一之瀬さんと別れてAクラスの教室に入ると、車椅子が珍しかったのでしょうか。色々な人に見られていますね。まぁ、気にしないでおきましょうか。
周りの人達はすでに仲良くなっているのか話し始めていますね。まぁ、私は仲良くなった人は違うクラスになってしまいましたし、自由に動くこともできないので座っているしかありませんが。そう考えていたところ、一人の男子生徒が声をかけてきました。
「俺の名前は葛城康平という。困っていることがあれば、いつでも言ってくれ」
「それはありがとうございます。今は特に困ってはいないので、困っている時に声をお掛けいたしますね」
「あぁ、分かった。ところで、もしかしてキヴォトスから来たのか?」
どうやら、私のヘイローを見てキヴォトスから来たと判断したようですね。なるほど、ヘイローがあればキヴォトス人だという判断はキヴォトスの外では常識なのかもしれません。葛城君の質問に対して肯定する返事を出したところ、クラス内で注目を集めたのでしょう。あちこちからキヴォトスに対する質問がありました。
「キヴォトスでは銃撃戦が日常って本当?」
「銃で撃たれても貫通しないってマジ?」
「キヴォトスがあるっていうのは知っているんだけど、どこにあるの?」
思ったよりも質問が多いですね。どうしましょうかと思った時、葛城君が助け舟を出してくれたました。今までの行動を見て思いましたが、葛城君にはリーダーシップというものがありそうですね。万が一の時には、クラスを纏めてもらいましょうか。
その後、葛城君によって質問の順番が作られると、私はその質問に対して一つ一つ答えていきました。まず、銃撃戦が日常なのはその通りだと言うと物騒な場所だなと言う声が出てきます。戦車もあると言ったら、どうなるのでしょうか。次に、銃で撃たれても弾が貫通しないことに関しても本当だと話したところ、やはりあまり信じてはもらえないようでした。最後にキヴォトスがどこにあるのかと言う質問ですが、秘密ということにさせていただきます。簡単に行ったり来たりできるようになったら危ないですからね。そう言うと渋々と言った様子ではありましたが、引き下がっていきました。
「まだ、質問がある人はいますか?」
そのように聞いた直後にチャイムが鳴り、先生と思われる人が入ってきました。それと同時に皆さんは自分の席に戻っていきます。流石、エリート校と言ったところでしょうか。キヴォトスでは遅刻する人や欠席する人、指示に従わない人も結構いますからね。
「新入生諸君。このAクラスを担当することになった真嶋智也だ。普段は英語を担当している。この学校には学年ごとのクラス替えは存在しない」
何と言うことでしょう。つまり、一之瀬さんと同じクラスになると言うことができなくなってしまったということではありませんか。本当に今日はついていませんね。そんなことを考えていると前の席から資料が回ってきました。入学前にもらった資料と同じ物ですね。この学校の特徴の一つとして外部との連絡が取れない代わりに、色々な施設が存在しています。おそらく、生徒が苦労しないようにするためでしょう。小さな都市といっても過言ではありません。
「今から学生証カードを配るが、これはクレジットカードのような物なので、無くさないようにしてくれ。ポイントを消費する代わりに学校内で買えないものはない。敷地内にある物であれば何でも購入可能だ」
何故、わざわざ分けたのでしょうか? まとめて言えば、良いだけでしょうに。まさか、何か裏があるのでしょうか?
