妖精犯科帳   作:数多 命

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前回のあの子が助けないわけないのと同じくらい、今回のあの子が怒らないわけがない。
そんなお話。




――――『あの子』の近くに、『奴』が現れたのは。

冬がすっかり終わって、春が目の前に迫った時期だった。

どうやら、自分も把握していない昔に会ったことがあるらしい『奴』が。

『あの子』を気にかけてパティスリーに通い出した。

別にそれくらいなら、まだそこまで警戒対象ではなかった。

・・・・むしろ。

『あの子』を託せるかもしれないと、淡い期待すら抱いていたのだが。

 

 

――――そうもいかなくなったのは。

『奴』の周囲に、妖精の気配を感じ始めてからだった。

 

 

自分の耳にも届いていた。

『妖精監獄からの集団脱獄』という、前代未聞の大事件。

その脱獄囚達を追う役目についたらしい『奴』は、相変わらずパティスリーに通い続けていて。

・・・・それでもまだ我慢できた。

自分が今、後ろめたい場所に立っていることもあったが。

何より『奴』の動機に、『あの子』を守ることが含まれていたから。

『あの子』が笑っている日常を、壊させないようにしていたから。

だから、まだまだ耐えられた

 

 

――――だけど。

『あの子』が、巻き込まれた。

 

 

危うく、命も尊厳も。

何もかもを失うところだった。

・・・・何より。

()()()()()()()()状況は。

もう、我慢ならなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――どう思う?」

「・・・・シュシュタンのことか?」

「うむ」

 

チュチュからの帰り道。

人気のない道で、モンドが口を開いた。

 

「・・・・くれあの記憶に関わっているのは、間違いないと思う」

「それは同意じゃ・・・・だが」

「ああ・・・・」

 

――――店での様子を見る限り。

記憶がないことを気にしていないようには見える。

しかし、人の心を直接読むことは不可能だ。

内心に、何が渦巻いているのか。

その道のプロではない大也達には、推し量ることしか出来ない。

 

「名前以外の、何もかもを忘れるほどだ・・・・果たして、軽々しく思い出させて良いものか」

「・・・・」

 

記憶喪失の原因は様々だが。

主立ったものといえば、やはり『衝撃的な出来事』だろう。

事故か、事件か。

どちらにせよ、トラウマになりかねない状況かもしれないのは。

手に取る様に想像出来た。

 

「幸いなのは、シュシュタンとやらはくれあ殿の味方で間違いないということか」

「・・・・そうだな」

 

記憶を失ったくれあに、健気に寄り添い続けている小さな妖精。

凶悪な殺人鬼を前に、体を一生懸命広げて。

彼女を守ろうとしていた姿は、信頼する根拠として十分過ぎた。

 

「・・・・あまり、触れない方が良いかと思っていたが」

 

しばし考え込んでいたモンドは、重々しく口を開いて。

 

「少し、調べた方が良いかもな」

「・・・・かも、しれん」

 

――――今の。

幸せそうなくれあを思い出して。

その笑顔を、曇らせてしまうかもしれないことに。

大也は、静かに眉をひそめた。

 

「――――気が進まないなら」

 

――――そんな彼らの、頭上から。

 

「そのまま諦めなさい」

 

鈴を転がすような声が降って来たのは。

その時のことだった。

 

「――――ヒロヤッ!」

「――――ッ!?」

 

モンドの警告と共に、大きく飛びのく。

持ち帰りのケーキを、ぶちまけてしまいながら。

大也は前転を応用して受け身を取る。

 

「ッなんや・・・・!?」

 

何か重たい物が落ちて来たのか、先ほどまで立っていた場所は土煙にもうもうと包まれていた。

 

「・・・・ッ」

 

が、いる。

土煙の中に、何かがいる。

 

「御用あらた―――!」

 

懐の、変身用の十手に手を伸ばしかけた。

刹那。

 

「――――ッ!?」

 

目の前。

踵が振り上げられていて。

大也は再び飛びのいた。

 

「ヒロヤ!無事か!?」

「おう!」

 

なんとか立ち上がって、見据えた先。

大也達はやっと、相手の姿を確認した。

――――黒いドレスの様な衣装に。

紫のヴェールを纏った、腰まで長く伸びた髪。

赤い瞳に、確かな怒りを燃やしたそいつは。

慣れた手つきでロッドを取り回し、構えた。

 

「誰だ、てめぇ・・・・!?」

「まさか、お主・・・・プリキュアか!?」

 

睨みつける大也と違い、モンドには心当りがあるようだ。

 

「ぷりきゅあ?」

「『キュアット探偵事務所』という、妖精と人間を取り持つ組織の、特別な探偵だ!数か月前から、行方が知れぬとは聞いていたが・・・・!」

 

