「突然だが、テスト範囲が変更になった。今から黒板に書いておくから、各自メモをするように」
いきなりのテスト範囲の変更とはこの学校らしいですね。まぁ、テスト範囲も今までやったところからですから優しい方なのかもしれませんけど。そのようなことが朝のホームルームであり、放課後となった現在。葛城君からクラスメイトに向けてあることを提案しました。
「突然のテスト範囲の変更に戸惑っている者もいると思う。そこで俺から勉強会の開催を提案したい。勉強会と言っても、分からない場所を教え合うといった感じだな。勿論、強制ではないが、テストに自信のない者にはぜひ参加してもらいたい。当然、誰でも歓迎しよう」
葛城君がそう言うと、テストに不安のある人達が葛城君の元へ向かって行きました。赤点を取れば、即退学ですから不安のある人達はそれを取り除きたいのでしょう。もっとも、このクラスは優秀な人が多いようで、自分で勉強をするからと席を立つ人も多かったですけど。
「明星はどうするの? 勉強会、参加する?」
「そうですね。今日は参加できそうにありませんが、明日からは参加する予定ですよ。葛城君のフォローもしなければなりませんし。神室さんはどうですか?」
「私も参加するよ。一人だけじゃ大変だろうし。あいつを自主トレに連れ出さなきゃいけないしね。でも、今日は参加できないって何かあったの?」
「真嶋先生が言っていた赤点を確実に回避する方法というのが気になりまして。その方法を探っていたのですが、過去問がもしかしたらそのヒントになるのかもしれません。なので、確実に過去問がありそうな場所に向かうつもりです」
「過去問がありそうな場所?」
その場所は大きな権限を持っており、大きな権限を持っているが故に重要な物が置いてありそうな場所。
「生徒会ですよ。あそこなら過去問も保管していそうですし、もしも保管していないのであれば別の物を探すまでです」
「生徒会? 掛け持ちは禁止だからって葛城が入るのを諦めたっていうあの?」
「その話は初めて聞きましたが、その生徒会です」
それにしても葛城君は生徒会に入りたかったのですね。特異現象捜査部に入れてしまったことをいつか詫びる必要がありそうです。中間テストが無事に終わったら、祝勝会でもしましょうか。
「それでは、私は生徒会に行ってきます。勉強会、頑張ってください」
「はいはい。何か収穫があったら教えてね」
神室さんはそう言うと葛城君の方へ向かいました。最近、葛城君とよく一緒にいるのでもしや付き合っているのではという噂が流れているのはご存じなのでしょうか? まぁ、知ってたとしても気にしなさそうですけどね。さて、私も生徒会に向かいましょうか。
◇
いざ、生徒会室の前まで来てしまいましたが、最近は一人で行動することも減っていたので少し珍しい気分です。ここでじっとしているわけにもいきませんし、さっさと入りますか。
「失礼します。1-Aの明星ヒマリです」
「貴女があの……話は伺っています。生徒会書記の橘茜と申します。本日はどのようなご用件でしょうか?」
急にかしこまり始めましたね。元々、そのような性格なのかもしれませんが、橘先輩の顔はかなり真剣なものです。もしかして、デカグラマトンの話を聞いて、その件で来たのだと思っているのでしょうか。だとしたら、早急に訂正しなければなりませんね。
「緊急のご用件ではないんです。ただ、学業のことで確認したいことがあったので、こちらに伺いました」
「学業のことでしたか。びっくりしました」
「そのご様子ですと私が高育に来た理由はご存じのようですね」
「えぇ、もちろん知っています。デカグラマトンの件ですよね」
生徒会には先生方は話を通していたようですね。まぁ、学校の規律を変えられるだけの組織に話を通しておかなければ、危険な提案をしてしまうと判断してのものかもしれませんが。
「中に入ってください。お茶でも出しますので」
「お構いなく、要件が済んだらすぐに帰る予定ですので」
