マジかよ・・・・。
――――突然だが!
『明智あんな』は、2027年からやって来た未来人である!
誕生日を迎えた1月24日、不思議な妖精『ポチタン』の力で。
彼女から見た28年前の1999年にタイムスリップしてしまったのだ。
そこでは、世界をウソで覆おうとしている怪盗団『ファントム』が。
マコトジュエルを手中に収めるべく、それらが宿った人々の大切な品々を奪っていた。
元より思いやりのある性格だったあんなは、当然放っておけなかった。
故に、現地で出会った探偵志望の少女『小林みくる』と共に。
ファントムの蛮行を止めるべく、そして、自身が未来に帰るためにも。
『名探偵プリキュア』として、ファントムとの戦いに身を投じたのである!
「――――お前ら、ちょっと」
そんなある日の、キュアット探偵事務所。
「何々?」
「ジェット先輩、どうしたの?」
先輩にして発明の妖精である『ジェット』に手招きされて、あんなとみくるが寄ってくる。
「覚えておいてほしいことが出来た」
いつになく真剣な表情に、あんなもみくるも固唾を呑む目の前で。
ジェットは何かの書類を広げた。
「これは・・・・」
「手配書?」
「ああ」
揃いも揃って、危険そうな顔をした人相書きが13人。
その内3人には、どういうわけだか大きくバッテンが書かれていた。
「ファントムとやりあってるお前らには、言うまでもない話だが・・・・妖精にも悪い奴がいる」
首を傾げる二人へ、ジェットは説明を始める。
「その中でも特に凶悪な者は、人間と同じように逮捕されて、専用の監獄に収監されるんだ」
「そうなんだ」
妖精と言うファンタジーな存在にも、人間と同じような仕組みがあることにみくるが驚く中。
ジェットは『続けるぞ?』と、続きを促す。
「だが、つい数か月前、前代未聞の大事件が起きた・・・・集団脱獄だ」
「だ、脱獄!?」
「しかも集団って、大事件も大事件じゃないですか!?」
牢屋に入れられるような極悪人が、今まさに解き放たれている。
そんな状況を理解して、あんなとみくるは素っ頓狂な声を上げた。
「じゃあ、この手配書は・・・・」
「ああ、逃げ出した連中の人相書きだ・・・・二人とも、よーく覚えておいてくれ」
「はい!」
「見つけたら絶対に捕まえます!」
みくるの言葉が肯定されると、気合十分に返事をしたが。
「いや、何もするな」
ジェットは、ピシャリと言い放った。
「見つけても、すぐに離れて、オレに報告すること・・・・いいな?」
「ええっ?」
「ど、どうして?」
「端的に言うと、危ないからだ」
思ってもみなかった言いつけに、当然困惑するあんなとみくる。
そんな後輩達へ、ジェットは一人ずつしっかり目を遭わせながら話す。
「この手配書の連中は、ファントムなんかとは比べ物にならない・・・・万が一目を付けられたら、それこそ死んだ方がマシだと思うような目に遭わされるぞ」
低い声で、もはや脅しに近い警告を受ければ。
あんなもみくるも、本当に深くかかわってはいけないのだと息を呑む。
「今日こいつを教えたのは、お前達を護るためだ・・・・命と、尊厳を・・・・踏みにじられないようにな」
「・・・・ッ」
「・・・・」
最後に、念入りに警告すれば。
もうしばし気圧された二人は、間もなく手配書を食い入るように見始めた。
「――――でも、本当にいいのかな」
それから少しして。
ふと、集中が途切れたらしいあんなが不安そうに零す。
「どうした?」
「普通の人達が、この人達の被害に遭う人もいるんだよね?」
「・・・・そうだな」
「なのに、知っているわたし達は・・・・逃げるだけで、本当にいいのかな・・・・?」
――――妖精側の存在を知らずとも。
この囚人達は、説明のつかない超常的な力で。
容赦なく罪なき人々を蹂躙していくことだろう。
それを知っていて、自分達はただ逃げるだけだなんて
と思っているのだろう。
「ああ、大丈夫だ」
そんなあんなの心配を察して、ジェットは紅茶を差し入れながらにっこり笑う。
「そいつらを取り締まる役目の妖精が、すでに動いている。もう何人かはどうにかなったって報告も来てるぞ」
「本当!?」
「そっか、だからバッテンされてるんだ!」
「よぉーっし!頑張って覚えるぞー!」
見えた希望に、顔を明るくしたあんなとみくるは。
改めて気合を入れて、手配書とにらめっこを始めた。
「・・・・あれっ」
すると、間もなく。
何かに気付いたみくるが、声を上げる。
「この人だけ、枠が違う」
「本当だ、なんでだろう?」
他の脱獄囚達は赤い枠で書かれているのに対し、その罪人だけは青い枠で囲まれている上、やや離れている。
「ジェット先輩、この人って・・・・?」
「どれどれ・・・・ああ、こいつか」
この場で一番訳知りであるジェットを呼び、その個所を見せると。
彼は、やはり知っている反応。
「こいつだけは・・・・まあ、他よりはマシだからだろうな。確か、近々奉仕活動として、同心の手伝いをする予定だったはずだ」
「そんな人がいるんだ!?」
