「さっきは失敗しちゃったけど・・・・」
「切り替えよう!」
視点は帰って、あんなとみくる。
一通りスタジオを調べた二人は、撮影現場に戻ってきていた。
「ジェット先輩!」
「おう、おかえり」
迷惑にならない程度の声を上げながら、ジェットと合流。
経過報告をして、情報を共有する。
「ふむふむ・・・・今のところは何もなさそうだが・・・・・」
「でも、何もないって決まったわけじゃないし」
「ええ、油断は禁物ね!」
二人が頷き合うと同時に、『休憩でーす!』の声が上がった。
「――――二人とも、お疲れ様!」
「しるくさん!」
「お疲れ様です!」
しるくとも合流し、一同控室に入っていく。
「――――?」
――――その時。
みくるの鼻が、すれ違いざまに何かを嗅ぎ取ったが。
記憶に残る前に離れてしまったので、分からず仕舞いだった。
「みくるー?」
「ああ、今行く!」
とにかく今は、しるくの周りを固めておきたい。
気になったこととして、頭の中にしっかり残しておいて。
みくるはあんな達と合流する。
「――――そっか・・・・怪しいものも人もないのね」
――――しるくに用意された控室。
一通りの調査結果を聞いて、安堵の息を吐くしるく。
『今のところは』という但し書きが付くとしても、十分に安心できるのだろう。
肩を下ろして、椅子に深く座った姿は。
撮影の疲労だけではないことが、手に取る様に分かった。
「もちろん、しばらく警戒は続けるべきですけど・・・・」
「ええ、でも、信頼してる二人のお墨付きがあるだけでも、ほっとするわ」
『ありがとう』と微笑んでくれるしるくに、なんだか照れくさい気持ちになって。
あんなもみくるも、えへへと笑い声を上げた。
「――――しるくさーん」
「安藤さんだ、はーい!」
扉の向こうからの呼び声に、しるくが部屋を出ていくのを見送って。
「ストーカーが来るとしたら、どこかな」
「絶対にしるくさんを守らないと!」
「あまり気負い過ぎるなよ」
ジェットを含めた三人は、改めて手帳を覗き込み。
ストーカーを捕まえるための糸口を、なんとか探ろうとしていた。
と、
「・・・・ん?」
かたん、と。
物音が響いた。
請け負ている案件が案件だからだろうか。
三人の気配が一気に張りつめて、控室全体に緊張感が満ちる。
「「「・・・・ッ」」」
三者三様に、息を呑む。
音のした一画、ステンレス製の荷物置きをじぃっと見る。
「・・・・ッ」
ふと、あんなが件の一画を指さした。
ジェットとみくると、しっかり視線を合わせる。
『自分が行く』と、暗に伝える彼女に。
二人は親指を立てて、ゴーサインを出した。
「・・・・ううッ」
「ポチィ・・・・!」
一歩、一歩。
しっかり踏みしめて。
荷物置きに近づいていくあんな。
彼女の傍にいるポチタンも、拳を握りしめて緊張している。
そうこうしているうちに、あんなは荷物置きに到着した。
「ッえい!!」
深呼吸、一つ。
一番怪しいバッグを、勢い良く持ち上げれば。
「あっ」
「げっ」
パンダの様な斑模様の、ずんぐりとしたモルモットと目が遭って。
(見たことある)
どこで、最近だった。
確か、そう。
ジェットが見せてくれた。
「あーっ!!手配書の!!」
「そうだ!!大盗賊ロビン・ラット!!」
「あばば、やべぇ・・・・!」
あんなに続いて、みくるも大声を上げると。
モルモット改め、ロビンは狼狽え始める。
「・・・・まさか」
そんな彼の様子を見て、一つ思い当たったあんなは。
瞬時にロビンに手を伸ばした。
「あなたがしるくさんのストーカーなの!?」
「ポチーッ!?」