「いいえ、中に入ってもらいます。わざわざ高育に来られたお客様を中に入れなかったとなれば、後で会長に怒られてしまいますので」
「そうですか。それでは、お言葉に甘えさせていただきます」
私を生徒会室の中に入れて、お客様用のテーブルで待つように指示されました。先程、言っていた言葉の通り、お茶でも入れてくるのでしょうか。
「お待たせしました。粗茶ですが、どうぞ」
「ありがとうございます」
「それで学業に関するお話とのことでしたが、どのようなお話でしょうか?」
「率直にお伺いいたします。過去問をお譲りいただいてもよろしいでしょうか?」
私がそのように言うと、橘先輩は驚いたようで、両手を口に当てています。ここまで驚くということは過去問はあるとみて間違いなさそうですね。
「確かに過去問はございます。しかし何故、過去問が欲しいのですか? 貴女の実力であれば、そんなものは必要ないと思いますが」
私は神室さんに話したことと同じことを橘先輩にもお話しいたしました。具体的には赤点を確実に回避できる方法があるということ、少しでもフォローする必要がある人がいること。そのことで過去問に行き着いたので、譲ってほしいことなどです。
「お話は分かりました。過去問に関しましてはお譲りいたします。しかし、タダでというわけにもいきません。五教科ですから、そうですね……三万ポイントでならお譲りいたします」
「あら、お客様にお金を要求するのですね」
「貴女はお客様でもありますが、同時にこの学校の生徒です。この学校にはこの学校なりのやり方というものがあるので、それには慣れていただかなくては。それにもらっているのでしょう、報酬金。三万ポイントくらいなら、痛くも痒くもないはずです」
「全く、生徒会はどこまでご存じなのか。分かりました、三万ポイントで手を打ちましょう」
「交渉成立ですね」
まさか、お金を要求されるとは思いませんでした。しかし、よく考えてみたら当然なのかもしれません。物事には対価が必要になるものです。三万ポイントで済んだことをむしろ安心するべきでしょうか。
「物分かりが良い貴女には追加で最初の頃にやった小テストもおまけしちゃいますね」
「ありがとうございます」
正直な話として最初の頃にやった小テストなどいらないですが、せっかくの好意ですのでもらっておきましょう。何か確認をするために使えるかもしれません。
「それでは失礼いたします。お茶、美味しかったですよ」
「そう言っていただいて、ありがとうございます」
私は生徒会室の外に出て、1-Aの教室に戻ることにしました。それにしても橘先輩以外の他の生徒会メンバーは留守でしたね。あの生徒会長とは個人的にも繋がりを作っておきたかったのですが、仕方ありません。その後、教室に戻ってきた私が見たのは、勉強会に集中している葛城君達の姿でした。邪魔するのも悪いので、神室さんには今夜に電話で伝えましょうか。
◇
堀北鈴音 side
赤点組を招いて勉強会を開催したものの、あまりにも勉強が出来なさすぎたことで赤点組が投げ出してしまい、勉強会が頓挫。私達の計画も無事に失敗してしまう。どうすれば、須藤君や池君が勉強に取り組んでくれるかしら。
「鈴音か」
突然、後ろの方から声がした。それも私にとっては懐かしいと感じる声が。振り返るとそこには、部活動の説明会で最も注目を集めた人がいた。
「兄さん……」
「何故、この学校にいる。別の学校を目指していたはずだろう。それとも、俺を追ってここまで来たのか?」
「それは違います。何があったのか詳しくは話せませんが、兄さんを追いかけてきたわけではないことだけは分かってください」
相変わらず、私には冷たい態度だ。デカグラマトン関連の話は基本的に誰にも知られてはならない。それが例え、この学校で強大な権力を持つ生徒会であったとしても。まぁ、その暗黙の了解を破っている人はそこそこいるけど。明星さんとか茶柱先生とか。
「にわかには信じられんな。いつも俺を追いかけていたお前が俺を追いかける以外の目的でこの学校に来たなど。この二年で何があった?」
