私だって、ダメなときはあるもの」
「そうなんですか!?」
「もちろん」
お手本の様に目を丸くするあんなに微笑みかけながら、くれあは道具を洗い続ける。
「この前だって、うっかり道端で具合が悪くなっちゃって」
「ええっ!?だ、大丈夫だったんですか!?」
「少し立ち眩みしちゃっただけよ、休んだらすぐに治ったわ・・・・でも、気を付けなきゃいけないのは事実よね」
心配で素っ頓狂な声を上げるあんなを宥める様に、とっくに快復したことを報告。
「中村さんが居合わせてくれなかったら、どうなっていたか」
「えっ、大也さんが助けてくれたんですか?」
「実はそうなの」
・・・・朧げながらも、思い出せる。
駆けつけてくれたこと、倒れる体を抱えてくれたこと。
呼吸を落ち着かせてくれたこと。
ずっと背中をさすってくれた、手の温かさ。
意識がはっきりした後も、お茶やうどんを振る舞ってくれて。
ずっとこちらを気遣ってくれた。
「・・・・お客様なのに、悪いことをしてしまったわ」
あんなの目には。
当時を思い出しているらしい、くれあの横顔が。
どことなく、大人っぽく見えて。
「・・・・くれあさんって」
常日頃から、『ウソはつかない』と公言している通り。
自他ともに認める、実に素直な性格をしているあんなは。
「大也さんのこと、好きなんですか?」
胸に浮かんだ疑問を、するりと口にしていた。
「・・・・えっ?」
完全に虚を突かれたくれあは、ぽかんとあんなを見つめる。
「あ、いや、その!わたしの、勘違いかも!」
相手の見たこともない表情にびっくりしたあんなが、わたわたと誤魔化す中。
くれあは思考に没頭する。
――――好きかどうかで言えば、好きではある。
よくお店に来てくれて、毎回毎回幸せそうにケーキを食べてくれるのはパティシエ冥利に尽きるし。
他の異性に比べれば交流もあるから、上司のたいらの次に信頼出来るのは間違いない。
(確かに、好きになってもおかしくないかもしれないけれど・・・・)
『では、自分の気持ちは?』。
考え始めた、その時。
――――首元を、触られる。
「――――ッ」
その、刹那。
何かの光景が、濁流の様に雪崩れ込む。
――――激怒した表情の大人達。
モノトーンで整えられた会場。
立ち込める線香の煙。
耳まで真っ白になった俯き顔。
――――ぶら下がった、誰か。
「――――ッ!」
「わっ!?くれあさん!?」
弾かれるように、振り返る。
当然だが、誰もいない。
見えるのだって、いつもの厨房だ。
何の変哲もない。
・・・・ない、が。
(――――咎められた)
何故か、そう確信出来た。
「くれあさん?」
「えっ、あ・・・・ああ、ごめんなさい。つい考えこんじゃった」
「そんな!こっちこそ、変なこと聞いちゃってごめんなさい・・・・!」
「いいのよ」
呆然としていたくれあだったが、隣にあんながいたことを思い出して何とか持ち直す。
「・・・・多分、まだ違うと思うけれど」
片付けを再開しつつ、くれあはあんなの問いに答えるべく口を開いて。
「中村さんとお付き合い出来る人は、きっと幸せだと思うわ」
偽りのない本心を告げたのだった。
『そこにいるのは、自分がいい』という本音は。
見ないふりをした。
「マコトジュエルはこの辺りのはずだが・・・・?」
一方その頃。
ゴウエモンはアパートの上に立ち、周囲を見渡していた。
今日も今日とて、『いざ、マコトジュエル!』と勇んで飛び出したはいいものの。
肝心のものがどこにも見当たらないのだ。
「んおっ?」
ふと、一緒に連れてきたはずの後輩が居ないことに気付いたゴウエモン。
幸い、すぐ下の広場にいるのを見つけた。
・・・・自分がさっき奢ったアイスを、のんびり堪能している。
「アルカナ・シャドウ!どうなってるんだ!?」
身軽に飛び降りた彼は、呑気な様子のるるかに詰め寄った。
「ただアイスを食べに来たんじゃないだろうな!?」
「・・・・もちろん」
「だって・・・・マシュマシュマシュマシュマシュ・・・・マシューッ!!」
頬にアイスをつけたるるかが、先輩の剣幕に落ち着いて答えると。
隣のマシュタンが即座に占って見せる。
「見えたわ!『望むものはおのずと近づいてくる』って!」
「だから待ってる」
「うぅん・・・・!」
あんまりにものんびりした後輩達に、思わずうなり声を上げるゴウエモン。
「・・・・アイス、食べたら?」
「・・・・そうだな、そうするか」
しかし、それはそれとして、マシュタンの占いの的中率も知っている。
故に切り替えて、先ほども買い物したキッチンカーに再び立ち寄った。
「さすがにどら焼きは無ぇか」
ゴウエモンが好きなのはどら焼きだが、それはそれとしてアイスがおいしいのも認めている。
「王道はバニラだが、いちごも捨てがたい・・・・」
たまにはこういうのもいいかと、割かし真剣に悩み始めるゴウエモン。
そんな彼を見つめながら、るるかがアイスを味わい続けていると。
「・・・・来た、マコトジュエル」
――――女の子が、母親に手を引かれて歩いてくる。
その手に、大切そうに抱えられたぬいぐるみに。
マコトジュエルの輝きが宿っているのが見えて。
「抹茶味に決めたのに!!」
なんてタイミングの悪いと、ゴウエモンは嘆きを叫んだ。
「ポチーッ!!」
「わっ!?ポチタン!?」
「・・・・ファントムか」
「――――くれあさん、ごめんなさい。わたし、行かなきゃ!」
「ケーキは預かっておくわ、気を付けてね」
「はい!ありがとうございます!」
コソコソッ(ご感想も待ってます・・・・!)