『あれが探偵なのか』と、大也が驚きながら相手を見直せば。

確かに、傍らには狐の様な妖精が、寄り添うように浮かんでいた。

 

「・・・・行方不明やった探偵サマが、なんの用や?」

 

下手に動けば、また飛び掛かられるのを。

ひしひしと感じていたからこそ。

大也はまだ変身しないまま、問いを投げた。

 

「・・・・要件は、一つ」

 

対する『プリキュア』は、静かに口を開く。

 

「帆羽くれあから、手を引きなさい」

 

敵意と殺意を溢れさせながら、ロッドを突き付けて。

己の要求を、ストレートに伝えて来た。

 

「あの子の記憶を、呼び起してはダメ」

「――――ッ」

 

それを聞いた途端、大也の思考が発火する。

――――失われたくれあの記憶。

黙して秘して、彼女に寄り添うシュシュタン。

そして、たった今告げられた『命令』。

 

「――――お前」

 

火花を散らして、弾き出された可能性に。

 

「――――あいつに何ば(何を)したあぁッッ!!!!??」

 

大也は、今度こそ十手を抜き放った。

 

「――――御用改めであるッ!!」

 

変身ワードを咆えれば、姿が変わっていく。

まるで旅装束にも見える侍の衣服を纏った大也は。

陣笠の下から『プリキュア』を睨みつけると。

 

「おおおおおおおおおッ!!!」

「・・・・っ」

 

刀を抜き放ち、猛然と走り出した。

完全に激昂した彼と対照的に、『プリキュア』は冷静にロッドを持ち直す。

そして、一閃を難なく受け止めると、手首のスナップだけで弾き飛ばした。

 

「クソッ!!」

「ヒロヤ!落ち着け!」

 

体勢を立て直し、再び斬りかかろうとする大也だったが。

『プリキュア』は、それよりも速くロッドを手繰り寄せていて。

 

「ふ・・・・!」

「いぃっ!?」

 

顔を狙って、槍の様に突き出した。

大也は間一髪、首をひねって回避したが。

 

「がっ・・・・!?」

 

『プリキュア』はそのまま大也の横っ面を殴ると、地面に思いっきり叩きつけた。

それから、ロッドを支えに軽く飛び上がって。

大也の顔を、踏みつぶそうとする。

 

「ぐ、っお・・・・!」

 

鼻につま先を掠めながら、大也はなんとか回避。

『プリキュア』は、彼が立ち直った瞬間に薙ぎ払いを放って、大きく吹っ飛ばした。

 

「っづ・・・・この!」

 

街路樹に張り付く形で着地する大也。

顔を上げた次の瞬間には、もう相手が目の前にいる。

なんとか『プリキュア』を跳び越して攻撃を回避すれば。

直撃を受けてしまった街路樹が、大きな音を立てて倒れる所だった。

 

(強い・・・・!)

 

幾らか冷静になった頭で、まずはそう結論付ける大也。

攻撃の重さ、速さ、正確性。

それら全てが、自分より遥かに洗練されている。

モンドの話をちゃんと聞いて考えれば。

経験豊富な猛者であることくらい、すぐに分かったはずなのに。

頭に血が上っていたことを、大也は奥歯を噛んで悔いる。

その隙を突いて、『プリキュア』が再び接近した。

 

「――――何故こんな真似をするッ!?」

「・・・・決まっているでしょ」

 

舞い踊る様な『プリキュア』の猛攻に、防戦一方の大也。

そんなパートナーを苦々しく見たモンドは、少しでも打開策を探るべく。

『プリキュア』のお供妖精に食って掛かった。

 

「あの子の記憶を、取り戻させるわけにはいかないのよ」

「何・・・・!?」

 

対する彼女の、艶っぽい返答に。

モンドは驚愕に、羽を一度膨らませる。

 

「くれあ殿に何があるというのだ!?」

「・・・・あなた達は知らなくて良いことよ」

「それで納得出来るわけが―――!」

 

『なかろう!!』と続ける前に、大きな破裂音。

そちらを見れば、大也が完全に転がされていた。

 

「ぐ・・・・っ・・・・!」

 

ロッドや蹴りで、満遍なくすっかりボコボコにされた大也。

刀を完全に手放してしまい、痛みに脂汗を滲ませるも。

悠然と近寄ってくる『プリキュア』を睨む目は、まだ心が折れていないことを示していた。

 

「――――もう一度、言うわよ」

 

そんな彼を、静かに見下ろした『プリキュア』は。

ロッドを突き付ける。

 

「帆羽くれあから、手を引きなさい」

 

反論は許さないとばかりの圧が、かすかに空気を揺らす。

肌をピリピリ刺すようなそれに晒されて、さしもの大也も顔を俯かせたように見えたが。

次の瞬間、握り込んでいた砂利を投げつけて。

 

