中間テスト当日。今日は退学になるかもしれない試験の当日ということもあって、皆が張り切っています。おや、橘先輩からメールが来ていますね。
『過去問のことで少しお話があります。放課後で構わないので、生徒会室に来てください』
過去問のことで、用事とは何でしょうか。今は気にしても仕方ありません。テストに備えておきましょう。真嶋先生がテストを持って教室に入ってきました。
「欠席者はなしか。ちゃんと全員揃っているようだな」
真嶋先生は私達を見回してそう言いました。その顔にはどこか安心したような笑みが浮かべられています。
「今日は退学のかかった最初のテスト。生徒達にとっては最初の関門がやってきたわけだが、このクラスは優秀だ。きっと、退学者が出ないほどに多くの生徒が高得点を取れるものだと信じている」
真嶋先生の言葉を聞き、集中力が増しているのを感じます。過去問も入手していますし、今回のテストは楽勝でしょう。
「やる気が出てきたようだな。では、更にやる気の出る情報をやろう。今回の中間テストと七月の期末テストを乗り越えることができれば、夏休みにバカンスに連れて行ってやる」
「バカンスですか?」
「そうだ。青い海に囲まれた島で体験したことのないような生活を送ることになるだろう」
夏の海ということは水泳や釣りなどをして楽しむのでしょうか。まぁ、私にとってはどちらも満足にできないので、そこで過ごすことになるだけでしょうけど。いっそのこと、辞退して高育でデカグラマトンの預言者を見張る生活を送りましょうかね。
気がついた時にはプリントが回って来ていました。少し考えごとをしていただけですのに、もう始めるのですね。そして、合図と共に一斉に表へと返しました。この問題、見た限りでは過去問と同じですね。一目では違いが分からないほどに。まぁ、過去問と答えが違っていたら怖いですので、しっかりと問題文は読みますが。
そんな具合で五時間目までのテストを終えましたが、本当に過去問と同じ問題ばかりが出て来て驚きました。ですが、これも今回だけでしょうね。毎回、これに頼ることができるようであれば、実力を測るというこの学校の趣旨に沿っていませんから。
過去問といえば、橘先輩から過去問の件で生徒会室まで呼び出されていたことを思い出しました。一体、何の用事でしょうか。過去問に不備があったわけでもなさそうですし。テストが終わったらと書いていたので、今すぐに行った方が良さそうですね。
私が生徒会室に到着すると、橘先輩が疑いの眼差しで私のことを見てきました。何かした覚えはないのですが。
「明星さん、どういうことですか?」
「何の話ですか?」
「過去問がそれぞれのクラスで配られたことについてです! 明星さん以外の生徒も皆、生徒会室に来ましたよ! 生徒会がこの情報を漏らしたのではないかって先生方から睨まれているんです!」
BクラスとDクラスについては心当たりがあります。Bクラスは隠密行動の結果、Dクラスは私が教えた結果として過去問にたどり着いています。もっとも、Dクラスは生徒会に行くように言っただけで、既にたどり着いていたようですが。Cクラスについては知りません。知り合いもいませんしね。このまま、知らぬ存ぜぬを通しても良いのですが、過去問を譲っていただいた恩もありますので正直に話しますか。
「やっぱり、明星さんが起点でしたか。最初に気づいたのは明星さんだそうなので、そうかなと思いましたが」
「その情報はどちらから?」
「先生方からです」
なるほど、先生はとうに私達が過去問を入手していたことを知っていて、あえて泳がせていたというわけですか。まぁ、監視カメラがあれば楽勝ですよね。
「まぁ、私がしたかったことは事実の確認程度です。生徒同士ですから、教え合いをすることは別に構いません。確認したいことは以上となります。何か他に聞いておきたいことはございませんか?」
「では、一つよろしいでしょうか? 生徒会はデカグラマトンに関してどのような対策を講じていますか? 協力できるかもしれないので、聞いておきたいのですが」
「対策ですか。簡単に言ってしまいますと、危険な場所には近寄らせないように徹底させるなどですね。私達には攻撃手段はないので、デカグラマトンと戦うことはできません。なので、こうしたことしかできませんが、答えになっているでしょうか?」
「えぇ、充分です」
このほんの少しのことが私達を助けることに繋がるでしょう。一般生徒が近づかないということは間違って入ってきてしまった生徒を守りながら戦うという、面倒な状況は避けられますから。
◇
中間テストが終わり、今日がその結果発表の日です。あのテストは過去問さえ見ていれば、簡単なものではありますが、それでも周りはソワソワしていました。
「それでは今からテスト結果を発表する」
真嶋先生は大きな紙を広げて、黒板に磁石で貼り付けました。これがテスト結果が書かれている紙ということなのでしょう。
「皆、よく頑張ったな。おかげでこのクラスからの退学者はゼロだ」
その言葉を聞き、安堵する人が大勢でした。まぁ、それも当然かもしれませんね。何せ、赤点を取れば退学という厳しいものでしたから。
「葛城君、折角ですから祝勝会を開きませんか? どこかのお店でも良いので」
「あぁ、そうだな。しかし、クラス全員が入れる店なんかあるか?」
「少々高いですが、良いお店を知っています。宴会ができるお店なので私達にはピッタリだと思いますよ」
「宴会用の店か、悪くない。早速、皆に呼びかけてみよう」
葛城君は教壇に立つと祝勝会を開くことを宣言しました。そのすぐに行動できる精神は素晴らしいものだと思います。
「宴会用の店なんてよく知ってたね」
「部活動で目標を達成した時に行こうと色々とお店を探していたのです。クラスの祝勝会が先になってしまいましたが、悪くはありません」
「そんなの探してたんだ。まぁ、最近はずっと暇だったしね」
入学してから、四月に二回も預言者と遭遇しましたが、五月になってからは一回も預言者と遭遇しませんでした。これは偶然なのでしょうか。何か騒動が起こる前触れでなければ、良いのですが。
「あいつらはいつ現れるのか分からない奴らばかりだからね。こういう月もあるらしいよ。まぁ、大抵そういう時は何故かテスト期間とかだったりするんだけど」
「テスト期間と何か関連性があるのでしょうか?」
「真面目に考えても意味ないと思うよ。あいつらの行動って一貫性がないから」
真面目に考えても無駄ですか。私はそうは思いませんが。一貫性のないものがテスト期間にだけは姿を見せないというのも何か引っかかります。
「祝勝会は葛城君の話だと休日に行うそうですから、その日は来てほしくないですね」
「そうだね。無事に終わることを祈るよ」
◇
フラグというものはどうやら存在しているようで、神室さんの持っている端末からアラームが鳴りました。それも祝勝会を楽しんでいる最中にです。
「神室さん、場所はどこですか?」
「立ち入り禁止区域の廃工場エリア。と言っても場所は分からないか。私についてきて。葛城、あんたはここに残って祝勝会を無事に終わらせて。これはあんたにしかできないことだから」
「分かった」
折角、祝勝会を楽しんでいる最中でしたのに。預言者は空気が読めませんね。まぁ、内心で愚痴を言っていても仕方ありません。さっさと行っちゃいましょうか。
以上で1巻の話はお終いです。2巻までの話は用意してありますので、引き続き読んでくれると助かります。