はっしと掴み上げ、ポチタンと一緒に問いただすあんな。
『脱獄囚の中では一番マシ』という、ジェットの言葉が嘘だとは思わないが。
それはそれとして、投獄されるような犯罪者であることに変わりはない。
よもや、しるくによからぬ感情を向けているのではないかと疑うのは。
ごく自然なことであった。
「す、ストーカー!?いや!違ぇ!!っていうか、むしろ・・・・!」
狼狽えたままのロビンは、何事か返そうとしたが。
「――――どうかしたの?」
しるくのマネージャーが、ひょっこり顔を出したことで。
口をつぐまざるを得なくなる。
「マネージャーさん・・・・!」
「えっと、あの・・・・」
ストーカーの容疑者が、今ここにいる。
しかし、それはよりにもよって妖精である。
どうしたものかと、一同しどろもどろになっていると。
「あら」
マネージャーの目が、高く掲げられたロビンに向いて。
「豆大福ちゃん?どうしてこんなところに・・・・?」
「豆 大 福 ち ゃ ん !?!?!?」
まさかのパワーワード。
マネージャーとロビンの間を、何度も視線が往復する。
「ええ、しるくさんが少し前に拾って、お世話してるモルモットなんだけど・・・・」
『それよりも』と、マネージャーは怪訝な顔をして。
「しるくさんは?」
――――そんなことを聞いてきた。
「・・・・エッ!?」
「マネージャーさん、一緒じゃないんですか!?」
仰天のあまり、それどころではなくなる探偵達。
そう。
しるくは他でもないマネージャーに呼ばれて、部屋の外に出て行ったのだ。
その呼んだはずの張本人が、所在を聞く?
「やられた・・・・!」
「えっ?」
誰もが言葉を失う一瞬の間。
あんなだけが、ロビンの声を聞きとれた。
刹那。
「あっ!?」
「豆大福ちゃん!?」
あっと言う間にあんなの手から抜け出すと、部屋の外へ飛び出して行ってしまう。
「ッ待って!!」
姿をくらましたしるくに、明らかに何かを知っている様子のロビン。
追いかける以外の選択肢などなく。
戸惑うマネージャーを置き去りに、一同ロビンを追いかけた。
(――――あれ)
ふと、しるくの意識が浮上する。
体が揺れている。
間隔は一定、何かで運ばれていると感じた。
何でこうなっているんだと、直前の記憶を思い出そうとする。
(安藤さんに呼ばれて、部屋を出てもいなくって・・・・そうだ、首に何か刺さって・・・・)
首の後ろ、刺されたはずの箇所を触ろうとして、気付く。
(――――動かない!?)
腕どころか、全身が動かせない。
身じろぎ一つ出来ない状態だと理解した時、しるくは全身が凍り付く感覚に襲われた。
(なんで、どうして・・・・!?)
完全にパニックになりながらも、なんとか体を動かそうともがき続けていると。
(ッ、眩しい・・・・!)
天井だとばかり思っていた箇所が、ぱかりと開いて。
「――――アレェ、起きたのォ?」
――――巨大な顔が、覗き込んで来た。
「まだ寝てるはずなのに・・・・心が強いんだねェ」
声にならない悲鳴を叫ぶしるくを見下ろして、にんまり笑う『顔』。
恐慌状態に陥る一方で、どこか冷静な部分が。
今回の撮影の、照明を担当していた男であることを思い出していた。
「まあ、どうせ何も出来ないけどさ」
しるくの胸中を知ってか知らずか、一つまみの嘲笑を振りまいた男は。
そのまま『天井』を・・・・おそらくは、鞄の口を閉じ始めてしまう。
(いやだ・・・・いやだ・・・・!)
連動する様に、意識も遠のいていく中。
動かないと分かっていても、届かないと分かっていても。
手を伸ばそうとして、懇願して。
(だれか、たすけて・・・・!)
