妖精犯科帳   作:数多 命

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拙作が、10月27日の日刊ランキングにお邪魔させていただきました~!
作者が観測できた範囲では、総合150位、二次創作104位です!
日頃のご愛顧、誠にありがとうございまーす!


弐肆

――――親子の依頼を切欠に、元の時代の母親を思い出してしまったあんな。

蓋をして、見ないふりをしていた寂しさが。

全身を駆け巡る感覚に蝕まれてしまったあんなは。

『ジェットのおやつの買い出し』を口実に、事務所を飛び出してしまう。

ジェットとみくる。

大切な仲間達に、心配をかけてしまったことに途方に暮れているところに。

買い出し帰りのくれあに遭遇。

そして、彼女の提案で。

パティスリー・チュチュで、ケーキ作りをしてみることにしたのだが。

 

「――――完成!」

 

材料を測り、生地を混ぜ。

オーブンに入れて、余熱を飛ばす。

あとは、プロであるくれあがデコレーションすると。

 

「これって・・・・」

 

――――あんなの唇が、震える。

掠れた声を零すのに精いっぱいな彼女の視線の先には。

あの日、食べられなかった。

誕生日ケーキ、そのもので。

 

「あんなちゃんのお誕生日をお祝いする、バースデーケーキよ」

 

あんなの胸中を知ってか知らずか、くれあは微笑みながら話し出す。

 

「雪みたいに積もっているけど、温かいって言ってたでしょ?」

 

くれあの言葉に、あんなはケーキを作る前の『聞き取り』を思い出していた。

両手を握られて、まるでカウンセリングの様だと感じた。

少し不思議な時間。

 

「あんなちゃんの誕生日は一月、デコレーションされているケーキで、用意してくれたのは・・・・」

 

あの断片的な情報で、ここまで作れるのかという驚愕は。

 

「――――お母さん」

 

溢れ出した。

母の笑顔で、吹き飛んだ。

 

「あんなちゃんの喜ぶ顔が見たくて、こんなケーキにしたんだと思う」

「――――食べられなかったんです」

 

もう、抑えられなかった。

 

「・・・・え?」

「誕生日ケーキ、せっかく用意してくれたのに・・・・今、お母さんと、会いたくても会えなくて・・・・」

 

幸いにも、いつも通りの声は出せている。

だからあんなは、苦笑いでやり過ごそうとした。

その一方で、せっかく楽しい時間を提供くれているくれあに、申し訳なさを感じていたのだが。

 

「・・・・それが、あんなちゃんの元気が無い理由ね」

 

気を害した様子もなく。

ただただ優しく見守ってくれるくれあを、目の当たりにして。

苦笑いすら、繕えなくなってしまう。

 

「・・・・すみません」

「どうして謝るの?」

「だってわたし、探偵なのに・・・・」

 

嗚呼、いけない。

すっかりくれあに甘えてしまっている。

なのにあんなは、自分で自分を止められない。

 

「困っている人の力に、ならなくちゃいけないのに・・・・!」

 

挙句、涙まで零してしまって。

自分が、世界で一番みっともない生き物であるように感じてしまっていた。

 

「――――探偵さんにだって、寂しい時はあるんじゃない?」

 

そんなザマにすら、くれあは優しく手を差し伸べてくれる。

 

「あんなちゃんは強い子だから、みんなに心配かけないように・・・・寂しさを隠してしまうんだろうけど・・・・」

 

指で涙を拭ってくれながら、くれあは微笑んで。

 

「心のきらめきを、大切にしてほしいな」

「・・・・心の、きらめき」

「うん。心にある、真っ直ぐな気持ち」

 

・・・・言うまでも無いが。

人の心は『楽しさ』や『嬉しさ』だけではない。

『悲しさ』や『寂しい』という感情だってある。

それらは万人が持ち得るもので、一つ一つが等しく尊いものだ。

 

「無理して抑え込むことはないわ」

 

そして、くれあもまた。

自らのきらめきにしたがって、あんなの感情をそっと後押しする。

 

