トラブルによってポイントが支給が遅れるということが伝えられた翌日。私達は真嶋先生の口からトラブルの全容について知らされることになりました。
「先日、起きたトラブルの件だが、CクラスとDクラスの揉め事だということを伝えておこう。それも殺人未遂事件だ。凶器には銃が使われていたことが分かっている」
そのことを聞いたクラスが一斉に騒がしくなります。ただの喧嘩ならともかく、殺人未遂事件ともなると警察沙汰ですからね。そりゃあ、騒がしくもなりますよ。
「訴えがあったのはCクラス側からだ。呼び出したDクラスの生徒にやられたらしい。ところがDクラスの生徒が言うにはそれは事実ではないそうだ。曰く、特別棟にキヴォトスにいる機械兵が現れたので、そいつがやったのではないかとな。事実、機械兵が現れたということは確認が取れている」
「なら、その機械兵がやったんじゃないですか?」
「そこで終わっていれば話は簡単だったのだが、特別棟の出入り口付近に何者かの指紋付きの銃が落ちているのが発見された。Dクラスの生徒の指紋を調べたところ、その指紋と一致したそうだ。故にDクラスの生徒がやった可能性はゼロではないと考え、訴えを認める形となったわけだな」
おそらく、その銃は自衛用に拾ったものでしょう。武器も持っていない生徒が機械兵を倒して奪うことなど不可能に近いですからね。それにしても、指紋付きの銃ですか。確かに証拠にはなりますね。
「現在、あの場にいたとされる全身が白く、眼鏡をかけた髪の長い女性を探している。Dクラスの生徒に隠れるように指示した人物らしい。ついでに言えば、その生徒にはヘイローがあったそうだ」
特徴だけを聞くと、私しかいませんね。眼鏡はかけていませんが、髪の長い白い女性は私だけですから。特にヘイローを持っているという特徴は大きいですね。
「それって明星さんのことじゃないですか?」
「いや、明星ではない。詳しく聞いてみたところ、車椅子には乗っていなかったそうだ」
その時間にはケセドの位置情報を調べていたはずです。あそこには監視カメラはありませんが、先生方も私が部室にいたことはご存知のはず。一人だったので、アリバイというものはありませんが。
「明星以外で心当たりのある人物はいるか?」
誰も手を挙げないことから、どうやら心当たりのある人はいないようです。葛城君も手を挙げないということは、彼が見た女子生徒は全身が白くはなかったということになりますね。
「どうやらここにはいないようだな」
そう言うと真嶋先生はホームルームを終了させて、教室から出て行きました。早速、葛城君から話を聞いてみることにしましょう。
「葛城君、少しお話ししてもよろしいでしょうか?」
「あぁ、俺が見た生徒と一致しない件についてだろう。それは俺も疑問に思っていた。あの場に二人以上いたということか?」
「いえ、それは無いと思います。私が捕捉したのは一体だけですから。もう一体いたとは考えられません。であれば、考えられることは一つ。ヘイローを持っている時の姿とヘイローを持っていない時の姿は一致しないということです」
「どういうことだ?」
つまり、預言者は人型の姿を二つ持っているということです。ヘイロー持っている時の姿とヘイローを持っていない時の姿。前者は全身が白いという特徴を持っており、後者はヘイローがないため、より人に近い姿をしているのでしょう。そのことを葛城君も理解したようでなるほどと頷いていました。
「であれば、生徒としての姿を見せたのは何故だ?」
「見せたのではなく、見られてしまったのです。なので、必死に誤魔化したのでしょうね。二人以上に見られると見間違いで済ませられないので、慌てて移動したと考えられます」
「つまり、俺の存在が想定外だったということか」
「なので、気をつけてください。貴方を証拠隠滅のために狙ってくるかもしれません」
恐ろしいことですが、ケセドは葛城君を殺しにかかるでしょう。葛城君さえいなければ、生徒としての自分を隠すことができますから。
「葛城君はしばらく、一人で行動しないようにしてください。行動する時は必ず、神室さんと一緒にお願いします。安心してください。神室さんには既に伝えてありますので」
「あぁ、分かった」
葛城君の動きに制限がかかってしまいましたが、これは保険のようなものです。そもそも防護服とは一般的に全身を覆っているものですので、顔も防護服で覆われていますから顔は見られていないはず。というよりも、頭を第一優先で守らないといけない都合上、顔を覆うのは当然のことです。視界はとても狭いですが、安全性を保証していると言えるでしょう。ただ、声を聞かれてしまっているので、声帯から顔を判別できる能力がなければ良いのですが。
◇
堀北鈴音 side
放課後。私は兄さんから生徒会室に呼び出されてしまった。そういえば、時間を作ると言いはしたものの、時間を作れなかったことを怒っているのだろう。まぁ、私が悪いので仕方がない気はするけど。
「今回、呼び出したのはお前が軍に所属するようになった理由についてだ。時間を作るとは言われたが、一向にその気配がないのでこちらから連絡させてもらった」
「分かりました。簡単な話ですが、お話しいたします」
あの事件の話をどうやって説明しようかしら。まぁ、まずは事件の冒頭から話しましょう。とてもじゃないけど、信じられるような話じゃないもの。
「まず、私が軍に所属するようになったのはある事件がきっかけです」
「事件?」
「えぇ、デカグラマトンの預言者であるホドが起こした事件です。ニュースでは報道されていませんでしたが、私のいる中学校にホドが襲いかかって来ました」
何故ニュースで報道されなかったのかというと、預言者の存在を公にしたくなかった政府と事件を公開したくなかった学校が手を組んだから。そのことは私も後で知ったことなのだけど。
「そんなことがあったのか。それにしてもよく隠し通せたものだな」
