テスト範囲の変更があると告げられた日の翌日。今日はせっかくの休日ですが、葛城君と神室さんを呼び出しました。テストの過去問のことで直接言いたいことがあったからです。
「それで、言いたいこととはなんだ? メールだと話しにくいことか?」
「話しにくいというよりも直接会って話したほうが、伝わりやすいと思っただけです。神室さんから聞いているかもしれませんが、生徒会に行って過去問を入手してきました」
「過去問か。そんな物まであったとはな」
この反応は聞いていなかったようですね。昨日は過去問があるかもしれないと神室さんに話しただけですから、確証がないことは教えなかったのかもしれません。
「それで、その過去問がどうかしたのか?」
「まず、中間テストの過去問とは別に四月末に行われた小テストの過去問も入手しました。正直に言っていらなかったのですが、念のために確認してみたところ、私達がやった小テストと一字一句同じだったのです」
「そんな偶然が……いえ、わざわざ保管していたということはそれに何か意味があるっていうこと?」
神室さんは鋭いことに気が付きましたね。そう、成績に関わらない小テストをいつまでも保管しているということ自体が変な話なのです。
「そして、試験範囲が変更されたにも関わらず、中間テストの過去問の試験範囲は同じでした。つまり、試験範囲の変更は毎年行われているのでしょう。そして毎年同じ試験範囲になる。そしてそれがわざわざ保管されていたということは何かしらの意味があると思われます。例えば、小テストと同じように中間テストも一字一句同じであるとか」
「そんなことがあり得るのか?」
「普通に考えれば、あり得ないでしょう。ですが、そうでも考えない限り、保管していた説明がつきません。おそらく、過去問をくれた方が小テストの過去問をつけた理由は気がつけるようにしてくれたからかもしれませんね」
実際、真嶋先生からの言葉では救済策がある様子でしたし、これが違うとなるとどれなのかが分かりません。
「つまり、これを暗記しておけば満点を取れるということか」
「理論的に言えばそうなるのでしょうが、それは試験の何日か前にした方が良さそうです。葛城君が開催している勉強会の邪魔をしたくありませんし、もし違った場合には責任が取れません」
「分かった、そうしよう。それにしても今日は重要なことを伝えてくれて感謝する」
「いえいえ、過去問のコピーはテストの一週間ほど前にお渡しいたします。なので、その時に配ってください」
「何から何まですまないな」
これも葛城君をAクラスのリーダーとして活躍させるためです。葛城君の性格上、私が気づいたということは告げるでしょうが、この場合は誰が配ったかが重視されるでしょう。
「これで話は終わり? じゃあ、もう帰ってもいい? 折角の休日だし、帰ってトレーニングしたいんだけど」
「申し訳ありません。呼び出した理由はもう一つありまして。堀北さんから特異現象捜査部に入れたい人がいると連絡がありまして。今から一時間後に部室で合流することになっています」
「そういうことは先に言ってよ。ていうか堀北と連絡先、交換してたんだ」
「えぇ、ケテルの連絡をする際に必要になるからと」
それにしても特異現象捜査部に入れたい人とは誰でしょうか。軍人の方なら自分から接触してくるはずですし、忍者ならそもそも紹介することはできません。
◇
「来たわね」
「おや、意外と早く来ましたね。それでそちらの方が?」
「えぇ、紹介するわ。1-Dの綾小路清隆君よ。忍者を見抜くことができた洞察力を買われてデカグラマトンの調査に加えることになったわ」
「買われたということは貴女が入れたというわけではなさそうですね」
「えぇ、うちのクラスの担任が入れたの。全く、勝手なんだから」
なるほど、忍者を見抜くことができる洞察力ですか。確かに忍者に一方的にやられなくて済む分、所属してもらっても困らないと思います。というか、綾小路君のことはどこかで見たことがあるような。
「綾小路君。すみませんが、どこかで会ったことはありますか?」
「あぁ、職員室の前で一回だけ会ったことがある。その時は物珍しくてジロジロと見てしまったが」
あぁ、そうでしたか。あの時の人ですか。名前までは聞いていなかったので、すっかり忘れていました。
「あの時はまさか貴方が特異現象捜査部に入ることになるとは思いませんでした。これから、よろしくお願いしますね」
「あぁ、よろしく頼む」
それにしても綾小路君はただの平凡な人という印象を受けます。ですが、忍者に気付けるほどの洞察力があるのならば、話は変わってくるでしょう。自分の秀でている能力を意図的に隠せるのかもしれません。
「自己紹介が遅れましたね。私は明星ヒマリ、こちらの男性の方は葛城康平君です」
「よろしくな、綾小路。俺も普通に一般人だから仲良くしてもらいたい」
「よろしく。一般人がいるとは思っていなかったよ」
元々、軍人のみの組織にする予定だったであろう特異現象捜査部に私が葛城君を入れてしまったことで、使える者は入れていけの精神になったのでしょう。
「そして、こちらの女性の方が神室真澄さんです」
「よろしく、綾小路。何かあった時のために堀北に鍛えてもらったら?」
「考えておくよ」
