異世界ライ   作:isizu8

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情報交換

 

本日の使い魔召喚の授業がすべて終了した放課後、ユーリアは周囲の好奇の視線を一切無視し、ライの手を引いて足早に女子寮の自室へと連れ込んだ。部屋の扉を閉め、厳重に鍵をかけた瞬間、ユーリアはそれまでのクールなお嬢様としての態度を一変させ、ライに向かって深く頭を下げた。

 

「ライ様! 先ほどは公衆の面前で、あのような破廉恥な真似をしてしまい、本当に申し訳ございませんでした! あれは使い魔としての契約を交わすための不可避の儀式であり、決して私の私欲では……!」

 

必死に弁明するユーリアの姿に、ライは苦笑しながら手を振った。

 

「頭を上げてよ、ユーリア。怒ってなんていないさ。それよりも、ここは一体どこなんだい? 君の服装も、さっきの光も、僕の知っている世界のものとは思えないんだ」

 

ライの言葉に、ユーリアは小さく息を吐き、姿勢を正した。そして、自身が前世の記憶を持ったままこの『ハルケギニア』という異世界に転生したこと、ここは魔法が存在するトリステイン王国であること、そして彼が魔法によって彼女の「使い魔」として召喚されたことを、順序立てて説明していった。

すべてを説明し終え、ユーリアがようやく一息ついたとき、ライがふと不思議そうな表情を浮かべて彼女を見つめた。

 

「説明してくれてありがとう、よく分かったよ。……ところで、ユーリアはいつからそんなに丁寧な口調になったんだ?」

 

「え……?」

 

「前はもっと、『ライ。貴方、今日もこんな場所をうろついているの? いくら記憶喪失とはいえ、少しはコーネリア殿下の親衛隊の一員であるという自覚を持ちなさい』って、普通の友達みたいに接してくれた気がするんだけど」

 

ライがかつての彼女の口調を完璧に模倣して見せると、ユーリアの顔は一瞬にして耳の付け根まで真っ赤に染まった。あまりの羞恥に、いつもは冷静沈着な「万象」の魔術師の面影はどこへやら、彼女は両手をぶんぶんと振って抗議した。

 

「ら、ライ様!? 私の黒歴史を掘り起こすのはお止めください! ラウンズである貴方様に、今の私がそのような不遜な態度をとれるわけありません!」

 

ユーリアの放った言葉に、「ラウンズ……?」とライが怪訝そうに眉をひそめた。

 

「確かスザクが目指していた、あのナイトオブラウンズのことかい? おかしいな、僕はラウンズになった覚えはないはずだが……」

 

「……え?」

 

ライの呟きを聞いた瞬間、ユーリアの脳裏に冷たい違和感が走った。記憶喪失だったライが、枢木スザクの名を知っている。それはいい。だが、ラウンズになった覚えがないとはどういうことか。彼は間違いなく、第八席「ナイトオブエイト」として、ユーリア自身の上官として君臨していたはずだった。二人の視線が交錯し、部屋の中に奇妙な沈黙が流れる。お互いが抱く記憶のピースが、決定的に噛み合っていない。

 

「ライ様……元の世界で、貴方はどのような道を歩まれたのですか?」

 

ユーリアの真剣な眼差しに、ライもまた事の重大さを察し、二人は自分たちがたどってきた歴史の情報交換を始めることにした。先に口を開いたのはライだった。

 

「行政特区日本が成立した後、僕は個人的な理由でみんなの前から姿を消さざるを得なくなってね。そのまま行方をくらまして、ある静かな場所で静養していたんだ。だけど目が覚めたら、いつの間にか君の魔法陣の中にいた。だから僕は、ミレイさん……アッシュフォード家の養子にもなっていないし、ラウンズへの就任なんて大それたこともしていない。特区が成立した後も、僕は静養するその瞬間までコーネリア殿下の親衛隊の一員として働いていただけだったんだよ」

 