「関係者一同がシラを切ったそうですよ。原因はガス爆発だって。ガス会社には大量の口止め料が支払われたそうですけど」
「関係者一同がシラを切るなんてことは不可能なはずだ。実際に起きたことを言った者は必ず出るはずだからな」
「兄さん、よく考えてみてください。預言者が学校を襲ったのですよ。それもガス爆発ということにしても不自然ではないほどに」
「まさか……」
「はい。当時、学校にいた人が全員死亡したことは確認できています。私はその日、熱を出したので学校には行っていなかったので助かりました」
熱が治って学校に行ってみたら、焼け野原だったことを今でも覚えている。ニュースにも流れてこなかったので、何があったのかとパニックに陥るほどに。
「それで、そこからどうやって鈴音は軍に入ることになった? 話を聞く限り、鈴音はホドが襲来していたことを知らなかったのだろう?」
「はい。私は何も知ることなく、別の学校に転校する予定でした。ホドからの接触がなければ」
「ホドからの接触だと?」
あの衝撃は今でも覚えているわ。あんな怪物がいたことにも驚いたけど、一番驚いたことはそれではない。
「ある日、私の家を特定して訪ねてきた人がいました。名前は櫛田桔梗。その人は自分も生き残りの一人だと言い、同じ生き残りである私に会いに来たなどと言っていました。本当かどうか疑わしかったですが、櫛田さんという名前は聞いたこともありましたし、確認する方法がないので一旦は信じます」
「家を特定しただと? 学校に問い合わせれば同じ生き残りの家は分かるかもしれないが、お前は確認する方法がないと言ったな。つまり、学校には問い合わせることができなかったのだな?」
「はい。その時点で私もおかしいと思うべきでした。ですが、愚かにも私はその違和感に気づくこともなく、同じ境遇の人がいたことを喜んでしまったのです。そこからしばらく交流をした後、見せたいものがあるから一緒に来てほしいと言われました。私は疑うこともなくそこに向かい、目にしたのは全身が白くなっている櫛田さんの姿。頭にはヘイローもありました」
「話の流れからするとその櫛田という人物こそがホドだったということだろう。頭にヘイローがあったのもキヴォトス由来のものだからというわけか」
話が早くて助かるわ。流石は兄さんね。そう、ホドは人間として擬態して生活していたの。軍の人達が見つけられなかったのも無理はないわね。
「櫛田さんから学校で起きた事件は自分がやったこと、自分はホドという預言者であることを告げられました。最初は何を言っているのか分かりませんでしたが、真の姿を見せられて納得せざるを得なかったのです。何せ、ホドが襲いかかってきましたから。その後、軍の人に助け出されるまで私は必死に逃げ回ることになります」
「それで、助けてくれた軍に憧れて軍人になったということか」
「いいえ、そういうことではありません。政府はホドの存在を公にしたくなかったのです。故に政府は私に選択を迫りました。軍の人間になるかそれとも死ぬかという2択を」
「死ぬというのは文字通りの意味か?」
私が頷くと兄さんは驚いた顔を見せる。当時の私も驚かされたわ。まさか、被害者に対してこんなにも冷たい国だなんて思わなかったもの。
「軍人になるのであれば、機密を知っていたとしても何とでもなります。政府はその上で軍の人間としてこの学校に潜入して、預言者と戦うことを命じました」
「それは訓練をしたことのない人間にとっては、死ねということと同義だな」
「私もそう思います。とはいえ、戦力にならなければ意味がないので、軍人として戦うために必要な訓練は早い段階から受けさせられました。そのため、練度だけでいえば潜入している訓練生にも負けていないはずです。クラスもくじ引きで決めましたし」
兄さんが再び、驚いた表情を見せる。仕方ないでしょう。こんな実力至上主義の学校だなんて知らなかったんだから。
「何故、くじ引きで?」
「その前にここにいる教師が全員、軍人だということはご存知ですか?」
「いや、初耳だ。綾小路というやつもそのことには言及しなかったからな」
あの時の綾小路君は色々なことを話していたけど、それはその時点で綾小路君が知っている情報だけだったと記憶している。つまり、あの時に知らなかった教師が軍人だということは話していなかったはず。後で知って驚いていたもの。
「私達はその軍人達とは上下関係にあります。一人の担任に一人ずつ生徒が割り振られるように、事前にクラスは決めておく必要がありました」
「だから、くじ引きを行ったということか」
「その通りです」
この学校が実力至上主義であることを知っていたら、もう少し話し合って決めていたと思う。私達はAクラスの特権に興味がないから、優秀な役割をしなければならないAクラスを譲りあっていたと思うけど。
「それでここからが重要なことなのですが、ホドである櫛田桔梗はこの高校に入学しています。しかも、顔を変えることもなく」
「似ているだけの別人という可能性はないのか?」
「その可能性はあると思っています。実際、上司にも同じことを言われました」
「つまり、教師には伝わっているわけだな。櫛田桔梗はホドの可能性があると」
その上で軍が決めたことは櫛田桔梗を警戒するが、しばらくは放置するということだった。別人である可能性が捨てきれない以上、仕方のないことではあると思う。
「兄さんも気をつけてください。近くにいる人間が預言者である可能性もあるのですから」
「あぁ、肝に銘じておこう」
話を終えたので、生徒会室を後にするために席を立つ。これ以上、ここにいる理由はないのだから。もう少しだけ兄さんと話しておきたいが、話す内容もないので仕方がない。
「それでは失礼します」
そういえば、兄さん以外の生徒会メンバーは見かけなかったわね。兄さんが気を利かせてくれたのかしら。そうだったら、嬉しい。
ちなみにCクラスは特別棟に機械兵がいたことを今回の説明で初めて知りました。