「ポイントは毎月、一日に自動的に振り込まれるようになっている。それから君たちには既にに十万ポイントを支給されているはずだ。確認してみると良い。ちなみにポイントは一ポイントにつき、一円の価値がある」
十万ポイントが支給されているその言葉に驚いた人も多数いるようですが、私にとっては別の意味で驚きました。調査をするにしては圧倒的にポイントが足りない。一日になる以外に増やす方法があるのかどうか聞いてみるのも良いかもしれません。
「十万も振り込まれていることに驚いたようだな。だが、この学校は実力で生徒を測る。入学を果たした君たちにはそれだけの価値があるということだ。ただし、ポイントは卒業後に全て回収することになっているからその時まで貯めてもあまり意味はないぞ。ポイントは譲渡可能だが、カツアゲはしないようにな。学校はイジメには敏感だからな」
そう言うと真嶋先生は質問がある人はいるかと聞いてきた。丁度、良い機会なので質問をしておきましょう。
「先生、質問があります」
「君は明星だったか。どんな質問がある?」
「毎月、一日になるとポイントが支給されると聞きましたが、それ以外に増やす方法はありますか?」
「何故、そんな質問を? いや、君はそうかキヴォトスから来たのだったな。君については話を聞いている。入学式が終わった後、職員室に来なさい。他の人にはバイトができる場所があるとだけ伝えておく」
どうやら、事情を察したようで呼び出しを受けました。どうやら、バイトがあるようですが私の体ではできそうにありませんね。大人しく行くことにしますか。
◇
なんて事のない入学式を終えて、敷地内の説明を一通り受けた後に解散となりました。私はそのまま職員室に向かおうとしましたが、葛城君が声をかけてくれました。
「職員室まで大変だろう。良かったら、押して行くぞ」
「ありがとうございます。では、お言葉に甘えさせていただきますね」
なんて、優しい人なのだろうか。この調子でクラスの好感度を稼いで、早くクラスのリーダーになってもらいたいところですね。
「ところで、やっぱり明星はエルフなのか?」
「一応、エルフということになっておりますね。それがどうかしましたか?」
「やっぱり、千年生きるのかと疑問に思ってな」
あぁ、そのことでしたか。その答えでしたら、私は一つしか回答することができません。
「私は大人のエルフは見たことがないので、分かりかねます」
「それはどういうことだ? キヴォトスにだって大人はいるだろう」
「えぇ、確かに大人はいます。ですが、キヴォトスの大人はロボットや犬などの動物です。決して、人の形をしている大人は外から来ない限り、存在しません」
私の答えに少し不気味に思ったのでしょうか。少し、顔が青ざめています。一応の補足をしておきましょう。
「生徒は高校を卒業するとキヴォトスを出て行くのです。だから、大人を見たことがないのです」
「なるほど、そういうことか。常識が揺さぶられる感覚がしたから、少し安心したぞ」
そうやって話しているうちに職員室にまで到着したようです。ノックをして入りますと先生方が待機しておりました。
「葛城も来たのか」
「はい、一人では大変そうだったので一緒に来ました」
真嶋先生は葛城君が来たことに意外そうな顔をしていましたが、葛城君も同席させてもらえるようです。葛城君は少しの間、席を外そうかと悩んでいましたが、私が引き止めました。私も仲間が欲しいですし、葛城君にも関わることですから。
「それで朝の質問に関わることですが、調査のための予算はどうなっていますか?」
「あぁ、それに関しては問題ない。ちゃんと別に用意してある」
「調査?」
葛城君が調査と聞いて、疑問に思うということは本当に生徒には何も知らせていないのですね。私が葛城君にデカグラマトンについてのことを最初から説明をすると、驚愕すると同時に私がこの高校に来た理由についても納得していただけたようです。
「なるほど、そういうことか。キヴォトス人は高校を卒業してから外に出ると聞いていたから、妙だと思っていたんだ」
「納得していただけたご様子ですので、話を次に進めますね」
「いや、待て! 明星がこの高校に来た理由については納得できたが、隠していたことに関しては納得できていないぞ!」
