「――――改めて、こやつは大盗賊『ロビン・ラット』。此度の脱獄囚の中では、一番まともな囚人だ」
「よろしくお願ぇしやす!」
「ど、どうも・・・・」
大也の自宅。
モンドはチュチュのケーキをつつきながら、『ロビン・ラット』を名乗った妖精を改めて紹介する。
「いやぁ、ごちそうにもなっちまって、恐縮でさぁ!」
「まあ、一応お客さんだし・・・・」
勢いよくケーキを食べる一方、礼儀正しく頭を下げるロビンだったが。
彼が脱獄囚だと聞かされていた大也は、やや緊張しながら返事。
ちなみに、ロビンとオミネは同じくケーキを。
大也はくれあからのお見舞いクッキーを摘まんでいる。
「直接的な人死にこそは出していないが、何分、犯行回数と被害額が相当でな・・・・」
「そんなに?」
「へへへっ、貧乏人向けの炊き出しなんかに、使わせていただきやした!」
聞けば、かの『鼠小僧』の様な泥棒働きをしていたロビン。
最近出て来た携帯電話どころか、電話すらも無い時代。
『無辜の民はいじめてナンボ』という金持ちの金庫から、たんまり失敬しては。
そのまま配布したり、炊き出しという形で、貧しい人々に配っていたらしい。
「方法は褒められたものではないが、慈善活動は考慮されての。さらに模範囚だったのも相まって、近々、仮釈放をかねた奉仕活動として、
「カンダタ主導の脱獄騒ぎに巻き込まれちゃってね、アタシらも探していたんだよ」
なんでも、混乱に乗じて看守が何人も攻撃を受けてしまっている中。
ロビンはと言うと、むしろ彼らを守る行動を取っていたらしい。
実際、彼に庇われたという看守が、何人も証言しているとのことだった。
古今東西、罪人と看守と言えば、いがみ合う関係だ。
それが、庇い庇われるだなんて、と。
大也が思わず、ロビンを凝視していると。
「罪人なのに、珍しいでござんしょ?」
「あ・・・・ああ、いや・・・・その・・・・すまん」
「いんやぁ!構うこたぁねぇ!!真っ当な感想でさぁ!!」
考えが顔に出てしまっていらしく。
微笑まし気な眼差しを向けられて、大也は気まずそうに頭をかいた。
対する彼は、快活に笑い声を上げると。
「このロビン!手染める悪事は盗みのみ、その他は絶対ぇやらねぇって、魂賭けて誓っておるもんでぇ!」
自信満々に胸を張るも。
「そこまでしてるのに、泥棒はやる
「がはは!!おっしゃるとおりだわ!!」
大也のまっとうな疑問に、豪快に爆笑したのだった。
「・・・・っていうか」
今までの脱獄囚とは、180度も違う態度に戸惑ったものの。
それどころじゃないぞ、と頭を振った大也は。
改めて十手を手にして。
「一応自主して
「あっ!イヤッ!!そいつぁちょっとお待ちくだせぇ!!」
そう、ごく当たり前の提案をすると。
途端に慌てだすロビン。
「アッ!その、逃げようってわけじゃないんでさぁ!!けど、今だけはダメだ!!」
目が据わった大也達を前にして、慌てふためいたロビンは。
勢いそのままに、本題を叫ぶ。
「ゾーゲインを見つけたんだ!!そいつの企みを食い止めるまでは、牢屋に戻れねぇ!!」
「何ッ?」
「・・・・詳しく話して」
ロビンが叫んだ名前に、モンドとオミネの羽毛がぶわりと膨らんだのを見て。
ただ事ではなさそうだと、大也は十手をしまい込んだ。
「そいつも脱獄囚か?」
「ああ、『人形師』ゾーゲイン・・・・老若男女問わず、何人もの人間を『人形』にして攫ってきた、誘拐殺人の罪で投獄された、発明の妖精だ」
「人形にされた人間は、時間が経つともう助けられなくなるところが厄介なの」
「だからただの誘拐じゃないのか・・・・」
モンドたちの説明を聞き、次に相対する囚人の厄介さを即座に理解した大也は。
「奴は今、『家入しるく』ってお方を狙っている!」
「何だって?」
ロビンの口から出たビッグネームに、目を見開く。
『家入しるく』。
最近頭角を現し始めた、売れっ子俳優だ。
ルックスはもちろんのこと、ひたむきに努力する姿勢や。
高校生活との二足わらじで頑張る姿が人気の彼女は。