「言っとくが!そいつだろうとお前達の基本スタンスは変わらないからな!」
『見かけたら?』というジェットの
「な、中村さん!?」
「はは・・・・お久しぶりです」
――――その日。
久しぶりに店にやってきた大也の姿を見たくれあは、心から驚愕した。
「どうしたんですか!?そんなボロボロになって・・・・!」
仕事中なのも忘れて、素っ頓狂な声で詰めよれば。
大也は再び『ははは』と笑って。
「ちょっと色々あって、知り合いに護身術を習い始めたんです・・・・『強くなりたい』って俺の気持ちに、本気で応えてくれた結果が、これでして・・・・」
「護身術って・・・・」
警察や自衛隊ではあるまいに、本当に『どうして』としか言えないほどにボロボロだ。
「――――ッ」
「あの、いつものケーキを三つ、持ち帰りでお願いします」
本当に習っているのは護身術なのかと、問い詰めたくなったくれあだったが。
他でもない大也がショーケースを指さすことで、なんとか営業モードに戻る。
「ゎ、かりました・・・・少々お待ちください」
「はい」
とはいえ、心配なのは心配である。
(何か、出来ないかしら・・・・)
注文の品を用意しながら、ちらちらと大也の様子をうかがっていたくれあは。
「・・・・ッ」
ふと、胸に灯った『それ』に気が付いた。
なんとなく『きらめき』と呼んでいるその感覚が。
くれあの憂いを肯定して、静かに背中を押してくれて。
「・・・・そうだ」
ぴん、と。
思いついたことを、さっそく実行した。
「――――お待たせしました!」
「ありがとうございます・・・・ん?」
持ち帰りの箱と一緒に差し出したのは、クッキーの袋。
レジカウンターの横に置いているような、ちいさなそれを見た大也が。
首を傾げてくれあに目をやる。
思った通りの反応をしてくれた彼に、くれあは得意げに微笑んで。
「お見舞いです」
ウィンク、一つ。
虚を突かれた大也は、束の間まばたきした後。
「・・・・ありがとうございます」
まるで、少年の様に照れくさそうな笑みを浮かべたのだった。
「――――お待たせ」
「うむ」
店を出た大也は、モンドを肩に乗せる。
――――謎の『プリキュア』に襲撃された後。
ピンチの大也達を助けてくれた、
モンドの妹で、同心の妖精である『オミネ』から。
戦い方の手ほどきを受けていた。
それは別にいいのだ。
いつか『プリキュア』にもリベンジをと考えていた大也にとって、『ありがたい』以外の言葉がない。
ない、のだが・・・・。
「・・・・帰ったら、また特訓かぁ」
――――厳しい。
とにかく厳しい。
何より容赦がない。
いや、前より動けるようになっている実感はあるし、オミネの動きも見える様になってきた。
確実に身についているのは間違いないのだが。
思わず渋い顔になってしまうくらいに、とんでもなくハードだった。
「す、すまん・・・・オミネに悪気はないのだが・・・・」
「それこそ分かってるよ・・・・助けてくれたことも、気にかけてくれてることも、本当に感謝してる」
「ヒロヤ・・・・」
心配してくれるモンドへ、大也は歯を見せて笑ってから。
チュチュの箱を、ぐっと空に着き上げて。
「まずは生傷減らすことからだな」
「・・・・ふふ、その意気じゃ」
店の外で待っていたモンドにも、くれあの心配している様子は見えていた。
やる気が出るのなら結構だと、微笑まし気に見守った。
と、その時。
「うん?」
「むっ」
彼らの傍の植え込みが、ガサガサ揺れ出した。
猫か何かと、思わず足を止めて注目していると。
出てきたのは、白い毛並みにグレーの斑点が、パンダの様にも見える。
随分ずんぐりしたモルモット。
おおよそ日本では見られないそいつにびっくりして、『なんでこんなところに?』と大也は固まったが。
「――――旦那?」
口を開いたそいつが、はっきり人語をしゃべったことで。
更に大きく目を見開く。
「やっぱりそうだ!モンドの旦那ァ!」
「お、お主ッ!?ロビンかッ!?よう無事じゃったのう!!」
「ヘェッ!お陰様で!!」
モンドと知り合いらしいそいつは、嬉しそうに大也の足元に飛び出して。
「モンド、こいつは・・・・?」
「おぉっと!こいつぁ失敬!」
現状、妖精であることと、少なくとも敵ではないとしか分からないそいつについて聞こうとすると。
「お控ぇなすってぃ!」
他でもない本人が、びしりとポーズを決めた。
「手前はロビン・ラットと申す者!そちらの同心妖精、モンドの旦那に大恩ある。しがねぇ元コソ泥でサァ!!」
まるで歌舞伎の様な見え切りに、しばし黙した大也は。
「・・・・
「待て待て待て待て」
『プリキュア』の襲撃から間もないことも相まって、十手を握りしめたのだった。
おまけ
オミネ
同心の妖精にして、モンドの妹。
錫杖と陰陽術で戦う。
『プリキュア』に襲撃された大也を助けた縁で、彼に稽古をつけている。
なお、めっちゃスパルタな模様。
モチーフがフクロウなので、音もなく動き回ることは朝飯前。
ネーミングも実在の女神『ミネルヴァ(フクロウが彼女の眷属)』から。