ライは自身のギアスの暴走や、それによってすべての過去を思い出し、Cの世界の遺跡で孤独な眠りについたという真実。そういったものについてはユーリアを巻き込まないために胸の奥にしまい込み、優しい嘘を交えて説明した。その一方でユーリアは、ライが出すその情報に(行政特区が成立……?)と怪訝な表情を浮かべる。

 

今度はユーリアが情報を開示する番だが、彼女は言葉を選ばねばならなかった。今ここに居るユーリアが辿った世界線では、行政特区日本は成立せず、凄惨な虐殺が起きていた。そして何より――彼女の前世において、ライはすでに戦場で命を落としていたのだ。ユーリア自身も、彼の仇を討とうと戦火に身を投じ、そこで死を迎えてこの世界に転生した。

 

(まさか、ご本人を前にして『貴方は一度死にました』などと馬鹿正直に話せるわけがないわ……)

 

ユーリアはライの戦死という最悪の事実だけは伏せることを瞬時に決意した。

 

「私が辿った世界では、行政特区日本は成立しませんでした。我々ブリタニア側の失策ではありますが……あそこは凄惨な虐殺の舞台となり、結果としてエリア11は大規模な『ブラックリベリオン』と呼ばれる暴動に包まれたのです。その暴動の中、ライ様はアッシュフォード学園の生徒たちを守り抜くことを最優先としつつ、他の部隊と共同で暴動を鎮圧されました」

 

「えっ……?」と困惑したライの声が漏れる。そんな彼の表情を内心で心配しながらもユーリアは続きを話す。

 

ブラックリベリオン後、自身の愛娘である『ミレイ・アッシュフォード』や他の生徒達を守り切ったことに感銘を受けたアッシュフォード家の当主が、当時家名の無かったライを養子として迎え入れたこと……。その後ライが行方不明となったコーネリアの代わりに指揮を執っていたギルフォードの元で多大な功績を挙げたこと……そしてそれらの功績がブリタニア皇帝の目に留まり、ライがナイトオブラウンズへと上り詰めたことを説明した。

 

「私はライ様の副官であり、ナイトオブエイトの親衛隊『グラウサム・ヴァルキリエ隊』の隊長を務めておりました。……ですが、私はその後、戦場で命を落とし、気づけばこの世界に生まれ変わっていました」

 

そして自身の死については、現にこうしてハルケギニアの貴族として存在している以上、誤魔化しきれないため事実を伝えた。ユーリアの話を静かに聞いていたライは、信じられないというように息を呑んだ。彼の知る歴史とは、あまりにもかけ離れていたからだ。

 

「そんな……。僕のいた世界では、行政特区日本は無事に成立したんだ。ユーフェミア様にかけられた不穏な……その、暴走した命令を、僕が未然に防ぐことができたから」

 

ライは、自身が「ギアス」という異能の力を用い、ユーフェミアにかけられていたゼロの暴走したギアスを上書きして悲劇を阻止したという、能力に関する根幹の部分は伏せて話した。お互いに重大な真実を一部伏せながらも、やがて二人は決定的な結論に達していた。

 

「私たちは……同じ世界から来ながらも、全く異なる歴史をたどった『別の世界線』から、この場所に集められたということなのですね」

 

ユーリアの言葉に、ライは静かに頷いた。行政特区が成立しなかったユーリアの世界と、成立したライの世界。二人の間に横たわる、交わるはずのなかった歴史のズレ。情報交換の前編を終えた二人は、互いの存在が奇跡であると同時に、これからの異世界生活において、誰よりも信頼できるパートナーであることを、改めて強く確信するのだった。

 




ユーリアは言うまでもなくオリジナルキャラです。ロスカラ原作の親衛隊ルートにライがコーネリアに命じられ一回だけ部下二人を率いて戦っていたシーンがあり、その内の一人をユーリアというオリキャラに置き換え、その後色々あって仲良くなったという設定です。
ちなみにユーリアの語る世界線でのルキアーノの親衛隊は劇場版三部作の「皇道」で出てきたエイブラハム隊になっております
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