妖精犯科帳   作:数多 命

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作者も腰を抜かしたあの回です。


弐陸

「――――ジェットさん!これはここでいいんですか?」

「ああ、頼むよ!」

 

――――宝生美術館。

まことみらいでも有数の資産家、『宝生ちなみ』が。

自慢のコレクションを展示している美術館だ。

少し前は、『自慢したいけど、盗られたくもない』という動機で。

全て偽物が展示されていたことが判明し、騒ぎになりもしていたが・・・・。

展示品を全て本物にしたり、一部ながら入場料を返還したことなど。

迅速な対応により、十分に反省していると認められて。

手錠を掛けられることは、なんとか避けたと言う。

 

「しっかし、ガラスがこんなに綺麗になるとは・・・・」

 

それはそうと、一度やらかした事実は消えず。

苦情やなんかで、客足が遠のきかけたところを見かねたジェットが。

今回技術者のネットワークを通じて、展覧会を開こうとしていた新規清栄のガラスアーティスト。

『新堂美佐子』を紹介したのだった。

 

「全部、キラキラ~・・・・はなまる素敵!!」

「可愛すぎる!!」

 

会場に整然と並べられる作品の数々に、手伝いに来たあんなとみくるも大歓声を上げる。

 

「お前ら、手伝いに来たんだろ・・・・」

 

ジェットも呆れてしまっているが、興奮してしまう彼女達の気持ちも分からなくはないらしい。

それ以上の小言は言わなかった。

 

「展示品を汚さないように、手袋をはめとけよ」

「本当だ、みんな手袋着けてる」

 

実に繊細なガラスに、傷はもちろん、汚れ一つ付けない為に。

作務衣姿の大也を始めとした作業員たちは皆、手袋を装着していた。

 

「私の美術館で、新堂先生の展覧会が出来るなんて、夢のよう!!」

「いえ、こちらこそ」

 

彼らに倣って、あんな達も手袋を装着している横では。

オーナーであるちなみと、これらの展示品の作者である美佐子が会話している。

 

「ご紹介いただいたジェットさんのお陰で、『12時のわすれもの』も喜んでいると思います」

 

美佐子が感慨深げに見つめる先。

今回の目玉である新作、シンデレラのガラスの靴を再現した『12時のわすれもの』が。

まるでおとぎ話のワンシーンの様に、クッションに安置されていた。

 

「彼に任せておけば間違いないですわ!探偵事務所の発明家でありながら、人気急上昇中のコスメ店『Pretty Holic』を手掛けている方ですから!」

(なんであん人が自慢げとやろか(あの人が自慢げなんだ)・・・・)

 

そんな美佐子に対し、何故か得意げにするちなみだったが。

他ならぬジェットが照れくさそうにするだけだったので。

やり取りに首を傾げそうになった大也もまた、疑問を胸の奥にしまっておくことにした。

と、

 

「すみませーん!これ、どこに置いとけばいいですかー?」

 

また別の作業員が、新たな段ボールが運び込んで来た。

これだけなら、大して気にする様なものではなかったが。

 

「・・・・?」

 

たまたま彼の近くで作業していた、大也の耳が。

箱の中からの、かすかな音を聞き取って。

 

「それ!中身は――――!?」

 

問いただす前に、『ボンッ!!』と大きな破裂音。

大きな音にびっくりして、誰もが注目する目の前で段ボールが爆ぜて。

気付けば、大量の『ガラスの靴』がぶちまけられてしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「むっ、何やら騒がしいの・・・・」

 

「気になるが、入るわけにもいかんし・・・・」

 

「もどかしいのう・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――騒ぎは瞬く間に大きくなり、警察が駆けつける事態となっていた。

『12時のわすれもの』によく似た偽物がばら撒かれるだけでも十分に悪質ないたずらなのだが。

何より、重大だったのは。

 

「作品が消えた・・・・」

「ええ、気が付いたら・・・・」

 

警部の聞き取りに、神妙な顔で答える美佐子。

――――そう。

展覧会の目玉である『12時のわすれもの』が、忽然と姿を消してしまったのである。

 

