妖精犯科帳   作:数多 命

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「――――もう、遠い遠い昔の話でさぁ」

 

『家入しるくを助ける理由』について、大也が質問すると。

ロビンは気を悪くする様子もなく、とつとつ話してくれた。

 

「当時のあっしは、そりゃあもうドブネズミの様な生活をしておりましてね・・・・この小さな体や、人間の姿にうまーく化けたりして、いろんなところから、金や食べ物を失敬していたんです」

 

そんな中、とある貴族のお屋敷に忍び込んだ時。

うっかりネコイラズを食べてしまい、その場で動けなくなったという。

 

「そこを助けて下さったのが、お屋敷のお嬢様でした」

 

病弱で、中々床から出られない生活を送っていたという彼女は。

同じく体調不良で苦しむロビンを見て、寛大にも救ってくれたのだという。

妖精の彼を受け入れてくれた令嬢とその両親に、生涯をかけた忠義を誓ったロビンは。

令嬢付きの使用人の一人として、真っ当に働き始めたのだとか。

 

「お嬢様は滅多に外に出られない方でしたから、おつかいの先で見つけた、野花や小物、ちょいとしたお菓子なんかを、たいそう喜んでくださいましてね・・・・いつしか、それがあっしのお役目になっておりました」

 

そんな折、令嬢が誕生日を迎えることになった。

『プレゼントは何がいいか』と、両親に聞かれた時。

彼女は、珍しく『海が見たい』と我儘を言った。

しかし、邸宅から海までは数日かかる長旅になる。

とてもではないが、令嬢には耐えられない。

それはそうと、普段滅多におねだりをしない娘の要望だ。

『なんとかならないか』と、他の使用人と共に相談を受けた時。

ロビンは、『青い布を使って、ジオラマを作ってしまうこと』を提案したのだそうだ。

部屋いっぱいの布の調達なぞ、屋敷の財力にかかれば朝飯前だったうえ。

何より溺れる心配もない。

提案はそのまま採用された。

 

「その時、せめて、少しでも本物に近づけようってんで、布に海の臭いを付けることになりやしてね。そのお役目を引き受けたあっしは、一人で海まで向かいやした」

 

主人達から預かった、大切な青い布を抱えて。

数日かけて海岸へ辿り着いたロビンは。

同じく数日かけて、布に潮風をたっぷり含ませた。

 

「お嬢様の喜ぶ顔が愉しみで楽しみで・・・・あれが一番、幸せな時間でございやした・・・・」

 

――――そうして、希望に胸を膨らませた彼の前に現れたのが。

跡形もなく焼け落ちた、屋敷の残骸だった。

 

「・・・・黒幕は、ご当主様の政敵でございました」

 

――――『平民をいじめてこそ、貴族の威厳を示せる』。

そんな風潮が主流だった時代において、ロビンの主人一家はその逆の道を歩んでいた。

領民を慈しみ、可愛がり、困りごとにも寄り添って。

いつしか、『この世の天国だ』と噂されるようになった領地には。

平民が、他の領地から逃げて来ることが増えて来た。

税金を納める領民が減れば、当然収入は減る。

それを恨んだ他の貴族たちが結託して、主人一家を陥れたのだ。

領主は冤罪で投獄の上、日を置かずに処刑。

夫人と令嬢は人買いに売られ、使用人は一人残らず殺された。

――――せめて、夫人と令嬢だけでもと。

方々を探しまわったロビンが、やっと令嬢を見つけ出した時。

彼女の体は、病と男に侵し/犯し(おかし)つくされてしまった後だった。

 

「あっしがずっと持っていた、青い布をかがれましてねぇ・・・・『海の匂いだ』『約束を守ってくれたのね』って・・・・とっくに失くなっちまった鼻では、ロクに分かりませんでしたでしょうにッ・・・・!!」

 

そして、最期の力を振り絞って、感謝を伝えた令嬢は。

ロビンの腕の中で、眠る様に亡くなったのだという。

 

「すっかり遅くなったあっしどころか・・・・陥れた連中にすら、恨み言の一つも零さずッ・・・・『誠に気高い方』というのは、お嬢様に置いて他にないと、今でも思っておりやす・・・・!!」

 

――――あまりの理不尽、あまりの無情。

ロビンの中に、激しい怒りと憎悪が燃え上がって渦巻くのは。

無理からぬことだった。

こうして、後に中世欧州を騒がせた『大盗賊』が生まれたのだ。

今なお忠誠を誓った主人達に免じて、命だけは見逃してやる。

だが、それ以外のものは根こそぎ奪い取ってやる。

巻き上げたお前達の金銀財宝は、平民達に気前よくバラマキだ。

『いじめてナンボ』のお前達にとって、これ以上ない屈辱だろう。

存分に味合わうがいい。

――――お前達が!!主たちへ!!そうしたように!!

