一撃クマの討伐報酬を受け取り、僕たちはいつものギルドに併設された賑やかな居酒屋にいた。テーブルの上には、山盛りのフライドポテトと、冷えたシュワシュワの麦茶。いつもなら平和な反省会になるはずだった。……そう、僕の腰に吊るされた「彼女」さえいなければ。
「ねえねえライたん! さっきのポテト、あたしにもあーんしてよ! っていうか、ライたんの指マジ綺麗で尊死するレベルなんだけど!」
「フレイヤ、君は斧なんだからポテトは食べられないだろう。それに、公共の場でそんな大きな声で喋るのは恥ずかしいよ……」
僕が困り果ててフレイヤの柄をなでると、フレイヤは「きゃっ、そこ性感帯だし! ウケる!」と刃をピカピカ光らせた。
「な、ななな……っ!?」
その様子を見て、正面に座っていたゆんゆんがガタッと勢いよく立ち上がった。顔がトマトのように真っ赤になっている。
「ラ、ライさんにそんなに馴れ馴れしくしないでください! フレイヤさんはただの武器ですよね!? ライさんはその、私の大事な……友達、なんですから! あーんは私が、その、いつかする予定なんです……っ!」
「えー? ゆんゆんマジ堅物すぎてウケる。友達とか言ってたら、あたしにライたんのファーストキス奪われちゃうよ? あたし、鉄だけど唇(刃先)の感触には自信あるしー☆」
「ふ、ファーストキス!? ひええええ! ラ、ライさん、ダメです! 斧とキスなんて、そんなの倫理的に破綻してますっ!」
ゆんゆんが頭から湯気を出しながら両手を振り回す。
「ちょっと待った」
そこに、冷ややかな、しかし確実に怒りのこもった声が割り込んできた。僕の隣の席にドカッと座ったクリスだ。彼女はジョッキを机に叩きつけるように置くと、ジト目でフレイヤを睨みつけた。
「ちょっとそこのギャル斧! さっきからライとの距離近くない!? ただの武器のくせに、ライたんライたんって……。だいたい、ライもライだよ! なんでそんなエロいギャルみたいな斧、腰の特等席にぶら下げてニヤニヤしてんのさ!」
「ニヤニヤなんてしてないよ、クリス。僕はどうすればいいか分からなくて困惑しているだけで……」
「言い訳無用! あー、もう見ててイライラする! その斧、ちょっと私が預かる! 私がきっちり、武器としての分相応な態度ってやつを教育してあげるから!」
クリスがフレイヤの柄に手を伸ばそうとした、その時だった。
「あー、クリスちゃん、もしかして嫉妬? ウケるー! そんなツンツンしてるとライたんに嫌われちゃうよ? 女の子はもっと、こう、ギャルマインドでいかなきゃ☆」
「だ、誰が嫉妬よ! 私はただ、危なっかしいライの保護者として? 変な呪いのアイテムに引っかかってないか心配してるだけで……っ!」
「保護者とかマジウケる。ほんとはライたんとイチャイチャしたいクセにー! あたしにはお見通しだから!」
「な、ななな……っ! な、何言ってんのよこのギャル斧ー!!」
クリスまで顔を真っ赤にして、フレイヤと本気で言い合いを始めてしまった。普段は冷静で、どこか達観した雰囲気のあるクリスが、ここまで感情を露わにするなんて珍しい。その姿は、僕を心配してくれる一人の女の子そのもので、不謹慎にも少し可愛いと思ってしまった。
「あの、クリスさん! ライさんの隣は私の席です! フレイヤさんも、ライさんから離れてください!」
「えー、ゆんゆんもクリスも、ライたんのことが好きなら好きってハッキリ言えばいいじゃん! あたしはライたんの第一夫人(仮)として、二人の挑戦ならいつでも受けて立つし!」
「「だ、誰が第一夫人よ(ですか)ーーー!!」」
ゆんゆんとクリスの叫び声が居酒屋に響き渡り、周りの冒険者たちが「なんだなんだ?」「あの記憶喪失の優男、修羅場か?」とヒソヒソとこちらを見始める。
「はは……」
僕は乾いた笑いを浮かべながら、シュワシュワを喉に流し込んだ。記憶を失い、この世界に流れ着いた時はどうなることかと思ったけれど……この賑やかで、少し頭の痛い日常が、僕にとっては最高に愛おしい。
「ほら、三人とも。冷めないうちにポテトを食べよう。フレイヤは……あとで磨いてあげるから、今は静かにね」
「きゃー! ライたんに磨かれるとかマジご褒美! 一生ついてくー!」
「「ライ(さん)!!」」
二人の少女からの鋭い視線に射抜かれながら、僕は明日からのクエストの平穏を、心の中でそっと神様に祈るのだった。