ようこそ幻の美形がいる教室へ
桜の舞い散る季節、高度育成高等学校の正門をくぐる一人の少年がいた。その姿は、周囲の並み居る新入生たちの中でも一際異彩を放っていた。澄んだ瞳にしなやかで均整の取れた肢体、そしてどこか浮世離れした端麗な容姿。彼の名は
前世での彼は、戦火の渦中で過酷な運命に翻弄され、絶対遵守の力「ギアス」を巡る戦いに身を投じていた。しかし、今の彼にあの禍々しい瞳の力はない。残されたのは、かつての戦いと経験で培われた超人的な頭脳、研ぎ澄まされた反射神経、そして卓越した身体能力だけだった。
ライは静かに息を吐き、自らの胸に手を当てた。前世の記憶は今も鮮明に覚えている。しかし、それに囚われて過去を悔やんだり、引きずったりするつもりは毛頭なかった。これは、神様がくれたのか、あるいはただの偶然かは分からないが、新しく与えられた僕の人生だ。前世のことは決して誰にも口外しない。そう心に誓い、彼は一歩を踏み出した。
掲示板に張り出されたクラス分けの発表を確認する。「皇 ライ――1年Aクラス」その文字を確認し、ライは小さく頷いた。この学校が完全な実力主義であり、卒業生の進路に対する圧倒的な実績を持つことは事前に調べていた。Aクラスに配属されたということは、学校側から現時点で最高峰の評価をされた証拠だろう。
教室に入ると、そこにはすでに独特の緊張感が漂っていた。厳格そうな少年や、自信に満ち溢れた少女たちがそれぞれの席についている。ライが自分の席に座ると、隣の席に座っていた、どこか鋭い眼光を持った端正な顔立ちの少年が視線を向けてきた。
「お前が皇ライか」
少年は静かな、しかし確かな知性を感じさせる声で話しかけてきた。ライはその視線を真っ向から受け止め、冷徹な表情を浮かべる。
「うん、そうだよ。よろしく」
「俺は坂柳有栖の指示で、このクラスの動向を少しばかり観察させてもらっている。葛城康平だ。よろしく」
葛城と名乗った少年は、ライの佇まいを値踏みするように見つめていた。前世で数々の曲者や修羅場をくぐり抜けてきたライにとって、高校生が放つ程度の威圧感など、心地よいそよ風のようなものだった。葛城はライのその、全く動じない自然体な様子に、内心で驚きを隠せずにいた。
(この男、只者じゃないな)
葛城がそう直感したのと同時に、教壇の扉が開いた。担任である真嶋智也が姿を現し、この学校の特殊なルール、そして「Sシステム」についての説明を始める。毎月10万プライベートポイントが支給されるという破格の待遇に、教室のあちこちから安堵や歓喜の声が漏れた。
しかし、ライの頭脳はその甘い言葉の裏にある「違和感」を瞬時に見抜いていた。世の中にこれほど都合の良い話があるわけがない。実力主義を謳う学校が、ただ在籍しているだけの生徒に無条件で大金を与え続けるはずがないのだ。おそらく、日頃の品行方性さや、授業態度、あるいはもっと別の基準で容赦なく減点されるシステムが組まれているのだろう。
隣の葛城の表情を見る。彼もまた、腕を組んで険しい表情を浮かべていた。どうやら彼もこのシステムの罠に気付いているらしい。ライは窓の外に目を向けた。遠くに見える他の教室のベランダには、どこか投げやりな態度をとる生徒たちの姿が見える。
ギアスという超常的な力が無くても、僕にはこの頭脳と体がある。どのような策略や試験が待ち受けていようと、新しい僕の人生を脅かすものにはさせない。ライは心の中で静かに決意を固めながら、これから始まる高度育成高等学校での激動の日々へ向けて、静かに思考を巡らせ始めた。