先週の金曜日にテスト範囲が変更されて戸惑っていたのも束の間、気持ちを整えてすぐに変更された試験範囲を勉強していました。流石はエリートクラスといったところですか。それでも時間が経過するのはあっという間で、気がつけば中間テスト一週間前。
午前の授業が終わり、昼休みになる頃。葛城君が教壇の前に立ちクラスメイトに呼びかけていました。おそらく、私が今朝方に渡した中間テストの過去問を配布するつもりなのでしょう。
「皆、ちょっといいか? すぐに済むから俺の話を聞いてほしい。皆、一週間後の中間テストに備えて勉強していると思うが、その勉強の一助になるものを持ってきた」
葛城君はそう言うと、プリントを配り始めました。突然、配られたプリントに困惑しています。
「これは中間テストの過去問だ。手に入れた明星が言うにはわざわざ生徒会が保管していたものらしい。何かあると見て良いだろう」
「もしかして、これとほぼ同じ問題が出るとか?」
「かもしれないな。事実、先月末に行われた小テストは過去問と一字一句同じだったらしい」
「まじかよ」
ピンポイントな質問をした生徒も驚いてしまうほどのことでした。他の生徒も困惑している様子です。まぁ、そうですよね。過去問と一字一句同じ問題が出るなど、常識的に考えてあり得ないことです。
「とはいえ、過去問を過信しないようにしてくれ。もしかしたら、今回は違うのかもしれない。だから、あくまでも参考程度に見てほしい。俺からは以上だ」
そう言って葛城君は教壇を降りると周りにいた生徒から歓声が上がりました。反則級のアイテムを手に入れたという事実を受け入れ始めたからでしょう。
「葛城さん、流石ですね」
「あんた、話聞いてた? 凄いのは葛城じゃなくて明星でしょ。見つけてきたのも明星だし」
「それはそうだけどさ。こんな反則級のアイテムを独占せずに配ってくれるなんて、流石としか言いようがないだろ」
上手く葛城君の支持率を上げることが出来ているようですね。こういうものは手に入れた人よりも配った人に注目がいくものです。いつかは私が手に入れたことを忘れるほどに。
さてと、私は昼食を取りに行きますかね。今日は折角ですし、カフェにでも行ってみますか。正直なところ、一人で行くようなところではありませんが、たまになら良いでしょう。カフェの中に入ると見知った方が見えました。
「綾小路君、お久しぶりです。そちらの方は?」
「私、櫛田桔梗って言うの。よろしくね」
「はい、よろしくお願いします。空いている席もないようですし、ご一緒してもよろしいでしょうか?」
「うん、全然大丈夫だよ」
この子は良い子そうですね。ですが、綾小路君がなんとも言えない顔をしています。やはり、お邪魔だったでしょうか。
「綾小路君、ひょっとしてデート中でしたか?」
「いや、そんなんじゃない。ただ、一緒に昼飯を食べにきただけだ。だから、気にしないで良いぞ」
それをデートというのですが、綾小路君の様子を見る限り、そういうことではなさそうですね。
「知っているか、明星? オレは女子が作ったイケメンランキングというやつで五位らしい。ただ、根暗そうなランキングでも上位を取っているがな。明星は参加したことがあるのか?」
「いえ、そのようなランキングがあること自体、初耳です。櫛田さん、本当にそのようなランキングがあるのですか?」
「うん、あるよ。ほら、これ」
櫛田さんが見せてくれた端末の中には男子を格付けしたランキングがありました。死んでほしい男子ランキングというのもありますね。ちょっとだけ興味があります。
「綾小路君には話したことがなかった気がしますが、私がこの学校に呼ばれたのは凄腕のハッカーだったからです。もっとも、私がいなくてもなんとかできるみたいですけど」
「つまり、何が言いたい?」
「このランキング、学校中に広めてしまっても良いでしょうか?」
「ダメだよ! 絶対に!」
やはり、反対されてしまいましたか。ですが、諦めませんよ。ハッキングしてでも中身を見てやりますから。
「お前、結構なイタズラ好きなんだな」
「気になることは試さずにはいられないので。この学校でもあること以外へのハッキングは禁止と言われなければやっていたのですが」
「何かやったことがあるのか?」
