るるかちゃん、おめでとうございました!
「あんな!」
「みくる!」
パティスリー・チュチュを飛び出してすぐ、あんなはみくると合流出来た。
「あんな!あのね!」
「わっ!?何!?」
そのまま現場に向かおうとするも、みくるに引き止められる。
驚愕に振り向いたあんなが見たのは、強い輝きを放つみくるの瞳。
「元気が出ないかもしれないけど・・・・頼れないかもしれないけど・・・・!」
ここに来るまでに、全力疾走してきたのだろう。
全身で大きく呼吸するみくるは、困惑したあんなの肩を力強く抱いて。
「でも、わたし・・・・いるからね!」
「・・・・ッ!」
抱擁に負けないくらいの、力強い宣言をしてくれた。
(・・・・ああ、なぁんだ)
一生懸命な顔を、目の前にして。
あんなの胸に残っていた、最後のしこりが消える。
(わたし・・・・思っていたより、独りじゃないんだ・・・・)
今まさに、ファントムが現れた緊急事態だというのに。
笑みが浮かぶのを押さえられない。
「みくる・・・・ありがとう!みくるの顔見たら、もっと元気出た!」
『きらめきを大事に』。
くれあに言われた通り、あんなは嬉しさのままに感謝を伝える。
「ぁ・・・・!」
一方のみくるもまた。
あんなの笑顔を前にして、大也との話を思い出していた。
(信じて頼るから、信頼・・・・)
――――家族や友達と引き離された状態で。
自分のことを、一身に信じてくれているあんな。
そんな彼女が、もっと頼ってくれるように。
・・・・泣きたい時には、泣かせてあげられるように。
「・・・・うん!」
決意を新たに、みくるもまた。
満面の笑みを浮かべたのだった。
「それで、ポチタン!マコトジュエルは!?」
「あっちポチ!」
「急ごう!」
「うん!」
さて。
それはそうと、今は怪盗団だ。
ポチタンに方向を教えてもらった二人は、揃って一目散に走り出す。
「そういえば、大也さんは?」
「さっき会ったよ!バイトが終わってから来るって言ってた!」
「じゃあ、ちょっと遅くなっちゃうのか・・・・二人で頑張ろう!」
「もちろん!」
「ああっ!?」
「――――来やがったな?」
ポチタンに導かれるがまま、走ることしばし。
見えて来たゴウエモンとるるかの姿に、みくるが大声を上げる。
「そのぬいぐるみ、あの子の・・・・!?」
更によくよく見れば、ゴウエモンが手にしているのは。
今日の依頼で見つけ出した、女の子のぬいぐるみで。
「ッ返して!」
「ならばとオレ勝負だ!!」
食って掛かるあんなに、不敵に笑ったゴウエモンは。
「ウソよ覆え!来やがれ、ハンニンダーッ!!」
「ハン!ニン!ダッ!!」
邪な桜吹雪をぬいぐるみに、マコトジュエルに放って。
巨大なにんじんを抱えた、ウサギ型のハンニンダーを召喚したのだった。
「「ッオープン!ジュエルキュアウォッチ!!」」
対するあんなとみくるもまた、ジュエルキュアウォッチを発動。
「どんな謎も、はなまる解決!名探偵!キュアアンサー!」
「重ねた推理で笑顔にジャンプ!名探偵!キュアミスティック!」
「「――――名探偵プリキュア!」」
「わたしの答え、見せてあげるッ!」
プリキュアに変身したのだった。
「ハンニンダー!!ハンニンダー!!ハンッ!!ニンッ!!ダッ!!」
ハンニンダーは、その姿の通りの軽快な動きでプリキュア達に接近。
突進を避けて、空中に浮かんだ二人へ。
ニンジン型のロケットランチャーを、容赦なく発射する。
アンサーは跳び箱の要領で回避、ミスティックも危なげなく殴り飛ばして対応するが。
「――――アルカナスターレイン」
「「・・・・ッ!?」」
横合いからの、無数のレーザーには。
いくつか掠ってしまう。
弾かれるように見れば、アルカナ・シャドウがロッドを向けてきていて。
「ハンニンダー!!」
「ああっ!?」
「ッアンサー!!」
そこへ、ハンニンダーの追い打ち。
避けきれなかったアンサーに、ミスティックが手を伸ばすと同時に爆発する。
「いいぞ!アルカナ・シャドウ!さすがオレの弟子!!」
「違うから!」
ゴウエモンにマシュタンがツッコミを入れる中、ハンニンダーは追加のニンジンランチャーを何発も発射。
「アルカナスターレインッ!!」
