ケセドと戦ったことのある人物に聞き込みをすると言っても、誰が戦ったことのある人かが分かりません。そこで経験がありそうな教師の方々に聞くことにしました。まずはAクラスの担任である真嶋先生に伺うことにいたしましょう。
「ケセドの弱点が露出するタイミングだと? いつも攻撃をしていて、気づいたら開いているという印象だったな」
「本体とはどのように戦っていますか?」
「本体は攻撃してこないのは知っているな。だが、本体は機械兵やドローンを召喚して襲わせるんだ。そいつらは外に配置されている奴らと違って一定時間以内に倒さないと自爆してくる」
自爆ですか。だとしたら、本体よりもそちらを対処するのに戦力を割くでしょう。その分、本体への攻撃はできなくなりますから、なるべく早く倒さなければいけませんね。
「それとそいつらを倒し終えたら、ケセドは再び召喚してくる。基本的にこれらを繰り返すんだ」
「それでは、本体にはいつ頃攻撃しているのですか?」
「先ほども言っただろう。気がついたら弱点を露出しているんだ。そのタイミングでは召喚をしてこないからな。その間に攻撃をしている」
「何故、攻撃をしてこないのでしょう?」
「おそらく、ショートしているのだろうと考えられる。周りには火花も散っていたことだし」
戦闘中にショートですか。おそらく、今までの話を踏まえると召喚した機械兵やドローンを何体も倒すことで何故かショートするのでしょう。理由までは分かりませんが、そのことが分かっていれば充分です。
「質問は終わりか?」
「はい、ありがとうございました。他の方にも聞いて、結論を出そうと思います」
その後、他の方にも質問をしましたが、真嶋先生と同じような答えが返ってくるばかりでそれ以上の情報は得られませんでした。ケセドがショートすることは分かりましたので、良かったというべきでしょうか。
それにしても、預言者のヘイローに関することもそうでしたが、重要なことが何故か書かれていません。軍にとっては必要のないことなのかもしれませんが、後から見る人には必要なことなので考察でも良いので書いていてほしかったです。
「有力な情報は得られたかな?」
「私の側にいたのですから、何を得られたのかはご存じでしょう?」
「まぁね。一応、聞いてみただけだよ」
この人はどうやら人と話すことが好きみたいですね。忍者であるのにも関わらず、色々な人に話しかけたことでリーダーになったそうですし。ですが、忍者の性質を踏まえると、仲良くすることはできないのでしょうね。現に存在は知っていても名前を覚えている人はいないみたいですから。
「これでケセドを倒す手掛かりは得られたのかな?」
「この情報を知ったところで撤退させることが精々でしょうね。軍の方々は知っていたようですし、もう少しだけ情報を集めたいところです。例えば、軍でも知らない情報とか」
「軍でも知らない情報ってことは人型になったケセドのことだよね?」
「えぇ、その通りです。逃げる時は人型になるそうですから、この状態のケセドと戦うことも想定しておかなければいけません」
ケセドがどのように撤退するのかは知りませんが、瞬間移動を使うことから人型にならざるを得ないでしょう。人型になった場合にどのように戦うのかは知っておかなければいけません。
「じゃあ、どうしようか?」
「決まっています。人型の状態で戦っていた特別棟に向かいましょう。かなり時間は経っているので、痕跡は残っていないかもしれませんが」
実際、封鎖でもされていない限り痕跡は残っていないでしょう。それでも、行く価値はあると思います。私はまだ現場を見ていないので、見ておきたかったというのもありますが。
◇
特別棟に来てみましたが、普通にされていますね、封鎖。殺人未遂事件が起こったわけですから当然ともいえますが。特別棟には立入禁止のテープが貼っており、中に入らせないために警備員が二人います。どうしたものかと困っていると警備員が話しかけてきました。
「貴女はひょっとして明星ヒマリさんですか?」
「そうですが、それがどうかいたしましたか?」
「一年生とキヴォトスから来た明星ヒマリさんはこの場所を通すように言われております。どうぞ、お通りください」
「かしこまりました。では、失礼いたします」