「とある企業にハッキングを仕掛けたことが何回かありまして。当然、捕まるようなヘマはしていませんよ」
「それだけでも大問題だよ」
櫛田さんは頭を抱えているようですが、綾小路君は何か考えているようで、顎に手を当てています。
「なぁ、この学校は優秀な生徒からABCDと順に置かれているんだよな。何で企業にハッキングまでしていることがバレているお前がDクラスじゃないんだ?」
「綾小路君は不思議なことを言いますね。普通に頭が良かったこともありますが、お客様に対して不良品扱いするわけないじゃないですか。私が不機嫌になって学校から出て行ったら本末転倒ですからね」
「そんなものか」
まぁ、他にも理由はあると思いますけど。キヴォトスの生徒は抗議の意思表示で銃を撃つこともあります。キヴォトスでは人に銃を撃っただけでは捕まりませんからね。私はその辺の良識があるから大丈夫ですが、他のキヴォトス人を招いた場合にはどうなっていたでしょうか。
「綾小路君は私がDクラスであれば、助かりましたか? 例えば、勉強会のこととか」
「何故、オレたちが勉強会をしていることを知っている」
「簡単な話ですよ。私も昼休みに図書室にいるんです。綾小路君を見習ってキヴォトスをもう一度、知るために」
そして、デカグラマトンについての情報を追うためでもあります。何かしら繋がる情報があれば良いと思って探しているのですが、あまり良い情報は得られませんね。得られる情報はキヴォトスとはどういうところかという程度です。
「故郷についてなら、お前がこの学校の中で一番詳しいと思うけど」
「そうですか? 故郷のことなんてあまり知らないものですよ。綾小路君だって故郷に詳しいかと言われれば、そうではないでしょう?」
「それはまぁ、そうだけど」
「人とはそんなものです。詳しい話は部室でするので、空いている時間に来てくださいね。貴方の用事もありますから」
あれから、空いている時間は確保できていないようでして、連絡は一度もありません。テスト期間が終わったら、こちらから連絡してみますかね。
「綾小路君、部活入ってるの? なんて部活?」
「特異現象捜査部ですよ。貴女も入部しますか?」
「いや、遠慮しとくよ。何やっている部活か分かんないし」
まぁ、そうですよね。名前だけ聞くと何だか怪しい部活に思えますし。実際のところは軍の援護をする部活なので、入部してほしいというのはあくまで冗談ですが。それにしても、櫛田さんは私がこの学校に招かれたお客様だということに疑問すら、抱いていないようでした。櫛田さんもまた、私の事情を知っていたりするのでしょうか。
◇
食事を終えて、図書室へ向かうと大勢の生徒が勉強に励んでいました。私のように本を読むためだけに来た生徒は少数だと思います。私の場合は勉強会を放課後にやっているので、何も問題はないのですが、少し焦ってしまいますね。
さてと、今日もキヴォトスとデカグラマトンの関連性について探っていきますか。キヴォトスができる前の話とかも良さそうですね。その辺は私もあまり詳しくはありませんし。そこにヒントが隠されているのかもしれません。
「おい、ちょっとは静かにしろよ。うるせぇな」
「悪い悪い。ちょっと、騒ぎすぎた。問題が解けて嬉しくてさ〜。帰納法を考えた人物はフランシス・ベーコンだぜ?」
フランシス・ベーコン? 確か、最近習ったところなのでテストには出ないはずです。一体、あの人達は何を勉強しているのでしょうか。
「あの、綾小路君。これは一体どういうことですか?」
「すまんな。ちょっと、トラブルが起きそうで」
「いえ、そこではなくてですね……何といえば、良いのか」
テスト範囲外の場所をあえてやっているのか、そうじゃないのかで話は変わってきます。なんて伝えれば良いのか迷っていると、うるさいと注意をしてきた生徒が代わりに発言してくれました。
「テスト範囲外のところを勉強して何になる。もしかして、テスト範囲もろくに分かっていないのか? これだから、不良品はよぉ」
「え?」
堀北さんが驚いた表情をしています。どうやら、後者だったようですね。優秀な堀北さんがテスト範囲を分かっていないはずがありません。きっと、担任が伝えていなかったのでしょう。そんなことを考えている間にも殴り合いが始まってしまいそうです。早く、止めなくては。