「っあ・・・・!?」
そこへさらに、アルカナ・シャドウもレーザーを発射。
アンサーへ、トドメを刺そうとするも。
「――――ミスティックリフレクション!!」
今度は間に合ったミスティックが、全て受け止めた。
「っく・・・・!」
「なかなかしぶといな・・・・さっさと諦めろ!」
アンサーは守れたものの、如何せん数が多い。
苦い顔をするミスティックに、ゴウエモンが意地の悪い笑みを浮かべたが。
「――――諦めないよ!」
アンサーの言葉に、怪訝な顔をした。
「だってその人形には、あの子の心から大好きって気持ちや・・・・お母さんの愛情でいっぱいなの!!」
――――思い浮かぶのは、今日の依頼。
『母に貰った』というぬいぐるみを、大切そうに抱えた。
女の子の姿。
「心のきらめきがッ!!たくさん詰まってるッ!!」
諦められない思いを叫びながら、ミスティックの隣でバリアに手を添えると。
「ミスティック!」
「うん!」
「「たあッ!!」」
一緒に、ニンジンランチャーを弾き飛ばしてしまった。
「・・・・ッ!」
直後の、体が硬直するほんの一瞬。
アルカナ・シャドウがすかさず飛び込んで、二人纏めて叩きのめそうとするが。
「――――
「漁火斬りィッ!!」
割り込んで来たモンドに防がれ、大也に飛び掛かられる。
「モンドさん!大也さん!」
「すまん!遅くなった!」
健在のアンサー達にほっとしながら、アルカナ・シャドウを弾き飛ばす大也。
隣には精霊転化したモンドが、炎をたなびかせながら控えた。
「アルカナ・シャドウ・・・・!」
「おっと、ここは任せろ!」
油断ならなくなってきた相手の登場に、不安そうするマシュタンへ。
ゴウエモンが不敵に笑いかけて、アルカナ・シャドウの隣に立つ。
「安心しろ!師匠が付いてるぞ!」
「・・・・弟子じゃない」
高笑いするゴウエモンへの、言葉こそ素っ気ないものの。
声音にはどこか、温度があった。
「そうら!くらいなッ!」
「ッ炎照輪!!」
桜吹雪に合わせて、アルカナ・シャドウが突っ込んで来る。
大也は薙ぎ払いで迎え撃つと、スライディングでロッドを避け。
「ダァッ!」
「おっと!やるな!」
ゴウエモンへ肉薄する。
鉄扇と刀が激しく迫り合い、火花を散らす。
「ふっ・・・・!」
その背後から、アルカナ・シャドウが襲い掛かってくるが。
「某を忘れたかッ!?」
「っづ・・・・!」
立ちはだかったモンドが両翼を振るい、炎を叩き込んだ。
アルカナ・シャドウは、ロッドを大きく振り回して火傷こそ回避したものの。
熱気に怯んでたたらを踏みかけてしまう。
が、
「ッああ・・・・!!」
「なぬっ!?」
『舐めるな』とばかりに残暑の中へ飛び込んで、モンドに肉薄。
「アルカナスターレインッ!!」
「ッ来るぞ、ヒロヤ!!」
大也諸共に、流星群を浴びせた。
「はぁっ・・・・!」
「やるじゃねぇか!新人!」
「うおッ!?」
紙一重でモンドが防いでしまったのが見えたものの。
一泡吹かせることは出来た。
隣に戻って来たゴウエモンが、褒め言葉を投げて来る一方。
油断なく構え直していた、その時だ。
「「プリキュア!フライング・スペクトルッ!!」」
「エッ!?アッ!?」
アンサーとミスティックの声に、慌てて振り向くと。
まさに、ハンニンダーが浄化されてしまっているところで。
「なぁーにぃーっ!?しまったーッ!!」
「何やってんのよーッ!?」
ついつい大也達に構い過ぎてしまったのを歌舞伎の見栄切りの様に嘆くゴウエモンに。
マシュタンが全力でツッコミを入れるが、もう後の祭りである。
「もはやこれまで・・・・縛に着くか、おめおめ逃げるか、選べぃ!!」
「ックソ!やっぱり小豆アイスにすりゃよかった!!」
モンドに睨まれたゴウエモンが、負け惜しみを言いながら撤退する中。
自らも踵を返しかけたアルカナ・シャドウはふと、プリキュア達に目をやる。
(――――きらめき、か)
視線を受け、身構えるアンサーが叫んだ、覚えのあるワードに。
少しだけ過去を想起していた。
「・・・・じゃ、帰りましょ」
「・・・・うん」
そんな相棒の様子に気付いたマシュタンは、あえて触れることはせずに。
帰宅を促して。