「心のきらめきは、真実だから」

 

そうすれば、ほら。

閉じ込められて、行き場を失って。

破裂しそうだった寂しさが。

涙となって、きちんと溢れ出して。

 

「――――ぁあ」

 

顔を覆ってしまったあんなを、くれあは何も言わずに抱きしめるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・よかったね、あんなちゃん」

 

「おっと・・・・いらっしゃいませ!パティスリー・チュチュへ、ようこそ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ご、ごめんなさい。制服汚しちゃって・・・・」

「いいのよ、気にしないで」

 

制服の胸元が、涙で黒くなったくれあに。

あんなは赤べこに負けないくらいの勢いで何度も頭を下げる。

 

「落ち着いた?」

「はい・・・・ほんとにすみませんでした・・・・」

「本当にいいのよ」

 

悩みはすっかりなくなったようだが、落ち込みもしてしまったあんな。

対するくれあは、いっそ微笑ましさを感じていた。

 

「――――私はね、あんなちゃん」

「は、はい!」

「その人のきらめきを知って、ケーキを作るの」

 

片付けの傍ら、くれあは徐に口を開く。

 

「楽しい気持ちはもっと楽しくしてあげて、寂しい気持ちには寄り添って、寂しさを癒してあげたいの」

「くれあさん・・・・」

 

制服を汚してしまった、せめてもの償いにと。

一緒に片付けていたあんなは。

噛み締める様に、一度目を伏せてから。

 

「・・・・やっぱり、くれあさんはすごいです」

 

しみじみと、零す。

寂しさに気付いてくれたこと、破裂しそうだった感情に寄り添ってくれたこと。

想いの籠ったケーキを作ってくれたこと。

今日だけで、どれほど優しくしてもらったか。

すっかり数えきれなくなってしまっている。

 

「そんなことないわよ」

 

くれあはというと、苦笑いを零していた。

 

「私だって、ダメなときはあるもの」

「そうなんですか!?」

「もちろん」

 

お手本の様に目を丸くするあんなに微笑みかけながら、くれあは道具を洗い続ける。

 

「この前だって、うっかり道端で具合が悪くなっちゃって」

「ええっ!?だ、大丈夫だったんですか!?」

「少し立ち眩みしちゃっただけよ、休んだらすぐに治ったわ・・・・でも、気を付けなきゃいけないのは事実よね」

 

心配で素っ頓狂な声を上げるあんなを宥める様に、とっくに快復したことを報告。

 

「中村さんが居合わせてくれなかったら、どうなっていたか」

「えっ、大也さんが助けてくれたんですか?」

「実はそうなの」

 

・・・・朧げながらも、思い出せる。

駆けつけてくれたこと、倒れる体を抱えてくれたこと。

呼吸を落ち着かせてくれたこと。

ずっと背中をさすってくれた、手の温かさ。

意識がはっきりした後も、お茶やうどんを振る舞ってくれて。

ずっとこちらを気遣ってくれた。

 

「・・・・お客様なのに、悪いことをしてしまったわ」

 

あんなの目には。

当時を思い出しているらしい、くれあの横顔が。

どことなく、大人っぽく見えて。

 

「・・・・くれあさんって」

 

常日頃から、『ウソはつかない』と公言している通り。

自他ともに認める、実に素直な性格をしているあんなは。

 

「大也さんのこと、好きなんですか?」

 

胸に浮かんだ疑問を、するりと口にしていた。

 

「・・・・えっ?」

 

完全に虚を突かれたくれあは、ぽかんとあんなを見つめる。

 

「あ、いや、その!わたしの、勘違いかも!」

 

相手の見たこともない表情にびっくりしたあんなが、わたわたと誤魔化す中。

くれあは思考に没頭する。

――――好きかどうかで言えば、好きではある。

よくお店に来てくれて、毎回毎回幸せそうにケーキを食べてくれるのはパティシエ冥利に尽きるし。

他の異性に比べれば交流もあるから、上司のたいらの次に信頼出来るのは間違いない。

 