「考えておくよ、じゃないわよ。やるのよ、勉強と並行しながらね」
そういえば、綾小路君の身体能力はどれほどのものなのでしょうか。軍人に追いつけるほどの身体能力がなかったとしても堀北さんに鍛えてもらうので、実戦は問題ないでしょうけど。
「以上が特異現象捜査部のメンバーとなります」
「おぉ、そうか」
「何か言いたいことがあるなら言っておきなさい。別に誰も笑ったりしないから」
「じゃあ、もう一人いるけどそいつは誰だ?」
「噂通りの方なのですね」
びっくりしました。この人、一体いつからいたのでしょうか。少なくとも部室に入る時には既に一緒にいたのでしょう。
「私の名前は山村美紀です。一応、忍者の端くれですので、デカグラマトン関連の協力はよろしくお願いしますね」
「あぁ、よろしく。お前、一人か? それとも他にも誰かいるのか?」
「他にも人はいたのですが、そこまで図太くないと同行を拒否されてしまいました」
「いつから、いたんですか?」
「貴女が葛城君と神室さんを呼び出して内緒話をしていた時からです」
「内緒話?」
あの時からですか。となると過去問のことに関しては聞かれていますね。彼女の他にいた忍者が別のクラスでないことを祈るばかりです。
「内緒話って何を話したんだ?」
「すみません、中間テストの話としか言えません。決して悪口とかではないので、ご安心を」
「分かった」
納得はしていないご様子ですが、引き下がってくれて何よりです。問題は忍者が話さないかですが、これに関しては祈るしかありません。忍者を見つけることができない以上、口止めとかも難しいですから。
「ところで、綾小路君。預言者と戦う際に必要な防護服は持っていますか?」
「防護服? そんなものまで必要なのか?」
「当たり前じゃない。相手はミサイルやビームを撃ってくるのよ防護服がなければ、普通に死ぬわよ」
「それは初耳だし、防護服があっても普通に死ぬと思うんだけど」
この様子ですと綾小路君は事情は知っているようですが、詳細な情報までは聞かされていないようですね。
「綾小路君はデカグラマトンについてどこまでご存知ですか?」
「デカグラマトンがキヴォトスから来た危険な物ってことくらいしか聞かされていない」
「なるほど、経緯だけですか。ならば、預言者やその特徴についても話しておいた方が良さそうですね」
私はデカグラマトンの預言者について分かっていることを綾小路君に話しました。綾小路君は表情は変えませんでしたが、考え込んでいる様子です。
「勝てるのか?」
「今のところは無理かと。ですから、こうして人を集めているのです」
「なるほどな」
私達が預言者に勝てるようにするためにはとにかく戦うことのできる人を集める以外にありません。一応、銃で足止めはできるようですので、銃が通用することは分かっています。なので、銃を扱える人が充分に集まれば、打倒できる。そう考えてしまうのは少し楽観的でしょうか。
「とにかく、防護服がないのなら戦闘には立たせられません。なので、まずは防護服を用意いたしましょう」
「防護服っていうのはどこで売っているんだ?」
「ある生徒が仕立て屋をやっていまして。その生徒に連絡を取れれば良いのですが。生憎、私は連絡先を知りません。それに今日は休日ですし、彼も引き受けてはくれないでしょう」
「なら、平日の暇な時に連絡しよう。これ、オレのアドレスだ」
「わざわざ、ありがとうございます」
テスト期間で忙しいでしょうし、呼び出しを受けるのは中間テストが終わった後ですかね。あとは武器に関してですが、これについては売っている場所を知りません。知っていたら、葛城君用の武器を買っていますから。
「堀北さん、神室さん。武器を売っている場所に心当たりはありますか? 葛城君や綾小路君にも武器は持たせた方が良いと思うのですが」
「流石に武器を売っている場所は高育内にはないと思うよ。学生が間違って手に入れたら大問題だからね」
「だから、上の人が発注してくれた武器を使うしかないのよ。もっとも、武器を手に入れたとしても実戦で使えるようにするために射撃訓練からだけど」
なら、武器の入手は先生に頼るしかないということですか。そして入手できたとしてもしばらくは使えないと。そういうことになるとなるべく早く上に懇願してみた方が良いですかね。
「分かりました。確認したいことも終わりましたので、今日はこれで解散としましょう。私はここに残ってデカグラマトンや預言者が来ないか見張っていますが、貴方達はどうなさいますか?」
「私は葛城を連れて自主トレに行ってくる。葛城もそれで良いよね?」
「あぁ、俺は問題ない」
「私はなんとなくついて来ただけですから。お邪魔にならないよう、これで失礼しますね」
「私も戻って自主トレでもするわ。綾小路君はどうするの? 本格的な訓練はテスト明けにしようかと考えているのだけど」
「オレにはとにかくキヴォトスに関する常識がないみたいだからな。図書館でキヴォトスについて色々と調べてくるよ」
となるとここに残るのは私一人だけになりそうですね。私はここに置いてある資料をもう一度、読んでみますか。新しい発見があるかもしれません。
「それでは皆さん、お疲れ様でした」
今更ながら、原作主人公との合流です。これで綾小路が平穏とは程遠い生活を送ることになりました。