異世界ライ   作:isizu8

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対照的な主従関係(前編)

 

翌朝、トリステイン魔法学院の食堂は、早くも前日の使い魔召喚の話題で持ちきりだった。ユーリアはいつものように金色に輝く美しい髪を整え、クールな佇まいで席についていた。その斜め後ろには、昨日交わした約束通り、少し距離を置いて控えるライの姿がある。他人の目がある場所での二人は、気品ある貴族の令嬢と、それに付き従う物静かな使い魔そのものだった。

 

「ねえ、ユーリア。あなたの使い魔、本当に見事な容姿をしているわね。平民のようだけど、どこか立ち振る舞いに気品があるわ」

 

声をかけてきたのは、昨日の儀式で大爆発を起こしたルイズだった。彼女の後ろには、ひどく浮かない顔をした黒髪の少年が立っている。昨日ルイズが召喚した、この世界の衣服とは明らかに異なる、どこか見覚えのあるカジュアルな服を着た少年――平賀才人だった。

 

「ありがとう、ルイズ。貴女の使い魔も……その、とても個性的で素晴らしいと思うわ」

 

ユーリアは親友であるルイズへ微笑みを返しつつも、内心では「ゼロのルイズ」という周囲の囁きに不快感を募らせていた。しかし、それ以上に彼女の意識を引きつけたのは、才人の存在だった。朝食ののち、ユーリアはルイズを伴って学院の庭園へと移動した。主人同士が会話を交わす傍ら、少し離れた場所で待機することになったライと才人は、自然と二人きりで言葉を交わすことになる。

 

「……あの、さ」

 

最初に口を開いたのは才人だった。彼は見るからに周囲の環境に怯え、警戒していた。

 

「お前もあの金髪のお嬢様に召喚されたんだよな? 俺は平賀才人。東京から来たんだ。……お前は、どこから来たんだ?」

 

ライは才人の言葉を聞き、その「東京」という響きに微かに目を見開いた。ライのいた世界における日本は、神聖ブリタニア帝国に侵略され、名前を奪われて「エリア11」と呼ばれていた。東京は「トウキョウ租界」であり、ブリタニアの支配の象徴だった。ライ自身、ブリタニア人の血を半分引いているとはいえ、自身の出自や、前の世界で辿った凄惨な戦争の記憶がある。

 

(この少年は、日本から来たと言った……。だけど、僕の知っている日本人……イレヴンと呼ばれた者の目じゃない)

 

ライは静かに才人を見つめた。才人の瞳には、抑圧された怒りや、祖国を奪われた者特有の哀切な光が一切なかった。あるのは、ただ純粋に「見知らぬ場所に突然放り出された少年」としての戸惑いと恐怖だけだった。

 

「僕はライ。……僕も、君と同じような世界から来たんだと思う。ただ、僕のいたところでは、日本はブリタニアという大きな国に支配されていた。君のいた日本は、どうだった?」

 

「え? 支配? 何それ、いつの時代の話だよ……。俺のいた日本は普通に平和だったよ。学校があって、少なくとも日本では戦争とか無かったし、ただの普通の国だよ」

 

才人の口から語られる「平和な日本」の情景。それは、ライの世界とも、そしてユーリアが前世で経験した「虐殺と暴動のエリア11」とも全く異なる、文字通りの理想郷のようだった。少し離れた場所で、万象の魔力を用いて二人の会話を盗み聞きしていたユーリアは、その内容に息を呑んだ。

 

(平和な、日本……。エリア11でもない、あの悲惨な戦火もない世界……)

 

それと同時に、ユーリアの胸に小さな不安がよぎる。才人のいた日本がそれほど平和で、歴史の教科書に載るような「過去のブリタニア」という存在を知っているのだとしたら。自分たちが神聖ブリタニア帝国の軍人であり、エリア11(日本)を統治し、戦っていた側の人間だと知れば、才人は自分たちを「侵略者」として激しく警戒し、敵視してしまうのではないか。その不安は、主君であるライを異世界で守ろうとするユーリアにとって、看過できない懸念だった。しかし、その不安はすぐに杞憂へと変わることになる。

 

「そっか……。君のいた世界は、とても平和で素敵な場所だったんだね」

 

ライは悲嘆に暮れることもなく、ただ心から安堵したように、優しく微笑んで才人の肩に手を置いた。

 

「え、あ、うん。まあ、退屈だと思ってたけど、今思えば最高だったよ。……なあ、ライ。お前、ブリタニア人って言ったっけ。俺、歴史とかよく分かんないし、カタカナの国なんて知らないけど……。でも、お前が良い奴だってことは分かるよ。昨日、あのお嬢様にすっごく大事にされてただろ? 俺なんて、あいつに犬扱いされて飯もロクにもらえないんだぜ!」

 

才人はライの手の温もりに毒気を抜かれたように、一気に親近感を抱いた顔で愚痴をこぼし始めた。才人にとって、歴史の歪みや世界の差異などはどうでもよかった。この狂った魔法の世界で、同じ「現代的な衣服や常識」の匂いを持った同郷の人間が、自分を人間として対等に扱ってくれた。それだけで、彼にとってライは絶望の淵で見つけた唯一の救いだったのだ。

 

「あはは、ヴァリエール卿も悪気があるわけじゃないと思うよ。でも、困ったことがあったらいつでも僕に相談してほしい。僕にできることなら力になるから」

 

「マジか!? ありがてえ……! ライ、お前最高だよ!」

 

才人はすっかり警戒を解き、ライの腕を掴んで感激していた。その様子を遠目から見ていたユーリアは、深く、静かに安堵の息を漏らした。さすがは我が上官、ライ様だ。その天性の包容力と誠実さは、異なる世界の日本人の心をも、一瞬で溶かしてしまった。

 

(ふふ、心配して損をしてしまったわね)

 

ユーリアは内心でそう呟き、いつものクールな笑みをその唇に浮かべ直した。二人の世界線のズレに続き、三人目の「異なる世界の住人」との邂逅。ハルケギニアでの日々は、想像以上に複雑で、そして温かいものになりそうだった。

 

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