一切震えない喉に、絶望しかけた。
その時。
「――――待ちねィッ!!!」
鋭い声が、一条の光を射しこむ。
「えっ・・・・えっ!?なんでモルモットがしゃべって・・・・!?」
――――あんな達が追いついた時。
ロビンは、撮影スタッフの一人と対峙していた。
確か照明を担当していた『
彼は、妖精の姿にも関わらず口をきいたロビンに、驚いた様子を見せたが。
「下手な演技はみじめになるだけだぞ、大根役者」
対するロビンは、容姿に見合わぬ低い声で凄む。
「黙ってしるく様を返しやがれィ!!ゾーゲイン!!」
「ゾーゲイン・・・・だと!?」
次の言葉に反応したのは、ジェットだった。
「ジェット先輩?」
「知ってるの?」
「・・・・同じ学び舎の、先輩だ」
苦い顔で告げられた事実に、あんなとみくるは声なく驚愕した。
『ゾーゲイン』。
誘拐殺人犯として、脱獄囚の手配書に載っていたのは覚えていたが。
まさか、ジェットと関わりがあったとは。
「――――ナァンダ」
瞬間。
照間が。
「お前シニアンの弟子かァ?」
「世代違いだがな」
――――否。
ゾーゲインが、嘲笑交じりに口を開く。
「シニアンから、お前の話は聞いてるよ・・・・同じ轍を踏まないための、反面教師としてな!!」
「頭の固さは相変わらずだなァ、あのババア」
ジェットの啖呵に、ゾーゲインは悪態を吐き捨てる。
「そもそもさ、人間だって動物で剥製を作るじゃないか。皮を剥ぎ、肉を削ぎ、内臓を抜いてサァ」
めりめり。
『照間』の胸が開いていく。
「それが、人間を対象にした途端ダメって・・・・」
ホラーが苦手なみくるも、そこそこ平気なあんなも。
恐怖に口元を押さえて、後ずさる目の前。
「それこそ、不公平というものじゃないかい?」
骨と肉の操縦席と言うべき場所の中。
モズの姿をした妖精が、まさしく不服だとばかりの顔でふてくされていた。
「まあ、いいや・・・・目的のものは手に入ったし、ボクはもう帰らせてもらうよ」
「目的のものって・・・・」
「まさか!?」
いなくなったしるくと、目の前の誘拐殺人犯が繋がって。
さすがの名探偵達も、吐き気を覚えている場合ではなくなった。
「――――オウ、帰ぇんな」
その時だった。
「豚箱によ」
ロビンの手に、しるくそっくりの『人形』が丁重に抱かれていることに気付いたのは。
「なっ・・・・!?」
ここで初めて、ゾーゲインが動揺する。
「大盗賊は伊達じゃ
「・・・・コソ泥風情が!」
下げていた鞄に目をやった奴は、本当に『収穫物』が無いと分かるや否や。
忌々し気に舌を打つのと同じくして。
「汚い手で触るな!!」
「今更自己紹介だなんて、どうしたィ!?アアッ!?」
『操縦席』を開けたまま、ゾーゲインが飛び掛かれば。
ロビンはすかさず取り出した札を投げつける。
「ギャアアッ!?」
札が当たると同時に、激しくスパーク。
『照間』ごと、ゾーゲインを感電させた。
「この・・・・ドブネズミィッ!!」
大きく怯んだゾーゲインは、怒りのあまり顔が真っ赤になっている。
衝動に駆られるがまま、『照間』の頭をバッカルコーンの様に開かせると。
その中から、大量のウジとハエを出現させた。
「「ッキャアアアアアアア!?」」
「ほれ!!ボウズ!!お連れして逃げな!!お嬢さん方も!!」
「わっと・・・・!」
今度こそ、探偵達が悲鳴を上げる中。
続けざまに、ジェットの手に『人形』を握らせると。
小さな足で、肩を何度も叩いて急かす。
「奴が操る『蟲』に噛まれると、みぃんなそうなっちまう!!」
あんなとみくるも、なんとか走り出したのを確認したロビンは。
さらにもう二枚、札を取り出して。
「速く!!」
全力で結界を張り、時間稼ぎを始めた。
ヒロインどころか、主人公も出てこない(白目)
おまけ
ゾーゲイン
人間を人形にして捕らえ、コレクションする『誘拐殺人』の罪で投獄されていた妖精。
シニアンに師事していたことがあったが、本文の主張を改善しなかったため破門される。
人形にされてしまった人間は、直ちに専用の薬品を使用しないと完全な無機物になって死んでしまう為。
『誘拐殺人』の罪が適用されていた。
ネーミングは、『エド・ゲイン』。
モデルはモズ、能力は『はやにえ』を悪意マシマシに解釈したもの。