せからしい(うるせぇ)、黙れ」

 

『プリキュア』の、腹の辺りを少しだけ汚した。

 

「・・・・そう」

 

大したダメージではない。

汚れるくらい、別に気にならない。

――――癪に障ったのは。

これだけの差を見せても、折れない態度。

 

「死にたいなら、そういいなさい」

 

ぎゅるり、とロッドを一回転。

『プリキュア』の周囲に、星が展開される。

言われなくても分かる。

彼女は、これで決着をつけるつもりだ。

 

「ッいかん!!」

 

それに気付いたモンドは、羽を羽ばたかせて大也の下へ急ぐ。

 

「ぬおおおおおお!!」

 

全速力も全速力。

しかし、到底間に合いそうにない。

 

「アルカナスター・・・・」

 

それを見こした『プリキュア』も一瞥のみにとどめ、技を放とうとして。

 

 

 

――――その背後で、音もなく翼が広がった。

 

 

 

「ッアルカナ!!」

「――――ッ!?」

 

お供妖精の警告で、やっと気が付いたらしい彼女は。

振り向きざまに照準を変えつつ、防御を姿勢を取るも。

 

「ッぁ・・・・!」

 

その防御ごと、吹っ飛ばされてしまった。

 

「っ・・・・!」

 

そこでやっと、錫杖の飾りがしゃらんと鳴るのを聞きながら。

吹っ飛ばされた『プリキュア』が、体勢を立て直す前に。

再び両翼が音もなく広がって、羽根を無数に放った。

 

「ぁ・・・・!?」

「――――ナウマクサマン、ダバサラダンカン」

 

『プリキュア』が身を起こした、その時には。

周囲に羽根が突き立てられていて。

 

「――――インダラヤソワカ」

 

人差し指に中指を引っかけながら、唱え終えると同時に。

彼女に見せつける様に、スパークして。

刹那。

閃光と轟音に、すっかり包まれてしまった。

 

「アルカナーッ!!」

 

もうこうなれば、お供妖精もモンドや大也どころではない。

煙がもうもうと上がる中へ、パートナーを案じて飛び込んでいく。

 

「・・・・」

 

一方の大也は、自分を助けた存在を見た。

第一印象は、『フクロウ』だ。

まぁるい目に、黒の斑が入った茶色い毛並み。

そして、二本足で立っている。

モンドの下の姿に酷似していることから、同じ同心の妖精なのではと予想していると。

 

「あら、随分頑丈ね」

 

彼女に習って、土煙の方を見やれば。

ところどころ煤けた『プリキュア』が、眉を潜めて睨んできている。

 

「これ以上おいたが過ぎるなら、こちらも相応の対応をするけど・・・・どう?」

「・・・・ッ」

 

問いかけに対し、眉間のしわを深めた『プリキュア』は。

やがて、怒りを吐き出すように呼吸すると、踵を返して去っていった。

 

「――――オミネ!よう来てくれた!」

「久しぶり、兄様(あにさま)

 

脅威が完全に去った後で、モンドが駆けつけた妖精。

『オミネ』と言うらしい、同心妖精の女性に話しかける。

 

「話しには聞いてたけど、ホントにちいちゃくなったのね。かわいい!」

「や、やめんか戯け!はしたない!」

 

記憶にあるよりも、随分可愛くなったらしいモンドを抱き上げ。

頬ずりまでしている。

 

「それよりも!ヒロヤを!」

「おっと、そうだった!」

 

早々に切り上げ、モンドを肩に乗せると。

しゃがみ込んで大也と目を遭わせる。

 

「災難だったね?大丈夫?」

「ッス・・・・」

 

手伝ってもらいながら、なんとか起き上がる大也。

全身の痛みに、改めて自分の不甲斐なさを理解してきて。

 

「・・・・すみません」

「うん?」

「モンドの力をもらってるのに・・・・こんなボロ負けして・・・・」

 

気付くと、謝罪を口にしていた。

 

「ああ、そんなこと?いいのよいいのよ!」

 

それを聞いたオミネは、大也の肩をバシバシ叩きながら快活に笑う。

・・・・思ったよりも、いい人なのかと。

安心したのも、束の間。

 

「――――鍛えがいがある」

 

直後の獰猛な笑みと、沈痛な面持ちで合掌するモンドを同時に目の当たりにして。

 

「・・・・そっすか」

 

大也は、目から生気を失くした。




大也の同心としての格好で、一番近いイメージは。
『幕末機関説いろはにほへと』というアニメの、主人公の衣装です。

主人公が和服を好んで着ている設定なのに、肝心の筆者が上手く描写出来ないの。
バグすぎる・・・・申し訳ない・・・・。
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