「ですが、砕け散った形跡もないようですし・・・・」

「はい」

 

言うまでも無いが、ガラスはとても脆い。

なんてことない衝撃でも、いとも簡単に割れて砕け散ってしまう。

そんな警部の指摘を、美佐子はまず肯定した。

 

「シンデレラの強い心を表現するために、強化ガラスで作っています」

 

――――『強化ガラス』。

通常のガラスに、熱や薬品で処理を行って作る特殊なガラス。

高い耐熱性や耐久性はもちろんのこと。

万が一割れても粒状に割れる為、破片で怪我をするリスクが大きく軽減するというメリットがある。

弱点としては、防犯機能は無い他。

角や尖ったものの衝撃に弱い、といったところか。

 

「なるほど・・・・」

 

とにもかくにも。

犯人は強化ガラスの耐久性に目を付けたのであろう。

偽物を派手にばら撒き、混乱に乗じて『12時のわすれもの』を失敬したのだ。

美佐子の証言を聞き終えた警部が、次に目を向けたのは。

 

「それから・・・・あの子達は一体?」

 

あんな達だった。

どう見ても中学生にしか見えない彼女達が、連れて来た鑑識達と一緒になって現場を調べているのは。

実に不思議な光景に見えるのだろう。

 

「キュアット探偵事務所の皆さんです」

「えっ!?あの!?怪盗団ファントムの事件を解決している!?」

 

尤も。

その疑問は、彼女達の正体を聞いた事で吹き飛んだようだが。

 

「この展覧会、発明家であるジェットさんの紹介で、開かせてもらえることになって・・・・あの子達は、お手伝いで来てくれていたんです」

「なるほどなるほど・・・・いえ、ご協力ありがとうございました」

 

聞きたいことは聞き終えたのだろう。

美佐子とちなみに一礼した警部は、今度は大也とジェットの下に歩み寄って来て。

 

「あなたが、ジェットさん?」

 

大也に話しかけた。

 

「あ、いえ、ジェットさんはこっちです」

「えっ?」

 

即座に訂正を受けた警部は、目を点にしてジェットを見る。

・・・・やはり。

少年の様な姿に、惑わされてしまっている様だ。

 

「『天才発明家』の、ジェットだ。宝生オーナーに、新堂先生を紹介させてもらった」

「ああ、それは失礼・・・・身分証も結構です、確かに拝見しました」

 

人間向けの身分証を見せられて、成人だと納得した警部は。

すぐに頭を下げた。

 

「俺は中村大也。一応、探偵事務所の用心棒のようなことをしています。今日はジェットさんの手伝いに」

「そうでしたか・・・・いや、すまなかったね」

 

大也もまた、学生証と共に。

最近ジェットが作ってくれた探偵事務所の名刺を提示すると。

警部は改めて人違いを詫びてくれた。

 

「時計・・・・時間が来ると、飛び出す仕掛けになってたのか・・・・」

「展示スタッフと美佐子さん、宝生さんのバッグには、特に仕掛けなしっと・・・・」

 

その一方で、現場を調べていったあんなとみくるは。

犯行のおおよその全体像を掴んでいた。

――――時限式の、殺傷力の極めて低い爆弾を使った、偽物のガラスの靴をばら撒く仕掛けを。

何も知らないスタッフを使って現場に運び込み、起爆させる。

そうして全員の注目を集めた隙に、お目当てであろう『12時のわすれもの』を失敬する。

 

「この大胆な手口!」

「犯人は恐らく・・・・!」

 

ポチタンの反応が無くとも、予想は出来る。

 

「「怪盗団ファントム!!」」

 

確信を以て断言された、犯人の名に。

現場にいた誰もが、緊張感を募らせた。

 

「・・・・あ」

 

犯人の目星がついたところで、改めて現場を見渡していたあんなが。

ふと、落ちていた偽物を拾い上げる。

力を込めて握り込めば、ガラスではありえない、ぐにゃりとした動き。

 

「これ、ガラスじゃない!」

「何だって?」

 

あんなの声に、大也を始めとした面々がどやどやと手の中の偽物に注目した。

 

「樹脂で出来ているみたいだな」

 