立入禁止のテープを外してもらって中に入ると、機械兵は回収されているものの、あちこちに弾痕が見当たりました。事件が起こったので、証拠として残しているのでしょう。早速、見てまわりましょうか。
「まずはどこを見るの? やっぱり、ケセドがいた場所?」
「いえ、そこは最後にしましょう。折角ですし、事件現場を見ておきたいです」
「事件現場ってCクラスの人が撃たれたっていう?」
「ケセドが何故、こんな事件を起こしたのかが知りたかったので」
ケセドは何故か特別棟に人がいることを知っていました。でなければ、このようなDクラスの人に罪をなすりつけるような犯行は思いつけないはずです。現場付近に到着すると見覚えのある後ろ姿が見えてきました。
「堀北さんに綾小路君ではありませんか。こんなところで何をしているのですか?」
「明星と一之瀬こそ、こんなところで何をしているんだ?」
一之瀬さんの名前を覚えている方はいたようですね。一之瀬さんを見ると驚いた表情を浮かべています。そういえば、綾小路君は忍者を見分けることができるのでしたね。それなら、一之瀬さんを覚えていても不思議ではありません。
「人に覚えられていたなんて感動したよ」
「その反応、ひょっとして忍者か?」
一之瀬さんが頷くと綾小路君は驚いた表情を浮かべ、堀北さんは警戒をする姿勢を見せました。まぁ、忍者と軍人は犬猿の仲だそうなので、仕方ありませんが。
「それで、忍者がここに何の用かしら?」
「私は明星さんの護衛でここにいるだけだよ。綾小路君達こそ、ここに何か用?」
「オレ達は殺人未遂事件の調査でここを訪れている。何か新しい発見があればと思ったのだが、監視カメラがないこと以外分からなかったな」
監視カメラがないですか。確かに特別棟に入ってから監視カメラのようなものを見た覚えがありませんね。あまり人が来るような場所ではないので、監視カメラを設置していないだけでしょうか。立入禁止区域にも監視カメラの類はありませんでしたし。
「一之瀬は明星の護衛でここにいると言ったな。明星はここに何の目的でいるんだ?」
「ケセドの情報が欲しかっただけです。今回の事件に関わるつもりは今のところないので、ご安心を」
「そう言ってくれると助かるわ」
ケセドが起こした事件がそのままケセド討伐に繋がるようであれば、介入しているとは思いますが。今のところ、ケセドが計画的に事件を起こしたのか、そうでないのかすら分かりません。この段階では介入しても良い結果を与えることはできないでしょう。
「それで、何か分かったのか?」
「今のところは何も。ただ、少し疑問がありまして」
「疑問?」
「ケセドは被害者である三人を殺すことだってできたはずです。かなりの兵がいたのですから、抵抗されたところで問題なかったのでしょう。それがすぐに命に別状はないと判断できる程度の怪我をさせるだけで済ませています。元から殺す気がなかったとしか考えられませんが、だとしたら何故襲ったのでしょうか」
「襲った理由は須藤君に罪をなすりつけるためだと思うけど、確かに殺さなかった理由までは分からないわね」
須藤君というのは巻き込まれてしまったDクラスの人でしょうか。それはともかく、襲った理由は須藤君に罪をなすりつけるためだけではない気がするんですよね。なすりつけるためだけだったら、殺したって別に構わないわけです。殺さないことに何か意味があったのではないかと思うのですが、今のところ判断はできませんね。
「それともう一つの疑問は指紋についてです」
「指紋? 何だそれは?」
「おや、聞いていなかったのですか? 今回見つかった銃の中にDクラスの生徒、おそらく先ほど仰っていた須藤君のものだと思われる指紋が発見されたのですよ」
「初耳だな、それは。だから、須藤は学校側から疑われているのか」
まぁ、この事実はAクラスの生徒が疑問を口に出したことで初めて真嶋先生から告げられましたから、知らなくても無理はないかもしれません。
「須藤から銃を持っていたという話は聞いていないな」
「知っていたのなら、須藤君だって大声で否定しているはずだもの。その情報は知らなかったと考えるのが自然よ」
「とりあえず、後で須藤に聞いてみるか」