「それも話すことは出来ません。兄さんには関係のない話ですから」
「そうか。ならば、力ずくで聞き出すとしよう」
そう言うと、兄さんは私の腕を掴んできた。相変わらず、力が強い。このままでは投げ飛ばされるだろう。でも今の私なら何とかなる。
「何!?」
兄さんの膝を思いっきり蹴ることで怯みを狙う。兄さんは私が反撃をするとは思っていなかったのか、避けるために手を離す。
「俺に反撃をするとは……どうやら俺への盲信は捨て去ったようだな」
「えぇ、もう兄さんの知っている私ではありません」
「そうか。ならば、全力で行かせてもらう」
その瞬間、凄まじい速度の裏拳が飛んできた。狙いは顔ね。反射的にそれを避けると、兄さんを転ばすために足払いをする。
兄さんは当然のように跳んで避けると、そのまま踵落としに移行。これは避けきれない。腕で防ぐしかなさそうね。
「っ……!」
予想はしていたけど、蹴りの威力が半端じゃない。もう腕が痺れた。しばらく腕は使い物にならなそうね。だったら蹴り技主体で攻めるのみ。これは喧嘩よ。だったら禁止技もどんどん使わなければ兄さんには勝てない。
「そこまでだ」
そう考えていた時、見覚えのある人が間に入り、喧嘩を止める。綾小路君だ。いつからいたのだろうか。
「何のつもりだ?」
「このままじゃ、どちらかがボロボロになるまで終わらない予感がしたんでな。止めさせてもらった」
「余計なお世話よ」
確かに私達の喧嘩はどちらかがボロボロになるまで終わらなかったでしょう。高確率でボロボロになっていたのは私だったはず。それでも、一般の生徒にデカグラマトン関連の話をするわけにはいかない。
「堀北が素直に話せば、良かっただけだろう。話せないのなら、オレから話してやろうか。デカグラマトンのことを」
「デカグラマトン?」
「ちょっと、綾小路君!」
「悪いが、オレは口止めはされていないんでな。遠慮なく話させてもらう」
それから綾小路君は私がここに来ることになった経緯について語り始めた。この地にデカグラマトンというキヴォトスから来たオカルト的存在がいること、私が軍の訓練生であることなど様々なことを。
「鈴音が軍の訓練生だと? にわかには信じがたいな」
「堀北、身分証みたいなものはないか?」
「あるわよ。ずっと携帯しているわ」
私はケースから身分証を取り出すとそれを兄さんに見せた。すると、兄さんは端末を取り出し、何かを調べ始める。おそらく、身分証の真偽についてだろう。調べ終えた兄さんは何かを考えるように手を組み始めた。
「それが本物であることはよく分かった。だが、何故だ? 何故、鈴音は軍に入った? そのような素振りは今まで一度も見たことなかったのだがな」
「詳しく話すと長くなりますが、この二年間で色々ありまして。今度、話す場を設けられればと」
「分かった。それでは、今度暇な時間を作ろう。それとデカグラマトンに関しては学校側に確認させてくれ。生徒会としても対策を考えておきたい」
兄さんが去り、辺りは静けさに包まれる。全く、私の頑張りが全て無駄になったじゃない。まぁ、私から話さなかったというだけでマシな評価を貰えるといいけど。もしかしたら、力尽くで綾小路君の口を塞がなかったことを後で怒られるかもしれなわね。その張本人が去ろうとしていたので、私は呼び止める。
「待ちなさい。最初から聞いてたわね。じゃないと、デカグラマトンのことを話そうだなんて思わないもの」
「いや、悪かったな。勝手に話すような真似をしちまって。あのままじゃ、お互い得のない結果になっていただろ?」
「それは、そうだけど。まぁ、いいわ。素直に礼を言ってあげる。ありがとう」
そう言うと、私は兄さんに出会う前に考えていたことを思い出す。そういえば、須藤君と池君を何とか勉強に集中させられないかを考えていたんだったわね。帰りながら、綾小路君に相談でもしようかしら。
戦闘シーンは苦手です。特に人と人との戦闘は。