(確かに、好きになってもおかしくないかもしれないけれど・・・・)

 

『では、自分の気持ちは?』。

考え始めた、その時。

――――首元を、触られる。

 

「――――ッ」

 

その、刹那。

何かの光景が、濁流の様に雪崩れ込む。

――――激怒した表情の大人達。

モノトーンで整えられた会場。

立ち込める線香の煙。

耳まで真っ白になった俯き顔。

――――ぶら下がった、誰か。

 

「――――ッ!」

「わっ!?くれあさん!?」

 

弾かれるように、振り返る。

当然だが、誰もいない。

見えるのだって、いつもの厨房だ。

何の変哲もない。

・・・・ない、が。

 

(――――咎められた)

 

何故か、そう確信出来た。

 

「くれあさん?」

「えっ、あ・・・・ああ、ごめんなさい。つい考えこんじゃった」

「そんな!こっちこそ、変なこと聞いちゃってごめんなさい・・・・!」

「いいのよ」

 

呆然としていたくれあだったが、隣にあんながいたことを思い出して何とか持ち直す。

 

「・・・・多分、まだ違うと思うけれど」

 

片付けを再開しつつ、くれあはあんなの問いに答えるべく口を開いて。

 

「中村さんとお付き合い出来る人は、きっと幸せだと思うわ」

 

偽りのない本心を告げたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『そこにいるのは、自分がいい』という本音は。

見ないふりをした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マコトジュエルはこの辺りのはずだが・・・・?」

 

一方その頃。

ゴウエモンはアパートの上に立ち、周囲を見渡していた。

今日も今日とて、『いざ、マコトジュエル!』と勇んで飛び出したはいいものの。

肝心のものがどこにも見当たらないのだ。

 

「んおっ?」

 

ふと、一緒に連れてきたはずの後輩が居ないことに気付いたゴウエモン。

幸い、すぐ下の広場にいるのを見つけた。

・・・・自分がさっき奢ったアイスを、のんびり堪能している。

 

「アルカナ・シャドウ!どうなってるんだ!?」

 

身軽に飛び降りた彼は、呑気な様子のるるかに詰め寄った。

 

「ただアイスを食べに来たんじゃないだろうな!?」

「・・・・もちろん」

「だって・・・・マシュマシュマシュマシュマシュ・・・・マシューッ!!」

 

頬にアイスをつけたるるかが、先輩の剣幕に落ち着いて答えると。

隣のマシュタンが即座に占って見せる。

 

「見えたわ!『望むものはおのずと近づいてくる』って!」

「だから待ってる」

「うぅん・・・・!」

 

あんまりにものんびりした後輩達に、思わずうなり声を上げるゴウエモン。

 

「・・・・アイス、食べたら?」

「・・・・そうだな、そうするか」

 

しかし、それはそれとして、マシュタンの占いの的中率も知っている。

故に切り替えて、先ほども買い物したキッチンカーに再び立ち寄った。

 

「さすがにどら焼きは無ぇか」

 

ゴウエモンが好きなのはどら焼きだが、それはそれとしてアイスがおいしいのも認めている。

 

「王道はバニラだが、いちごも捨てがたい・・・・」

 

たまにはこういうのもいいかと、割かし真剣に悩み始めるゴウエモン。

そんな彼を見つめながら、るるかがアイスを味わい続けていると。

 

「・・・・来た、マコトジュエル」

 

――――女の子が、母親に手を引かれて歩いてくる。

その手に、大切そうに抱えられたぬいぐるみに。

マコトジュエルの輝きが宿っているのが見えて。

 

「抹茶味に決めたのに!!」

 

なんてタイミングの悪いと、ゴウエモンは嘆きを叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ポチーッ!!」

「わっ!?ポチタン!?」

「・・・・ファントムか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――くれあさん、ごめんなさい。わたし、行かなきゃ!」

「ケーキは預かっておくわ、気を付けてね」

「はい!ありがとうございます!」




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