集まって来た面々の前で、あんなが再度握り込んで見せると。

ジェットが納得に頷いた。

思えば確かに、この偽物がばら撒かれた時。

部屋いっぱいに散乱するほど派手だったにも関わらず、音が静か過ぎた。

さらに、ガラスと大差ないビジュアルと、目を引く『演出』の所為で。

誰もが今の今まで気付かなかったのである。

 

「警部!映像の準備が出来ました!」

 

何にせよ、何が起こったのかは掴んだ。

後は、犯人を見つけ出すだけ。

その第一歩として、一同は防犯カメラを確認することになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「警察の話から察するに・・・・ファントムが出おったのか」

 

「となると、ヒロヤ達は中で調査しておるだろうから・・・・」

 

「・・・・某は、せめて人の出入りを見張っておるか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ますます分からない・・・・」

 

監視カメラを見た結論は、それだった。

靴が散乱する直前からの映像を検めたのだが、何度再生しても怪しい挙動を見つけられなかったのである。

もしかしたら決定的瞬間があったのかもしれないが、そもそも人が多すぎて死角だらけなのも災いした。

ちなみの証言で、一度ファントムに狙われた経験から、警備を大幅に強化。

荷物検査や赤外線センサーで厳重にしたのだと、鼻高々に情報を教えてくれたのだが。

犯人に繋がるかというと、今はまだ何とも・・・・としか言えなかった。

 

「はあ・・・・」

 

頭を抱える二人に、不安そうな顔をする美佐子を見かねて。

ジェットはため息一つ。

 

「事務所に戻る」

 

様々な道具が入ったリュックを背負いながら、シンプルに宣言する。

 

「警察の捜査が騒がしくて、準備出来ないからな」

「準備って・・・・でも、作品が・・・・」

「あんなとみくるが、必ず取り返す」

 

『未だ作品が見つからないこの状況で、悠長に展覧会の準備だなんて』。

と、顔にありありと書かれた美佐子へ。

ジェットはきっぱり断言した。

 

「大丈夫ですよ、二人の実力は確かですから」

「ああ!こいつらを信じろ!」

 

大也も一緒になった、信頼故の自信たっぷりな笑顔でダメ押しされれば。

美佐子も何とか不安を拭えた様だった。

 

「そうですね!お二人にお任せしましょう!新堂先生、私も準備をお手伝いしますわ!」

「・・・・ありがとうございます!みなさん!」

 

あんな達に助けられた経験を持つちなみもまた、笑顔で賛成すれば。

重くなりかけていた空気が、あっという間に軽くなった。

 

「大也はここに残って、二人を頼む。相手がファントムなら、十中八九何かあるからな」

「オッス」

 

部屋を出ようとしたちなみが、荷物検査を一喝でスルーしている横で。

大也が頷いたのを確認したジェットは、改めてあんな達へ振り向いて。

 

「頼んだぞ、名探偵!」

「「うん!」」

 

二人にとって、最高の激励を送ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――はあ」

 

自宅マンションにて、くれあは物憂げなため息を吐いた。

 

「集中できない・・・・」

 

ひろげたレシピ研究ノートの上に、行儀悪く寝そべってしまうが。

ここは自宅で、誰も見ていないので。

ちょっとくらいは許してほしいと考えてしまう。

 

「・・・・ッ」

 

原因は、分かっている。

先日、急に意識してしまった想いのことだ。

 

「・・・・なかむらさん」

 

止めておけばいいのに、名前を呟けば。

顔が熱を帯びていくのが分かる。

 

「・・・・~~~ッ!」

 

ちょっとした反抗心で、あえて舌足らずに発音した恥ずかしさも加わって。

顔を覆ったくれあは、全身をもだもださせた。

 

「はあ・・・・ダメだわ、全然進まない・・・・」

 

せっかくの休日。

丸一日、レシピの開発や改良に力を入れるつもりだったが、どうにも身が入らない。

 

「・・・・散歩でもしようかしら」

 

名残惜し気に研究ノートを片付けたくれあは、いつものシュシュで髪を纏めて。

外に繰り出した。

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