「そういったことは調査をした政府に言ってください。私はあくまで、調査を依頼されただけですので」
本当は私も入学する生徒に対して危険な隠し事をした政府に憤りを感じていますが、それをこの場で言うわけにもいきません。
「デカグラマトンの調査の進捗をお聞きしてもよろしいですか?」
「あぁ、我々が調査を進めた結果デカグラマトンについての場所は分からなかったが、預言者と呼ばれる存在については分かった」
「預言者ですか?」
デカグラマトンについては聞いたことがありましたが、それに関連する預言者という存在は初耳です。
「預言者とはデカグラマトンによって感化させられたAIのことでな。この高育の通信ユニットAIである『ハブ』も感化させられたそうでな。ホドという預言者になってしまった」
「支配でなく、感化ですか?」
感化とは影響を与えて、心や行いを変えさせることを言います。ということはデカグラマトンは支配や洗脳などではなく、説得という手段を行っているということになるのでしょう。
「あぁ、しかも感化させるのにかかった時間はわずか0.00000031秒だ。我々は何もできずにやられてしまった」
「なるほど、ところで『ハブ』は今どこにあるのですか? どのような様子なのかを見ておきたいのですが」
「『ハブ』は現在、行方不明だ。感化された預言者たちは自由に動き回ることができるようでな。現在も捜索している」
預言者は自分で動き回ることもできるのですか。これは秘密裏に捜索するのは難しそうですね。
「他に預言者は見つかっていますか?」
「あぁ、『ハブ』が感化したホド以外にはビナーとケセドと呼ばれる存在が確認されている。我々も迂闊には近づけないがな」
「近づけないとはどういうことでしょうか?」
「信じられないかもしれないが、ビナーもケセドも近づくと攻撃を仕掛けてくるのだ。それもビナーはビームやミサイル攻撃、ケセドは銃を持ったロボットの兵隊を使ってくる」
「そんな危ないものをどうして隠していたんですか! いや、これは先ほども言われたな」
葛城君がそのことに対して反射的に抗議しましたが、同じ事の繰り返しになると悟ったのでしょうが、私も葛城君と同じ想いです。デカグラマトンだけであれば、隠していたとしても何とか巻き込まないようにできました。しかし、兵器を持った預言者がいるとなれば話は別です。即刻、高育の付近にいる人たちを避難させるべきでしょう。
「話は以上だ。それから今朝の爆発だが、あれはおそらく預言者の仕業と見ていいだろう。見つけられはしなかったが、海中に預言者の反応があった」
「おや、預言者が反応で分かるほどに調査ができていましたか。いや、だからこそ銃などに耐性があるキヴォトス人の出番なのですね」
「そうだ。明星には預言者のいる地に踏み込んでもらう。生徒を巻き込むのは非常に心苦しいが、よろしく頼む」
真嶋先生が頭を下げて生徒である私に頼み込んできました。葛城君はどうするのか分かりませんが、私の返事はここに来た時から変わりません。
「この私にお任せください」
「ありがとう。こちらとしても協力を惜しむつもりはない。活動する場所としては特異現象捜査部を設立した。そこを活動場所として欲しい。顧問は俺がやろう」
「ありがとうございます。せっかくですし、葛城君もどうですか? できる限り、多くの方の力が必要なんです」
「俺は……」
少し無理を言ってしまいましたかね。葛城君は迷っているようです。キヴォトス人と違ってミサイルやビームに耐性はありません。おそらく、恐怖心は拭えないはずです。無理を言ってすみませんでしたと謝ろうとした時に、葛城君から意外な言葉が飛び出しました。
「俺にも協力させてくれ! このまま、黙って見ているわけにはいかない!」
「あら、よろしいのですか? 私がいうのも何ですが、怖くないのですか?」
「怖いさ。だが、デカグラマトンの存在を知ってしまった以上、見て見ぬ振りもできない」
声色に恐怖が出ているが、それでも協力をするというのは彼なりの正義感というものなのでしょう。それは素晴らしいものだと思います。ともかく、部員二人と顧問一人という少数ではありますが、特異現象捜査部は無事に結成されました。
かなり強引ですが、葛城は仲間にしておきたかったので、このような形となりました。