お二人共考え込んでしまったようですね。私の言葉が何かしらのヒントになれば良いのですが。
「おっと、悪いな。それで指紋に関する疑問とは何だ?」
「これは単純な疑問なのですが、ケセドが起こしたことが分かりきっている今回の事件でわざわざ、指紋なんか調べますか?」
「そう言われれば、調べるだけ時間の無駄だよな。そうじゃなくても警察が介入していないんだ。指紋なんか調べようがない」
「そうなると、その指紋が須藤君の指紋だという可能性も低いかもしれないわね」
そもそも、須藤君の指紋だと判断するためには須藤君から指紋を採取する必要があるはずです。綾小路君や堀北さんの口振りから推測すると指紋の採取は行っていない可能性が高いのでしょう。
「では、指紋が須藤君のものだと判断したのは誰なのでしょうね」
「誰かが証拠の捏造をしたということ?」
「おそらく、何者かがハッキングをして、データを書き換えたのでしょう。それで得をする方は限られていますが」
「ケセドか」
おそらく、正解だと思います。指紋の件についてはケセドが指紋の情報を追加したのでしょう。私達でも話し合えば、たどり着く答えです。学校が知らないはずはないと思うのですが、それとも知っていてあえて放置しているのでしょうか。
「確かにケセドはデカグラマトンの仲間だから、ハッキングなんて容易なことでしょうね。でも、そこまでして須藤君に罪をなすりつけようとした理由が分からないわ」
「確かにケセドの仕業って分かったとしても佐倉に影響はないからな。罪をなすりつけるだけ、無駄な行為だ」
その通りです。なので、罪をなすりつけなければならなかった理由があるはずなのですが、今のところ思いつくような理由はありません。おそらく、ケセドにとって予想外だった何かがあるのでしょう。
「明星、色々と教えてくれて助かった。おかげで須藤の冤罪は晴らすことができそうだ」
「介入しないと言ったのに思いっきり関わってしまいましたが、これくらいはサービスということで。貴方達はここから更に佐倉さんの罪も否定しなくてはいけませんから大変でしょう?」
「それに関してはこれから考えていくさ。それにこっちの方が否定はしやすい。ケセドと佐倉の繋がりを否定するだけでいいからな」
「それが大変だって言っているのよ。ケセドの正体が佐倉さんだっていうのは学校側も把握しているもの」
学校側は生徒間の争いにそこまで介入してこないでしょう。してくるのであれば、Cクラスが訴えてきた時点で介入しているはずですから。このことを伝えたところでDクラスの手札を減らしてしまうだけですので、言いませんが。すると突然、一之瀬さんが会話に参加してきました。
「この事件、Bクラスも協力するよ」
「何でBクラスに協力してもらうことになるのかしら」
「さっきまでの話を聞いているとさ、もう一クラスの協力があった方が良いと思うんだよね。私達も証言できれば、信憑性はグッと高くなると思うんだ。Dクラスだけじゃ嘘を言っているかもしれないって判断されかねないし」
「私はメリットの話じゃなくて貴女が協力したい理由について聞いているの」
堀北さんだって他のクラスに協力して貰えば、証言で有利になることくらい分かっているでしょう。それでも一之瀬さんが忍者だということもあり、警戒せざるを得ないのでしょうね。
「それは簡単だよ。Bクラスの皆が慕っている一之瀬帆波という人ならそうしたからかな。私は忍者だから名前を忘れられることはあるけど、それでも慕っていた事実は皆の記憶から消えないんだ。だから、一之瀬帆波は皆の理想を詰め合わせたような存在になっちゃってる。そんな皆からの期待に応えるためにはここで協力しなきゃダメだなって思ったの。これが理由じゃダメかな?」
「つまり、貴女自身のためってことね。分かりやすくて良いわ。協力してもらいましょう、綾小路君」
「あぁ、よろしく頼む」
BクラスとDクラスが今回の事件に限って協力することになりました。これで、Aクラスから協力する必要性もないでしょう。葛城君は証人としてピッタリでしたが、佐倉さんを追い詰めることになってしまうのでやめておきますか。
Aクラスはこれでよほどのことがない限り、参加しなくなりました。なので、参加するのだとしたら、よほどのことが起きた時です。