 

「――――その後は、坊ちゃんもご存じの通りでぇ。あっしを追いかけて来た、モンドの旦那に諭されやして、縛に着いたわけでさぁ」

 

話し終えたロビンは、息を吐き出して。

本題に入った。

 

「――――しるく様は、お嬢様によう似ておられる」

 

――――『生まれ変わりか』と腰を抜かすような容姿はさることながら。

見ず知らずのネズミに、手を差し伸べるところも。

傍に置いて、可愛がってくれるところも。

本当に、本当にそっくりで・・・・。

 

「あっしの勘違いでも、他人の空似でも構わんのです・・・・ただ、ここであの人を見捨てようもんなら・・・・あっしは今度こそ、お嬢様に顔向け出来ねぇッ・・・・!!」

 

改めてロビンは、大也に頭を下げる。

 

「恥の上塗りを承知で、重ねてお願い申し上げるッ・・・・ゾーゲインを捕らえ、家入しるく様をお守りする手助けを、どうか・・・・どうか・・・・!」

 

――――彼の身分は罪人で。

姿形も、パンダ模様のずんぐりしたモルモット。

しかして、成すべきことを成さんと、ためらいなく頭を下げるその姿は。

 

「・・・・ああ、こちらこそよろしく頼む」

 

まさしく、『覚悟を決めた漢』と言う他なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――という訳で、今日一日この子達が一緒にいます」

「「「よろしくお願いします!」」」

 

――――とある雑誌の撮影現場。

カメラマン達に事情を話したしるくと一緒に、あんなとみくる。

そして付き添いのジェットは、深々と頭を下げた。

 

安藤さん(しるくのマネージャー)から話しは聞いてるよ」

 

代表して、現場の責任者があんな達と握手。

 

「しるくさんは僕達にとっても大切な仕事仲間だ。こちらこそ、今日はよろしくお願いします」

「「はい!」」

「しるくさんは、わたし達で守ります!」

 

あんな達の力強い宣言に、責任者はもちろんのこと。

やり取りを見ていた現場の全員が、頼もしそうに微笑んでいた。

 

「――――よぉーっし!早速怪しそうなところを調査するよ!」

「おー!」

「おー!ポチ!」

 

始まった撮影を邪魔しない程度に、気合を入れた探偵達は。

スタジオ内部ジェットに任せ、『プリキット・ミラールーぺ』を手に周囲を調べ始めた。

 

「この辺は、隠しカメラや盗聴器はないみたいだね」

「守衛さんに聞いたんだけど、怪しい人も、今のところは通ってないって!」

 

一つ、一つ。

注意事項を念入りにチェックしていくあんなとみくる。

今のところ異常は見当たらなさそうだが、いつどこから件の犯人がやってくるか分からない。

なんなら、すでに魔手が及んでいる可能性も視野に入れている。

 

「大変だけど、怪しいものは全部疑うくらいで行きましょう」

「うん!何かあってからじゃ遅いもんね!」

 

もう一度、与えられた権限で入れる範囲を。

徹底的に調べようとした、その時だった。

 

「こんにちはー」

「あ、こんにちは」

「こんにちは!」

 

清掃業者とすれ違う。

始めこそ、何にも疑問に思わなかったが。

 

「――――いや、待ったぁっ!!」

「「ワッ!?」」

 

すれ違う直前、みくるは声を張り上げた。

 

「そのワゴン!!人が入りそうですよね!?」

「えっ・・・・ああっ!言われて見れば!」

 

みくるに続いて、あんなもまた気が付く。

彼らが押している、用具入れのワゴンは。

確かに人一人が隠れられそうな大きさだ。

現状、怪しいことこの上ない。

 

「見せて下さいッ!!」

「失礼しますッ!!」

「わわわ・・・・!」

「お、おい!」

 

間違っていたら、全力で謝るのは大前提。

それはそうと、しるくの命もかかっている今、躊躇っている場合ではない。

覆いに手をかけ、思い切り引きはがせば。

 

「・・・・掃除道具、だけだね」

「・・・・うん」

 

デッキブラシに箒、各種洗剤とスポンジにバケツ。

よくある掃除道具達だ。

人っ子一人見当たらない。

 

「「――――す」」

 

怪しいものはないと確認できた二人は、一緒に背筋を伸ばして。

 

「「すみませんでしたぁッ!!」」

 

予定通りの、全力の謝罪をしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー、びっくりした」

 

肩を落として立ち去っていくあんなとみくるを見送って。

清掃業者の片割れ―――変装したオミネが、ため息を吐く。

 

「しるく殿が雇った探偵、か・・・・」

「しかもキュアット探偵事務所って・・・・」

 

掃除道具の物陰から、モンドとロビンもひょっこり。

一緒にあんな達が去っていった方向を見る。

『キュアット探偵事務所』。

先日襲撃して来た『プリキュア』の、(恐らく)古巣の名前だ。

徹底的に叩きのめされたのを思い出し、もう一方の業者に変装していた大也が渋い顔をする。

 

「・・・・あの子達には悪いけど、少し警戒させてもらいましょうか」

「うむ・・・・あの娘と繋がっておらんとも限らん・・・・」

「どんだけだったんすですかい、その襲ってきたプリキュアってのは・・・・」

 

三人の様子に、話だけは聞いていたロビンは戦慄した。

 

「とにかく、このまま業者のふりで見回りながら、ゾーゲインを探しましょう」

「オッス」

 

何はともあれ。

まずはゾーゲインだ。

顔を見合わせて頷き合い、あんな達と別方向へ歩き出した。

 

「――――ところでオミネさん、人間にも変身出来るんすね」

「まーね!仕事柄、たまにこういうこともやるのよ」

「同心って大変かな(だな)ぁ・・・・」




くれあさんヒロインなのに、くれあさんが出てこない由々しき事態()
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