今度こそ、撤退していく。
「大也さん、ありがとうございます!」
「バイト中だったのに、すみませんでした・・・・!」
「
「こちらこそ、遅くなってすまなんだ。間に合って何よりじゃ」
「「「「おお~!!」」」」
――――無事にマコトジュエルを取り戻した探偵事務所一行。
ほっと安心したのもつかの間、みくるのお腹が盛大に咆えたのをきっかけに。
あんなが、くれあに預かってもらっていたケーキを引き取りに行くと。
さっき見た完成品とは、少し違っていて。
「くれあさん、これって・・・・!?」
「ふふっ、マジパンでキュアット探偵事務所のみんなを作ってみたの」
砂糖の割合が高い、細工用のマジパンで。
くれあが、探偵事務所の面々を作ってくれていた。
「大也さんとモンドさんも一緒ですよ!」
「本当だ・・・・すみません、大変だったでしょう?」
「いいんですよ、時間がありましたから」
『何より』、と。
くれあは、あんなを温かく見やって。
「みんなも、あんなちゃんのきらめきだから」
「・・・・くれあさん」
微笑むくれあの、惜しみない優しさに。
あんなの胸が、歓喜で締め付けられる。
・・・・もう、孤独感なんて。
すっかり無くなってしまっていた。
「みんなで食べよう!ホールケーキは、大勢で食べた方がおいしいから!」
「そうだな、頂くか!」
あんなの提案に、甘いものが大好きなジェットはもちろん。
昼からぶっ通しで筋トレを続けていたみくるも、諸手を上げて大賛成。
そのまま、ちょっとしたお茶会が開催されることになった。
「紅茶を淹れてきますね」
「手伝いますよ」
『妹がいたら、こんな感じだろうか』と考えながら、くれあが店内に引っ込めば。
大也がそれを追ってくる。
「そんな、中村さんはお客様なんですから」
「いつもお世話になってるお礼です、たまにはこうやって返さないと」
『バチが当たります』と力強く宣言されてしまっては、くれあは上手く断る術を見つけられなかった。
結局折れる形で大也を厨房へ案内し、茶器を用意してもらう。
「そういえば、着物じゃない中村さんって、何だか新鮮ですね」
「はは、バイト先から押っ取り刀だったもんですから・・・・お恥ずかしい」
「いえいえ」
弁当屋の制服で、照れくさそうに首をかく大也に。
くれあはにっこり笑って、首を横に振る。
「恥ずかしがることじゃありませんよ・・・・そうやって、色んなことに真面目で一生懸命だから、信頼されてるんですよ」
「だと良いんですが・・・・」
謙遜のせいで収まらない苦笑いが、くれあにはとても微笑ましいものに見えていた。
『くれあさんって』
――――ふと、脳裏に過ぎった。
『大也さんのこと、好きなんですか?』
あんなの、あどけない問い。
それを踏まえた状態で、隣の大也を見てしまう。
――――好きか嫌いかで言えば、好きだ。
話す機会が多いこともあって、身辺では店長の次くらいには信頼出来る異性だ。
よくお店に来てくれて、毎回毎回幸せそうにケーキを食べてくれるのはパティシエ冥利に尽きるし。
『大丈夫ですか!?』
――――それに。
『言うてみぃ、聞いてやるけん』
手が、温かくて。
『ねん、ねん、ころりよ』
優しくて。
(――――あれ)
次の瞬間。
くれあは、自分の頬がすっかり火照っていることに気が付いた。
「ぁ・・・・!?」
「うわっ!?大丈夫ですか!?」
手元が狂い、取り出そうとした茶葉が床にぶちまけられてしまう。
「ご、ごめんなさい!私、何を・・・・!?」
「落ち着いて、一緒に片付けますから」
言うなりしゃがんでしまった大也を追いかけて、くれあもせめて缶を拾い上げようと手を伸ばす。
・・・・同じことを考えていたらしい大也の手と、重なってしまう。
「――――ッ!?」
ほとんどひったくる形で、手を引いた。
一見、手を叩かれてしまった大也も、驚いた顔をしている。
「ぁ・・・・ぁ、ぁ・・・・の・・・・!」
はくはくと、強張った喉を無理やり動かして。
「ほ、箒と塵取り!持ってきます!」
「エッ!?アッ、ハイ!お願いします!!」
情けない声を上げながら、くれあはその場を逃げ出してしまった。
――――また、誰かが首元に触れたのには。
気付くことはなかった。