「はい、ストップストップ!」
その少女はDクラスの生徒が振り下ろした拳を手で抑えるとそのまま、仲裁に入りました。すごい音が鳴っていましたから、相当な威力だったのでしょう。それを素手で抑えるとは腕の力はかなり強いのですね。
「んだ、テメェは? 部外者が口を出すなよ」
「部外者? 図書館で騒ぎを起こそうっていうんだから、部外者ではないでしょ。どうしてもやりたいっていうのなら、外でやってもらえる?」
この仲裁をしている生徒はどこかで見たことがあるのですが、どこだったでしょうか。確か、良い人だったという記憶はあるのですが。
「それから、君たちも挑発が過ぎるんじゃないかな? これ以上、続けるなら学校側にこのことを報告しなくちゃいけないけど、それでも良いかな?」
「悪い、えぇと」
「一之瀬だよ。一之瀬帆波。もう、なんで皆忘れちゃうかな」
そうでした。一之瀬さんでしたね。この人にはデカグラマトン関連に巻き込みたくないと思ったことを今、思い出しました。ですが、多分無駄なのでしょう。
「おい、行こうぜ。こんなところで勉強してたら馬鹿が移るし」
「だ、だな」
そんなセリフを吐き捨てて、彼らはこの場を去っていきました。そういえば、綾小路君に話しかけている最中でしたね。言いたいことは、言われてしまったので何を言いましょうか。
「なぁ、さっきの話はどういうことだ?」
「先週の金曜日辺りでしょうか。テスト範囲の変更が告げられたのです。私達は先週の休日にその対策をするために集まっていました。あの時、詳しく伝えていれば良かったですね」
「いや、もう過ぎたことだ。それよりも対策があるのか?」
「えぇ、おそらく絶対の対策があります。貴方も気づいているのなら、生徒会にでも行ってみたらどうですか?」
「そういうことか。感謝する」
いえいえ、あの時にテスト範囲が変更されたことを伝えなかった罪滅ぼしだとでも思ってください。
「ねぇ、ちょっといいかな? 明星さんだよね、入学式の前まで一緒だった」
「はい、そうですが。それがどうかしましたか?」
「ちょっと話したいことがあるんだ。ここじゃなんだし、外に行って話そうか」
「よほどのことらしいですね。承知いたしました」
一之瀬さんに連れられて、校舎の外に出ると人気のないところに着きました。一之瀬さんは私に向き直ると頭を下げて、謝罪をいたしました。
「黙っていてごめんね。忘れちゃうかもしれないけどよく聞いて。実は私、忍者なの。明星さんに入学式前に近づいたのは、安全に高育に送り届ける任務があったからなんだ」
「まぁ、そうでしたか。であれば、心配いりません。先ほどまでそのことを覚えていなかったので」
「忘れてたんだ。まぁ、忍者の性質上、しょうがないか」
一之瀬さんは忍者だということには図書室の時点で気がついていました。あの性格の子が誰からも覚えられていなかったということが引っかかっていたので。
「改めて、よろしくね。私は貴女の護衛が任務だから。代わりの忍者でもいない限り、基本的には貴女の側にいるよ」
「となると、あの休日にもう一人の忍者と一緒にいたのは貴女でしたか」
「うん、おかげで過去問の話もバッチリ聞けたよ。私はこう見えてもBクラスのリーダーだからね。生徒会室に行って過去問をもらってきたんだ。これから皆に配る予定だよ」
「忍者がリーダーになれるものなのですね」
「色々な人に話しかけていたら、いつの間にかリーダーに指名されていてね。名前は全く覚えられていないけど、リーダーとして頑張っているんだよ」
そうでしたか。そういえば、私が忘れたのは入学からしばらく経ってからでしたね。入学式初日は覚えていたような気がします。忍者として、優秀なのかどうかは分かりませんが。
「じゃあ、もう行くね。もうそろそろ、授業が始まっちゃうし」
「えぇ、また会いましょう」
「うん、またね」
すると、次の瞬間には一之瀬さんは見えなくなっていました。忍者は見えなくすることは自分で出来るのですね。てっきり、自然体でやっているのだと思っていました。さてと、私も戻りますか。
一応の設定なのですが、山村さんは自然体でやっています。