ドラマや映画、CMに引っ張りダコである。
「怪我したあっしを拾って手当してくだすった、お優しいお嬢さんでサァ・・・・御恩ある方を放って、おめおめ牢屋に戻れねぇ!!」
言うなり、ロビンは打ち付ける勢いで頭を下げて。
「刑期が伸びるのも覚悟の上!!どうかあっしに、恩返しをさせて下せぇ!!」
・・・・『恩返し』だけでは、説明のつかない様な。
並々ならぬ様子のロビンに。
すっかり気圧されてしまった大也が、『どうする?』という視線を送ると。
モンドもオミネも、束の間思案した後。
互いを見合って、頷き合った。
「――――よかろう」
「どっちにしろ、手伝いをしてもらう予定ではあったからね」
そう、承諾の旨を伝えられたロビンは。
目を潤ませながら、顔を上げて。
「ありがとうごぜぇやすッ!!このロビン・ラット!!骨身を砕いて務めさせて頂きやすッッ!!」
今度は、しっかり頭を打ち付けたのだった。
「「――――ストーカー!?」」
「ええ、そうなの・・・・」
キュアット探偵事務所では、あんなとみくるは素っ頓狂な声を上げた。
そんな二人の前で、すっかり参った様子で話をするのは。
1999年の今を時めく高校生女優『家入しるく』だ。
いつになく真剣な顔で、『相談がある』とやってきた彼女の話によると。
昼夜問わずの付きまといや、執拗な無言電話。
挙句、自宅にプレゼントと称して記入済み婚姻届けの送り付けられたのだそうだ。
「そ、それ、警察には相談したんですか!?」
「もちろん、パトロールも増やしてくれて、なんとか捕まえようとしてくれてるんだけど・・・・」
憔悴しきったしるくの様子から、結果は芳しくないことは手に取る様に分かった。
「・・・・本当は、二人を巻き込むべきじゃないって、分かっているの・・・・だけど・・・・だけど・・・・!」
俯き、見えなくなった顔から。
いくつも雫が落ちていく。
・・・・あのしるくを、これほど追い詰めるストーカーに。
あんなもみくるも、揃って怒りを覚えるのは。
無理からぬことだった。
「ッまっかせてください!!」
「絶対に見つけて!捕まえてみせます!」
居ても立っても居られなくなって、揃って立ち上がった二人が。
それぞれしるくの手を握って、力強く宣言。
突如握られた手にも、大きな声にも。
顔を上げて驚いたしるくは。
視線をしばし、あんなとみくるの間を往復させて。
「・・・・ありがとう」
やがて、申し訳なさそうな、ほっとしたような顔を見せたのだった。
「――――やる気なのは結構だが、無茶だけはするなよ」
やる気に満ち満ちた後輩達へ、差し水をしたのは。
やはり先輩であるジェットだ。
「ストーカーってのは、大抵言葉も常識も通じない・・・・怪我をしたら、流石の家入しるくだって悲しむからな」
すっかり信頼している先輩の言葉に。
あんなとみくるはすぐに落ち着きを取り戻して、力強く頷いたのだった。
「ふん、ふん、ふふ~ん♪」
鼻歌交じりに、コーヒーを入れる。
「ふふん、ふん、ふふーん♪」
一つ、一つ。
道具を点検していく。
「んふふっ・・・・」
これからのことに思いを馳せれば、笑みがこぼれた。
「ボクの新生コレクション・・・・記念すべき第一号・・・・」
――――壁一面の、家入しるくの写真を。
うっとり見つめて。
「待っていてね」
胸と声を、弾ませたのだった。
おまけ
ロビン・ラット
べらんめぇ口調でしゃべる、グレーのまだら模様が特徴的な妖精。
一時期中世ヨーロッパを騒がせた大義賊でもある。
大体は本編で語られた通り。
モンドに諭され、自主する形で逮捕される。
盗賊になるまでの経緯や、実際救われた人々もいること。
加えて、監獄での模範的な態度も相まって。
近々仮釈放&奉仕活動として、モンドの部下になることが決まっていた。
ちなみにしるくには『ちょっと変わったモルモット』だと思われており、『豆大福ちゃん』なんて名前を付けられている。
モチーフは、『ロビンフッド』と『鼠小僧』。